9 / 87
第1章 約束と再会編
第9話 本当の名前(アーサー視点)
しおりを挟む
数日後、僕らは駐屯地から離れた山の上にいた。
明日からは、今ある前線を押し上げる作戦を実行していく。
そのため、僕らは出撃予定場所近くへと移動、この小山の頂上に来ていた。
頂上には少し開けた場所があり、そこが拠点場所とされた。
到着した僕らはテントを立てていく。
一方、エレシュキガルは敵に拠点を発見されることがないよう、拠点場所に結界魔法を展開していた。
そう。
エレシュキガルには結界魔法を使うことができる。
普通の人は結界魔法というと、魔法陣が必要になる。結界を張る広さや結界の種類によって、魔法陣を書かなければならない。
だが、エレシュキガルと僕は魔法陣なしで結界魔法を使える。
どんな結界であろうと、魔力量がある限り展開できる。
エレシュキガルのお母様も使えたらしく、エレシュキガルは結界魔法はお母様に教えてもらったとか。
なぜか使えるのはエレシュキガルと僕だけ。
上官から明日の動きについて説明が受け、各自明日に備えて準備。
その後は自由行動となり、エレシュキガルと話したいと思った僕は、彼女がいると思われるテントへ向かった。
だが、姿が見当たらない。
一体どこに行ったのだろう。
きっと近くにいるのだろうけど……。
と探していると、彼女の背中を発見。
エレシュキガルはテントから少し離れた崖ギリギリのところに座り、魔王城を眺めていた。
遠くにある魔王城はこちらの王城とは違って黒色。禍々しい雰囲気を漂わせていた。
不気味な城だ。
「エレシュキガル、こんな所にいたんだね」
「ええ、ちょっと1人になりたくて」
「あ。なら、僕はどっか行った方がいいね」
その場を離れようとしたが、エレシュキガルは横に首を振る。
「その必要はないわ。ルイはここにいて」
「エレシュキガルが望むのなら」
エレシュキガルに『いてほしい』なんて言われてしまった。
嬉しい気持ちを抑えて、僕はエレシュキガルの右隣に座る。
「ねぇ、エレシュキガル」
「何?」
名前を呼ぶと、エレシュキガルはこちらに顔を向ける。
最初は、ただエレシュキガルと一緒にいたくて戦ってきた。
エレシュキガルみたいに、死んだ誰かを思って戦う理由は僕になかったし、兄さんみたいになりたいという気持ちももう今はない。
ただただエレシュキガルの近くに、隣にいたくて、僕は戦ってきた。
でも、最近その考えはちょっと変わりつつある。
「僕さ、この国を守りたい」
ずっとエレシュキガルを見ていて気づいたこと。
それは彼女の肩にはいつも力が入っていたこと。
僕と2人きりになった時は少しだけ緩むこともあったけど、基本肩が上がっていた。
それだけ、彼女はずっと緊張していた。
戦場にいる以上、それは当たり前のこと。
気の緩みが自分の生死を分けることもある。
だとしても、エレシュキガルには肩の力を抜いてほしい。
怖い顔をしないで、笑っていてほしい。
…………これが自分勝手な願いなのは分かってる。
エレシュキガルの使命が母上の仇であることも知ってる。
「守りたいってどうやって?」
「最初は魔王と交渉して、平和条約を結べないかなと考えてた」
「…………」
「でも、最近エレシュキガルの母上がなさろうとしていたことを知った。その結果は……」
「ええ、ダメだった。あの魔王には話が通じない」
「うん。だから、僕も戦う。魔王を倒して、この世界を平和にする」
倒して、エレシュキガルが安心して暮らせるようにする。
僕は平和な世界でエレシュキガルと生きたい。
彼女がずっと笑顔でいられる世界にしたい。
平和になれば、魔王がいなくなれば、きっとエレシュキガルは笑ってくれるだろうから。
エレシュキガルは黙ったまま。何も言ってこない。
でも、彼女の瞳はキラキラと輝いていた。
「エレシュキガル?」
何も言ってこないなんて……もしや呆れられただろうか。
自分の考えがまとまったから、伝えておこうと思っていったけど、呆れられるぐらいなら言うべきじゃなかった。
無反応のエレシュキガルに、僕は自分の発言に後悔していると。
「ふふっ」
隣から笑い声が聞こえてきた。
あまり笑うことのないエレシュキガル。
でも、目の前の彼女は笑みをこぼしていた。
「ルイ、そんなこと考えていたのね。何も考えていないのかと思ってた」
僕、そんな風に思われていたのか。
「…………何も考えていないことはないよ」
「ええ、分かってる。ルイはちゃんと考えてる。私よりもずっとね」
そう言って、立ち上がるエレシュキガル。
彼女の銀髪が風にあおられ、後ろへとなびく。
頭後ろに1つに束ねられた銀色の髪は夕日に照らされ、キラキラと輝いていた。
「今のルイ、とってもカッコいいわ」
「えっ」
「カッコいいわ」
エレシュキガルは僕に笑いかけて、そう言ってきた。
…………ず、ずるい。
あまりにも不意打ちすぎる。
エレシュキガルの微笑み+褒め言葉に、僕はノックアウト。
おかしくなりそうになった僕は、はぁぁと深い息をする。
……全く。彼女は天然たらしなのではないだろうか。
カッコいいのは君の方だと思うよ。
顔を上げると、天使のようなエレシュキガルの微笑み。
ああ……ここは天国だ。
本当に君は可愛いよ、エレシュキガル。
これは絶対彼女に惚れる男が出てくるよ。
うう……でも、そんなのは嫌だ。彼女の隣は僕が座りたい。
だけど、可憐なエレシュキガルに惚れる人物はきっと現れるんだろう。
ああ、そうだ。
いつかのエレシュキガルは、自分にはまだ婚約者はいないと言っていた。
それなら、早く彼女に婚約を申し込まなければ……他の人に先を越されてしまう。
それにこの前、僕はエレシュキガルと結婚しようと約束した。
その約束には「魔王を倒したら……」という条件をつけてしまったけど、婚約するのはまた別だろう。
うん、よし……この戦いが終わったら……。
僕は立ち上がる。向かい風は強いが、力強く立った。
「ねぇ、エレシュキガル」
「なに、ルイ?」
声をかけると、エレシュキガルは僕の名前を呼ぶ。
だけど、その名前は偽り。本当の名前は違う。
「明日頑張ろう。絶対に勝とう」
「ええ、もちろん」
この戦いが終わったら、本当の名前を言おう。
そして、エレシュキガルに婚約を申し込むんだ。
明日からは、今ある前線を押し上げる作戦を実行していく。
そのため、僕らは出撃予定場所近くへと移動、この小山の頂上に来ていた。
頂上には少し開けた場所があり、そこが拠点場所とされた。
到着した僕らはテントを立てていく。
一方、エレシュキガルは敵に拠点を発見されることがないよう、拠点場所に結界魔法を展開していた。
そう。
エレシュキガルには結界魔法を使うことができる。
普通の人は結界魔法というと、魔法陣が必要になる。結界を張る広さや結界の種類によって、魔法陣を書かなければならない。
だが、エレシュキガルと僕は魔法陣なしで結界魔法を使える。
どんな結界であろうと、魔力量がある限り展開できる。
エレシュキガルのお母様も使えたらしく、エレシュキガルは結界魔法はお母様に教えてもらったとか。
なぜか使えるのはエレシュキガルと僕だけ。
上官から明日の動きについて説明が受け、各自明日に備えて準備。
その後は自由行動となり、エレシュキガルと話したいと思った僕は、彼女がいると思われるテントへ向かった。
だが、姿が見当たらない。
一体どこに行ったのだろう。
きっと近くにいるのだろうけど……。
と探していると、彼女の背中を発見。
エレシュキガルはテントから少し離れた崖ギリギリのところに座り、魔王城を眺めていた。
遠くにある魔王城はこちらの王城とは違って黒色。禍々しい雰囲気を漂わせていた。
不気味な城だ。
「エレシュキガル、こんな所にいたんだね」
「ええ、ちょっと1人になりたくて」
「あ。なら、僕はどっか行った方がいいね」
その場を離れようとしたが、エレシュキガルは横に首を振る。
「その必要はないわ。ルイはここにいて」
「エレシュキガルが望むのなら」
エレシュキガルに『いてほしい』なんて言われてしまった。
嬉しい気持ちを抑えて、僕はエレシュキガルの右隣に座る。
「ねぇ、エレシュキガル」
「何?」
名前を呼ぶと、エレシュキガルはこちらに顔を向ける。
最初は、ただエレシュキガルと一緒にいたくて戦ってきた。
エレシュキガルみたいに、死んだ誰かを思って戦う理由は僕になかったし、兄さんみたいになりたいという気持ちももう今はない。
ただただエレシュキガルの近くに、隣にいたくて、僕は戦ってきた。
でも、最近その考えはちょっと変わりつつある。
「僕さ、この国を守りたい」
ずっとエレシュキガルを見ていて気づいたこと。
それは彼女の肩にはいつも力が入っていたこと。
僕と2人きりになった時は少しだけ緩むこともあったけど、基本肩が上がっていた。
それだけ、彼女はずっと緊張していた。
戦場にいる以上、それは当たり前のこと。
気の緩みが自分の生死を分けることもある。
だとしても、エレシュキガルには肩の力を抜いてほしい。
怖い顔をしないで、笑っていてほしい。
…………これが自分勝手な願いなのは分かってる。
エレシュキガルの使命が母上の仇であることも知ってる。
「守りたいってどうやって?」
「最初は魔王と交渉して、平和条約を結べないかなと考えてた」
「…………」
「でも、最近エレシュキガルの母上がなさろうとしていたことを知った。その結果は……」
「ええ、ダメだった。あの魔王には話が通じない」
「うん。だから、僕も戦う。魔王を倒して、この世界を平和にする」
倒して、エレシュキガルが安心して暮らせるようにする。
僕は平和な世界でエレシュキガルと生きたい。
彼女がずっと笑顔でいられる世界にしたい。
平和になれば、魔王がいなくなれば、きっとエレシュキガルは笑ってくれるだろうから。
エレシュキガルは黙ったまま。何も言ってこない。
でも、彼女の瞳はキラキラと輝いていた。
「エレシュキガル?」
何も言ってこないなんて……もしや呆れられただろうか。
自分の考えがまとまったから、伝えておこうと思っていったけど、呆れられるぐらいなら言うべきじゃなかった。
無反応のエレシュキガルに、僕は自分の発言に後悔していると。
「ふふっ」
隣から笑い声が聞こえてきた。
あまり笑うことのないエレシュキガル。
でも、目の前の彼女は笑みをこぼしていた。
「ルイ、そんなこと考えていたのね。何も考えていないのかと思ってた」
僕、そんな風に思われていたのか。
「…………何も考えていないことはないよ」
「ええ、分かってる。ルイはちゃんと考えてる。私よりもずっとね」
そう言って、立ち上がるエレシュキガル。
彼女の銀髪が風にあおられ、後ろへとなびく。
頭後ろに1つに束ねられた銀色の髪は夕日に照らされ、キラキラと輝いていた。
「今のルイ、とってもカッコいいわ」
「えっ」
「カッコいいわ」
エレシュキガルは僕に笑いかけて、そう言ってきた。
…………ず、ずるい。
あまりにも不意打ちすぎる。
エレシュキガルの微笑み+褒め言葉に、僕はノックアウト。
おかしくなりそうになった僕は、はぁぁと深い息をする。
……全く。彼女は天然たらしなのではないだろうか。
カッコいいのは君の方だと思うよ。
顔を上げると、天使のようなエレシュキガルの微笑み。
ああ……ここは天国だ。
本当に君は可愛いよ、エレシュキガル。
これは絶対彼女に惚れる男が出てくるよ。
うう……でも、そんなのは嫌だ。彼女の隣は僕が座りたい。
だけど、可憐なエレシュキガルに惚れる人物はきっと現れるんだろう。
ああ、そうだ。
いつかのエレシュキガルは、自分にはまだ婚約者はいないと言っていた。
それなら、早く彼女に婚約を申し込まなければ……他の人に先を越されてしまう。
それにこの前、僕はエレシュキガルと結婚しようと約束した。
その約束には「魔王を倒したら……」という条件をつけてしまったけど、婚約するのはまた別だろう。
うん、よし……この戦いが終わったら……。
僕は立ち上がる。向かい風は強いが、力強く立った。
「ねぇ、エレシュキガル」
「なに、ルイ?」
声をかけると、エレシュキガルは僕の名前を呼ぶ。
だけど、その名前は偽り。本当の名前は違う。
「明日頑張ろう。絶対に勝とう」
「ええ、もちろん」
この戦いが終わったら、本当の名前を言おう。
そして、エレシュキガルに婚約を申し込むんだ。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる