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第3章 学園編
85 ??視点:希望 && 絶望 前編
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人生をやり直しても、ルーシーとの幸せな結婚生活は送れない。
すぐに君の命は散る。
僕はルーシーと一緒に生きられない。
人生を繰り返す中、そのことに気づいた僕は、2人で生きるのを諦めた。
本当は惜しい。諦めたくない。
だけど、これ以上ルーシーが死ぬのを見たくなかった。
おかしくなりそうだった。
だから、人生を一緒にできないのなら、せめて近くでルーシーが幸せに生きていてほしい。
そう願った僕は、ルーシーが弟のエドガーと結ばれるよう、誘導した。
ルーシーの婚約者とならないよう、陛下にエドガーの方に婚約の話を進めさせ。
「ルーシー、エドガー、婚約おめでとう」
「ありがとうございます、殿下」
「兄さん、ありがとう」
2人は婚約した。
好きなのに、一番近くにはいられない。
正直、つらかった。
しかも、ルーシーの婚約者は自分の弟。
僕は本当はルーシーを愛してるのに。
その自分の感情を抑え込むので必死だった。苦しかった。
――――でも、ある日。
王城の庭で、ルーシーを見かけた。
エドガーといた。
笑顔だった。幸せそうだった。
その瞬間、僕はこれでよかったんだと思った。
ルーシーの隣は僕じゃない。
だとしても、君が生きてくれるのなら、幸せでいてくれるのなら。
僕はそれで――――。
ダメだった。
ルーシーは死んだ。
エドガーとともに殺されていた。
今日が結婚式だった。
エドガーの部屋には血だらけの2人の死体。
真っ白なウエディングドレスとタキシードは赤く染まっていた。
そして、その近くには。
「やぁ、兄さん」
「…………お前がやったのか」
弟のアースがいた。
またあの大鎌を持っていた。
死神のようだった。
「そうだよ。これを見て、他に誰がいるのさー」
彼はにひっと口角を上げる。
「兄さんはなぜそんなに悲しそうなのー?」
「…………」
「ふーん。答えてくれない、か。まぁいいや。とりあえず、僕は兄さんに神様からの伝言を言っておかなきゃねー」
「?」
「ええと――」
いくらあがいたって無駄だよ――だってさ。アハハ。
「僕にはさっぱり意味が分からないけど」
「…………」
「兄さんには分かるのでしょう?」
あがいたって無駄……つまり何もかも諦めてステラを選べと。
でも、選んでどうなる?
その先は、ルーシーを国外追放するじゃないか。
…………嫌だ。
ルーシーが遠くに行くのは嫌だ。
一緒に生きていけないとしても、僕の近くにいてほしい。
「もう一度」
僕はまた自分の首を切った。
☀☽☀☽☀☽☀☽
何度かルーシーとエドガーが結ばれるようにした。
だが、彼女は死ぬ。酷い時には2人とも死ぬ。
別の人ならどうかと思って、友人だったカイルと結ばれるよう、誘導。
なかなか難しかったけど、上手く立ち回って、ルーシーをカイルと婚約するようにした。
幸運なことにエドガーの時とは違って、2人は結婚できた。
「2人ともおめでとう」
「ありがとうございます、殿下」
結婚式でのルーシーはとても幸せそうだった。
世界で一番綺麗な花嫁だった。
ああ……これでもうルーシーは生きて――。
ルーシーが死んだ。
だが、今回は殺されてはいなかった。
2人は事故死した。
新婚旅行に行く途中だったらしい。
2人が乗った馬車が崖から転落した。
「アハハ……運命すら僕の味方をしないのか」
それを聞いた僕は笑いながら、ベランダに出た。
「もう一度」
そして、飛び降りて、死んだ。
☀☽☀☽☀☽☀☽
ルーシーとカイルには家の外に出ないように忠告した。
新婚旅行に行きたいのは分かるが、なんとか家にとどまってもらった。
これで大丈夫。
事故死なんてしない。
――――ダメだった。
殺された。
アースはずっと監視していたため、今回の犯人は彼じゃない。
一体、誰がルーシーを殺したんだ?
見当がつかなかった。
その後事件現場を調べたが、犯人の手掛かりになるようなものは出なかった。
ただ――――。
『そんなことをしても無駄だよ、王子様』
と2人の死体の近くに、血で書かれていた。
アースのような神の使者がやったのは分かった。
エドガーやカイルと一緒になってもらっても、ルーシーは死ぬのかもしれない。意味がないのかもしれない。
「もう一度」
僕は死んだ。
☀☽☀☽☀☽☀☽
ルーシーが生きた。
死ななかった。
だけど…………。
「国外追放とする!」
その人生は初めの人生を同じものだった。
ステラと僕が結ばれ、ルーシーは国外追放。
唯一といっていい、ルーシーが生きてくれる道だった。
だから、神様は僕に諦めろと言っていたのだろうか。
…………もうこれでいいんじゃないか。
どこかでルーシーは生きてくれているのだから。
――――数ヶ月後。
「なぜ、君が……」
魔王との大戦争時に、ルーシーが敵となって現れた。
月の聖女の素質があったらしく、彼女は黒月の魔女の下で動いていた。
ルーシーは魔女と同じような黒のローブをまとい、宙に浮いていた。
僕らを見下ろしていた。
「なぜって……」
彼女は首を傾げ、フッと鼻で笑う。
「それは当たり前でしょう? だって、あなたたちが呼ぶ“黒月の魔女”って私の大叔母様だもの」
「え?」
黒月の魔女がルーシーの大叔母?
まさか黒月の魔女がルーシーの親族だというのか?
だとしたら、陛下から聞いてるはずだ。
そんな大切なこと。
一度も聞いたことがない。
すると、ルーシーははぁと大きなため息をつく。
「みんな、私を裏切った……あなたもお父様もお母様もキーランも私を捨てた。だけど、大叔母様だけは違ったわ! 私の苦しみを理解してくれた!」
彼女はバッと手を広げ、魔法展開をしていく。空に魔法陣が浮かび上がった。
あれが月の聖女の力――――。
「さぁ、裏切者。あなたたちは全てここで死せるがいい」
「ライアン様! 逃げて!」
ステラの叫び声が聞こえるが、もう僕の体は動かなかった。
涙が止まらなかった。
ルーシーの苦しみはよく分かるから。
自分が裏切者なのは全くその通りだから。
ごめんね、ルーシー。
僕が近くにいてあげれなくて、ごめん。
「さようなら、僕の愛する人」
彼女が生きて、僕は死んだ。
☀☽☀☽☀☽☀☽
ルーシーは月の聖女の素質があった。
だが、前回の彼女は魔王側についた。あの魔女に取り込まれてしまった。
でも、先にルーシーが月の聖女であることを知っておけば、違ったのかもしれない。
魔王側につくこともなかったのかもしれない。
そう考えた僕は、出会った瞬間、ルーシー自身に月の聖女の力があることを伝えた。
初めは半信半疑だったルーシー。
だか、僕は何度も訴えるうちに、彼女は聖女の力を自覚。
徐々に月の聖女を使えるようになり、国内で聖女として認められるようになった。
これなら、ルーシーは魔王側につくこともない。
それに、もし、誰かが殺しにこようとしても、聖女の力を使って対抗できる。
と思っていたが――――。
「まーさか、私以外に月の聖女がいるなんてねぇ?」
突然王城にやってきた黒月の魔女。
彼女はルーシーを見るなり、襲ってきた。
だが、ルーシーは力が使えるようになっていたため、対抗。
「くっ!」
「アハハ、あなたまだ弱いわね!」
誰も手出しはできなかった。
ルーシーの魔法展開もそれなりに早いのだが、魔女も早く、目が追い付かない。
僕らが手を出したら、それこそルーシーの邪魔になる。
でも、助けないと……。
と葛藤していると、突然魔女が魔法攻撃を止めた。
ルーシーは攻撃を止めないが、ひらりひらりと交わす彼女は「うーん」と声を漏らし、悩み始めて、そして。
「ねぇ、あなた、私の弟子にならなくて?」
とルーシーを誘ってきた。
「お断りいたします。魔王側につくなんて、嫌なので」
「そう……私の誘いを断るというのね…………なら、死になさいっ! テーネブラモルス!」
魔女が即死魔法を放ってきたが、ルーシーはうまくレジスト。
上手くいかなかったのにいらついたのか、魔女はチッと舌打ちする。
「小賢しい小娘ね。なら、先に未来の王様から殺しておきましょう! テーネブラモルス!」
先ほどよりも威力の強い即死魔法。
「え?」
それがこちらにまっすぐ向かって来ていた。
だが、僕がそれを受けることはなく、目の前にきたルーシーが受けた。
即死魔法をバリアで受け止めていた。
「ルーシー?」
「ライアン様、今のうちにお逃げください!」
「でも……」
「早く!」
魔法に耐えながら、そう叫んでくるルーシー。
そうか。
よけると僕にあたって、邪魔になるから、逃げろって言ってるのか。
と考え走ったが、僕が離れた瞬間、パリンっとバリアが割れた。
「ルーシー!」
その即死魔法はルーシーに直撃。
そして、彼女の体は地面にぱたりと倒れた。
僕は急いで彼女のところに向かい、体を抱きかかえる。
僕をかばわなかったらこんなことにはならなかったのに……。
ルーシーはもう息をしていなかった。
髪も顔もボロボロだった。
カツ、カツとヒールの音が響く。近づいてくる。
顔を上げると、魔女がいた。
黒のフードの中にはルーシーと同じ銀髪があった。
「安心しなさい。あなたもこの子と同じところに送ってあげるわ」
「……そうしてくれ」
僕は魔女に殺された。
☀☽☀☽☀☽☀☽
婚約を破棄する前に僕は何度かルーシーに月の聖女であることを伝えた。
しかし、全部ダメ。
黒月の魔女が僕らを殺しに来た。
また、婚約破棄をした後に伝えてみた。
だが、それもダメだった。
なぜかルーシーが暴走して、国が滅ぼされた。
僕は何とか逃げ切ったが、国民の多くは殺され、陛下も殺された。
それでも、僕の声は届くのかもしれない。
僕ならルーシーを止められるかもしれない。
そんな愚かな期待を抱いて、炎に包まれた王城をかけて、彼女の所に向かう。
彼女は城の上空であたり一帯を見渡していた。
ルーシーの瞳は黒く、聖女というより怪物と化していた。
「…………ルーシー?」
城を、人々を、街を光線で壊していくルーシー。
声をかけると、彼女の手は止まり、僕の方を向いてくれた。
「ルーシー? 僕だよ? ライアンだよ?」
彼女ははぁとため息をつき、黒い息を吐いた。
「私を裏切った愚かな王子か」
「……それはごめんなさい。本当は君が好きだった」
「なら、なぜ私ではなく彼女を選んだ」
「それは…………」
君に生きていて欲しかったから。
死んでほしくなかったから。
でも、それが答えられずに黙っていると、空から一雫落ちてきた。
それはルーシーの涙だった。
彼女は泣いていた。静かに涙を流していた。
ルーシーにはまだちゃんと意識が――――。
「散れ――」
その瞬間、ルーシーの光線で、僕は殺された。
☀☽☀☽☀☽☀☽
その後、何度か始めのような人生を繰り返した。
神様が言ってきたように、僕がステラと一緒になる道を選ぶ、そして、ルーシーを国外追放させると、彼女は生きてくれた。
「私の裏切者、死せろ」
でも、その後、かなりの頻度でルーシーとは敵対。
彼女は黒月の魔女の手下となった。
ルーシーを殺す道しかないのだろうか。
ただ僕は彼女が生きていてほしいだけなのに。
そして、前回の人生で僕はまたルーシーに殺された。
正直、死に慣れすぎて何も思わなかった。
そして、今。
また、あの庭に向かっていた。
今日は今回の人生において初めてルーシーと出会う日。
彼女はまた笑顔で僕を待っているのだろうか?
また僕は彼女の笑顔を見て苦しくなってしまうのだろうか?
なんてことを考えながら、僕は彼女の所に向かった。
「あの……ルーシー?」
だけど、彼女は僕に挨拶してこない。
僕をじっと見ていた。笑顔はない。
いつもなら、元気に挨拶してくるところなのに……。
一時して、ルーシーは立ち上がり、僕の所に近づいてきて。
「え?」
抱き着いてきた。
突然のことにどうしていいか分からず、僕はルーシーを受け止める。
だが、彼女は嬉しそうではなく。
「ライアン様……ごめんなさい……あんなことをしてごめんなさい」
嗚咽を漏らしながら、謝ってきた。
何が何やら分からず、僕はルーシーをぎゅっと抱きしめる。
彼女を抱きしめるなんて、いつぶりだろう。
一時して、ルーシーはこちらに顔を向けてくれた。
紫の瞳には涙で溢れていた。
「私、本当はあんなことを……したくなかったのに! なのに、私はライアン様を殺すなんて…………」
ルーシーが僕を殺す……。
前回の人生のことを話しているのか?
え? うそ?
僕はてっきり自分だけがループしているのだと思っていた。
「君もループしているの?」
そう尋ねると、ルーシーの泣き声は止まった。
驚いた顔でこちらを見る。
「ループというものが……転生のようなものだとしたら、はい。しています。前のことも覚えています……」
「ルーシー!」
その瞬間、僕はぎゅっとルーシーを抱きしめた。
さっきよりも強く抱きしめる。
彼女は「わわっ!」と声を上げたが、僕は嬉しくてたまらず、涙が溢れてくる。
「ルーシーも前のことを覚えているんだね!」
「はい! 覚えています!」
繰り返す人生の中、僕はずっと1人だった。
ルーシーが死んでいく絶望感もあったが、同時に寂しさもあった。
でも、もう1人じゃない。
そのルーシーのループは僕にとっての希望だった。
すぐに君の命は散る。
僕はルーシーと一緒に生きられない。
人生を繰り返す中、そのことに気づいた僕は、2人で生きるのを諦めた。
本当は惜しい。諦めたくない。
だけど、これ以上ルーシーが死ぬのを見たくなかった。
おかしくなりそうだった。
だから、人生を一緒にできないのなら、せめて近くでルーシーが幸せに生きていてほしい。
そう願った僕は、ルーシーが弟のエドガーと結ばれるよう、誘導した。
ルーシーの婚約者とならないよう、陛下にエドガーの方に婚約の話を進めさせ。
「ルーシー、エドガー、婚約おめでとう」
「ありがとうございます、殿下」
「兄さん、ありがとう」
2人は婚約した。
好きなのに、一番近くにはいられない。
正直、つらかった。
しかも、ルーシーの婚約者は自分の弟。
僕は本当はルーシーを愛してるのに。
その自分の感情を抑え込むので必死だった。苦しかった。
――――でも、ある日。
王城の庭で、ルーシーを見かけた。
エドガーといた。
笑顔だった。幸せそうだった。
その瞬間、僕はこれでよかったんだと思った。
ルーシーの隣は僕じゃない。
だとしても、君が生きてくれるのなら、幸せでいてくれるのなら。
僕はそれで――――。
ダメだった。
ルーシーは死んだ。
エドガーとともに殺されていた。
今日が結婚式だった。
エドガーの部屋には血だらけの2人の死体。
真っ白なウエディングドレスとタキシードは赤く染まっていた。
そして、その近くには。
「やぁ、兄さん」
「…………お前がやったのか」
弟のアースがいた。
またあの大鎌を持っていた。
死神のようだった。
「そうだよ。これを見て、他に誰がいるのさー」
彼はにひっと口角を上げる。
「兄さんはなぜそんなに悲しそうなのー?」
「…………」
「ふーん。答えてくれない、か。まぁいいや。とりあえず、僕は兄さんに神様からの伝言を言っておかなきゃねー」
「?」
「ええと――」
いくらあがいたって無駄だよ――だってさ。アハハ。
「僕にはさっぱり意味が分からないけど」
「…………」
「兄さんには分かるのでしょう?」
あがいたって無駄……つまり何もかも諦めてステラを選べと。
でも、選んでどうなる?
その先は、ルーシーを国外追放するじゃないか。
…………嫌だ。
ルーシーが遠くに行くのは嫌だ。
一緒に生きていけないとしても、僕の近くにいてほしい。
「もう一度」
僕はまた自分の首を切った。
☀☽☀☽☀☽☀☽
何度かルーシーとエドガーが結ばれるようにした。
だが、彼女は死ぬ。酷い時には2人とも死ぬ。
別の人ならどうかと思って、友人だったカイルと結ばれるよう、誘導。
なかなか難しかったけど、上手く立ち回って、ルーシーをカイルと婚約するようにした。
幸運なことにエドガーの時とは違って、2人は結婚できた。
「2人ともおめでとう」
「ありがとうございます、殿下」
結婚式でのルーシーはとても幸せそうだった。
世界で一番綺麗な花嫁だった。
ああ……これでもうルーシーは生きて――。
ルーシーが死んだ。
だが、今回は殺されてはいなかった。
2人は事故死した。
新婚旅行に行く途中だったらしい。
2人が乗った馬車が崖から転落した。
「アハハ……運命すら僕の味方をしないのか」
それを聞いた僕は笑いながら、ベランダに出た。
「もう一度」
そして、飛び降りて、死んだ。
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ルーシーとカイルには家の外に出ないように忠告した。
新婚旅行に行きたいのは分かるが、なんとか家にとどまってもらった。
これで大丈夫。
事故死なんてしない。
――――ダメだった。
殺された。
アースはずっと監視していたため、今回の犯人は彼じゃない。
一体、誰がルーシーを殺したんだ?
見当がつかなかった。
その後事件現場を調べたが、犯人の手掛かりになるようなものは出なかった。
ただ――――。
『そんなことをしても無駄だよ、王子様』
と2人の死体の近くに、血で書かれていた。
アースのような神の使者がやったのは分かった。
エドガーやカイルと一緒になってもらっても、ルーシーは死ぬのかもしれない。意味がないのかもしれない。
「もう一度」
僕は死んだ。
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ルーシーが生きた。
死ななかった。
だけど…………。
「国外追放とする!」
その人生は初めの人生を同じものだった。
ステラと僕が結ばれ、ルーシーは国外追放。
唯一といっていい、ルーシーが生きてくれる道だった。
だから、神様は僕に諦めろと言っていたのだろうか。
…………もうこれでいいんじゃないか。
どこかでルーシーは生きてくれているのだから。
――――数ヶ月後。
「なぜ、君が……」
魔王との大戦争時に、ルーシーが敵となって現れた。
月の聖女の素質があったらしく、彼女は黒月の魔女の下で動いていた。
ルーシーは魔女と同じような黒のローブをまとい、宙に浮いていた。
僕らを見下ろしていた。
「なぜって……」
彼女は首を傾げ、フッと鼻で笑う。
「それは当たり前でしょう? だって、あなたたちが呼ぶ“黒月の魔女”って私の大叔母様だもの」
「え?」
黒月の魔女がルーシーの大叔母?
まさか黒月の魔女がルーシーの親族だというのか?
だとしたら、陛下から聞いてるはずだ。
そんな大切なこと。
一度も聞いたことがない。
すると、ルーシーははぁと大きなため息をつく。
「みんな、私を裏切った……あなたもお父様もお母様もキーランも私を捨てた。だけど、大叔母様だけは違ったわ! 私の苦しみを理解してくれた!」
彼女はバッと手を広げ、魔法展開をしていく。空に魔法陣が浮かび上がった。
あれが月の聖女の力――――。
「さぁ、裏切者。あなたたちは全てここで死せるがいい」
「ライアン様! 逃げて!」
ステラの叫び声が聞こえるが、もう僕の体は動かなかった。
涙が止まらなかった。
ルーシーの苦しみはよく分かるから。
自分が裏切者なのは全くその通りだから。
ごめんね、ルーシー。
僕が近くにいてあげれなくて、ごめん。
「さようなら、僕の愛する人」
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だが、前回の彼女は魔王側についた。あの魔女に取り込まれてしまった。
でも、先にルーシーが月の聖女であることを知っておけば、違ったのかもしれない。
魔王側につくこともなかったのかもしれない。
そう考えた僕は、出会った瞬間、ルーシー自身に月の聖女の力があることを伝えた。
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だか、僕は何度も訴えるうちに、彼女は聖女の力を自覚。
徐々に月の聖女を使えるようになり、国内で聖女として認められるようになった。
これなら、ルーシーは魔王側につくこともない。
それに、もし、誰かが殺しにこようとしても、聖女の力を使って対抗できる。
と思っていたが――――。
「まーさか、私以外に月の聖女がいるなんてねぇ?」
突然王城にやってきた黒月の魔女。
彼女はルーシーを見るなり、襲ってきた。
だが、ルーシーは力が使えるようになっていたため、対抗。
「くっ!」
「アハハ、あなたまだ弱いわね!」
誰も手出しはできなかった。
ルーシーの魔法展開もそれなりに早いのだが、魔女も早く、目が追い付かない。
僕らが手を出したら、それこそルーシーの邪魔になる。
でも、助けないと……。
と葛藤していると、突然魔女が魔法攻撃を止めた。
ルーシーは攻撃を止めないが、ひらりひらりと交わす彼女は「うーん」と声を漏らし、悩み始めて、そして。
「ねぇ、あなた、私の弟子にならなくて?」
とルーシーを誘ってきた。
「お断りいたします。魔王側につくなんて、嫌なので」
「そう……私の誘いを断るというのね…………なら、死になさいっ! テーネブラモルス!」
魔女が即死魔法を放ってきたが、ルーシーはうまくレジスト。
上手くいかなかったのにいらついたのか、魔女はチッと舌打ちする。
「小賢しい小娘ね。なら、先に未来の王様から殺しておきましょう! テーネブラモルス!」
先ほどよりも威力の強い即死魔法。
「え?」
それがこちらにまっすぐ向かって来ていた。
だが、僕がそれを受けることはなく、目の前にきたルーシーが受けた。
即死魔法をバリアで受け止めていた。
「ルーシー?」
「ライアン様、今のうちにお逃げください!」
「でも……」
「早く!」
魔法に耐えながら、そう叫んでくるルーシー。
そうか。
よけると僕にあたって、邪魔になるから、逃げろって言ってるのか。
と考え走ったが、僕が離れた瞬間、パリンっとバリアが割れた。
「ルーシー!」
その即死魔法はルーシーに直撃。
そして、彼女の体は地面にぱたりと倒れた。
僕は急いで彼女のところに向かい、体を抱きかかえる。
僕をかばわなかったらこんなことにはならなかったのに……。
ルーシーはもう息をしていなかった。
髪も顔もボロボロだった。
カツ、カツとヒールの音が響く。近づいてくる。
顔を上げると、魔女がいた。
黒のフードの中にはルーシーと同じ銀髪があった。
「安心しなさい。あなたもこの子と同じところに送ってあげるわ」
「……そうしてくれ」
僕は魔女に殺された。
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婚約を破棄する前に僕は何度かルーシーに月の聖女であることを伝えた。
しかし、全部ダメ。
黒月の魔女が僕らを殺しに来た。
また、婚約破棄をした後に伝えてみた。
だが、それもダメだった。
なぜかルーシーが暴走して、国が滅ぼされた。
僕は何とか逃げ切ったが、国民の多くは殺され、陛下も殺された。
それでも、僕の声は届くのかもしれない。
僕ならルーシーを止められるかもしれない。
そんな愚かな期待を抱いて、炎に包まれた王城をかけて、彼女の所に向かう。
彼女は城の上空であたり一帯を見渡していた。
ルーシーの瞳は黒く、聖女というより怪物と化していた。
「…………ルーシー?」
城を、人々を、街を光線で壊していくルーシー。
声をかけると、彼女の手は止まり、僕の方を向いてくれた。
「ルーシー? 僕だよ? ライアンだよ?」
彼女ははぁとため息をつき、黒い息を吐いた。
「私を裏切った愚かな王子か」
「……それはごめんなさい。本当は君が好きだった」
「なら、なぜ私ではなく彼女を選んだ」
「それは…………」
君に生きていて欲しかったから。
死んでほしくなかったから。
でも、それが答えられずに黙っていると、空から一雫落ちてきた。
それはルーシーの涙だった。
彼女は泣いていた。静かに涙を流していた。
ルーシーにはまだちゃんと意識が――――。
「散れ――」
その瞬間、ルーシーの光線で、僕は殺された。
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その後、何度か始めのような人生を繰り返した。
神様が言ってきたように、僕がステラと一緒になる道を選ぶ、そして、ルーシーを国外追放させると、彼女は生きてくれた。
「私の裏切者、死せろ」
でも、その後、かなりの頻度でルーシーとは敵対。
彼女は黒月の魔女の手下となった。
ルーシーを殺す道しかないのだろうか。
ただ僕は彼女が生きていてほしいだけなのに。
そして、前回の人生で僕はまたルーシーに殺された。
正直、死に慣れすぎて何も思わなかった。
そして、今。
また、あの庭に向かっていた。
今日は今回の人生において初めてルーシーと出会う日。
彼女はまた笑顔で僕を待っているのだろうか?
また僕は彼女の笑顔を見て苦しくなってしまうのだろうか?
なんてことを考えながら、僕は彼女の所に向かった。
「あの……ルーシー?」
だけど、彼女は僕に挨拶してこない。
僕をじっと見ていた。笑顔はない。
いつもなら、元気に挨拶してくるところなのに……。
一時して、ルーシーは立ち上がり、僕の所に近づいてきて。
「え?」
抱き着いてきた。
突然のことにどうしていいか分からず、僕はルーシーを受け止める。
だが、彼女は嬉しそうではなく。
「ライアン様……ごめんなさい……あんなことをしてごめんなさい」
嗚咽を漏らしながら、謝ってきた。
何が何やら分からず、僕はルーシーをぎゅっと抱きしめる。
彼女を抱きしめるなんて、いつぶりだろう。
一時して、ルーシーはこちらに顔を向けてくれた。
紫の瞳には涙で溢れていた。
「私、本当はあんなことを……したくなかったのに! なのに、私はライアン様を殺すなんて…………」
ルーシーが僕を殺す……。
前回の人生のことを話しているのか?
え? うそ?
僕はてっきり自分だけがループしているのだと思っていた。
「君もループしているの?」
そう尋ねると、ルーシーの泣き声は止まった。
驚いた顔でこちらを見る。
「ループというものが……転生のようなものだとしたら、はい。しています。前のことも覚えています……」
「ルーシー!」
その瞬間、僕はぎゅっとルーシーを抱きしめた。
さっきよりも強く抱きしめる。
彼女は「わわっ!」と声を上げたが、僕は嬉しくてたまらず、涙が溢れてくる。
「ルーシーも前のことを覚えているんだね!」
「はい! 覚えています!」
繰り返す人生の中、僕はずっと1人だった。
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でも、もう1人じゃない。
そのルーシーのループは僕にとっての希望だった。
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それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
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