上 下
76 / 89
第3章 学園編

76 ?視点:全ては婚約破棄のために ③

しおりを挟む
 ルーシーと図書館で会った数日後のこと。

 「おい、アース」

 僕はアースの研究室にいた。
 しかし、研究室はいつもと違って。

 「なーに?」
 「『なーに?』じゃない。これどういうことだ」

 しんしんと雪が降っていた。
 別に天井に穴が開いているわけでもない。
 外は雪を振っているわけでもない。
 しかし、綺麗な雪が穴一つない天井から降ってきていた。

 幸いにも雪は床に積もっていないため、研究室がびしょびしょになる、なんてことにはなっていない。
 が、どう見てもおかしな光景。普通ではありえない状況。
 常識人なら、雪をやめさせようとするだろう。

 そんな状況にもかかわらず、アースは気にする様子もない。さすが変人王子、ただひたすら作業をしていた。

 「あー。これはちょっと失敗しちゃってー」
 「失敗?」
 「そー。魔法石あるでしょー? あれに魔法陣を刻んでたんだけど」
 「ああ、お前が作ろうとしている人形のコアのか」
 「そーそー。その魔法陣を書いていたんだけど、なんか失敗しちゃって」

 なるほど、それで雪を降らせたと。
 人形を動かすための魔法陣を組んでいたのに、なんで失敗して魔法石が人工降雪機みたいなことになってんのやら。

 「それで、ステラは僕に何か用があってきたんじゃないのー?」
 「ああ、そうだった」

 雪のせいであやうく、ここに来る目的を忘れてしまうところだった。
 僕は気分を切り替え、真面目な顔でアースを見る。
 こいつ、全くこっちを見てこない。かなり集中しているようだが。

 「お前、僕の許可なしにルーシーに会っただろ」

 さっきのほどのこと。
 研究室に向かう途中、僕はリアムに会い。

 『アース様なら、ルーシー嬢に会いに行くって言ってでかけたっす』

 と彼からそんなことを聞いた。
 すぐさま研究室に向かったが、アースの姿はなく。
 学園中探し回ったが、見つからず。

 探し回って諦めようとした時研究室に行くと、こうして何事もなかったように研究室に雪を降らせているアースを見つけた。

 「えー? ダメだった?」
 「ダメに決まっているだろ」

 僕らの計画ではアースとルーシーが基本接触しない。計画の後半ではアースがルーシーに会うようにしていることもあるが、入学後すぐにはしないようになっている。
 なのに、2人が会うなんて……正直計画の破綻に繋がりかねない。

 …………分かってる。
 アースが自由人なのは十二分に分かっている。
 もう何年もの付き合いだ。分からないはずがない。
 いつか、アースがルーシーに興味を持つかもしれないとは思ってた。

 一方で、アースもルーシーをアストレア王国に連れていきたいだろうし、計画通りやってくれるだろうとも期待していた。
 
 だが、こんなに早くとは。
 もう少しあとからルーシーに徐々に接近してほしかったんだが。
 そんな自由人アースは僕の問いかけに気にする様子もなく、机に置かれた魔法石を1つ取り、顕微鏡のようなものを使って、石を加工しはじめる。
 
 「いやー。彼女がちょっと気になっちゃって」
 「だからって、会いにいくなよ」
 「そうだけどさ……でも、結果いい情報を得れたよー」
 「情報?」

 情報ってなんの情報だ?
 すると、アースにはニヤリと笑みを浮かべた。

 「ルーシーのメイドさんいるじゃーん?」
 「ああ、いるな」

 確か名前はイザベラだったか。
 一番と言ってもいい、ルーシーの近くにいる人間である侍女イザベラ。
 彼女を誘拐して、僕がルーシーのお世話しよう、なんてことを考えたことがあったけ。

 「あのメイドがティファニーだよー」
 「はっ!?」

 あのメイドが? 女神?

 「それ、本気で言ってるのか?」
 「直接話したから絶対そう。100%あのメイドがババア女神」
 「マジか……お前、そのメイドの未来を見たのか?」
 「見たよー。でも、断片的にしか見えなかったさー。君たちにみたいに見えない人は目を凝らさないとほぼ見えなーい。だけど、あのメイドは見えるところははっきり見えるしー、見えないところは見えなーい。逆にあのメイドの未来が見えない間、女神の未来が見えるんだよー。だから、やっぱりあのメイドは女神だよー」

 説明するアースはそう自信ありげに話してくる。
 え? 
 メイドが女神とか普通にまずくないか?
 この前の暴走みたいに、女神はいつだってルーシーを操り人形にできることじゃないか?

 「ったく、厄介なことになりそうだな」
 「そうでしょー。あのババアが何かやってきそうで、嫌な予感しかしないよー……でも、この情報を得れたと思うとさ、僕、ルーシーと会ってよかったと思うでしょー?」
 「まぁ、そうだな」
 
 ルーシーに関してはリアムに監視をさせているが、女神のことはアースじゃないと分からなかった。
 だったら、計画も少し変えないとな。
 
 「リアムにイザベラの監視もしてもらうとして……アース。お前、ルーシーにもっと接近してもらえるか?」
  
 本当なら、僕がルーシーと積極的に関わりたいところ。
 でも、そうするとそれこそ計画通りにできない。婚約破棄もできなくなる可能性も出てくる。
 それなら、比較的行動制限のないアースにルーシーを見てもらっていた方がいいだろう。

 「もちろんさー」

 僕の頼みに、アースは嬉しそうに返答してくれた。



 ★☽★☽★☽★☽



 数日後。
 授業が終わるなり、僕はまたアースの研究室にいた。
 研究室には夕日が差し込み、部屋をオレンジに照らしている。
 そんな中、アースは1人丸い赤の石に魔法陣を書き込んでいた。
 部屋に入るなり彼に挨拶をしたのだが、彼はこちらに顔を向けはせず、ひたすら作業。
 研究者らしい姿だが、せめて挨拶の時ぐらいこっちに顔を向けてほしい。

 「アース、お前、またやらかしたな」
 「へ? なにをー?」
 「とぼけんな」

 先日のこと。
 僕はアースからの命令でアストレア王国でちょっとした仕事をするため、ムーンセイバー王国を離れていた。

 その僕がいない間に、アースこいつはルーシーに接触。

 そこまではいい。
 ルーシーと会うことは頼んだことだし、全然いい。
 いけないのはこの後のことだ。

 「お前、ルーシーをよく分からない場所に転送させただろ?」

 そう。
 こいつは勝手にルーシーを転送させた。
 しかもエドガーと一緒に、だ。
 
 「あれ? 僕言ってなかったけー?」
 「言ってない」

 僕が睨むと、アースはえへへと笑う。

 「ごめん、ごめん。君には話すつもりだったんだよ」
 「ったく、ルーシーをどこか分からない場所に転送させるなんてアホか」
 「いやーあれランダムで魔法発動するからー。制御しようがないしー」
 
 なら、そんなものをルーシーに渡してほしくなかったんだが。

 「次から気をつけろよー」
 「はいはーい」

 …………。
 …………この返事の仕方は絶対にまたするな。

 はぁ……する時はせめて僕をよんで欲しい。
 そんでもって、僕とルーシーを転送させてほしい。それなら全然いい。むしろ大歓迎。
 なんてことを考えていると、アースは「あ」と単音を発し、作業をしていた手を止め。
 
 「そういやー、ステラ。君、ライアンとはどうなのー? 上手くいってるー?」

 と聞いていた。

 「もちろん。あの王子、僕に夢中だよ」

 ここ最近の僕は友人(仮)となったライアンと一緒に過ごすことが多くなっていた。授業ではいつも隣で、食事も一緒にする。
 でも、ライアンは嫌がる様子もなく、逆にこっちに好意を向けているようだった。

 ああ、正直、男に好かれるなんて、気持ち悪いという感情しかない。
 が、これも全て計画のため。
 すると、アースはヒューと口笛。

 「わぉー。やるねー。さすが美少女ステラちゃん」
 「その呼び方やめろ」
 「えー、だって君しゃべらなかったら、とても可愛いよ」
 「……僕は男だ。美少年にしろ」
 「あ、そっちー」
 「僕が美しいのは当たり前だろう」

 だって、身体は乙ゲー主人公ステラの体なのだから。
 
 「…………」
 「冗談だよ」

 …………アース、そんな顔をするな。
 男って分かってるくせに、美少女とか言われるのが嫌だったんだよ。
 まぁ、たまに鏡を見てて、綺麗だなと思うことはあるけど、ルーシーが一番綺麗で、可愛い。彼女以上の美人はいないぜ。
 
 「ともかくだ。今の所、僕はただ計画通りに動いている。問題は起きていない。だから、ライアンの方は計画通りなんだけど……」
 「なんだけど?」
 「ルーシーがさ、全然僕をいじめてこないんだよな」
 「あー」

 ルーシーの婚約破棄計画。
 その計画にはゲーム通りルーシーが動いてもらえることが前提となっている。
 ゲーム上のルーシーは入学して間もない頃からステラをいじめ始めるのだけど。
 一向にいじめなどはしてこない。
 
 むしろ避けられているような気もする。

 いや、あの4人がいるせいで、ルーシーがこちらに関心を向けていないだけなのか。
 だとしたら、それはそれで計画が破綻してしまう。

 「あーあー。ルーシー、僕をいじめてくれないかなー?」

 いじめてくれたら、計画をとんとん拍子で進めれるのに。
 僕がそう呟くと、アースがにたりと笑った。

 「その発言、ドMの発言みたーい」
 「僕はドMじゃない。まぁ、ルーシーがドSというのなら、別にMになっても構わないけど」

 彼女が望むのなら、何だってなる。
 魔王を倒しに行け、と命令されれば今すぐにでも行く。
 真剣にそう話すと、アースは「うわぁー」とドン引き。

 「そこまでいくと、君は本当に変態さんだねー」
 「お前に言われたくないよ、変人王子」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】爪先からはじまる熱と恋 ~イケメンを拾ったら囲われました~

只深
恋愛
『爪先からはじまる熱と恋』 〜イケメンを拾ったら囲われました〜 【逆ハーですが純愛です!】 人生観変わっちゃうかもよ?な激甘・激重恋愛物語です。 主人公  緑川 蒼(みどりかわあおい) 25歳 一般的な接客業をしている一般人のはずだった女の子。ある日突然現れたイケメンを拾ったら…いつの間にか溺愛されて出会った全ての人からも愛されてしまっていた。 『命が燃え尽きるなら、ゴールテープの先まで走り抜けたいな、って思う』 そんな彼女が求める人生のゴールとは? 主人公を取り巻く心のやり取り、そしてその命と愛の脈動を感じて欲しい。そんなストーリーです。 登場人物 NO.1 ヤンデレ童顔、甘えん坊系と責任感強めの支配者イケメン。決める時は決める!甘さと辛さがクセになるタイプ。 NO.2 猫目のクールビューティーイケメン。普段のクールな様子とは裏腹に好きな人にだけ見せるロマンティックな言葉を吐くギャップ萌え系イケメン。 甘い言葉に激重感情を載せて溶かすタイプ。 NO.3 ロングヘア、ピアスジャラジャラのヤンチャな印象とは違って冷静で大人なイケメン。 大人っぽい顔をしながら昏い過去を抱えて、繊細で脆くもありつつ、大人の一線を引ける。 支配欲、独占欲が強めの甘やかし系サディストタイプ。 ※ハッピーエンドのつもりで書いておりますが、もしかしたらメリーバッドに感じる方もいらっしゃると思います。 喪失感と涙を感じていただけたなら、ぜひご感想をお願い致します\\\\٩( 'ω' )و //// R18表記ありのオリジンは小説家になろう、アルファポリス、pixivに掲載しています。 R15表記も作成予定です。

睡眠開発〜ドスケベな身体に変えちゃうぞ☆〜

丸井まー(旧:まー)
BL
本人に気づかれないようにやべぇ薬を盛って、毎晩こっそり受けの身体を開発して、ドスケベな身体にしちゃう変態攻めのお話。 なんかやべぇ変態薬師✕純粋に懐いている学生。 ※くぴお・橘咲帆様に捧げます!やり過ぎました!ごめんなさい!反省してます!でも後悔はしてません!めちゃくちゃ楽しかったです!! ※喉イキ、おもらし、浣腸プレイ、睡眠姦、イラマチオ等があります。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 本作の感想欄を開けました。 お返事等は書ける時間が取れそうにありませんが、感想頂けたら嬉しいです。 賞を頂いた記念に、何かお礼の小話でもアップできたらいいなと思っています。 リクエストありましたらそちらも書いて頂けたら、先着三名様まで受け付けますのでご希望ありましたら是非書いて頂けたら嬉しいです。

クソゲーの異世界で俺、どうしたらいいんですか?

けいき
BL
夜道で交通事故にあった竹海瑠架は意識を失う。 誰かに声をかけられ目を開くと目の前にはゲームやアニメのようなあり得ない色味の髪をした女の子がいた。 話を聞くと奴隷商人に売られたと言う。 え、この現代に奴隷?奴隷!?もしかしてコレは俺の夢なのかな? そんなことを思っていたらなんだか隔離されてるのか部屋の外が騒がしい。 敵が攻めてきた?それとも助けてくれる人?どっちかわからないけれど、もしこの部屋に来たら攻撃してもーー? 大丈夫。怖くない、怖くないよ。死んだらきっと起きるだけ……。 時間が経つにつれ、なんかリアルっぽいんですけど……。 もしかしてゲームやアニメ。ラノベ天ぷら……じゃなくてテンプレ展開ですか!? この作品は「ムーンライトノベルズ」に4/13より掲載しています。

【完結】呪われ王子は生意気な騎士に仮面を外される

りゆき
BL
口の悪い生意気騎士×呪われ王子のラブロマンス! 国の騎士団副団長まで上り詰めた平民出身のディークは、なぜか辺境の地、ミルフェン城へと向かっていた。 ミルフェン城といえば、この国の第一王子が暮らす城として知られている。 なぜ第一王子ともあろうものがそのような辺境の地に住んでいるのか、その理由は誰も知らないが、世間一般的には第一王子は「変わり者」「人嫌い」「冷酷」といった噂があるため、そのような辺境の地に住んでいるのだろうと言われていた。 そんな噂のある第一王子の近衛騎士に任命されてしまったディークは不本意ながらも近衛騎士として奮闘していく。 数少ない使用人たちとひっそり生きている第一王子。 心を開かない彼にはなにやら理由があるようで……。 国の闇のせいで孤独に生きて来た王子が、口の悪い生意気な騎士に戸惑いながらも、次第に心を開いていったとき、初めて愛を知るのだが……。 切なくも真実の愛を掴み取る王道ラブロマンス! ※R18回に印を入れていないのでご注意ください。 ※こちらの作品はムーンライトノベルズにも掲載しております。 ※完結保証 ※全38×2話、ムーンさんに合わせて一話が長いので、こちらでは2分割しております。 ※毎日7話更新予定。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

★★★★★★六つ星ユニークスキル【ダウジング】は伝説級~雑魚だと追放されたので、もふもふ白虎と自由気ままなスローライフ~

いぬがみとうま
ファンタジー
■あらすじ 主人公ライカは、この国始まって以来、史上初の六つ星ユニークスキル『ダウジング』を授かる。しかし、使い方がわからずに、西の地を治める大貴族である、ホワイトス公爵家を追放されてしまう。 森で魔獣に襲われている猫を助けた主人公。実は、この猫はこの地を守護する伝説の四聖獣『白虎』であった。 この白虎にダウジングの使い方を教わり、自由気ままなスローライフを求めてる。しかし、待ち構えていたのは、度重なり降りかかる災難。それは、ライカがダウジングで無双していく日々の始まりであった。

モブの従者になった俺が悪役令息に夜這いをしてどうする

ルルオカ
BL
5人の王子と王の攻略を阻むにっくき悪役令息。 が、いざ転生して従者として接した彼は、別人のようで、さらに夜に部屋のまえに行ったとき、さらに意外すぎる一面を見せつけられて・・・。 異世界転生ものBL小説です。R18。 「悪役令息の俺が王子たちに夜這いされてどうする」のおまけの小説。 元ネタの小説は電子書籍で販売中。 詳細が知れるブログのリンクは↓にあります。

処理中です...