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エルフのお婿さん

おっさんは心底たまげました

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「お二人とも、またお会いできて嬉しいです。それで……今日は、どのようなご用で?」

 突然現れたネムとキキに驚きながらも、良夫は二人に再会できた喜びに頬を緩ませつつ、用件を尋ねた。

「セックスしに来た」

「セックスしに来た」

 すると二人は間髪入れず、揃って同じ答えを返してきた。

 それはノノとの朝セックスを中断させられて、未だ情欲の炎がくすぶり続けている良夫にとっては、願ってもない返答だったのだが……

「私としてはその、とても嬉しいのですけれど……いいんですか? ナナさんという方が、『ボクの番』だとおっしゃっていたのですが……」

 ジャックからナナが里の有力者だという情報を聞いていた良夫は、二人の事を心配してそう告げる。
 決められた順番に勝手に割り込んでは、ノノのようにお縄になってしまうのではないかと思ったからだ。

「ん、冗談だからだいじょうぶ」

「まあ、ヨシオとセックスしたいのはほんとだけど、どっちみち今は出来ないしね~」

「じょ、冗談ですか……ん……?」

 二人から返ってきた答えに、良夫は残念なようなほっとしたような複雑な気持ちになったが、それと同時にキキの発言に引っかかりを覚えた。

「今は出来ない、ですか……?」

「うん、そう。だって……」

 と、良夫の疑問に対してネムはこっくりと頷きを返し……


「わたしたち、いま、妊娠してるから」



 ……………………


 
 ………………



 …………



 ……



「えっっっっっ!!??」

 ネムの言葉を飲み込むまでに時間がかかった良夫は、長い沈黙の後、部屋が揺れるほどの声を上げて驚愕した。

「えっ、ちょっ、に、ににに、妊娠って! あの、あれですよねっ!? 赤ちゃんが、お腹の中に、ボコォってっ!?」

 その慌てふためきぶりはあまりにも滑稽で、言っていることも意味不明だった。

「ぷぷっ、やっぱりヨシオはおもしろい」

「見た目も人間にしてはオークっぽくて奇抜だし、見てて飽きないよねぇ」

 ぷるぷると肉を震わせながら狼狽うろたえる良夫の姿をみて、ネムとキキが楽しげに笑う。


 バタンッ


「ど、どうしたヨシオさんっ!?」

 そこに飛び込んでくる、裸エプロン姿のジャック。

 小さな人小屋のリビングは、ネムの爆弾発言によって瞬時に混沌と化したのであった。




 ◇


「そうか……ヨシオさん、そいつらを孕ませたのか……」

「え、ええ、はい、どうやらそうみたいです……」

 ──数分後。

 ようやく落ち着きを取り戻した良夫から話を聞いたジャックは、喜ぶべきなのかおののくべきなのか分からず、複雑な表情を浮かべていた。
 
 エルフを孕ませたということは、この里での良夫の価値がさらに上がると言うことだ。
 それは、喜ぶべき事だろう。
 
 良夫の価値が上がれば上がるほど、エルフの中枢に食い込んで裏から操るという良夫の計画(実際にはそんな計画など存在しない)の成功率もまた上がるからである。

 だが同時に、良夫がこの短期間で二人も孕ませたという事実は、非常に由々しき問題でもあった。

(ヨシオさんはチンポが硬いだけじゃなく、その種(精液)も特別製ということか……これが想定内の出来事だというならいいが、もしそうでないとしたら……)

 ジャックはじっとりとイヤな汗をかきながら、その身に子を宿している二人のエルフに視線を移す。

 本来、エルフというのは非常に妊娠しにくい生き物のはずだ。

 そうでなければ、個体としての寿命が千年近くもあるエルフの数が、この小さな里に収まっている訳がない。

 だというのに、良夫はその妊娠しにくいはずのエルフを、一発で孕ませたのだ。
 もはや異常と言ってもいいくらいの孕ませ性能だろう。

 その良夫が、このままエルフたちとセックスし続けたらどうなるか……

 ジャックは脳内に、ベビーラッシュを迎えたエルフの里を思い浮かべ、背筋が寒くなった。

「ヨシオ、嬉しい?」

「へっへぇ、お父さんだよ、ヨシオ!」

 そんなジャックの恐怖などお構いなしに、二人のエルフが笑いながら良夫に問いかける。

 ジャックもまた、良夫がいったいなんと返答するつもりなのか気になって、視線を横に座る良夫に戻したのだが……

「…………っ」

 その顔を見て、ジャックは息を飲んだ。





 良夫が……





 いつも柔和な笑みアルカイックスマイルを浮かべているか、もしくは情けなく眉尻を下げて涙目になっている良夫が……





 まるで、決死の覚悟を決めたアルパカのように鋭い眼光で、ネムとキキの二人を見つめているではないか。


 ガタリッ


 二人のエルフから視線を外さないまま、良夫が音を立てて席を立った。

 ひりつくような緊張感がリビングに漂う(とジャックは感じている)中、良夫は迷いのない足取りで二人のもとへ歩いて行く。

 そして────


「……ありがとう、ございますっ、二人とも、本当に、ありがとうございますっ!」

 
 ────その豊満な肉体で、ネムとキキのことをを包み込むように抱きしめた。

 
「むぎゅう……」

「うはっ、もっちもちやな! もっちもちやな!」

 小柄なネムは良夫の腹肉に埋もれ、それよりも少し背の高いキキは良夫を抱きしめ返しながら、その肉圧を堪能している。

「…………」

 それを見たジャックはというと、もちろん唖然とし、固まっていた。

 今回ばかりは、良夫の意図がまるで分からなかったからだ。

「ヨ、ヨシオさん…………いったい…………」

 震える声で呟くジャックの目の前で、良夫はなおも「ありがとうございますっ!」と感謝のことばを繰り返しながら、ネムとキキを抱きしめ続けている。

 その姿はまるで、ただ自分に子供が出来たことを喜ぶ父親のようで……

「…………っ!!!」

 その時だった、ジャックの頭の中に、天啓とも言えるようなひらめきが降りてきたのは。

(そうか、ヨシオさん……っ、あんたは……っ)

 ジャックはこれまで、ただ人間側の視点から、エルフを敵として見続けてきた。

 そしてそれは当然、良夫もそうだと思っていたのだ。


 だが、違う。


 そうではないのだ。


 これまでの行動を思い返してみれば、良夫の真意など明らかであった。


 それは……


(…………人間とエルフの、橋渡しになること……っ)

 そう、良夫がこの里でやろうとしているのは、人類史上誰一人として考えたことすらなかった、人間とエルフの融和ゆうわ政策なのだ。

 良夫が最初からへりくだってエルフに接していたのも、必要以上に好意を示しているように思われるのも、全てはそのためなのだと考えれば説明が付く。

 エルフに対して能力(チンポの硬さと孕ませ性能)を示しながらも、良夫がその態度を崩すことがないのは、『人間』という種族に対するエルフの認識に変化を起こさせる為だったのだ。

 今後も良夫がエルフと子作りを続けていけば、確かにエルフの数は増えるだろう。

 しかしその子らは、全て良夫の血を引いている子供たちでもあるのだ。

 良夫がどれだけその子供たちに関わることが出来るかは分からないが、接触する機会は必ずあるはず。

 そしてその時に、良夫が自らの存在を『家畜』ではなく『父親』だと認めさせる事が出来たならば、その子らの人間に対する認識は、間違いなく変わるはずであった。
 
 エルフが長命種である以上、良夫が生きている間にその成果が出ることはないだろう。

 しかし、二百年、三百年後には、人間に対して歩み寄ろうとするエルフが現れるかも知れない。

(ヨシオさん……あんたは……この世界に暮らす全ての人間の未来のために……)

 気づけば、ジャックの目には涙が滲んでいた。

 上手くやればエルフの王にすらなれるかも知れない力を持ちながらも、それを私利私欲ではなく、平和のためだけに行使する……

 良夫の、そのあまりの高潔さに心が震え、溢れ出す感動を抑えることが出来なかったのだ。
 
「……くっ、俺は、何かつまむもんでも作ってくるよ、ヨシオさん……」

 ジャックは涙を隠すように、急いで身をひるがえすとキッチンへ向かった。

(俺も、考え方を改めなきゃな……ヨシオさんのような偉大な男に、少しでも近づけるように……)

 そんな決意を、胸に秘めながら…………
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