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第3章 学園編

49 イヤな予感

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 選択授業終了後。
 衝撃の質問をした緑髪の少女。
 彼女は教室の人全員から注目を浴びていた。

 しかし、彼女は何事もなかったかように、颯爽と教室を去っていく。
 
 彼女は知らなかったのかもしれない。
 黒月の魔女の名前を話題にしてはいけないことを。

 だったら、そのことを彼女に言わないと――。

 私は荷物をまとめると彼女を追いかけ、教室を出る。
 少女は教室から少し離れたところにいた。

 「緑の髪の方、お待ちください!」
 
 呼び止めると、少女は振り向いてくれた。
 
 「………何ですか?」
 「さきほどのことですけど、あの魔女の名前は――」
 「ええ、知ってます」
 「なら、なんで……」
 「私が単に聞きたかったからです」

 だからって、あの場所で話題に出すのは、と反論しようとしたが。
 彼女は何か事情があるのかもしれない。
 たとえば、おじいちゃんとかが黒月の魔女に殺されて、仇をとろうとしているとか。
 なら、私には関係ない。

 しかし、彼女が去ろうとした時、再度呼び止めていた。

 「まだ何かありますか?」
 「………………出席確認の紙、チェックしました?」
 「あ」

 と単音だけ発すると、彼女はくるりと引き返し。
 猛ダッシュ。
 だが、途中で足を止め。

 「ありがとうございます!」

 と私に言って、去っていた。

 言ってよかった。
 あのままだったら、あの子は出席したとはみなされないから。
 せっかく出たのに、チェック忘れで欠席なんてもったいないものね。

 そうして、自分のクラスの教室に戻っていると。
 突然背後から抱き着かれた。
 振り返ると、そこにいたのはキーラン。

 彼の背後にはカイルたちもいた。

 「姉さん、久しぶり! 会いたかったよー!」
 「…………何が久しぶりよ。たったの1時間でしょ」


 
 ★★★★★★★★




 選択授業後、私はキーランたちと合流。
 そして、食堂へと向かった。
 食堂はお昼時なので、結構な人数がいた。
 が、席はなんとか確保できた。よかった。

 そうして、食堂で昼食を終えると、今日は何も予定がないので図書館のあの一室に向かう。
 その移動中、私は例の緑髪の少女について話題に出した。
 すると、リリーが説明してくれた。

 リリーいわく、彼女は2年生の有名人。
 2年生ではかなり有名らしく、彼女の名前はゾーイ・ヴィルテン。
 男爵家のご令嬢で、盲目。

 目が見えないが、耳は常人よりかなりよく、しばらく関わりを持てば足音で誰だが、判断できるとか。

 しかし、盲目のことが彼女を有名にしているのでないらしい。
 彼女が騎士だから、名を知られているという。
 ゾーイは騎士団に入団しており、腕前はリリーと同等。

 なぜそんなことを知っているのかと尋ねると、彼女と面識があったのだとか。
 ゾーイはリリーの父が団長をしているところに所属しているらしい。
 それで、リリーは少し剣を交えたことがあるのだとか。

 リリーところに所属している人ってそれなりに強かったはず。
 それに、騎士団に入る前に実技試験とかあるはずよね?
 あんな華奢な女の子が合格した?

 ………………かっけぇ。
 私が男だったら、惚れちゃうかも。

 騎士である彼女が学園にいるのは、騎士団長リリーの父親の指示で、魔法技術を高めるためにいるらしい。
 ちなみにゾーイの成績はトップ。

 シエルノクターン学園はほとんどペーパーテストで成績を決めるが、どうしているのだろうと思ったら、面接で試験を受けているらしい。
 いわゆる口頭試問である。

 …………なるほど。
 だから、ノートをとらず話を聞いていたのか。とんでもない記憶力ね。

 ちなみに。
 話の流れで、ゾーイが私の隣に座ったと話すと、リリーは「私も隣に座りたかった」とぼやいていた。
 また、ステラも隣に座っていたことを話すと、険しい顔で「あんたにはもうライアンがいるでしょうが」とも呟いていた。

 私がいる前でそんなに言うかと思ったが、リリーは素直な子。
 ………………うん。
 裏で言われるより、何倍もいい。

 それで、私はリリーがゾーイとステラのことが好きなのかもしれないと考えた。

 そして、リリーに「ゾーイとステラが好きなの?」と尋ねてみたのだが。
 彼女からは「なんでそうなるんですか」とため息混じりに言われた。

 ………………どうやら、私の見当違いだったらしい。



 ★★★★★★★★



 その日の夜。
 寝る前に日記を書こうとしていると、ノックの音が聞こえてきた。

 イザベラに対応させると、「お客様がいらっしゃいました」と言われ。
 誰かなと思って出てみると、入り口にはステラがいた。
 彼女は申し訳なさそうな顔を浮かべている。

 「夜遅くにすみません。ルーシー様にお借りしたものを返し忘れていたので、お返ししにまいりました」

 ああー、そういやステラにボールペンを貸したっけ。

 「わざわざありがとう」

 ステラからボールペンを受け取る。
 結構使っていたペンだったが、新品のように綺麗だった。
 もしかしたらステラが申し訳ないと思って、ペンを磨いてくれたのかもしれない。
 
 本当にいい子よね。
 あの子が主人公なんかじゃなかったら、絶対に仲良くするのに。

 「本当にお返しするのが遅くなってすみません」
 「いえ、私も忘れていたし、大丈夫ですよ。気にしないでください」
 「ありがとうございます。それではルーシー様、おやすみなさい」
 「おやすみなさい」

 挨拶を交わすと、ステラは自室に戻っていった。
 私も日記を書こうと机に戻ろうとした時、彼女の行動が気になった。
 なぜか、イザベラは外に行こうとしていたのだ。

 「イザベラ、どっか行くの?」
 「はい。ちょっと買い物に」
 「もう夜なのに?」
 「…………はい。朝の食事に必要なものを買い忘れていまして」

 イザベラには家事全般をやってもらっており、私の食事も作ってもらっている。毎日、1人で全部やっていた。
 しかも、美味しいものを作ってくれる。正直昼食もイザベラに作ってもらおうかと考えるほど、彼女の料理は美味しい。

 だけど、別にいいのに。
 食料がないなら、明日の朝食は食堂にでもいくのに。

 と思ったが、私は察した。
 もしかしたら、イザベラには近所に思いの人でもできたのかもしれない。
 それで、買い物を言い訳に会いに行こうとしているのかもしれない。
 それなら、邪魔しないであげよう。

 「そっか。じゃあ、気をつけて。いってらっしゃい」
 「はい。行ってまいります」

 イザベラを見送ると、机に戻り、日記を書き始める。
 せっかくなので、ステラに貸したピカピカのペンを使った。
 いつもと持ち心地が違ったけど、たぶん気のせい。

 そうして、日記を書いて、読書をしていると。
 イザベラは1時間ほどして帰ってきた。
 「会えた?」と聞くと、イザベラはキョトンとするだけ。
 何を言っているんですか、そこは買えたじゃないですか、と言われた。

 ………………どうやら、私の見当違いだったらしい。


 
 ★★★★★★★★



 ルーシーが選択授業を受けている頃。
 研究棟2階の端の研究室には彼がいた。

 アースはいつになく真顔で、鍋を片手で握っていた。
 鍋の中には不透明な液体、木の実、そして、葉っぱが入っている。
 
 アースの前に机はあるが、ガスコンロや火を起こす魔道具はない。もう片方の手がガスコンロ代わりとなっていた。
 アースは火魔法と風魔法を器用に使い、鍋の底を温める。

 「イヤな予感がするなー」
 
 彼は鍋でふつふつと煮る液体を見つめながら、気だるそうに呟いた。

 「アース様がそんなこと言うなんて珍しいっすね?」
 
 そんなアースの呟きに、向かいのサングラスの男は答える。

 「えー? そー?」
 「はい。今まで数えるぐらしか聞いたことがないっすよ」
 「そうかなー?」

 男は書類を書きながらも、頷いた。

 「そうすっよ。最近だと、6年前の転送作戦の時ですかね、俺が聞いたのは。
 あの時は珍しく、アース様が作戦前に『イヤな予感がするなー。あのババアが何かすんのかなー。ちょっと心配だなー。』とかぼやいていたんで、俺はマジで心配になりましたよ。まぁ結局、作戦は失敗したんですけど」

 「あー、あの時かぁ。あれは五分五分の作戦だったからねー。成功するか、失敗するか、あまり見えなかったんだよね」

 「アース様にそんなことがあるなんて本当に珍しいっすね」とサングラス男はフッと笑う。

 「リアムー、僕だってそいうことはあるのさ。災害とかは散々当ててきた僕だけど、彼女たちの未来をちゃんと見えないんだよー」
 「彼女たちというのは……ルーシーさん、でしたっけ?」
 「ん? あ、そーそー」

 アースは近くに置いていた2つの小さな小瓶に、鍋で似た液体を注ぐ。
 その液体は毒々しい紫の色をしていた。

 「僕は地上に降りてきたティファニーババアの動きは分かるのに、彼女たちの動きはあやふや。彼女たちが集まっていたら、なおさら見えずらい」

 「…………神様をババア呼ばわりしたら、罰が当たるっすよ」
 「まぁ、そこが面白くて、僕は関わってんだけどさー。でも、なんだか、最近無性にイヤな予感がするんだよねー」
 「罰あったっても、俺は知りませんよ」

 忠告していたサングラス男、リアムだが。
 彼はペンを止め、「え? ていうか、女神様下界に降りてくることあるんすか?」と思わず尋ねる。

 「あるよー。最近はずっと降りてるー」
 
 答えながらも、アースは集中して、小瓶に液体を入れていた。
 リアムは女神様の意外な事実に感嘆の声を漏らす。

 「へぇ、女神様がこの下界に…………ところで、アース様」  
 「なんだいー、リアム」
 「さっきから何を作ってるんすか? 変な臭いが充満しているんすけど」
 「えー、これはねー………」

 アースは小瓶に蓋をし、『ちょっとヤバいもの』というラベルを張る。
 そして、完成と言わんばかりの顔で、サングラス男にそれを見せた。

 「ちょっと僕ら・・に必要なものさー」

 そう言って、アースはニヤリと笑みを浮かべた。
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