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第3章 学園編

52 リリー視点:お姫様の危機

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 その瞬間、直感的にルーシー様が危ないと思った。
 なぜか分からないけど、そう思った。

 だから、私は走った。
 お姫様ルーシー様の元に向かって全力で走った。

 人の流れに逆らって、人の合間を縫って駆け抜けていく。

 途中、ステラとすれ違った。
 彼女は私の顔を見て「え?」って顔していたけど、あの様子からだと気づいていないのかもしれない。
 
 クレープ?
 そんなの、どうでもよくなった。
 それよりもルーシー様が危ない。

 ルーシーの背中が見えた。あの王子と一緒にいた。
 2人はある方向を見ていた。誰かと話しているようだった。
 さらに近寄る。

 見えた。
 2人には黒いローブコートを着た人が。
 あの人から、とんでもない邪気を感じた。

 私はルーシー様の前に立つ。
 
 「ルーシー様、殿下、ご無事ですか」
 「…………ええ」「ああ」

 そいつは私を見ても、反応しなかった。

 「あなた、何者ですか? 随分と物騒な雰囲気を醸し出していますけど」
 「黒月の魔女といえば分かるかしら?」

 そう答えて、黒ローブ女はニコリと笑う。

 ―――――――は? 黒月の魔女ですって?

 なんでこんなところに。
 ゲームでこんな展開は、私は知らない。 
 だいたい魔女が現れるシーンなんて1つもなかったはず。

 でも、魔女はさっきからルーシー様ばかり見ている。
 
 ルーシー様に何かするつもり?
 なんの用があってきた?

 私が様々な疑問を浮かべている中、魔女はこっちに向かって歩いてくる。

 「近づくなっ!」

 声を上げる。
 そして、私は持ってきていたレイピアを魔女に向かって構えた。
 しかし、魔女は気にすることもなく、私の前に立ち止まると、ルーシー様をじっと見始めた。

 一体、この魔女は何がしたい?
 
 ちらりとルーシー様を見る。
 魔女にまじまじと見られて、居心地悪そうにしていた。
 そんな彼女だが、恐る恐る魔女に話しかけた。

 「………………あの」
 「うん! 間違いないわ!」
 「………………魔女様?」
 「この子、聖女だわ!」

 魔女は大声でそんなことを言ってきた。
 ルーシー様が聖女? 
 何を言ってるの、この魔女は。
 ゲームではルーシーが聖女になる、なんてことはなかったはず。

 ルーシー様も同じく驚いたのか、声を上げていた。

 「え? 私が聖女?」
 「そうよ? あら、あなた気づいてなかったの?」
 「気づいていないもなにも……星の聖女なわけがありません」

 すると、魔女はそりゃ当然という顔をしていた。

 「え? そりゃあ、そうよ。あなたは星の聖女なわけがないじゃない」
 「じゃあ、なんだというんですか」
 「あなた、月の聖女よ」

 ルーシー様はさらに訝しげな顔を浮かべる。
 まぁ、そりゃあそうよね。
 いきなり世界が恐れる魔女が現れて。
 その魔女から「あなたは聖女よ」なんて言われたら、私もあの顔をするわ。

 それにしても、月の聖女かぁ。
 ここはムーンセイバー王国だし、ありえなくない話。
 それにルーシーという名前は月と関連あるし、誘拐事件の時はあんな強力な魔法を放った。

 私は月の聖女が何をするのかは知らないけど、だいたい星の聖女と同じだから、治癒魔法と光魔法を得意とするはず。
 でも、ルーシー様は光魔法以前に、魔法を扱うことが難しい。

 保持魔力が少なくて、初級魔法しか扱えないらしい。
 対して、星の聖女は一般の人よりも保持魔力も多いという報告がある。

 だけど、ルーシー様は誘拐事件の時に光線をぶっ放している。
 もしかしたら、ルーシー様の保持魔力が少ないっているのは間違いなのかもしれない。測定間違いなのかもしれない。
 だから、ルーシー様が月の聖女であることは、今のところは肯定も否定もできない。

 まぁ、話がそれたけど。
 ルーシー様は魔女の言ってることが信じられないようだった。
 何言ってんだ、こいつ、とでも言いたげだった。
 ルーシー様はそんな言葉遣いされないけど、思っていることは私も同じ。

 そんな中、誰よりも驚いていたのは、彼だった。
 ライアンはありえないとでも言いたげな顔をしていた。

 「なぜ、お前がそれを知っている……」
 「ふん。その様子だと、ムーンセイバー王国は把握済みだったようね。ま、婚約者にしているんだから、当たり前かしら」
 「………………いや、陛下はご存じないはずだ」
 「ふうん、そうなの」

 魔女はそう言って、ルーシー様の方に目を戻す。
 ライアンがとんでもない発言をした気がするけど、それどころじゃない。
 嫌な予感がする。

 「魔王様はああ言ってたけど………………まぁいいか」

 魔女から殺気を感じる。
 一応、私は後ろにいる彼女に目くばせをしておく。

 「ラザフォード家のお嬢さん、月の聖女であるあなたには死んでもらいましょう!」

 私の直観は当たっていた。
 私はすぐさま動いた。

 「恨むのなら、私ではなく、月の聖女として生まれた自分を恨んでちょうだい! じゃあ、月の聖女様。さようなら! テーネブラモルス!」

 私は死の呪文を防ぐ方法は知らない。しかし、彼女はコクリと頷いてくれた。
 だから、きっと彼女ならやってくれるはず。
 嫌いだけど、きっと彼女なら防御魔法を繰り出せる。

 私はルーシー様の前に立ち、魔法を受ける覚悟を決める。
 しかし、私の体は押しのけられた。
 ルーシー様が私を押していた。
 紫紺の雷光がルーシー様に直撃する。

 「ルーシー様!」
 「くっ!」

 パリンっという音が響く。
 ………………そんな、そんな。
 私のルーシー様が。

 「私は……大丈夫」

 しかし、ルーシー様はそう言った。声を出した。
 即死魔法を受けたのにもかかわらず、私のお姫様はピンピンしていた。
 多少よろけていたが、立っていた。

 その代わり、彼女の手から砕けた青い石が落ちていく。
 あ! なるほど!
 身代わり魔石を使ったのね!
 さすが、ルーシー様! 

 「あらら……身代わり魔石を持っていたのね。やられたわ」

 魔女は口元に手を当て、残念そうに見る。
 黒月の魔女とはいえ、即死魔法を連続で使うことなんてできないはず。
 なら、今のうちに。

 「殿下とルーシー様はお下がりください! 余裕があれば、宮廷魔術師をお呼びください!」
 「ああ、呼ばせた! 君たちで持ちこたえそうか?」
 
 すると、ライアンは自分も戦うと言い始めた。
 彼に戦ってもらうのはありがたいが、それではルーシー様1人になってしまう。
 今魔女が狙っているのはルーシー様。私たちのことはどうでもいいように思える。
 だから、ライアンにはルーシー様を任せたい。 

 「………………なんとかします。殿下はルーシー様をお願いします」
 「分かった」

 ライアンは私の意をくんでくれたのか、ルーシー様を守るように杖を構えた。
 分かってる。
 たぶん、私だけじゃ、無理だ。
 なんせ、相手は世界が恐れる魔女、黒月の魔女。
 1人で何人も死にやった、魔王の臣下。

 「私も加勢します!」

 先ほどまで、ルーシー様の後ろの方にいたステラ。
 彼女は私の隣に立った。

 ――――――――魔女と戦うのは、1人じゃ無理だ。
 だけど、嫌いなステラ星の聖女様とならきっとルーシー様を守れる。

 「ステラさん、さっきはありがとう」
 「いいえ。あなたが亡くなると、ルーシー様が悲しむので、守っただけです」

 そう言って、ステラは顎を引き、杖を構える。戦闘に慣れているようだった。
 星の聖女がいるのなら、時間を稼ぐことぐらいはできるだろう。

 「行きますよ!」
 「はい!」 

 そうして、黒月の魔女との戦いが始まった。
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