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第2章

第26話 失踪少女の行方

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 ボタンが外れ、前が大きく開いたカッターシャツ。そこから白い肌の胸元があらわになっていた。
 目の前に座り込む青の瞳の少女。彼女の長い水色の髪は大きく乱れている。

 「…………リク、お前…………女だったのか」

 俺の呟きを聞いた水色髪の少女は自分の体を一通り確認。すると、驚きの表情を浮かべた。
 俺は少女の顔を見て、そのまま下の胸の方に目線を下ろしていく。

 「何というか……」
 「……」
 「デカいな」
 「……黙れ」

 それが本性か。
 俺の目線を気にしてか少女は胸を手で隠す。
 部屋にかけた解除魔法の影響により、リクは胸大きめの女子になっていた。俺は他の魔法は使っていないし、これが元の姿なのだろう。

 まぁ、でも何か仕掛けられても困るから、コイツの動きと封じておきたいところ。
 痺れが引いてきた俺はゆっくりと立ち上がり、少女の方に近づいた。

 「ちょっと拘束させてもらいますよー」
 「……アスカの魔道具が使えなくなった状況に、お前相手で魔法は歯が立たん。好きにしろ」

 少女のぶっきらぼうな返答を聞くと、俺は横の地面に蔓を生やす。あ、ちょっと生やし過ぎた。まぁ、いっか。

 そして、蔓の一部を取り少女の手を血流が止まらない程度に固く縛ると、俺は少女の前に座り込み、顔を近づけた。

 「で、お前は生徒会のやつに指示されてやったんだな」
 「…………」
 「生徒会の誰に指示されたんだ?」
 「…………言うわけないじゃん」

 目を細め少女を窺う。どうも言う気はなさそうだ。
 面倒くさいし、ここは強行突破でいきますか。

 俺はポケットから杖を取り出し、杖先を彼女に向ける。
 制御はできる…………と思う。できなくてもこの魔法はあまり問題ないだろう。

 「無理やり告白フォースコンフェッサーレ
 「絶対言わないっ……っ……っん…………」

 リクは魔法に抗おうと口を頑なに閉じていたが、数秒後力尽きたように顔を俯け答えた。

 「メミ先輩……………………会った時からあんたのこと嫌い」

 と告白。うまく制御できなかったためか、ご丁寧にいらないことをまで吐いてくれた。

 「…………メミの指示ねぇ」

 そう呟いていると、遠くから俺を呼ぶ悪魔女の声が響いてきた。

 「ネルー! どこ行ったのー? 下の階に行くよー!」

 どうやら下の階に行くために、背後にいなくなっていた俺たちを呼びに来たようだ。タッタッという複数の足音が近づいてくる。
 一時すると、俺がいる部屋にやってきた。

 「ネルっ!」

 バンっと大きく扉をリコリス。彼女の背後にはアスカとラクリアもいた。
 リコリスは俺と目を合わし、少女を見る。心配そうにしていた顔が徐々に真顔へと変化。再度俺の方に目線を戻してきた。

 「あんた、女の子襲ってたの? 私が頑張っている間に?」
 「…………ハッ、最低」
 「あ、あんたをそんな風に育てた覚えはありません!」

 リコリスとアスカは俺の意見も聴かずにあーだこーだ言ってくる。アスカに至っては凍り付くような目を向けてくる。痛い、痛い。

 「君はリク君かーい?」

 意外にも冷静なラクリアが尋ねると、水色の少女は涙目でコクリと頷いた。

 「僕、僕、モナー君に女にされて…………そしたら」

 おいっ。
 冤罪だ、冤罪だ!
 コイツは正真正銘の女だ。むしろ俺が捕まってたのだが…………冷たい視線を向けるな! 俺は無罪だ!
 と俺はみんなに目で訴えたが、少女は話を続けていた。

 「荒い息をしたモナー君に服を脱されたんです」
 「無理やり告白フォースコンフェッサーレ
 「…………この男に変身魔法を解除された。私は元々女」
 「…………ウ、ウソでしょ?」

 俺がもう一回魔法をかけてやろうと思っていたところ、リクは両手を上げ、降参の意を示した。

 「もういい…………自分で全部言う。この様子だと全部話すことになりそうだ」

 水色の少女は厄介ものを見るかのように俺に目を向け、はぁと重い息を吐き、そして、話し始めた。

 「私の名前はリナ・ユウキ。リクという名の少年は偽りの存在。動きやすいようにリクを演じていた。今回、お前に仕掛けたのはメミ先輩・・・・の指示。それで私はお前の力を封じにきた」

 魔法で話すことになることを分かっているせいか、リナはスラスラと話す。

 「…………最近俺たちに構っていたのはその指示のためか?」
 「ああ、全ては指示のためだ」

 リナはコクリと頷く。
 あーあ、リクは幻の存在か。

 俺はちょっと男子の友人ができることを期待していたのだが、残念コイツは女だ。しかも、近寄ってきたのは指示のため。
 男子の友人ができるのも、はたまたまともな友人ができるのも長い道のりになりそうだ。
 そんな現実に思わずため息をついてしまう。

 …………それにしてもリナ・ユウキという名はどこかで聞いたことがある。どこで聞いたかは覚えていないが、確かにどこかで聞いたことがある。下級生にそんな名前がいたような。
 リナはさらに話を続ける。

 「そして、あんたたちがいつか噂していた失踪のした女の子。それは中等部の頃の私だ」
 「なんだって?」

 確かに中等部の頃トイレで失踪した少女がいたが、その少女がリク…………リナだったとは。
 まさか……。

 「…………じゃあ、生徒会が攫ったというのは?」
 「事実。私は生徒会に攫われ、男子生徒リクとして生活するように指示された」
 「マジかよ…………」

 生徒会ってそんなことをしてたのか。俺に「落ちこぼれ」と散々言ってきたくせに、自分のことは棚に上げやがって。
 だが、あの厳しい会長がしてるとは想像できない。俺が想像できないだけだが。
 一番困惑しているようだったアスカは多くの質問をリナにぶつけていた。

 「あなたは本当にリクなの? 出会った時から女なの? 仲良くしていたのはあたしの作る魔道具のため?」
 「ガキ、黙れ」
 「……………………なんですって」

 リナの一言にアスカはカチンときたようだった。しかめっ面のアスカはリナに指さし、声を荒げ始める。

 「ネル! この女やっつけちゃって! あたしをガキ呼ばわりしたの! とことんやっちゃって!」

 年齢的にガキなのは間違いないと思うが。
 俺が黙っていると、リコリスが腕をまくり始める。

 「私がやる! アスカ、私がやる!」

 レベルを上げたおかげか、悪魔女は杖を使わず素手で魔法を使おうと構えていた。

 「いや、待て」

 俺はリコリスたちを手で制止する。

 「お前、メミの指示で動いたんだよな?」
 「ああ、そうだ」

 メミ。お前はこの女を利用して、俺を学園だけでなく世界からも追い出そうとした。
 …………随分とずる賢い手を使うんだなと思ったよ。とても昔のお前からは想像ができないぞ。

 数日前のことも含め、俺はもう限界だった。
 メミだから? 妹だから? その考えはもうやめ、やめだ。
 俺は表世界に来る前に、平穏な生活を送りたいと思っていた————いや、それよりもっと前から平穏な生活を望んでいた。

 俺が我慢すれば平穏な生活が送れる、そう思っていたが、実際はそうならなかった。
 メミ。平穏な生活の邪魔をするなら、俺はもう容赦しない。
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