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『魔剣〇〇』について
しおりを挟む冬の寒空の下、僕らはある車の前に居る。冬になると決まって町内を走りはじめ、住人を虜にするモノを売る車。寒ければ寒い時ほどに美味いものとはなにか?それは……。
「兄、バニラとチョコがいい」
そうアイスである。
「僕はストロベリーとレモンで」
言っておくがかき氷ではない。
冬の寒いときに暖かい部屋で食べるアイスは格別なのである。
妹は鼻歌混じりにわが家へと急ぐ、転ばないようにしてほしい。兄からのお願いである。
妹の格好は冬用にあつらえたピンク色でボアの付いたコート、悪魔耳のようにも見えるニット帽、手にはミトンの手袋。靴はふわふわの小さなぼんぼんのついた、ムートンブーツ。あぁわが妹ながら本当に恐ろしいほどの完璧さだ。あ、マフラーは我が大地母神のハンドメイドで『母の愛』をエンチャント済である。kの母の愛というのは……(略)……何度も言うが完璧だ。
「妹よ、早く家へ帰らねばならないな、アイスは溶けないが、僕らは氷柱になってしまうかもしれない」
「うむ、兄、フリージ〇グコ〇ェインはいただけない。でも、折角なので家へ着くまでの間、会議をしましょう」
あぁ、今日も妹の会議が始まるようだ。
妹曰く、世界の真実を知る会議が……。
ところで妹よ、今日の会議の題目は何だ?
「アイス(例のモノ)は鍛えられし業物だということ」
「あぁ……アレか……」
今我々の手元にある袋には、スーパーでは決してお目にかかれない、一つおいくら万円?というようなアイスが入っている。
しかし、妹の言っているのはそれとは別のモノのことだ。
それはスーパーという初心者向けダンジョン程度のくせに、なぜかたまたま出てきちゃった他所のダンジョンのボスのようなものである。
あるものは欠け、あるものは砕かれ、あるものはその身のままでは到底太刀打ちできないと悟ったという。
「妹よ、それはあ〇きバーではないか?」
「ん……正解」
あず〇バー。その身をあずき色に染めし狂気の魔剣。聖剣と予備には難いもの。尚、酔狂……いや、熱心な方々が強度を計ったところ、サファイアと同等の固さを一瞬だが叩きだしたとのことだ。
「妹よ、業物については激しく同意だが、あれは業物というよりは魔剣ではないだろうか。恐らくあれを屠ることのできる、業物はこの世に一振りであろうと兄は愚考するぞ」
「兄、魔剣……そちらのほうが格好いい……。兄のいうそれとは……アレではないか?」
「ふっ、もちろん、15代目イシ〇ワ・ゴ〇モンの斬鉄剣の他にありえぬ」
「つまらぬもの……ぷふっ……」
妹のツボに入ったようだ。笑いを必死にこらえて厨二病的セリフを紡ごうとする妹……実に可愛い!さぁこの試練を乗り越え良きセリフを紡ぐのだ妹よ。
「斬鉄剣に斬れぬものなし……フッ……ぷふっ」
惜しいぞ妹。しかしギリ、耐えた妹を僕は称えたい。
「兄、あれはきっと熟練のドワーフ達が鍛えているに違いない、それに魔剣であるのであれば多くの、敗者の血をすすっているはず」
「あぁ、間違いない……あの魔剣、今までの敗者のそれを吸い上げてきたに違いない。きっといつかはその硬度はミスリルやアダマンタイトを凌駕する時が来るはずだ。その時には是非、我らが兄妹の武器として採用しようじゃないか」
「ん……ぷふっ……ハンマーであ〇きバーを……」
妹はまだこらえているようだ。笑いこらえながら僕につかまっている妹、今日はたしか髪型はお団子にしてた気がする。寒いのでニット帽の中にしまいやすくしているようだ。
妹がようやく小刻みに震えながらも狂気の魔剣の呪縛を解き放ったころ、少し離れたところに我らが居城が見えてきた。
「妹よ、良かったなそろそろ暖かい居城につくぞ」
僕は妹に見えてきた自宅を指さして言う。
「はっ! イケナイ……。兄、手寒い」
妹は急に思い出したようにつかんでいた服の裾をさらに強くつかみ、上目遣いで僕を見て言う。
「もうすぐそこだぞ?」
「兄、寒い、何なら家の中でも少しの間は寒い」
僕は、思い出したように甘え始めた、妹の手をさっとつかみ、自分のコートへお招きした。
そして、あと少しの家路を、ほんの少しなるべくゆっくり目に急いで帰ることにした。
「兄、ありがとっ……」
妹が何か小さいな声で、言っていたのだが、不意に吹いた木枯らしのせいでよく聞こえなかった。それでも満足そうに微笑む妹に、僕も微笑み返す。
やがて、僕らは暖かい居城へと入っていった。
『ただいま母さん、アイス買ってきたよ~』
このお話は、どこにでもいる家族、どこにでもいる兄妹のお話し。
ただ、少しだけ違うのは、この妹は、小学一年生にして既に厨二病だということ……だったのです。
そうこれは、どこにでもありそうでない、妹と僕の世界の真実の会議のお話し……なのです。
『わが剣に斬れぬものなし!』
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