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第二章
21.花笑み
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「手前の方から反応?既にリスルディアに染まった小国が、命令でもされて月水晶の回収をさせられているのかね」
「その線が妥当でしょうね……あなた達はまず、この小国を目指しなさい」
いきなり本丸に攻め込むより、規模が小さい所から向かうのが賢明なのはそうだ。
彼女の言葉を受けて、ミェルさんが納得したように頷き、溜め息をついた。
「気合いを入れねばならないねぇ、まさか自分からヤツらのテリトリーに向かう日がくるとは。……ありがとうプレジール、色々準備することができたよ」
そう言い残して、彼女は部屋から出て行ってしまった。静かにパタン……と閉じた扉に、無意識に視線が奪われていた。
「彼女が魔術の実験以外にあんなに真剣なの……久しぶりに見たわ……あなたも驚いたでしょ?」
「ぁっ……はい、なんか最初に会った時から雰囲気が違ってて、ちょっとびっくりしてます」
「あなたを無事に帰さなければならない。リスルディアとも戦わなければならない。……ミェルはミェルなりに、責任と覚悟を背負ってるということね……」
それは、痛いほど伝わった。尊大な態度で飄々としていた彼女が、頭を下げて懇願し、無謀な提案をしてしまうほど本気で成し遂げようとしている。
私の世界への転移が目的だから、というのも大きい……でも、今の彼女はそれと同じくらい真剣に、私を帰そうとしている。
「ところで、月音……」
――なんて思っていると、いつの間にかすぐ間近にプレジールさんの顔があった。身長差のせいで自然と上目遣いでこちらを見つめる体勢になり、改めてその顔の良さに息を呑む。
「な、なんでしょう?」
「花に興味はあるかしら……?」
ずいっ、とこちらに体を寄せて、期待の眼差しを向けてくる。フローラルな香りが押し寄せ、たまらず頭が沸騰しそうになる。は、離さなきゃ……!
「近いですプレジールさん……!お花に興味はありますけど!」
華奢な肩を掴んで、乱暴にならないよう引き離す。慌てた様子で赤面する彼女に、なんとも言えない愛らしさを感じて、こっちまで顔が熱くなる。
「ごめんなさい……!あなたみたいに花に理解のある人……今まで会ったことなかったから……つい……」
「いえ、大丈夫です。プレジールさんさえ良ければ、色々教えてください」
なんとか動揺をおさめて冷静に彼女に向き直る。
私の言葉を受けたプレジールさんは、それこそつぼみが開花した瞬間のように顔を綻ばせ、私の袖をきゅっと掴んで来る。
同性の私でさえ心を奪われかねない程の眩しさと、ついさっきまでの冷静沈着な立ち振る舞いのギャップの破壊力は凄まじい。
「ついてきて、私の自慢の子達を紹介したいの」
「ふふっ……はい、見せてくださいっ!」
楽しげに先導しようとする彼女につられて私まで顔が綻んでしまう。きっと、趣味の話ができる人もかなり限られていたんだろう。彼女の様子からありありと察せられる。
――そんなプレジールさんに連れられて、私は部屋を後にした。
「その線が妥当でしょうね……あなた達はまず、この小国を目指しなさい」
いきなり本丸に攻め込むより、規模が小さい所から向かうのが賢明なのはそうだ。
彼女の言葉を受けて、ミェルさんが納得したように頷き、溜め息をついた。
「気合いを入れねばならないねぇ、まさか自分からヤツらのテリトリーに向かう日がくるとは。……ありがとうプレジール、色々準備することができたよ」
そう言い残して、彼女は部屋から出て行ってしまった。静かにパタン……と閉じた扉に、無意識に視線が奪われていた。
「彼女が魔術の実験以外にあんなに真剣なの……久しぶりに見たわ……あなたも驚いたでしょ?」
「ぁっ……はい、なんか最初に会った時から雰囲気が違ってて、ちょっとびっくりしてます」
「あなたを無事に帰さなければならない。リスルディアとも戦わなければならない。……ミェルはミェルなりに、責任と覚悟を背負ってるということね……」
それは、痛いほど伝わった。尊大な態度で飄々としていた彼女が、頭を下げて懇願し、無謀な提案をしてしまうほど本気で成し遂げようとしている。
私の世界への転移が目的だから、というのも大きい……でも、今の彼女はそれと同じくらい真剣に、私を帰そうとしている。
「ところで、月音……」
――なんて思っていると、いつの間にかすぐ間近にプレジールさんの顔があった。身長差のせいで自然と上目遣いでこちらを見つめる体勢になり、改めてその顔の良さに息を呑む。
「な、なんでしょう?」
「花に興味はあるかしら……?」
ずいっ、とこちらに体を寄せて、期待の眼差しを向けてくる。フローラルな香りが押し寄せ、たまらず頭が沸騰しそうになる。は、離さなきゃ……!
「近いですプレジールさん……!お花に興味はありますけど!」
華奢な肩を掴んで、乱暴にならないよう引き離す。慌てた様子で赤面する彼女に、なんとも言えない愛らしさを感じて、こっちまで顔が熱くなる。
「ごめんなさい……!あなたみたいに花に理解のある人……今まで会ったことなかったから……つい……」
「いえ、大丈夫です。プレジールさんさえ良ければ、色々教えてください」
なんとか動揺をおさめて冷静に彼女に向き直る。
私の言葉を受けたプレジールさんは、それこそつぼみが開花した瞬間のように顔を綻ばせ、私の袖をきゅっと掴んで来る。
同性の私でさえ心を奪われかねない程の眩しさと、ついさっきまでの冷静沈着な立ち振る舞いのギャップの破壊力は凄まじい。
「ついてきて、私の自慢の子達を紹介したいの」
「ふふっ……はい、見せてくださいっ!」
楽しげに先導しようとする彼女につられて私まで顔が綻んでしまう。きっと、趣味の話ができる人もかなり限られていたんだろう。彼女の様子からありありと察せられる。
――そんなプレジールさんに連れられて、私は部屋を後にした。
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