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第3章 学園編

46 エドガー視点:迷子でも散歩気分で

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 「本当にここはどこなんですかね………」

 隣を歩くルーシーは、そう小さく呟く。
 俺とルーシーは先ほどまでいた花畑に向かって、森の中を歩いていた。

 道という道はなかったが、俺は自分が通ってきた場所を覚えていた。
 もとに戻るように、森の中を進んでいく。

 ちらりと横を見る。
 彼女の服はところどころ破れていた。怪我はないか尋ねると、彼女は何もないと言った。

 が、彼女の足元を見ると、擦り傷があった。草木で切ったのだろう。
 俺は魔法を使って、治した。

 光魔法を得意とするやつほど治癒魔法を使えないが、少しはできた。治癒魔法を練習していてよかったと思う。
 ルーシーは申し訳なさそうにしていた。

 いや、照れていたのか?
 ちょっと分からない。

 「エドガー様」
 「なんだ?」
 「どうやって帰りましょう?」

 心配そうな顔を浮かべるルーシーは、そう聞いてきた。
 帰ることは完全に無理というわけではないだろうが、すぐに帰ることはできないだろう。

 「やっぱりあの集落に行ってみますか?」
 「ああ、そうだな」

 花畑の先にはぽつぽつと家があった。きっとあそこは集落なはずだ。
 その集落にいた人にここがどこか尋ねて、馬車に乗せてもらって帰る。
 そして、2人で仲良く帰る…………いいじゃないか。

 が、俺は立ち止まった。

 ――――――おい、待てよ。

 迷子なら、ずっとルーシーと2人きり。
 いっそのこと、ここで暮らすのもありじゃないか。
 ここには何もないけど、ルーシーがいる。

 ルーシーだけがいるのだ。
 あのいらないキーランも、邪魔ばかりをするリリーも、紳士みたいなあのカイルもいない。 

 家を作って、2人で暮らす。
 いいじゃないか。最高じゃないかっ!

 「…………なぁ、ルーシー」
 「はい?」
 「迷子ままでもいいんじゃないか」
 「………………何冗談言っているんですか、エドガー様」

 というと、ルーシーに白い目で見られた。
 まぁ、そんな生活は俺の妄想。
 ルーシーには婚約者がいて、俺はその婚約者の弟。
 現状を見る限り、2人暮らしなんて、夢のまた夢だ。

 俺はふぅーと息をつく。

 だけど、今は楽しんでもいいんじゃないだろうか。

 「ルーシー、楽しんでいこう」
 「え? 突然なんですか」
 「俺たちは今散歩していると考えていこう」

 迷子でも散歩気分でいこうじゃないか。
 と話すと、ルーシーは。

 「はぁ………どこかいるのか分からないのに、ですか?」
 「ああ」
 「帰る場所がどこにあるのか分からないのに、ですか?」
 「ああ」

 心配そうな顔を浮かべるルーシー。
 そんな彼女に俺は笑いかける。

 「全てに気を張っていたら、疲れるしな。少しは楽観的に考えるのもいいんじゃないか。死ぬわけじゃないし」
 「死ぬわけじゃない…………」

 そうして、森を抜け、ようやく花畑へと出てきた。

 「せっかくこんな綺麗な花畑に来たんだ。ちょっとは楽しもうじゃないか」

 そう言うと、ルーシーはにっこりと笑みを浮かべる。
 可愛い笑みだった。

 「こうしてみると、ここの花畑は綺麗ですね」
 「ああ」

 彼女の紫の瞳は輝いていた。
 柔らかな風が、彼女の髪を揺らす。花弁を散らす。
 見たことはないが、彼女は女神様のように美しかった。
 服は破れていても、俺の目には彼女が輝いていた。

 俺は彼女の姿に、心を奪われていた。

 かつての俺、前世の俺はルーシーが推しだった。
 姉貴がある男性キャラクターが好きなように、俺もルーシーが好きだった。

 「なぁ、ルーシー」
 「はい?」

 だが、ここに来てからは、本物のルーシーと出会ってからは違った。
 俺は彼女に恋をしていた。好きがもっと大きくなった。
 大好きになって、そして――――――。
 
 俺は腰に手を回し、グッと抱き寄せる。

 「エ、エドガー様!? なにを!?」
 「俺はお前が好きだ。愛してる」

 俺は真っすぐに彼女見る。
 ルーシーもまた俺を真っすぐ見ていた。頬を赤く染めていた。
 だが、一時してルーシーは目を逸らす。

 「私には………」

 と答えようとしていた。

 「ああ、分かってる」

 彼女には婚約者がいる。
 ライアンはなんの理由でか分からないが、好意を持っていないのに、婚約破棄をしていない。

 でも、ステラが現れた今、いつか婚約破棄する時がくる。
 だから、その時には。

 「俺がお前を奪いに――」

 と言いかけた瞬間。
 周りが光始める。

 「――――――なにこれ?」

 真っ白な光に包まれ、俺は思わず目を瞑る。 
 しかし、ルーシーは離さない。さらに、ぎゅっと抱き寄せていた。

 少しして、光はおさまった。
 俺はそっと目を開ける。
 気づけば、アースの研究室に戻ってきていた。

 「ほら、戻ってきたよーん、って…………あれっー?」

 衝撃的なことを目前にしたように、ポカーンとこちらを見るカイルたち。
 そして、俺とルーシーは抱き寄っていた。
 俺と彼女との間はキスしそうなぐらい近い距離。

 「………………エドガー様?」
 「え? は?」
 「ギィャア――――!!」

 発狂したリリーが俺たちの方に飛び込み、ルーシーから俺を引き離す。
 そして、ルーシーを守るように、リリーは構えた。
 
 「エドガー様」
 「…………なんだ」
 「――――――金輪際、ルーシー様に近寄らないでください」
 「………………」

 女子とは思えないほどに、俺にガンをとばすリリー。
 口を開けっぱなしのカイル。
 とんでもない目で俺を見るキーラン。
 なぜか気絶しているルーシー。

 「あっはははっ――!!」

 そして、そんな状況に1人大笑いをするアース。
 カオスだった。
 最悪なほどにカオスだった。

 「なんか………すまん」
 「すまんで済むかっ――!!」
 
 その後、俺はカイルたち3人に4時間ほど問い詰められた。
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