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第3章 学園編

50 衝撃のエンカウント 前編

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 最近、ちょっと気になることがある。
 
 それは、ライアンのこと。
 正直、ライアンのことなんて気にしたくなのだが、最近はそうもいられない。

 なぜか、ライアンが挨拶をしてくるようになっていた。
 アースとの1件があった次の日からだろうか、彼から私に挨拶をするようになっている。
 
 いつもなら、私が挨拶をしても、素っ気なく挨拶をするだけ。
 だが、最近は彼から挨拶しにくるだけでなく、少し会話をしてくる。

 「今日は元気か」だの、「今日はいい天気か」だの。
 他愛のない話をしてくる。
 ついつい私は、『あんたは反抗期の娘と距離を縮めたいが、接し方が分からなくなっている父親か』なんてツッコミをしたくなったけど。

 でも、そんなライアンの行動は違和感しかない。
 
 挨拶はアースとの一件の次の日からだから、アースあたりが陛下に何かを言って。
 それで、話を聞いた陛下が、ライアンに何か言ったのかも。
 将来妃になる公爵令嬢をぞんざいに扱うな、とかね。

 陛下、私は妃になりませんよー。ご安心を。

 まぁ、もしそう言われたとして。
 ライアンはそれで私に関わろうとしているなら、私はいつも通りでいいかと思っている。

 どうせ、ゲームのようになるんだし。

 もしこのままいって、ゲームのようになって、国外追放になったら、私は1人で生きていかないといけない。
 
 何もかも自分でしないといけない。
 
 もし、国外追放になったら、アストレア王国に行こう。
 他の国の事情はイマイチ分からないからね。
 それにアストレア王国はアースの出身国。

 嫌だけど、最悪彼に頼る…………嫌だけど。

 ゲームでのルーシーには国外追放エンドだけでなく、死亡エンドもある。
 が、それは私が婚約破棄後ステラに危害を加えようとした場合のみ、発生。

 ステラに危害を加えるつもりはさらさらないから、死亡はないだろう。
 でも、なんでだろ。数年の前は死ぬって思ってたわ。
 あの時は精神状態が安定していなかったのかな?
 
 ………………まぁいっか。
 
 国外追放になっても、死の危険はある。
 もし、アストレア王国に行くとして。
 移動途中に、魔物とか山賊とかに襲われる可能性だってあり得る。
 
 そう考えると、魔法技術は上げておきたい。
 カイルたちほど、私は魔法が使えるわけではない。
でも、襲われた時に逃げる隙を作れるぐらいには魔法を使えるようにしたい。

 ミュトスに戦ってもらうっていう選択肢もある。
 けど、婚約破棄後はミュトスがステラにつく可能性だってある。
 だから、ミュトスに頼れるとは限らない。

 でも、思うように魔法技術が上がらなかったら、護身用に魔道具を持っておきたいな、なんて考えていると。

 「ルーシー様、2人で買い物に行きませんか?」

 休日に、リリーから買い物のお誘いがあった。
 
 「いいわよ。じゃあ、カイルたちも呼びましょうか」
 「いえ、呼ばなくて結構ですよ。ルーシー様」
 「え? そう?」
 
 たくさん人がいたほうが、楽しいと思うけど。
 それに誘わなかったら、誘わなかったで、後で「僕も行きたかった」とかぐちゃぐちゃ言われるし。

 それでも、リリーは2人で出かけたいと主張する。
 
 「今日は女子だけでお出かけしましょう。来てもらっても、殿方は退屈するだけですしね。身の安全は私が保障します。私はこれでも騎士団長の娘なので」

 そうだ。
 立派に令嬢をしているリリーだが、彼女は騎士であるゾーイと互角に剣を扱える。
 
 「そうね。じゃあ、2人で行きましょうか」
 「はい!」

 そうして、私はリリーともに街へ出ていた。
 学園は端の方にあるとはいえ、ここは王都。学園周辺には様々な店があった。
 ラザフォード邸近隣になかった珍しい店もある。

 魔道具を売っている場所は非常に珍しいが。
 この街になら、必要とする魔道具もきっと売っているはず!

 「ルーシー様、どこのお店に行きましょうか?」
 「どこに行こう? 私はちょっと魔道具を見たいなと思ってたんだけど、お店とかは知らないからなぁ……」
 「魔道具ですか。なら、こっちにいい店があるはずです! 行きましょう!」

 リリーに手を引かれ、街を歩いてく。
 結構な人がおり、賑わっていた。広場では屋台のお店が並んでいた。
 あ、クレープ屋がある。この世界でもあるんだ。
 あとで食べよう。
 
 リリーに案内されたのはある1件のお店。
 その店は大通りから少し離れたところにあったが、外見からよさげな店だった。
 店に入ると、出迎えてくれたのは大量の魔道具。
 部屋のどこを見ても魔道具があった。
 
 ………………ここなら、ありそうね。

 アースの研究室でみた魔法石や、何に使用するのか分からない魔道具まで大量におかれてあった。

 その中から、ある魔石が目に入る。
 これだけ大量にあるけど、なんだろ?
 目にとまった魔石は青く、大量にあるのかバケツ一杯にあった。

 ただ魔力を保持している魔石? 
 にしても、ちょっとお高いけど………………。

 「これは……魔石ですか?」
 「それですか? あー、それは魔石ですよ。といっても、普通の魔力保持の魔石じゃなくて、身代わり魔石って言われているものでして」

 ほう。

 その店員のおじさんはそれはそれは丁寧に教えてくれた。
 おじさんいわく、その身代わり魔石は魔法攻撃を受けた場合に、身代わりになってくれるらしい。 

 まるでド〇クエの命の石みたいねぇ。
 他のゲームにも似たような名前のものがあったような……。

 身代わり魔石の効果は一回使用すれば、切れる。
 もっと高いものであれば、数回使用可能なものもあるらしいが、店には置いてないとのこと。

 ちょっとほしい物とは違ったけど、持っておいてもいいかも。

 「これ、3ついただくわ」
 「ありがとうございます」

 そうして、身代わり魔石を3つ購入。
 その後も魔道具がないか探したが、めぼしいものはなかった。
 身を守るような魔道具はあまりなかった。

 きっと買い手がいないのだろう。

 ここは王都だし、治安はいいし、身を守る必要がない。
 それに、冒険者ギルドに頼めば、用心棒を雇えるみたいだし。

 そりゃあ、買い手もいないですわー。
 せいぜい買っても身代わり魔石ぐらいよ。
 
 あ、私もアストレア王国に行く時は、用心棒を雇おうか。
 ………………でも、お金はあるかな?

 「あ、ルーシー様ではありませんか!」

 店を出て、大通りに入った直後。
 背後から声を掛けられた。
 ………………嫌だわ。反応したくない。
 かといって、無視するのもなぁ。

 「…………どうも、ステラさん」

 ゆっくりと後ろを見る。案の定、ステラがいた。
 彼女1人だけではなかった。ローブを深く被っている人もいた。

 誰だ、こいつ。

 体付き的に男性、かな?

 「ルーシー様も街にいらしてたんですね」
 「ええ、ちょっと買いたいものあって」
 「……マクティアさん。私もいるんですけど」

 リリーは私の左脇に腕を通す。いつのまにか腕を組まれていた。
 あ、そっか。リリーはステラと知りあいか。
 
 「ええ。分かっていますよ、リリーさん」
 「じゃあ、なんで挨拶してくれないんですか?」

 ん?

 「リリーさんこそ、この前私に挨拶返してくれなかったじゃないですか?」
 「あれはあなたの挨拶が聞こえなかっただけです。あなたの声、とっても小さいので」

 あれ?

 「それはリリーさん。私の声が小さいんじゃなくて、リリーさんの耳が遠かったんじゃないんですか?」
 「あはは……そんなまさか。私は地獄耳なんですよ。ありえない」

 んん? 
 あれれー? おかしいな?

 2人の会話に違和感しかない私は、彼女たちを見る。
 
 ステラは笑っていた。リリーも笑っていた。
 そう。
 2人とも口だけは笑っていたが。

 ………………眼は全く笑っていなかった。
 
 え? 何?
 ステラとリリーって仲悪いの?
 最近、ステラも生徒会に入ったって聞いたけど、大丈夫なの?

 私は全力で空気を読む。
 
 「あの、ステラさん!」
 「あ、はい! なんでしょう、ルーシー様!」
 「えっと……隣にいらっしゃる方は?」

 ステラが答える前に、彼がちらりとフードの中をのぞかせる。

 「僕だ」

 ――――――フードの中からは見知った顔があった。

 「………………ライアン様、でしたか。失礼いたしました」

 こいつって言ってごめんなさい。
 すみません。

 「いや、気にしないで。こんな格好じゃ、分からなかっただろうから」
 「あ、はい……あの、護衛の方は?」
 「ついて来ているよ」

 後ろに目くばせをする。その先には数名ライアンのお付きのものかと思われる人がいた。
 ま、そうよね。ステラがいるとはいえ、さすがに王子を1人で街に出すわけにはいかないわよね。

 謎の男性の正体を把握したところで、そろそろおいとましようとしていると。

 「ルーシー様、よかったら一緒に買い物をしませんか?」

 そんなことをステラに提案された。その瞬間、リリーがむっとする。

 え? 一緒に?
 ………………いやいや。
 あなた、ライアンとデートしているんでしょ?
 私は邪魔なだけでしょ?

 しかし、ステラはにこやかに笑っていた。
 ………………こっちの気も知らないで、このっ。
 苛立つ気持ちを押さえて、私は営業スマイルを作る。

 「いえ、お2人のお邪魔になりそうなので、今回は――」
 「僕は構わないよ」

 すると、次はライアンがそう言ってきた。

 ………………えー。
 そこは2人がいいって言ってよー。
 めっちゃ断りずらいじゃん。

 「でも――」

 それでも私は断ろうとしたが、なんだかライアンから圧がかかってきて。
 断ることもできず。

 「………………はい、いいですよ」

 そうして、4人で買い物をすることになった。
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