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第三章
36.反旗
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突き付けられたボウガンから、私の額に矢が撃ち込まれた。――はずだった。
「……は?」
放たれたはずの矢は私に届くことなく砕け散る。事態を飲み込めない男たちの顔は、一瞬で困惑の表情に塗り替えられる。
パラパラと舞った矢の破片の中を意を決して私は突っ切る。狙いはひとつ。目の前の男の腰に掛けられた短剣だ。
咄嗟にもう片方の男が刃を向けるが――先に動いた私の方がわずかに速度で上回った。
眼前の男の短剣を引き抜き、するりと背中側に潜り込む。
「おいっ……!!待て待て待て!!」
さながら盾のようにさせられた男は、慌てふためいた様子で必死に仲間を制止する。
寸前で刃を止めたもう一人の隙をついて、後ろから盾にした男の首筋に震える手で短剣を突き付ける。
「う……動かないで!!武器をこっちへ投げて……っ、膝をついて!!」
必死の剣幕で声を上げる。
その声に応じてゆっくりと武器を放り投げ、苦虫を嚙み潰したような顔で男たちは膝を折った。
彼らから視線を外さないよう、そのままの姿勢で中腰になり、足元に投げられたナイフを遠くへ蹴り飛ばす。
「私がここから立ち去るまでそのままでいてください。少しでも怪しい動きをすれば……お二人とも、魔術で殺します」
魔術。その一言に二人の顔が引きつる。正直、見え見えの嘘だとはあの人たちも分かっているかもしれない。現に魔術を使えていたら、使うタイミングなんていくらでもあった。
……しかし、かつて起きた魔術による惨劇を恐怖し憎むリスルディアの信徒だからこそ、万が一私が魔術を使えてしまう可能性を恐れて、強く出れないと私は踏んだ。
「…………」
無言のままこちらを睨み、けれど動く気配のない二人に、目線を外さずにジリジリと後退して、ある程度の所で思い切り走りだす。
「はっ……!ぁ、はぁ、はぁ……!!」
――心臓はどうしようもなく暴れていて、まともに呼吸もできないまま足を動かす。うるさいくらい鼓動が耳に鳴り響いて、自分の足音すら聞こえない。
恐怖と不安でいっぱいになった頭で、それでも何とか目的の方角に向かう。
「ミェルさん……っ」
無意識に手首を掴んで、彼女の名前を縋るように呟く。
私の手首に巻かれた、薄紫色のミサンガ。ミェルさんが矢除けのお守りとして渡してくれたソレは、しっかりとその役目を果たしてくれた。
少しほつれてしまっているところを見るに、何度も効力はもたないみたい。
とにもかくにも、はやくミェルさんと合流したい。
「……あっ」
――そう思った、矢先だった。
向かいの街並みから十人程度、白装束の集団がこちらに駆けてくる。
振り向いて逃げようとした先には、先ほどの男たちと私が路地で撒いてきた集団が合流して、私の元へ向かってきていた。
逃げ込める路地は、ここにはない。
硬いブーツの音が前から後ろから迫ってくる。無機質な反響音が嫌というほど現実を私に突きつけてくる。
最後まで足掻こうと短剣を握りしめ、力を込める。……が、意思に反して身体は震え、へなへなと手足から力が抜けていく。
ああ、本当に……ここまでなんだ。
「お待たせ。……よく一人で頑張った」
――不意に届いたその声を聞くまで、そう思ってしまっていた。
「み、ミェル……さん……?」
何よりも焦がれていた黒いシルエットが、気づけば私の隣に立っていた。
「……は?」
放たれたはずの矢は私に届くことなく砕け散る。事態を飲み込めない男たちの顔は、一瞬で困惑の表情に塗り替えられる。
パラパラと舞った矢の破片の中を意を決して私は突っ切る。狙いはひとつ。目の前の男の腰に掛けられた短剣だ。
咄嗟にもう片方の男が刃を向けるが――先に動いた私の方がわずかに速度で上回った。
眼前の男の短剣を引き抜き、するりと背中側に潜り込む。
「おいっ……!!待て待て待て!!」
さながら盾のようにさせられた男は、慌てふためいた様子で必死に仲間を制止する。
寸前で刃を止めたもう一人の隙をついて、後ろから盾にした男の首筋に震える手で短剣を突き付ける。
「う……動かないで!!武器をこっちへ投げて……っ、膝をついて!!」
必死の剣幕で声を上げる。
その声に応じてゆっくりと武器を放り投げ、苦虫を嚙み潰したような顔で男たちは膝を折った。
彼らから視線を外さないよう、そのままの姿勢で中腰になり、足元に投げられたナイフを遠くへ蹴り飛ばす。
「私がここから立ち去るまでそのままでいてください。少しでも怪しい動きをすれば……お二人とも、魔術で殺します」
魔術。その一言に二人の顔が引きつる。正直、見え見えの嘘だとはあの人たちも分かっているかもしれない。現に魔術を使えていたら、使うタイミングなんていくらでもあった。
……しかし、かつて起きた魔術による惨劇を恐怖し憎むリスルディアの信徒だからこそ、万が一私が魔術を使えてしまう可能性を恐れて、強く出れないと私は踏んだ。
「…………」
無言のままこちらを睨み、けれど動く気配のない二人に、目線を外さずにジリジリと後退して、ある程度の所で思い切り走りだす。
「はっ……!ぁ、はぁ、はぁ……!!」
――心臓はどうしようもなく暴れていて、まともに呼吸もできないまま足を動かす。うるさいくらい鼓動が耳に鳴り響いて、自分の足音すら聞こえない。
恐怖と不安でいっぱいになった頭で、それでも何とか目的の方角に向かう。
「ミェルさん……っ」
無意識に手首を掴んで、彼女の名前を縋るように呟く。
私の手首に巻かれた、薄紫色のミサンガ。ミェルさんが矢除けのお守りとして渡してくれたソレは、しっかりとその役目を果たしてくれた。
少しほつれてしまっているところを見るに、何度も効力はもたないみたい。
とにもかくにも、はやくミェルさんと合流したい。
「……あっ」
――そう思った、矢先だった。
向かいの街並みから十人程度、白装束の集団がこちらに駆けてくる。
振り向いて逃げようとした先には、先ほどの男たちと私が路地で撒いてきた集団が合流して、私の元へ向かってきていた。
逃げ込める路地は、ここにはない。
硬いブーツの音が前から後ろから迫ってくる。無機質な反響音が嫌というほど現実を私に突きつけてくる。
最後まで足掻こうと短剣を握りしめ、力を込める。……が、意思に反して身体は震え、へなへなと手足から力が抜けていく。
ああ、本当に……ここまでなんだ。
「お待たせ。……よく一人で頑張った」
――不意に届いたその声を聞くまで、そう思ってしまっていた。
「み、ミェル……さん……?」
何よりも焦がれていた黒いシルエットが、気づけば私の隣に立っていた。
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