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第1章 約束と再会編
第18話 デート?
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女子寮のある一室。
そこは1人の寮室にしては広すぎる部屋。
他の寮室とは違い、トイレや洗面台、寝室、書斎、応接室、それらを全てもつ寮室。
私、スカーレット・オイレンシュはその応接室のソファに座っていた。
向かいに座っているのは、この部屋の主人である桃色髪の女。
彼女はいつものように笑顔を浮かべていた。
「ねぇ、スカーレット。最近、あの女と殿下がよく一緒にいるそうじゃない」
「はい」
「昨日、2人に会ったのよ……2人は随分と仲良さそうに話していたわ」
「……」
「まぁ、あの女は相変わらず仏頂面だったけど、殿下はずっと笑っていたわ。殿下があんなに笑っているところなんて見たことがない」
声を荒げてはいないものの、彼女が苛立っていることは感じた。
「どうやら2人が一緒にいるようになったのは、あなたがエレシュキガルの婚約者を奪ってからのようね。どういうことかしら、スカーレット」
そう言って、ブリジット様はきつく睨んでくる。
正直、こっちだって予想外だった。
あの男ノーマンが「エレシュキガルは俺にぞっこんだ」とかいうから、婚約がおじゃんになればショックを受けると考えていたのに。
嫌がらせとともに追い込めば、狂って自害とかしてくれるかなと思ったのに。
なのに、あの女は婚約者の存在すら忘れていた。
「私はあの女が軍に戻ってくれると思っていたのだけど」
「……」
「スカーレット。私が言った通り、あなた、あの女への嫌がらせは続けているんでしょうね?」
「はい。殿下が近くにいらっしゃるときは控えていますが、寮ではしています。反応は相変わらずですが」
「そう。それならいいのよ」
ブリジット様ははぁとため息をつく。とても悲しそうな顔をしていた。
「嫌がらせをしても、あの女は学園を止める様子はない?」
「今の所なさそうです。殿下には近づかないようには言うのですが……」
「殿下自身が彼女に近づいていくと」
私はコクリとうなずく。
「なら、徹底的になさい。心がないとはいえ、あの女も人間。嫌がらせを続ければ、あの女は壊れるはず」
「承知いたしました」
「でも、嫌がらせだけじゃダメそうなら、あの女を学園から追い出すことも考えないといけないわね。スカーレット、あの女を学園から追い出すことはできるかしら?」
「もちろんです」
そう返事をして、私は頭を下げる。
ブリジット様はにこっと笑って、ティーカップを手に取り。
「殿下の隣は私の場所よ。あの女に奪わせないわ」
そう呟いていた。
★★★★★★★★
「ねぇ、エレちゃん。週末2人ででかけない?」
それはアーサー王子からの急なお誘いだった。
5時間目の授業が終わると同時に、彼から街に出かけないかと提案された。
「2人でですか?」
「うん。エレちゃんと街に行きたいなと思って」
それは……他の人に誤解される可能性もあると思うのだが……。
「あの……ウィリアムさんは誘わなくてよいのですか?」
「うん、大丈夫。誘っても、きっと断られるから」
「そうですか」
2人で出かけることにちょっと疑念はあったが、『友人とお出かけ』ということで気分が上がった。
なので、私は心の中で「友人関係だからまぁいいだろう」と勝手に理由をつけ、アーサー王子の誘いを快諾した。
そして、その日の放課後。
訓練を終えた私は一緒に勉強をするため、セレナさんの部屋に向かった。
彼女は快く出迎えてくれて、すぐに2人で勉強を始めた。
セレナは学園に来るまでも自分で勉強を進めていたが、それでも遅れていたため、彼女が分からない所は教えてあげた。
……まぁ、私が逆に教えてもらうこともあったけど。
そうして、勉強を始めて1時間ぐらい経つと、休憩がてらティータイムすることになった。
セレナが用意してくれたお菓子とお茶をいただきながら、他愛のない話をしていたのだが、気づけばアーサー王子とのお出かけが話題になっていた。
「なるほど、エレシュキガルはアーサー王子とデートをしますのね」
「デートではありません」
決してデートではない。単なるお出かけだ。
きっとアーサー王子も『友人とのお出かけ』としか思っていないだろう。
そう説明しても、セレナはニマニマして「エレシュキガル、あの王子とデートするんだって」と侍女のガブリエラさんに話している。
「だから、デートじゃありませんよ」
「男女2人で出かけるってデートしか考えられないと思いますけど……分かりましたわ。単なるお出かけですわね。じゃあ、お出かけ前に私の部屋にいらして」
と言われたので、街に行く前にセレナの部屋に向かうことにした。
そして、お出かけ当日。
朝、セレナの部屋を訪ねると、ニコニコ笑顔のガブリエラさんとセレナがいた。
「セレナ、これから何をするのですか」
「もちろん、決まっているでしょう。おめかしですわ」
「おめかしですか……私には必要ないと思いますが」
「何言ってますの。必要に決まってますわ」
そうかな……胸ポケットには予備の杖を入れてあるし、腰には短剣をしまってある。
うーん。これで十分だと思うのだが。
「殿下とお出かけになさるのでしょう? なら、おめかししなくてはいけませんわ」
「そういうものですか」
「そういうものですわ」
私にとって友人とのお出かけは初めてだ。
ここは経験のあるセレナの言う通りにしておこう。
「なんとなく分かってはいましたけど、制服で行くつもりでしたのね」
「ダメですか?」
「ダメというわけではありませんが、殿方の前ではかわいくいたいでしょう」
「いえ……殿下がおられますので、動きやすい服装がいいです」
可愛い服だと動きにくいものもあって、もし何かあった時に動けない。
しかし、セレナは呆れたようにため息をついた。
「あー、はいはい。そうですわよね。あなたはそうでしたわね……でも、エレシュキガルが可愛い服を着ていれば、あの人はきっと喜びますわ」
「セレナ、殿下を『あの人』呼びしてはなりませんよ」
「あー、はいはい。じゃあ、ガブリエラ、よろしく」
そうして、私は制服を脱がされ、違う服に着替えさせられた。
着せられたのはとても色が映える膝丈の青のワンピース。
靴は白のパンプスに履き替えさせられた。
ワンピースに着替えた後は化粧台前の席に移動。
ガブリエラさんがすいすいと手を動かし、私の髪をセットしてくれた。
「ほぉ……」
完成したヘアスタイルを鏡越しに目にし、私は思わず感嘆の声を漏らしていた。
いつも髪をおろしているか、ポニーテールかの二択しかなかった私のヘアスタイル。
今日は青のリボンでポニーテールにし、さらに編み込みがされていた。
青のリボンはシンプルなものだが、とってもかわいかった。
「あのリボンは……」
「私からのプレゼントですわ。とっても似合ってますの」
「ありがとうございます」
編み込んだりしたことがなかったから、ちょっとだけ気分が上がる。
うん。このお礼に、セレナとガブリエラさんにお土産を買って帰ろう。
そして、少しだけおしゃれになった私は待ち合わせ場所の学園校門前に向かうと、アーサー王子が一人で待っていた。
遠目から見える彼も制服ではなく私服で、私と同じ青でまとまった服装をしていた。
アーサー王子は何か考え込んでいたが、私に気づくとハッと驚き目を見開いていた。
「殿下、おはようございます」
「おはよう……」
挨拶をすると、返ってきたのは小さな返事。
いつも元気な挨拶をしてくれるアーサー王子には珍しいことだった。
もしかして、元気がない?
いつもならもっと元気のいい挨拶をしてた気がするのだけど……気分でも悪いのだろうか。
そんなアーサー王子はずっと私を見つめていた。それも瞬きせず。
「あの……私、何かおかしいですか?」
「いや、おかしくなんかないよ」
それなら、どうして。
私が首を傾げていると、アーサー王子は嬉しそうにニコッと笑った。
「今日のエレちゃんは一段と綺麗だなと思って、見とれてしまったんだ」
「…………」
うーん……。
そういうのは私じゃなかったら、本当に誤解するからやめておいた方がいいと思う……。
「じ、じゃあ、行きましょうか」
「うん」
でも、ちょっとだけ自分の頬が熱くなっているのを感じていた。
そこは1人の寮室にしては広すぎる部屋。
他の寮室とは違い、トイレや洗面台、寝室、書斎、応接室、それらを全てもつ寮室。
私、スカーレット・オイレンシュはその応接室のソファに座っていた。
向かいに座っているのは、この部屋の主人である桃色髪の女。
彼女はいつものように笑顔を浮かべていた。
「ねぇ、スカーレット。最近、あの女と殿下がよく一緒にいるそうじゃない」
「はい」
「昨日、2人に会ったのよ……2人は随分と仲良さそうに話していたわ」
「……」
「まぁ、あの女は相変わらず仏頂面だったけど、殿下はずっと笑っていたわ。殿下があんなに笑っているところなんて見たことがない」
声を荒げてはいないものの、彼女が苛立っていることは感じた。
「どうやら2人が一緒にいるようになったのは、あなたがエレシュキガルの婚約者を奪ってからのようね。どういうことかしら、スカーレット」
そう言って、ブリジット様はきつく睨んでくる。
正直、こっちだって予想外だった。
あの男ノーマンが「エレシュキガルは俺にぞっこんだ」とかいうから、婚約がおじゃんになればショックを受けると考えていたのに。
嫌がらせとともに追い込めば、狂って自害とかしてくれるかなと思ったのに。
なのに、あの女は婚約者の存在すら忘れていた。
「私はあの女が軍に戻ってくれると思っていたのだけど」
「……」
「スカーレット。私が言った通り、あなた、あの女への嫌がらせは続けているんでしょうね?」
「はい。殿下が近くにいらっしゃるときは控えていますが、寮ではしています。反応は相変わらずですが」
「そう。それならいいのよ」
ブリジット様ははぁとため息をつく。とても悲しそうな顔をしていた。
「嫌がらせをしても、あの女は学園を止める様子はない?」
「今の所なさそうです。殿下には近づかないようには言うのですが……」
「殿下自身が彼女に近づいていくと」
私はコクリとうなずく。
「なら、徹底的になさい。心がないとはいえ、あの女も人間。嫌がらせを続ければ、あの女は壊れるはず」
「承知いたしました」
「でも、嫌がらせだけじゃダメそうなら、あの女を学園から追い出すことも考えないといけないわね。スカーレット、あの女を学園から追い出すことはできるかしら?」
「もちろんです」
そう返事をして、私は頭を下げる。
ブリジット様はにこっと笑って、ティーカップを手に取り。
「殿下の隣は私の場所よ。あの女に奪わせないわ」
そう呟いていた。
★★★★★★★★
「ねぇ、エレちゃん。週末2人ででかけない?」
それはアーサー王子からの急なお誘いだった。
5時間目の授業が終わると同時に、彼から街に出かけないかと提案された。
「2人でですか?」
「うん。エレちゃんと街に行きたいなと思って」
それは……他の人に誤解される可能性もあると思うのだが……。
「あの……ウィリアムさんは誘わなくてよいのですか?」
「うん、大丈夫。誘っても、きっと断られるから」
「そうですか」
2人で出かけることにちょっと疑念はあったが、『友人とお出かけ』ということで気分が上がった。
なので、私は心の中で「友人関係だからまぁいいだろう」と勝手に理由をつけ、アーサー王子の誘いを快諾した。
そして、その日の放課後。
訓練を終えた私は一緒に勉強をするため、セレナさんの部屋に向かった。
彼女は快く出迎えてくれて、すぐに2人で勉強を始めた。
セレナは学園に来るまでも自分で勉強を進めていたが、それでも遅れていたため、彼女が分からない所は教えてあげた。
……まぁ、私が逆に教えてもらうこともあったけど。
そうして、勉強を始めて1時間ぐらい経つと、休憩がてらティータイムすることになった。
セレナが用意してくれたお菓子とお茶をいただきながら、他愛のない話をしていたのだが、気づけばアーサー王子とのお出かけが話題になっていた。
「なるほど、エレシュキガルはアーサー王子とデートをしますのね」
「デートではありません」
決してデートではない。単なるお出かけだ。
きっとアーサー王子も『友人とのお出かけ』としか思っていないだろう。
そう説明しても、セレナはニマニマして「エレシュキガル、あの王子とデートするんだって」と侍女のガブリエラさんに話している。
「だから、デートじゃありませんよ」
「男女2人で出かけるってデートしか考えられないと思いますけど……分かりましたわ。単なるお出かけですわね。じゃあ、お出かけ前に私の部屋にいらして」
と言われたので、街に行く前にセレナの部屋に向かうことにした。
そして、お出かけ当日。
朝、セレナの部屋を訪ねると、ニコニコ笑顔のガブリエラさんとセレナがいた。
「セレナ、これから何をするのですか」
「もちろん、決まっているでしょう。おめかしですわ」
「おめかしですか……私には必要ないと思いますが」
「何言ってますの。必要に決まってますわ」
そうかな……胸ポケットには予備の杖を入れてあるし、腰には短剣をしまってある。
うーん。これで十分だと思うのだが。
「殿下とお出かけになさるのでしょう? なら、おめかししなくてはいけませんわ」
「そういうものですか」
「そういうものですわ」
私にとって友人とのお出かけは初めてだ。
ここは経験のあるセレナの言う通りにしておこう。
「なんとなく分かってはいましたけど、制服で行くつもりでしたのね」
「ダメですか?」
「ダメというわけではありませんが、殿方の前ではかわいくいたいでしょう」
「いえ……殿下がおられますので、動きやすい服装がいいです」
可愛い服だと動きにくいものもあって、もし何かあった時に動けない。
しかし、セレナは呆れたようにため息をついた。
「あー、はいはい。そうですわよね。あなたはそうでしたわね……でも、エレシュキガルが可愛い服を着ていれば、あの人はきっと喜びますわ」
「セレナ、殿下を『あの人』呼びしてはなりませんよ」
「あー、はいはい。じゃあ、ガブリエラ、よろしく」
そうして、私は制服を脱がされ、違う服に着替えさせられた。
着せられたのはとても色が映える膝丈の青のワンピース。
靴は白のパンプスに履き替えさせられた。
ワンピースに着替えた後は化粧台前の席に移動。
ガブリエラさんがすいすいと手を動かし、私の髪をセットしてくれた。
「ほぉ……」
完成したヘアスタイルを鏡越しに目にし、私は思わず感嘆の声を漏らしていた。
いつも髪をおろしているか、ポニーテールかの二択しかなかった私のヘアスタイル。
今日は青のリボンでポニーテールにし、さらに編み込みがされていた。
青のリボンはシンプルなものだが、とってもかわいかった。
「あのリボンは……」
「私からのプレゼントですわ。とっても似合ってますの」
「ありがとうございます」
編み込んだりしたことがなかったから、ちょっとだけ気分が上がる。
うん。このお礼に、セレナとガブリエラさんにお土産を買って帰ろう。
そして、少しだけおしゃれになった私は待ち合わせ場所の学園校門前に向かうと、アーサー王子が一人で待っていた。
遠目から見える彼も制服ではなく私服で、私と同じ青でまとまった服装をしていた。
アーサー王子は何か考え込んでいたが、私に気づくとハッと驚き目を見開いていた。
「殿下、おはようございます」
「おはよう……」
挨拶をすると、返ってきたのは小さな返事。
いつも元気な挨拶をしてくれるアーサー王子には珍しいことだった。
もしかして、元気がない?
いつもならもっと元気のいい挨拶をしてた気がするのだけど……気分でも悪いのだろうか。
そんなアーサー王子はずっと私を見つめていた。それも瞬きせず。
「あの……私、何かおかしいですか?」
「いや、おかしくなんかないよ」
それなら、どうして。
私が首を傾げていると、アーサー王子は嬉しそうにニコッと笑った。
「今日のエレちゃんは一段と綺麗だなと思って、見とれてしまったんだ」
「…………」
うーん……。
そういうのは私じゃなかったら、本当に誤解するからやめておいた方がいいと思う……。
「じ、じゃあ、行きましょうか」
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