10 / 22
9.勝率を上げるためのちょっとした戯れ
しおりを挟む着いて来いと言われ向かったのは何故か離宮だ。ルカ、王弟殿下の宮殿である。
「そのまま出掛けるなら着替えたいだろう? 馬車は出してやる」
ルカがそう申し出た理由は分かるが、理解は出来ない。
「……ありがたいが、サイズが違い過ぎるだろ」
「どうせ礼儀作法なんか必要のない約束じゃないのか? それとも香水臭い服のまま行く方がマシか?」
マシではない。今すぐ脱ぎたい。ソフィアが抱き付いてきたせいでシャツに香水が移った。きっと他の人間ならば多少香るくらい気にしないだろうが、俺は人工的な香りが嫌いだからこそ気になってしまう。あまりにもキツイと酔うこともあるくらいだ。
「俺が香水の匂いが嫌いなの、よく覚えているな」
俺はルカの言葉を無視し、渡されたシャツに着替える。シンプルだが生地は柔らかく着心地が良かった。ふわっと香るのはおそらく洗剤か? 皇族にもなれば一回着たものは捨ててもおかしくないだろうに。
「まあ、あまり忘れられるような出来事でもないしな」
「ははは」
その出来事は学生時代を指している。俺は思い出したくなく笑って誤魔化すことにした。
「大きいな。まあこういうデザインだと言い張れば良いか」
今日の相手は貴族ではないし、礼儀作法の必要もない。ただ、時間だけは厳守したい相手だ。それに臭いに苛立たなくて済むことは大きい。
「相変わらず痩せているな」
気付けばルカが目の前に立っていた。観察するように見下ろされる。
「呪いのせいでどんなに食べても太れないから仕方ないだろ」
どれだけ食べても、いくら食べなくても、体重は一ミリも変わることはない。青年になりきれない未発達な少年のままだ。
「呪いの解き方は調べているのか?」
「諦めた。解けるかも分からないことに時間を費やすのはもったいない」
「良いのか?」
「不老なだけで不死ではないからな」
一人死ねず生き続けるのなら解決しなければならないがそういうわけでもない。見た目の時間が止まっているだけで、病気もするし怪我もする。体の内側は年齢通りに進んでいる。
「お前は魔物みたいにデカくなったな」
話題を変え、同じ鏡に映ったルカへと視線を向ける。日々鍛えているからか同年代よりも若々しく見える。
「そうだな。お前くらい片手で制圧出来る」
「そりゃあそうだろ。俺は武闘派じゃないんだから」
「あっさり認めるんだな」
帝国最強相手に敵うわけがない。例え鍛えている騎士だってルカには敵わないだろうに。
「まあ、お前を制圧するのも簡単だがな」
「へー?」
俺はルカの手を取り、足を引っ掛かる。ルカは流れに身を任せて背中から倒れる。毛足の長いラグの上なので大した痛みは多分ないだろう。その体に跨り、ふっと鼻で笑う。
「ほらな? 簡単だ」
「お前に襲われるのは久しぶりだな」
「俺の腕力で襲えるのはお前だけだよ」
ルカの腕が伸びる。きっと俺の後頭部に触れるためだろう。何をしたいか分かるが、それに付き合っている暇はない。
俺はその手を取り、指を絡める。
「ルカ、お前は変わらないな」
「それはお前だろう。何も変わらない」
立てた片膝に頬杖をつく。身分が高く、多くの者から尊敬と憧憬を向けられている男は、自ら尻に敷かれて平然としている。きっと誰かがこの光景を見たらギョッとするだろう。最悪は不敬だと刃を向けられるかもしれない。実際、過去にも似たようなことはあった。
「変わらないお前に安心するよ」
俺はその体から退く。見下ろしながら深く頭を下げた。
「お気遣いありがとうございました。俺はこれで失礼します」
俺はルカの宮殿を後にする。馬車はすでに用意されていた。目的地から少し離れた場所で停めてもらい、約束の打ち合わせに向かった。
「本日はありがとうございます。早速誘致について、詳しくお話させていただいても?」
50
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説
「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました
湖町はの
BL
バスの事故で亡くなった高校生、赤谷蓮。
蓮は自らの理想を詰め込んだ“追放もの“の自作小説『勇者パーティーから追放された俺はチートスキル【皇帝】で全てを手に入れる〜後悔してももう遅い〜』の世界に転生していた。
だが、蓮が転生したのは自分の名前を付けた“隠れチート主人公“グレンではなく、グレンを追放する“無能勇者“ベルンハルト。
しかもなぜかグレンがベルンハルトに執着していて……。
「好きです。命に変えても貴方を守ります。だから、これから先の未来も、ずっと貴方の傍にいさせて」
――オレが書いてたのはBLじゃないんですけど⁈
__________
追放ものチート主人公×当て馬勇者のラブコメ
一部暗いシーンがありますが基本的には頭ゆるゆる
(主人公たちの倫理観もけっこうゆるゆるです)
※R成分薄めです
__________
小説家になろう(ムーンライトノベルズ)にも掲載中です
o,+:。☆.*・+。
お気に入り、ハート、エール、コメントとても嬉しいです\( ´ω` )/
ありがとうございます!!
BL大賞ありがとうございましたm(_ _)m
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです
飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。
獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。
しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。
傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。
蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
置き去りにされたら、真実の愛が待っていました
夜乃すてら
BL
トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。
というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。
王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。
一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。
新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。
まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。
そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?
若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?
世界一大好きな番との幸せな日常(と思っているのは)
甘田
BL
現代物、オメガバース。とある理由から専業主夫だったΩだけど、いつまでも番のαに頼り切りはダメだと働くことを決めたが……。
ド腹黒い攻めαと何も知らず幸せな檻の中にいるΩの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる