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第3章 教育係編
第85話 暴走
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大変遅れました!! ずっと書きたくって仕方なかった回! よろしくお願いいたします!
――――――
「イーのお姉ちゃんになるために、にぃと結婚してっ!!」
「――――――えっ?」
イシスからの突然のお願い、それはとんでもないもの。まさかの“結婚”。私は目を丸くさせ、口をポカーンと開けて、フリーズ。放心状態だった。
「イ、イシス。私はアーサー様と婚約をしていますよ………」
「わ、分かってる! でも、イーは………エレシュキガ、ルにお姉ちゃんになってほし、いっ!」
婚約のことを認知した上での無理なお願い。必死なイシスは宝石のような綺麗な瞳を輝かせて可愛くねだっている。とてもあざとい姿だった。
セトと私が結婚して姉妹になるというのは彼女の中では絶対のようで、困った私は苦笑い。彼女の気もちは分からなくはないので、即答できずにいた。
マナミ様やブリジットと対等に話す彼女は大人びて見えていたが、本来は初等部にいるはずの少女。普段の言動から彼女を子どもとして見ることは少なかったが、イシスもまた可愛いお願いをしてもおかしくない年齢。
可愛い彼女のお願いなら、なんでも聞いてあげたいところであるが、このお願いには答えれない………。
私はイシスの両手を取り、イシスの心を落ち着かせるように穏やかに話した。
「イシス………あなたが私に姉になってほしいと言ってもらえるのはとっても嬉しいです………ですが、イシスのお願いには答えれません。私はアーサー様を愛しています」
「ゔぅ………」
ぽろぽろとイシスの瞳から大きな涙が落ちていく。罪悪感が襲ってきそうになるが、私の心は揺るがない。私が結婚したい、一緒に人生を添い遂げたいのはアーサー様以外にいない。
「っ………それはっ、どうしても?」
「はい、どうしても」
「そうな、のっ………ゔぅ………」
頬を膨らませたイシスはとても可愛くって。マナミ様がいつかくださった東国のお菓子『オモチ』みたいな真っ白でもちもちとしている。触りたくなって、つんつんと指先で触れる。
「むぅ………イーのほっぺ好きなの?」
「はい」
「むぅ………」
触れるのは心地がいいのか、怒ってくることはなく、よしよしと頭を撫でた。そうしている内に落ち着いたイシスは涙を拭き、
「イー、エレシュキガルにお姉ちゃんになってもらうのは諦める」
「イシス………別に私たちが姉妹になれないわけではないのですよ。私はイシスを妹だと思っております」
「イーもエレシュキガルがお姉ちゃんだと思ってる、けど………」
悲しそうに顔を俯かせる白髪の少女をそっと抱き寄せる。小さい彼女の体
「ふふっ………あなたは私の大切な大切な妹ですよ」
「むぅ………」
もちもちの白い頬はほんのり赤く染まる。その姿は愛らしく、イシスの髪をそっと撫でた。
そうして、最後はイシスは納得してくれたようで、穏やかな笑みを浮かべて寮へと戻っていった。
★★★★★★★★
「昨日は………変なお願いしてごめん、ね?」
次の日のこと。王城にそのまま泊まっていた私のところに、イシスがやってきた。いつもなら、大量の本を抱えてくるのだが。
「これ、あげる」
「えっ、これは?」
「クッキーが入ってる…………昨日のお詫び、だからっ………食べて、ね」
「それはわざわざ………ありがとうございます。では、一緒に食べましょうか」
「ごめん、できないのっ……この後は用事がある、から………遠慮する。今日は勉強も1人でする……」
「分かりました。では、また明日」
「うん、ばいばい」
と一緒に勉強することはなく、用事があると、廊下を軽い足取りで帰っていくイシス。その小さな背中は愛おしく抱きしめてしまいたくなる。
もう落ち着いたようね………。
昨日のようにふてくされていることもない。むしろいつもより上機嫌に見えた。血や家の繋がりがなくとも、私たちは姉妹になれる。
よし、今度私もイシスにお菓子をプレゼントしてあげよう。イシスの好きなお菓子は何だったろうか。
そんなことを考えながら、いつかアーサー様から貰ったレシピ本をめくっていると、コンコンっとノック音が聞こえてきた。
「お邪魔するよ、エレちゃん」
「アーサー様!」
ドアを開けるといたのは、爽やかな笑みのアーサー様。彼は白のワイシャツに、スラックスとシンプルな服装ではあったが、気品さが溢れ出でていた。今日も眩しい。
「今までセトと特訓を?」
「うん、こっちの方が騎士たちもいて、練習には向いているからね。エレちゃんはイシスと?」
「その予定だったのですが、今日はイシスが用事があるとのことだったので、1人で調べ物をしておりました」
「そっか………イシスが用事でエレシュキガルと勉強しないだなんて」
「はい、珍しいですよね」
用事がある場合、セトと一緒のことが多い。だが、アーサー様の口ぶりからするにセトも先ほどまで一緒にいたのだろう。
もしかすると、イシスには女の子だけの秘密にしたいことがあったのか、もしくは全然違っていてマナミ様に頼まれた事でもあったか………教えてくれるようであれば、後で聞いてみよう。
「アーサー様、お疲れでしょう。お茶にいたしませんか?」
「いいのかい? じゃあ、お菓子を持ってくるね」
「あ、大丈夫です! 今日はいただいたお菓子がありますので」
窓際の椅子に向かい合って座る。ソファで並ぶこともあったが、今日はアーサー様を正面から見ていたい。そんな気分。
私たちの間の丸机に置かれた、ティーセットとイシスから貰ったあのクッキー。クッキーは星や月に型取られ、青や水色、黄色などのアイシングがされており、乙女心がくすぐられる。
イシスは私の杖をイメージしたクッキーを持ってくれたようだ。可愛い。
「今日はこのクッキーをいただきましょう」
「可愛いね………これは誰から?」
「イシスからいただきました! 昨日少し言い合いになったしまって、イシスがお詫びにと私に持ってきてくださいました」
「言い合い? イシスと?」
「はい。少し無理なお願いをされまして」
「………………ああ、なるほど。姉になってって言われたんだね」
「はい………」
まさかそこまで見抜かれるとは…………見ていたのではないかと疑いそうになるけど、アーサー様はそれ以上のことは聞いてこなかった。
本当はその先のお願いがあったから、アーサー様は直感で当てたのだろう。
「じゃあ、いただこう。はい、エレちゃんからどうぞ」
「あ、いえ。今日はアーサー様からどうぞ」
なぜ先に私が食べなかったのだろう。
と後悔することになったのだが、あの時の自分はアーサー様に食べてほしい思いでいっぱい。
「じゃあ、先にいただくね」
「はい、どうぞ」
アーサー様は「いただきます」と呟くと、星のクッキーを取り、パクっと一口で食べた。
「美味しい………うん、バターの味がとってもいいね」
「うふふ、それは良かったです」
あまりの美味しさに目を丸くさせていたアーサー様に、私はふふっと笑みを漏らす。嬉しい感想がもらえたら、イシスもきっと喜んでくれる。明日伝えてあげよう。
そうして、自分も食べようとクッキーに手を伸ばした時だった。
「でも、なんか…………………おかしい………」
そう呟くと、アーサー様は突然俯き始め、口元を抑える。
「アーサー様?」
「………………エレちゃん、それ食べないで」
「え?」
「食べちゃダメだ」
前髪の間から覗くアクアマリンの瞳が左右に揺れ動く。時折私の方に向いて、心配を掛けまいと彼は顔を逸らしていた。どう見たって様子がおかしい。クッキーの後味がそんなに悪かったのだろうか。
「………………」
もしや毒が入っていたのだろうか。イシスのプレゼントだからと油断していた。だが、彼女が気づかぬ間に入れられた可能性はあり得る。毒味をしなかった私のせいだ。
「エレちゃ、ん………部屋を出て」
「え、なぜです?」
「お願い………だから………」
苦しむアーサー様を置いて退出などできない。私は立ち上がり、急いで彼に駆け寄る。そして、解毒魔法をかけようとアーサー様に触れるが。
「っ!!」
ビクッと体を震わせ、即座に私から距離を取る。部屋の隅へと逃げていった。
怯えている………? いや違う気がする。
顔は見せてくれないが、彼の耳はリンゴのように真っ赤。熱が出て、私にうつさないように離れているのだろうか。
「アーサー様、本当に大丈夫ですか?」
「う、うん………大丈夫だ、よ………心配はいらないから………エレちゃんは部屋を出て行って………セドリックを呼んできて」
そんなことはできない。1人にした瞬間、倒れられたら困る。倒れたせいで脳震盪でも起こしたら、気が気ではない。
「とりあえず横になりましょう、アーサー様」
「だめだ………早く部屋を出て………っ、僕から離れて………」
「そうは言ってられません」
恐らく彼は私の心配をかけたくないのだろうが、そんな必要はない。相手が毒であった場合、命に関わるのだ。お願いだから、私を頼ってほしい。
「すみません、失礼します」
「っ!?」
私はアーサー様に近づき、彼の手首を取って、解毒魔法をかける。全力で駆け、全身の毒を滅するつもりでやった。
「アーサー様、どうですか? 何か変化はありましたか?」
「………………」
だが、彼は何も話さない。答えてくれない。顔を見せてくれず、黄金の前髪で顔を隠したまま。毒ではなかったのだろうか。
アーサー様は無表情無言でスタスタと歩き出す。そして、扉まで行くとカチャリと鍵を閉めた。
「アーサー様?」
「………はぁ………はぁ……っ………」
振り返った彼の顔は恍惚としていて、私ばかり見つめている。息は乱れ、どう見たって正常な状態ではなかった。
息荒げながら、アーサー様は私に近づくと。
「っ!? アーサー様っ、何をっ!?」
「………………」
彼に抱きかかえられ、ベッドへと運ばれていく。声をかけたが、彼に届かず、乱暴にもベッドに落とされる。
そして、彼に乗っかられ、両手を握りしめられて、シーツに縫い付けられてしまう。完全にこちらの動きを封じていた。
「はぁ………はぁ………っ………」
見たことのない色気を醸し出すアーサー様。金髪は乱れ、瞳は塗れ、頬は火照っている。そんな彼に、頭が真っ白になってしまう。
「ああ、全部食べたい………」
「アーサー様? 何を……………………んんっ!!」
綺麗な顔を近づき、アーサー様に唇を奪われる。そのキスは今までの優しいものとは遠い。荒々しく貪るように私の口を塞ぐ。息継ぎなどさせてくれなかった。
「あっ、ーサーさまっ………んんっ」
「っ………好きだっ………エレシュキガル………」
――――――
「イーのお姉ちゃんになるために、にぃと結婚してっ!!」
「――――――えっ?」
イシスからの突然のお願い、それはとんでもないもの。まさかの“結婚”。私は目を丸くさせ、口をポカーンと開けて、フリーズ。放心状態だった。
「イ、イシス。私はアーサー様と婚約をしていますよ………」
「わ、分かってる! でも、イーは………エレシュキガ、ルにお姉ちゃんになってほし、いっ!」
婚約のことを認知した上での無理なお願い。必死なイシスは宝石のような綺麗な瞳を輝かせて可愛くねだっている。とてもあざとい姿だった。
セトと私が結婚して姉妹になるというのは彼女の中では絶対のようで、困った私は苦笑い。彼女の気もちは分からなくはないので、即答できずにいた。
マナミ様やブリジットと対等に話す彼女は大人びて見えていたが、本来は初等部にいるはずの少女。普段の言動から彼女を子どもとして見ることは少なかったが、イシスもまた可愛いお願いをしてもおかしくない年齢。
可愛い彼女のお願いなら、なんでも聞いてあげたいところであるが、このお願いには答えれない………。
私はイシスの両手を取り、イシスの心を落ち着かせるように穏やかに話した。
「イシス………あなたが私に姉になってほしいと言ってもらえるのはとっても嬉しいです………ですが、イシスのお願いには答えれません。私はアーサー様を愛しています」
「ゔぅ………」
ぽろぽろとイシスの瞳から大きな涙が落ちていく。罪悪感が襲ってきそうになるが、私の心は揺るがない。私が結婚したい、一緒に人生を添い遂げたいのはアーサー様以外にいない。
「っ………それはっ、どうしても?」
「はい、どうしても」
「そうな、のっ………ゔぅ………」
頬を膨らませたイシスはとても可愛くって。マナミ様がいつかくださった東国のお菓子『オモチ』みたいな真っ白でもちもちとしている。触りたくなって、つんつんと指先で触れる。
「むぅ………イーのほっぺ好きなの?」
「はい」
「むぅ………」
触れるのは心地がいいのか、怒ってくることはなく、よしよしと頭を撫でた。そうしている内に落ち着いたイシスは涙を拭き、
「イー、エレシュキガルにお姉ちゃんになってもらうのは諦める」
「イシス………別に私たちが姉妹になれないわけではないのですよ。私はイシスを妹だと思っております」
「イーもエレシュキガルがお姉ちゃんだと思ってる、けど………」
悲しそうに顔を俯かせる白髪の少女をそっと抱き寄せる。小さい彼女の体
「ふふっ………あなたは私の大切な大切な妹ですよ」
「むぅ………」
もちもちの白い頬はほんのり赤く染まる。その姿は愛らしく、イシスの髪をそっと撫でた。
そうして、最後はイシスは納得してくれたようで、穏やかな笑みを浮かべて寮へと戻っていった。
★★★★★★★★
「昨日は………変なお願いしてごめん、ね?」
次の日のこと。王城にそのまま泊まっていた私のところに、イシスがやってきた。いつもなら、大量の本を抱えてくるのだが。
「これ、あげる」
「えっ、これは?」
「クッキーが入ってる…………昨日のお詫び、だからっ………食べて、ね」
「それはわざわざ………ありがとうございます。では、一緒に食べましょうか」
「ごめん、できないのっ……この後は用事がある、から………遠慮する。今日は勉強も1人でする……」
「分かりました。では、また明日」
「うん、ばいばい」
と一緒に勉強することはなく、用事があると、廊下を軽い足取りで帰っていくイシス。その小さな背中は愛おしく抱きしめてしまいたくなる。
もう落ち着いたようね………。
昨日のようにふてくされていることもない。むしろいつもより上機嫌に見えた。血や家の繋がりがなくとも、私たちは姉妹になれる。
よし、今度私もイシスにお菓子をプレゼントしてあげよう。イシスの好きなお菓子は何だったろうか。
そんなことを考えながら、いつかアーサー様から貰ったレシピ本をめくっていると、コンコンっとノック音が聞こえてきた。
「お邪魔するよ、エレちゃん」
「アーサー様!」
ドアを開けるといたのは、爽やかな笑みのアーサー様。彼は白のワイシャツに、スラックスとシンプルな服装ではあったが、気品さが溢れ出でていた。今日も眩しい。
「今までセトと特訓を?」
「うん、こっちの方が騎士たちもいて、練習には向いているからね。エレちゃんはイシスと?」
「その予定だったのですが、今日はイシスが用事があるとのことだったので、1人で調べ物をしておりました」
「そっか………イシスが用事でエレシュキガルと勉強しないだなんて」
「はい、珍しいですよね」
用事がある場合、セトと一緒のことが多い。だが、アーサー様の口ぶりからするにセトも先ほどまで一緒にいたのだろう。
もしかすると、イシスには女の子だけの秘密にしたいことがあったのか、もしくは全然違っていてマナミ様に頼まれた事でもあったか………教えてくれるようであれば、後で聞いてみよう。
「アーサー様、お疲れでしょう。お茶にいたしませんか?」
「いいのかい? じゃあ、お菓子を持ってくるね」
「あ、大丈夫です! 今日はいただいたお菓子がありますので」
窓際の椅子に向かい合って座る。ソファで並ぶこともあったが、今日はアーサー様を正面から見ていたい。そんな気分。
私たちの間の丸机に置かれた、ティーセットとイシスから貰ったあのクッキー。クッキーは星や月に型取られ、青や水色、黄色などのアイシングがされており、乙女心がくすぐられる。
イシスは私の杖をイメージしたクッキーを持ってくれたようだ。可愛い。
「今日はこのクッキーをいただきましょう」
「可愛いね………これは誰から?」
「イシスからいただきました! 昨日少し言い合いになったしまって、イシスがお詫びにと私に持ってきてくださいました」
「言い合い? イシスと?」
「はい。少し無理なお願いをされまして」
「………………ああ、なるほど。姉になってって言われたんだね」
「はい………」
まさかそこまで見抜かれるとは…………見ていたのではないかと疑いそうになるけど、アーサー様はそれ以上のことは聞いてこなかった。
本当はその先のお願いがあったから、アーサー様は直感で当てたのだろう。
「じゃあ、いただこう。はい、エレちゃんからどうぞ」
「あ、いえ。今日はアーサー様からどうぞ」
なぜ先に私が食べなかったのだろう。
と後悔することになったのだが、あの時の自分はアーサー様に食べてほしい思いでいっぱい。
「じゃあ、先にいただくね」
「はい、どうぞ」
アーサー様は「いただきます」と呟くと、星のクッキーを取り、パクっと一口で食べた。
「美味しい………うん、バターの味がとってもいいね」
「うふふ、それは良かったです」
あまりの美味しさに目を丸くさせていたアーサー様に、私はふふっと笑みを漏らす。嬉しい感想がもらえたら、イシスもきっと喜んでくれる。明日伝えてあげよう。
そうして、自分も食べようとクッキーに手を伸ばした時だった。
「でも、なんか…………………おかしい………」
そう呟くと、アーサー様は突然俯き始め、口元を抑える。
「アーサー様?」
「………………エレちゃん、それ食べないで」
「え?」
「食べちゃダメだ」
前髪の間から覗くアクアマリンの瞳が左右に揺れ動く。時折私の方に向いて、心配を掛けまいと彼は顔を逸らしていた。どう見たって様子がおかしい。クッキーの後味がそんなに悪かったのだろうか。
「………………」
もしや毒が入っていたのだろうか。イシスのプレゼントだからと油断していた。だが、彼女が気づかぬ間に入れられた可能性はあり得る。毒味をしなかった私のせいだ。
「エレちゃ、ん………部屋を出て」
「え、なぜです?」
「お願い………だから………」
苦しむアーサー様を置いて退出などできない。私は立ち上がり、急いで彼に駆け寄る。そして、解毒魔法をかけようとアーサー様に触れるが。
「っ!!」
ビクッと体を震わせ、即座に私から距離を取る。部屋の隅へと逃げていった。
怯えている………? いや違う気がする。
顔は見せてくれないが、彼の耳はリンゴのように真っ赤。熱が出て、私にうつさないように離れているのだろうか。
「アーサー様、本当に大丈夫ですか?」
「う、うん………大丈夫だ、よ………心配はいらないから………エレちゃんは部屋を出て行って………セドリックを呼んできて」
そんなことはできない。1人にした瞬間、倒れられたら困る。倒れたせいで脳震盪でも起こしたら、気が気ではない。
「とりあえず横になりましょう、アーサー様」
「だめだ………早く部屋を出て………っ、僕から離れて………」
「そうは言ってられません」
恐らく彼は私の心配をかけたくないのだろうが、そんな必要はない。相手が毒であった場合、命に関わるのだ。お願いだから、私を頼ってほしい。
「すみません、失礼します」
「っ!?」
私はアーサー様に近づき、彼の手首を取って、解毒魔法をかける。全力で駆け、全身の毒を滅するつもりでやった。
「アーサー様、どうですか? 何か変化はありましたか?」
「………………」
だが、彼は何も話さない。答えてくれない。顔を見せてくれず、黄金の前髪で顔を隠したまま。毒ではなかったのだろうか。
アーサー様は無表情無言でスタスタと歩き出す。そして、扉まで行くとカチャリと鍵を閉めた。
「アーサー様?」
「………はぁ………はぁ……っ………」
振り返った彼の顔は恍惚としていて、私ばかり見つめている。息は乱れ、どう見たって正常な状態ではなかった。
息荒げながら、アーサー様は私に近づくと。
「っ!? アーサー様っ、何をっ!?」
「………………」
彼に抱きかかえられ、ベッドへと運ばれていく。声をかけたが、彼に届かず、乱暴にもベッドに落とされる。
そして、彼に乗っかられ、両手を握りしめられて、シーツに縫い付けられてしまう。完全にこちらの動きを封じていた。
「はぁ………はぁ………っ………」
見たことのない色気を醸し出すアーサー様。金髪は乱れ、瞳は塗れ、頬は火照っている。そんな彼に、頭が真っ白になってしまう。
「ああ、全部食べたい………」
「アーサー様? 何を……………………んんっ!!」
綺麗な顔を近づき、アーサー様に唇を奪われる。そのキスは今までの優しいものとは遠い。荒々しく貪るように私の口を塞ぐ。息継ぎなどさせてくれなかった。
「あっ、ーサーさまっ………んんっ」
「っ………好きだっ………エレシュキガル………」
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