1 / 41
第一章
1.森林
しおりを挟む
「……ん。さむっ…」
いやに風を感じた朝だった。それに、なんだかやけにベッドの感触が硬い。
「……?」
鳥の鳴き声も、いつも以上に近い…気がする。
……ゆっくりと瞼を開けてみた。
そこには、いつも私の目覚めを迎えてくれるぬいぐるみも、壁一面の本棚もなく、一片の陽の光さえも珍しい森に囲まれていた。
「えっ……?なにこれ……!?」
はっきりしてきた肌の感覚に生々しく枯れ枝の感触を、鼻にむせ返るほどの自然の芽吹きを感じて反射的に身を起こし、辺りを見渡した。
富士の樹海を思わせる視界いっぱいの森林。
毒々しい色のキノコらしき物体が木々の根元を覆い、そこら中でカサカサと小動物が蠢く音がする。
「冗談……夢かなんかでしょ……」
極めて冷静に頭を働かせ、必死に状況を飲み込もうとするも、肌を撫でる大自然の感覚に混乱せざるを得ない。
あてもなく歩き出してみると、裸足の足裏にふわっとした落ち葉の感触が伝わり、ときどきゴツゴツとした小石がくい込む。
……この感覚は間違いなく夢じゃない。歩く度にパキパキと折れる足元の枯れ枝も、耳に届く小鳥のさえずりも。
「ぅ……けほっ、けほっ……」
吸い込めば咳き込んでしまうような、濃厚すぎる草や木々の香りも、全てが現実そのものにしか感じない。
「暗いし、寒い……ほんとになんなの……?」
重なった木々のせいで太陽の光が届かず、ひんやりとした空気にジャージ姿の私は身震いする。
パニックに陥りかける頭と裏腹に、五感全てが満場一致に非日常に放り込まれたと理解した。
「家、ちゃんと家で寝てたのに。私学校だってあるんだけど?」
ほんとなら、今日は新学期を迎えて、高校2年生としての生活をスタートしていたはず。
段々と感覚が慣れていくにつれ、感じていた不安と焦燥とかわりばんこに怒りが滲み始める。
なぜ、どうして私が?こっちの日常もお構い無しに?
益々声を荒げようとした、その刹那。
「もし、そこ行くお嬢さん。道にでも迷ったのかな?」
小鳥の声に紛れて、甘く透き通った囁きが私の耳へと届けられる。
はっとして振り返る私の前に、1人の女性が現れた。
いやに風を感じた朝だった。それに、なんだかやけにベッドの感触が硬い。
「……?」
鳥の鳴き声も、いつも以上に近い…気がする。
……ゆっくりと瞼を開けてみた。
そこには、いつも私の目覚めを迎えてくれるぬいぐるみも、壁一面の本棚もなく、一片の陽の光さえも珍しい森に囲まれていた。
「えっ……?なにこれ……!?」
はっきりしてきた肌の感覚に生々しく枯れ枝の感触を、鼻にむせ返るほどの自然の芽吹きを感じて反射的に身を起こし、辺りを見渡した。
富士の樹海を思わせる視界いっぱいの森林。
毒々しい色のキノコらしき物体が木々の根元を覆い、そこら中でカサカサと小動物が蠢く音がする。
「冗談……夢かなんかでしょ……」
極めて冷静に頭を働かせ、必死に状況を飲み込もうとするも、肌を撫でる大自然の感覚に混乱せざるを得ない。
あてもなく歩き出してみると、裸足の足裏にふわっとした落ち葉の感触が伝わり、ときどきゴツゴツとした小石がくい込む。
……この感覚は間違いなく夢じゃない。歩く度にパキパキと折れる足元の枯れ枝も、耳に届く小鳥のさえずりも。
「ぅ……けほっ、けほっ……」
吸い込めば咳き込んでしまうような、濃厚すぎる草や木々の香りも、全てが現実そのものにしか感じない。
「暗いし、寒い……ほんとになんなの……?」
重なった木々のせいで太陽の光が届かず、ひんやりとした空気にジャージ姿の私は身震いする。
パニックに陥りかける頭と裏腹に、五感全てが満場一致に非日常に放り込まれたと理解した。
「家、ちゃんと家で寝てたのに。私学校だってあるんだけど?」
ほんとなら、今日は新学期を迎えて、高校2年生としての生活をスタートしていたはず。
段々と感覚が慣れていくにつれ、感じていた不安と焦燥とかわりばんこに怒りが滲み始める。
なぜ、どうして私が?こっちの日常もお構い無しに?
益々声を荒げようとした、その刹那。
「もし、そこ行くお嬢さん。道にでも迷ったのかな?」
小鳥の声に紛れて、甘く透き通った囁きが私の耳へと届けられる。
はっとして振り返る私の前に、1人の女性が現れた。
3
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる