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第3章 学園編

55 カーリー・カーライル

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 事件から数日後。 
 私はキーランとある場所にいた。
 そこはキーランが見つけたという、礼拝堂っぽい場所。
 
 図書館にある本を取った時に、彼が隠し扉が出現したそうだ。
 よくそんな場所を見つけたなぁ。
 ていうか、誰も見つけていなかったの?

 意外と簡単に見つけられそうなものだけど。
 もしかしたら、選ばれし者のみが導かれる場所とか!?
 1人興奮しながら、キーランについて階段を下りていくと、この美しい礼拝堂っぽい場所に着いたのだ。

 「最近の姉さんは本当に大人気だね」
 「……そうね。うざったいほどに」

 ここに来たのは、他でもない――彼らから逃げるためである。

 今日の昼休みもいつも通り、私は図書館へと足を運んでいた。
 だが、今日は引っ付き虫がいた。
 
 なんと、私となんとしてでも繋がりを作りたい子息さんたちは、図書館までやってきていたのだ。
 言葉を選ばないでいえば、ストーキングされていた。

 あんなデマが出ていたから、てっきり諦めたと思っていたのに。
 まだ、彼らは私が聖女であると信じているようである。
 
 ………………全く、ご苦労なこった。

 私は一時、どこぞの子息から逃げ回っていた。
 その途中、ちょっと面白そうな本を見つけ、誘惑に負けて夢中になって読んでいるところで、彼らに捕まった。

 先に彼らに気づいていれば、私はさっさと逃げていたと思う。

 「!」

 気づいたときには遅かった。
 彼らと目が合ってしまったのだ。

 「ルーシー様、ごきげんよう! こんなところでお会いするなんて偶然ですね!」
 「………」

 ―――――――うん、あれは私の失態。しくった。
 
 そうして、捕まってしまたった私は仕方なく、話を聞いてやった。
 「そうですか」「それはすごいですね」「まぁ」と適当に相槌を打ち、聞いた。
 
 一方、彼らは。
 自分の家は大昔に星の聖女がいたのでぜひとも交流したい、だの。
 もしかしたら、自分の妹は光魔法の才能があるかもしれないので、聖女となりうつ可能性のある妹と仲良くしてほしい、だの。

 面倒な話だった。
 まぁ、彼らも彼らで必死なのだろう。
 かといって、同情する気はさらさらなく、彼らの話は全然面白くないので、私は適当なところで切ろうかと思っていた。

 だから、タイミングを見て「では」と去ろうとする。
 しかし、彼らはしぶとく「もう少しだけ」と止められる。

 ………………うざったいな。
 と私がキレそうになりかけた時、そこにキーランがやってきてくれていた。

 キーランたちは生徒会の仕事があったのだが、自分の仕事を終わらせると一目散にここにやってきたらしい。
 まぁ、助かった。
 キーランが救ってくれた。私の手を取って、
 
 「ちょっと姉弟で大事な話があるので」
 
 と言って、助けてくれた。
 それでも彼らは空気を読まず、追いかけてきたので、撒くためにこの部屋にきていた。

 「ここ、本当に綺麗な場所ね……」
 
 上を見上げると、そこに広がっているのはガラスの天井。
 ドーム状となっている天井からは太陽光が差し込んでいた。

 だが、ガラスの上に直接空が広がっているわけではない。
 池があった。
 魚も泳いでいる。

 そう。
 キーランが見つけた綺麗な礼拝堂からは、池が下から見ることができた。
 まるで水族館の水中トンネルのよう。

 見えている池は、庭にあった池なのだろう。
 ということは自分たちがいる場所は池の下になる。

 ………………でも、なんでこんなところに、こんな部屋が?

 礼拝堂は使われていないようだったが、綺麗だった。
 椅子に埃が積もっているということはなく、定期的に掃除がされているようだった。

 「ほんと、キーランはこういう場所見つけるの、得意よね」
 「まぁね」

 キーランは正面の方へ真っすぐ歩いていく。
 そこにはピアノが置かれてあった。
 前世でよく見た黒色のものではなく、白いグランドピアノ。
 さらに、細かいところまで見ると、金で装飾がされていた。お高そうだ。

 キーランは慣れた手つきで、鍵盤前にあった椅子に座り、弾き始める。

 彼が弾き始めたのは、ドビュッシーの「月の光」。
 その音色は、幻想的なこの空間を、さらに煌びやかにみせる。
 私は長椅子の端に座り、演奏するキーランを見ていた。

 楽しそうに弾いていた。
 時折、こちらを見て、ニコリと笑う。本当に楽しそう。
 かといって、手はおろそかにしておらず、彼は優雅に弾いていた。

 ………………うん、キーランは将来ピアニストになったらいいと思う。
 心の底からそう思った。

 キーランは実家でもよくピアノを弾いていたけど、上手かった。
 始めたのは養子に入ってからで、私より遅れて始めたけど、すぐに追い越された。
 きっとキーランにはピアノの才能があったと思う。
 
 それに、弾いている時はいつだって楽しそうだった。
 ピアノが上手いっていいよねぇ。
 まぁ、私も習ってはいたけど、こんなに上手く弾けない。
 
 美しい礼拝堂に、ピアノの音が響く。

 この世界にも、前世の曲がざらにあった。
 ショパン、ベートーヴェン、バッハ。
 有名どころはあった。しかし、彼らがどういった人物なのか、いつ生きていたのかは知られていない。

 ゲーム原作ならではの奇妙な不思議な世界である。

 好奇心が生じた私は、キーランのピアノを楽しみながら、礼拝堂の中を歩き回る。
 すると、あるものを見つけた。

 ――――――これは何?
 礼拝堂の一角に、ある彫刻があった。
 祈りをささげている、女性の彫刻。

 女性は頭に月桂冠をつけており、古代ギリシャの服を身に付けている。

 見る感じ、女神ティファニー様の像でもなさそう。
 ティファニー像は教会でよく見かけるし、なんだったら実物見たことあるし。

 なら、誰の像?
 女性の像の下に、文字と青い月のマークがあった。
 月のマークだけ、宝石でできているのか、キラキラと輝いている。

 文字も見てみたが、知らない言葉で書かれており、解読できなかった。

 「………………もしかして、これ月の聖女?」
 「姉さん、どうしたの?」
 「わっ!!」

 振り向くと、キーランが立っていた。
 いつのまにこっちにやってきていたのやら。
 
 「急に声を掛けないでよ」
 「ごめん、ごめん。ピアノを止めたから、気づくかなと思ってた」

 キーランも気になったのか、その彫刻を見つめる。

 「……この像、何? 女の人の彫刻っぽいけど……」
 「私にも分からない。けど、月のマークがあるから、月の聖女じゃないのかなと思ってたの」
 「月の聖女……姉さんが魔女に言われたってやつね」
 「そう、そう」

 キラキラと青い輝きを放つ、月の形をした石。
 ちょっと気になって、月のマークに触れてみる。
 すると。

 ゴォ――――。
 彫刻が動き、壁一体の石が動いていく。道を切り開くように動いていく。
 そして、一時すると目の前に階段が現れた。
 
 さらに下があるの?
 階段の奥を覗いてみると、下へと続いている。
 当然その先が気になった私は降りようとする。

 が、その瞬間、キーランに腕を掴まれた。
 
 「待って、姉さん」
 「なにー? キーラン」
 「何があるか分からないのに、行くの?」
 「………………行く」
 「えー」
 「だって、階段が私の前に現れたんだもの」

 これは行くしかないでしょ。
 よく分からないけど、あの月のマークに触れたら、階段が現れた。
 これは私に行けって言っているようなものでしょ。

 それにここは学園内。危険なものはない、はず!
 あと、さっきから階段の奥から声がするのだ。

 「―いぃ!! け――は―ておるぅぞぅ――!!」

 なんて、言ってるのか分からないけど、聞こえてくる人の声。

 「キーラン、何か聞こえない?」
 「え?」
 「ほら、人の声。耳を澄ませてみてよ」
 「……分かった」

 キーランは目を閉じ、耳を澄ます。

 「は――うぅ――かっ――!! ――いぃ!!」

 ほら。何語か分からないけど、聞こえてくるのよ。
 キーランも聞こえたのか、頷いていた。
 
 「ほんとだ。声が聞こえる」
 「じゃ、行きましょ。迷子になっている子がいるのかもしれない」
 「えー」

 キーランは乗り気ではなさそうだったが、ついて来てくれた。
 2人で階段を下りていく。すると、勝手に明かりがついてくれた。親切なこった。
 そして、階段を下りきると、真っすぐに廊下が続いていた。

 「これは牢屋?」
 「そう……っぽいね」

 廊下にそって区切られた部屋。廊下側には頑丈そうな柵が付けられていた。
 しかし、声の主の姿は見えない。誰1人としていないようだった。
 声は大きくなっていってるから、近づいてはいるんだろうけど。

 先ほどまで、なんて言っているのか聞き取れなかった声だが。

 「腹が減った――! じらすなぁ――!!」

 とはっきりと聞こえ始めている。
 どうやら声の主はお腹が空いているようだ。やっぱり迷子かな。

 さらに進んでいくと、突き当りとなったが、行き止まりというわけではなく。
 左へと道が続いている。
 そして、その先を歩いて行くと、右にまた下へと続く階段が現れた。
 
 「行くの?」
 「…………行く」

 そして、階段を下りると、牢屋が見えて、また階段があって。
 それを繰り返し、5階ほど下に降りると、ようやく声の主を見つけた。

 「ゾーイぃ! 我は待ちくたびれていたぞ! 全く!」

 声の主は幼女だった。
 
 「我は腹がペコペコじゃー! 今日のご飯は何かのぉ!?」

 黒いワンピースを着た、幼女だった。

 「…………って、お主ら誰じゃ」
 「「………………」」

 青色髪の幼女は訝しげにこちらを見ている。
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 てか、子どもをここに連れてくる?

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 すると、幼女はこっちに近寄ってくる。
 そして、私をじっと不思議そうに見つめてきた。

 「……お主、いくつじゃ?」
 「15です」
 「……15!? あははっ――! 15かっ!? ゾーイの1つ下かっ――!
  あははっ――!」 

 いや、何がおかしいのかよく分からない。
 
 「よく見たらお主の肌はピッチピチじゃ―! 
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  あいつはしわしわババアじゃったわ―! 
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  新入りか―!?」

 幼女に若いとか言われた。訳が分からん。

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 「なに?」
 
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 ………………あら? 

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 そして、言った。
  
 「我は魔王軍幹部!」
 「え?」
 「殺戮の悪魔カーリー・カーライルじゃー!」
 
 地下には「じゃー!」という声だけが響いていた。 



 ●●●●あとがき●●●●
 ルーシーたちが聞いた最初の声ですが、あれはカーリーさんが「ゾーイ! 気配を感じておるぞ!」「早うせんかー! ゾーイ!」と言っていました。
 カーリーさん…………全然気配感じてない笑
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