上 下
27 / 89
第2章 対抗編

27 飛び込んじゃえ!

しおりを挟む
 「俺の妹があなたを探していたんだ。ちょっと時間をくれないか?」

 ゆっくりと近づいてい来る茶髪の少年。
 私よりも少し高い身長の彼は、優しい・・・・笑みを浮かべていた。

 なんでここに彼がいるの…………?
 リリーは確か兄のビリーとは仲があまりよくなかった。
 でも、その兄は私の目の前にいる。
 しかも、『俺の妹』なんて言ってる。

 誰のことを言っているのかははっきりしていること。
 彼の妹は1人しかいない————リリーだ。
 
 「ルーシーさまぁ~~! お待ちを~~!」

 背後からはそんな彼女の声が聞こえてくる。
 まずい。
 早く逃げないと。
 焦りの感情に飲まれそうになるが、落ち着いて状況を見る。
 
 今は前も後ろも塞がれている。逃げ場所はない。
 前に行ってもいいが、捕まる可能性が高い。
 いや、絶対に捕まる。

 うる覚えだが、性格に難があったビリーだが運動神経はとてつもなくよかった。だから、前に行くのもダメ。
 かといって、後ろにいったら、リリーに事情を聞かれる。完全にアウト。

 だから、逃げ道はない。
 ええ、ない。
 ない……………………でも、本当に?

 ふと横を見る。
 横は水路。
 幸い下水道ではなく、綺麗で澄んだ水が流れている。
 
 深さはまぁまぁある。
 が、あった方がいいのかもしれない。
 私はビリーの方に向けていた足先を横へと向ける。
 
 「おい、お前どこに————」

 前世のことがあって、少し怖いけれど……………………ええい! 飛び込んじゃえっ!

 私は水路へと身を投げ出す。
 もしかしたら、リリーが魔法を使って、私を助けようとするかもしれない。
 でも、きっと大丈夫。
 助けなんて必要ない。

 『龍になって!』

 私の声は出ない。
 だから、そっと願う。

 『ミュトス!』

 私の胸に隠れていたそいつに。



 ★★★★★★★★



 ————次の日。 
 朝、起きると、私はいつものように準備をしていた。イザベラはとっくのとうに起きており、私の髪をまとめてくれている。

 「さすがに今日はやめませんか? 昨日は無理をされているようでしたし…………」

 ちらりと背後を見ると、彼女は心配そうな表情を浮かべていた。
 だが、イザベラの提案に、私は横に首を振る。

 昨日、水路に落ちた私は、龍に変化したミュトスのおかげで、リリーたちから逃げることができた。
 賢いミュトスは私の気持ちを察し、水路を通ってラザフォード家の門前まで連れて行ってくれたのだ。

 まったく優秀な子。あー、本当に池から連れて帰ってよかった。
 
 そうして、びしょ濡れとなった私だが、なんとかリリーからもリリー兄からも逃げることができた。
 リリーには申し訳ないことしちゃったけれど、後でちゃんと説明するから……だから、どうか今は私に構わないでほしい。

 と願っても、あの子のこと。
 きっと今日は多分地下通路にいる。
 きっと通路の真ん中に立ちはだかって、私を待っているだろう。

 もし、リリーに捕まりでもしたら、

 『ルーシー様! 何があったんですか!? どうか私に教えてください!』

 って絶対言ってくる。
 優しい彼女のことだから、一緒になって店を探してくれることだろう。

 でも、こっちとしては巻き込みたくはない。
 
 それにしても、リリーってあんな感じだったけ?
 ゲームのリリーとは雰囲気が随分と違うように思えてきたのだけれど。
 ルーシーがいじめていないから、今のリリーになっているのかしら。

 「それで、ルーシー様。話は変わるのですが…………」
 『?』
 「その髪色は一体どういうことですか?」

 え? 髪色?
 私は首を傾げる。

 何かいけなかっただろうか?
 
 ————————この私の髪が。

 「いえ、赤色は逆に目立つかなと思いまして」
 
 まぁ、確かに前世であれば確実に目立つでしょうね。
 でも、ここ数日街で見かけた感じ、赤髪の人間はちらほらいた。前世の街よりもずっと多くの人数が赤髪だった。

 逆に、銀髪は誰1人として見かけなかったけど。

 だから、赤に染めちゃえば、街にもっと馴染めて、なおかつ先日のように知り合いに声を掛けられることもなくなる。
 
 私はイザベラに大丈夫と、グッドサインを送る。
 すると、彼女はため息をつきながらも、「分かりました」と言ってくれた。
 ぶっちゃけ、銀髪よりかはマシでしょ。

 そうして、準備ができると立ち上がり、ボロコートを着た。

 「ルーシー様、一体どちらへ?」
 
 私は真っすぐにそちらに指をさす。
 指先の直線上には窓。

 「まさか、そこから…………」
 
 コクリと頷く。
 きっと地下にはリリーがいる。
 地下通路から行ったら、楽のなのは分かっているが、今地下通路を使えば、彼女と鉢合わせになってしまう。

 だから、今日はこの窓から、街に行く。
 …………まぁ、本当はこんな面倒なことはしたくないのだけれどね。

 「でも、ルーシー様。ここは2階ですよ。隣の部屋はキーラン様のお部屋ですし、見られでもしたら………」
 『それに関しては大丈夫でしょ。まだ、キーランは寝ていると思うわ』

 その文を書いたノートを見せると、イザベラは顔をしかめたが、

 「では、ルーシー様、くれぐれもお気を付けて」

 と答えてくれた。

 私は窓の外に出ると、出っ張り部分に足を乗せ、地面を見る。下は丁度芝生が広がっていた。
 意外と高さがある…………まぁ、このくらいならなんとかなるか。
 覚悟を決め、大ジャンプ。

 足をくじくことなく、着地することができた。

 さぁ、今日こそは店を見つけないと。
 お母様たちが帰ってきてしまう。

 庭を駆け抜け、街へと私は走り出す。
 
 しかし、その日も店は見つからなかった。



 ★★★★★★★★



 目的の店を探し始めて5日目。
 その日の街は今まで以上に人で溢れかえっていた。
 だが、目的の店の姿はない。

 一体、あの店はどこにあるのやら。
 もしかして、この街ではもう販売はやっていない?
 いや、そんなはずは…………。

 「ルーシー?」

 背後から聞こえたその声。
 人込みで多くの声が飛び交っていたが、はっきりと名前を呼ばれたのは分かった。
 声の主はリリーではない。だが、私が知っている人物。

 ————なんで私のことが分かったの? 今の私は赤髪なんだよ?

 ゆっくりと振り向く。
 そこにはカイルが1人立っていた。
 
 ————————なんで彼がここにいるの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました。

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。 当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。 私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。 だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。 そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。 だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。 そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。

転生幼女の愛され公爵令嬢

meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に 前世を思い出したらしい…。 愛されチートと加護、神獣 逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に… (*ノω・*)テヘ なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです! 幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです… 一応R15指定にしました(;・∀・) 注意: これは作者の妄想により書かれた すべてフィクションのお話です! 物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m エール&いいね♡ありがとうございます!! とても嬉しく励みになります!! 投票ありがとうございました!!(*^^*)

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...