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第3章 学園編

39 真夜中の図書館

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 ある日の昼休み。
 食堂で昼ご飯をすませた私は黄昏ていた。
 しかし、そこは教室ではなく、また別の場所。
 
 ————あのまま教室にいたら、息ができなくなりそうだったもの。
 
 ミュトスが現れて以来、私はみんなから避けられていた。
 もちろん、カイルたちはミュトスのことを知っていたから、私とはいつも通り接してくれたけど。
 
 それ以外人みんな、私を見る目がまるで変わった。
 
 まさか、ミュトスが世間ではあんなにも忌み嫌われるものは知らなかった。
 シューニャ自体、凶暴な怪物だということはカイルから聞いていた。
 だけど、まさかここまでとは。

 あー。
 だから、カイルたちは飼うって言った時、驚いていたのか。
 とそこで、ようやくシューニャという怪物を私は理解した。

 ————————が、時すでに遅し。
 ミュトスがもどきとはいえ、シューニャと同等の存在。
 その怪物もどきを飼っている私自体、避ける対象となったのだ。

 まぁ、そういうことがあって、教室にいるのは苦痛。
 鋭い視線が集まって、窮屈。
 あの場にはできる限りいたくはない。
 そうして、居場所がなくなった私はどこに行ったか。
 
 逃げた先は図書館。
 シエルノクターン学園には付属図書館があり、そこには小部屋のような場所があった。
 
 その部屋には天井まである棚全てに本があり、扉と窓以外の壁には本があった。
 まさに本だらけの部屋。

 机にも本があり、私にはとっておきの場所であった。
 私は出窓の所に座り、ゆっくり本を読んでいたのが。
 
 ふと見上げると、窓の外には例の2人。
 遠くにいたが、すぐに誰だか分かった。
 図書館の周囲には綺麗な中庭。

 ミュトスと再会した中庭とはまた異なる中庭。
 正直、この学園には庭が多すぎる。

 ちゃんと管理ができているのかしら?
 それとも、管理してくれる部でもあるのかしら?
 
 ————————————————まぁ、そんなことはどうでもよくって。

 その中庭にいたのはライアンとステラ。
 彼らは仲良く、何かを話しているようだった。

 あー、心底ムカつく。

 「ルーシー、なぜ中指を立ててるの?」
 「…………なんとなくよ」

 背後にいるカイルが話しかけてきたが、彼に顔を向けることなく、ただただ窓の外を見つめていた。

 「えっと、ルーシー?」
 「…………」

 ちょっと黙って、カイル。
 今、最高にムカついているから。
 あなたの前で「F——uピー」とか「S——tピー」とか酷い言葉を言いそうになってるから。

 カイルは私のことを察してくれたのか、それ以上声を掛けることはなく。
 その代わり、4人で何かコソコソ話しているようだった。

 まぁ、4人の話していることなんてどうでもいい。
 なんだっていい。
 
 私は死ぬのだろうか? 私は国外追放されるのだろうか?
 2人が出会った今、そういったエンドになるのではないだろうか?
 
 それだけが心配。
 心配すぎて全然寝れてない。
 私は眩しい笑顔の2人を見ながら、目を瞑った。



 ★★★★★★★★



 ルーシーから少し離れた場所の椅子。
 そこに座り、彼女を見つめる男女3人。

 例の2人を見て、そして、静かに目をつむったルーシー。
 そんな彼女を見た、カイルたちはルーシーに聞こえないよう、小さな声で話していた。

 「————今回は僕たちがいるから、動いていないのかもしれないな」
 「というのは? どういうこと?」

 キーランは見当がつかないのか、首を傾げている。

 「本来いるべき立ち位置に私たちがいないから、ルーシー様の動きも変わっている、といいたいのでしょ? カイル」
 「そうさ」

 リリーの言葉にカイルはうんと頷く。
 一方、エドガーはふむと唸っていた。

 「………………なら、いじめがないのなら、一方的に悪くなるのはライアンじゃないのか?」
 「確かに、姉さんは何も悪くなくなるね」

 ルーシーのいじめがあって、ライアンと彼女の婚約破棄に繋がっていく。
 それがゲームにおけるライアンルート。
 しかし、現在はいじめなどはなく、ライアンは浮気まがいなことをしている状態。
 このままいけば、

 『僕、別に好きな人ができたから。悪いんだけど、ルーシー、婚約破棄しよう』

 と言われる未来の可能性の方が高くなる。
 ルーシーにとっては理不尽な未来。ふざけた未来。
 だが、そうなれば、悪役はライアン。ルーシーは単なる被害者。

 相手は王子とはいえ、カイルたちがルーシーを擁護する理由にはなる。

 「そうなると、随分とストーリーが変わってくるのだけど………」
 「そうだね」

 しかし、そのルートが本当にルーシーにとって幸せなのか。
 好きな人はいないと言っていたが、ライアンとステラを見るルーシーには本当は好きな人がいるんじゃないか。
 
 —————————————————それがライアンじゃないのか。

 つい、そんなふうに考えてしまうカイル。
 彼は銀髪の少女をじっと静かに見つめていた。



 ★★★★★★★★



 シエルノクターン学園。
 その学園の附属図書館にはある特徴がある。
 他の図書館にはなかなかない特徴。

 それは真夜中になっても開いていること。

 そう。
 ここ、シエルノクターン学園の図書館は24時間出入り可能であり、貸し出しも行っている。
 
 私にはもってこいの図書館。最高の図書館。
 
 昼間だとなんだかんだ、あの4人がついて目立って仕方ないし、自分がミュトスの飼い主ということもあって、多少注目を浴びていた。
 
 夜中なら、そんな心配も少ないだろう。
 と、本を探していると。

   「ルーシー様はどの本をお探しなのですか?」

 声を掛けられた。
 私のその声に聞き覚え——というか、その声の主が一瞬で分かった。
 本当は無視したい。
 
 でも、そんなことを彼女にすれば、いじめと勘違いされるかもしれない。
 私は嫌々ながらも、ゆっくりと顔を上げる。

 「これは、これは、どうも………………」

 そこにいたのは——————昼間に中指を立てていた相手、ステラ・マクティアだった。
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