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第3章 学園編

43 あはは

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 突然私たちのクラスに現れた、アース。
 以前会った時には、預言者とだけ名乗っていた彼だが、彼の本当の正体はアストレア王国の王子様。

 ちなみに、アストレア王国はムーンセイバー王国の隣国。

 アストレアには災厄を当てる預言者の王族がいるってちらっと聞いたことがあったけど、彼のことだったのね。
 でも、その人がこんなに若い人だとは思わなかった。

 もっとおじいちゃんおじいちゃんしてると思ってた。
 
 ほら、ある魔法学校の校長先生みたいな感じで、手入れが大変そうなひげをもっているおじいちゃん。
 
 そんな人を想像していたんだけど。

 実際はめちゃくちゃ顔が整っている美少年。
 そりゃあ、女子たちも黄色い声を出すわけよ。
 
 ………………それにしても。

 預言者に王子様って設定盛りだくさんすぎない?
 預言だけじゃなくて、予知能力も持っているし。
 この前、私を案内してくれた妖精さんは彼の精霊の可能性が高いと考えると、アースはきっと精霊使いだろうし。

 魔法技術もきっとアベレージ以上。

 私の眠らせた魔法は普通の生徒が使えば、一発で魔力枯渇するはずだから。
 魔法としても高難易度の魔法だし。
 保持魔力もきっと多いはず。

 ――――――だからこそ、疑問を持つ。
 
 なぜ、私は彼のことを知らないのだろう、と。
 前世ではアースこんなキャラは見たことないのよね。
 こんなに設定があれば、忘れることはないだろうに。
 
 そんでもって、なぜ隣国の王子であるアースがシエルノクターンうちの学園にいるのか。

 どうやら、彼は留学してきたらしい。
 ちなみに、エドガーは彼がこっちに来ていることを知っていたようで。

 「あいつはいろいろ事情があって、こっちに来たからな……」

 なんて呟いていた。
 第7王子とか、王位継承権第10位とか言っていたから、アースは王位争いをしていて、面倒なことに巻き込まれそうになったのかもしれない。

 留学という形でこっちに逃げてきたのかもしれない。

 まぁ、きっと彼とは関わらないだろうし。
 なんて考えていると、放課後。
 
 「あはは、ルーシー。明日、暇でしょ。僕の研究室においでよ」

 彼はわざわざ私のところまでやってきて、そんなことを言ってきた。
 王子の誘いに断ることもできず。
 また、彼には未来が見えているので、断ったところで、

 『君、絶対暇だよー』

 なんて言われるだけで、結局行くはめになる。
 そして、今。
 アースの研究室に来ている。
 
 「研究室ってこんな風になっているのね」
 「ルーシー、研究室に来るのは初めてかぁ――」
 「ええ」

 アースは他の生徒と異なり、自身の研究をしている。そのため、自分の研究室を持っていた。
 その彼の研究室は研究棟の2階の一番端の部屋。

 その部屋に訪ねると、アースがにこやかに出迎えてくれた。
 もちろん、1人では来ていない。
 いつもの4人もついている。

 私がアースの研究室に行くと言うと、カイルたち4人は死に物狂いで自分たちも行くと言ってきたんだよね。

 「アース様」
 「アースでいいよ」
 「いえ、アース様」
 「アース」
 「………………」

 あんた、王子だから、呼び捨てになんかしたくないんだど。
 でも、呼ばなかったら呼ばなかったで、面倒。
 仕方ない、呼び捨てにしよう。

 「では、アース、大勢で来て申し訳ございません」
 「えー? ああ、そんなことー? 気にすることないよーん。君を誘えば、みんなが来ることは分かっていたしねー、あと敬語はなしでよろりんごー」

 陽気に答えるアース。
 そんな彼に。

 「…………あなた、何を考えているんですか」

 と尋ねていたのは私に隣にいた子。
 リリーは、今までに見たことないような怖い顔で、アースを睨んでいた。
 
 「何ってー?」
 「言わなくても、ご存じでしょう。私が考えていることぐらい」
 「分からないよー、これっぽっちも分かんなーい」
 「………………なぜ、なんですか」

 リリーが睨み続けていると、アースははぁと呆れたようにため息。
 そして、彼は「友人だからさ」とだけ答えた。

 2人が何のことについて話しているかはさっぱり。
 カイルたちも同じようで、ポカーンとしていた。

 「どうしたの、リリー。そんなにアースを警戒して」
 「いえ、私の直観が異常に騒いだので、聞いてみただけです」

 何、その野生児みたいな感覚は。
 と思ったが、彼女は立派なご令嬢なので、言わずに。

 「それで、アースが答えたことは?」
 「ええ、それは大丈夫……です。意外と普通の返答がかえってきたので驚きはしました……まぁ、それはそれで心配なことですけど」 
 「?」

 リリーの言っていることはさっぱり分からず。
 しかし、ケンカしそうな雰囲気も消え去っていたので、私は気にしないことにした。

 そのアースの研究室は意外と綺麗で、広くて。
 珍しい魔道具でいっぱい。
 日光が差し込む窓際には、色とりどりの宝石が飾れていた。
 また、日があたらない壁の方には、天井まである本棚があり、隙間なくぎっしりと本が置かれている。

 その中で私の目を奪ったものがある。

 それはある1つの宝石。
 紫と青が混ざった石。
 太陽に照らされて、光を放っていた。

 「綺麗………」
 「まるでルーシーの瞳みたいだな」

 と言ってきたのは、エドガー。
 彼はいつの間にか、私の隣にいた。

 「私の目ですか?」
 「ああ、お前の瞳みたいに綺麗だなっーて」
 
 ぼっーと宝石を見つめながら、エドガーは話す。
 やだぁー、この子。
 口説いてきているのかしら。

 「あ、それルーシーのために作ったんだよー」
 「…………そうなの?」
 「そうだよー。ぜひ、手に取ってじっくりと眺めてよー」

 アースに促され、私はその宝石を手に取る。
 私の手のひらに収まるその宝石は、意外と軽く、

 「悪いけど、普通の宝石ね………でも、綺麗」
 「そうだな、綺麗だ」

 何も眼中にないと言わんばかりに、彼は一点をじっーと見ている。
 さっきのは絶対に冗談で言ったのよね、きっと。
 
 「エドガー様はこの宝石に興味津々ですね」
 「……ああ、だってこれ魔法石だからな」
 「魔法石? 私はそうは感じなかったのですが…………」

 私、ちょっとだけど魔法は使える。
 だから、魔力のある魔法石ぐらい見分けがつく。
 でも、これは魔法石とは分からなかった。
 
 まさか、窓際に置かれているものも全部魔法石?
 と尋ねると、エドガーは「ああ」と答える。

 「相当の魔力が込められているだが、気づかなかったか?」
 「ええ、気づきませんでした」
 「姉さんなら、すぐに気づいたと思ったのに」
 
 カイルたちもその魔法石に夢中になっていた。
 魔法石。
 ピンキリまであるとされるものだが、こんな宝石みたいな魔法石はあまり見たことがない。
 
 お父様の書斎にこのくらいの魔法石があったような気がする。
 というように、貴族でもなかなか手に入らないことが多い。
 きっとアースは研究のために、集めているんだろうけど。

 そういや、どんな研究しているのか知らないわ。
 
 「ねぇ、アース」
 「なんだいー? ルーシー」
 「この魔法石はなんのために使うの? こんなにいっぱい集めて…………」

 「それ? それはとっても面白いことに使うさー」

 と言って、にやりと笑う。

 「面白いことってなによ」
 「面白いことは面白いことさー」
 「………」

 アースはニマニマするだけ。
 その顔、止めてちょうだい。
 せっかくの美形が台無しよ。

 「まぁ、僕にとっての・・・・・という条件付きだけど」
 「どういうことよ」
 
 すると、持っていた石の輝きが強くなる。

 「エドガー様、これ何が起きているんでしょう?」
 「……分からん」

 訳が分からず放置していると、光は強くなっていく一方で。
 光が私を包み始める。
 
 「アース、何をした」
 「さぁー?」
 「………ルーシー、その魔法石放せ」
 「え?」
 「それを放せ――」

 私が持っていた宝石を、エドガー様が奪い、投げる。
 その宝石はパリンと窓ガラスを割り、外へと飛ぶ。

 「――――もう遅いよ。エドガー」
 
 しかし。
 
 「なにこれ?」
 
 光は消えず、私の体が光を放ち始めていた。
 小さな光が炭酸のように、出ている。
 一体何が起きているっていうの!?
 
 隣を見ると、エドガーも同じように淡い光を体から放っていた。
 他の3人の体は……光ってない。
 
 魔法石に触れた人だけが光っている

 「エドガー様、これなんですか?」
 「分からん。アース、これはなんだ? 何をしたっ!?」
 「さあぁ――ね―ん」
 
 光は強くなっていく。
 私は次第に耐えきれなくなって、目を瞑った。

 ――――――何が起きているの?

 「あはは、マジかっー!? そうなるかっー!?」

 という、アースの陽気な声が遠くで聞こえる。
 同時に、

 「貴様っ、ルーシー様に何をしたあ゛ぁ――!!」

 とリリーの怒号も聞こえてきた。
 ヤバい、リリー激おこじゃん。
 彼女が暴れたら、研究室が大変なことに!
 
 …………いや。私、冷静になれ。

 それよりもヤバいことがあるだろう。
 私の方が何倍もヤバい。
 何されたのか全く分からない状況の方がヤバい。

 状況を確認しようと目を開けたが、目の前に広がっているのは真っ白の世界。
 強い光が目に入って、痛いだけだった。

 私はすぐに目を閉じる。

 アースがやったことだから、危ないことじゃないと思うけど。

 ――――――いや、待てよ。

 私、彼に絞め殺されそうになったんだっけ。
 しかも、それはつい最近の出来事。
 あれ? 私、マズいんじゃない?

 ――――――いや、待ってちょうだいな。
 
 アースははなから、こうなることを予知していた。
 だから、だからこそ。
 
 『そうなるかぁ――――!?』

 って、言っていた。
 もし、アースが複数の未来が見えていて、こんな未来になるとは考えてはいなかったら。

 アースがそう叫ぶのも頷ける。

 ――――――いや、アースは何しとんねん。

 それで、結局私たちに何をさせたかったんや。
 
 と脳内で小さな私たちが会議していると、光は収まっていく。
 が、五感からはリリーとアースがケンカしている場所にいるとは思えなかった。

 聞こえてくるのは草木が揺れる音。
 少し冷たい風も感じる。

 私は恐る恐る、目を開ける。
 目の前に広がっていたのは花畑。
 
 アースの研究室ではなく、花畑。

 幸い、隣にはエドガーがいた。
 彼も何が何やら分からないようで、呆然としていた。
 
 「私たち、転移しちゃいました?」
 「………………そうみたいだな」
 
 色とりどりの花が咲く花畑。
 きっと誰もが目を奪われるその場所だが、それどころではなかった。
 
 自分たちがどこにいるのかも分からない。
 しかし、私たちを転移させたであろう、あの石はなく。
 そして、私たちの手元には何もなし。手ぶらだった。

 「あはは………………」

 この絶望的な状況に、私は笑うしかなかった。
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