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エルフのお婿さん
おっさんは牧場で人間に会いました
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その後、またJCエルフたちに担ぎ上げられた良夫は、ゆさゆさと揺られながら運ばれていき、やがて一軒の小屋の前に到着した。
ここがJKエルフが言っていた『牧場』なのだろう。
その外観は、酪農家の持っている家畜小屋によく似ていた。
違いがあるとすれば、屋根や壁面に蔓草がみっしりと生い茂っているところだろうか。
「とうちゃーく」
「あー、重かった」
どざぁっ!
「ドゥッ!」
小屋に入るなり手荒に地面に放り出され、良夫はドーナツ好きの黄色いおっさんのような呻きを漏らす。
「あっ、ごめん人間」
「メンゴ」
「メンゴス」
「ドゥッ! だって、ぷぷぷっ、変な鳴き声」
良夫に対する雑な扱いに、謝罪を口にするJCエルフたち。
最後のは違うが。
……いや、三番目のも違うか?
「い、いえいえ、全然大丈夫ですよ。この通り、分厚い肉で守られてますから」
ともかく、良夫は懲りずに自虐ネタを混じえつつ、自らの逞しさをアピールしてみた。
「それじゃ、またあとでね~」
「ふふふ、今宵のあたしはアレに飢えているっ」
「あ~、楽しみだな~。あっ、そうそう、足に鎖つけとくね」
「ねぇ、もっかい『ドゥッ!』って言って! 『ドゥッ!』って!」
しかし当然のごとく、JCエルフたちは良夫のアピールをガン無視した。
一応最後のJCエルフのリクエストに応えて「ドゥッ!」と呻いて笑いを取ると、良夫は去っていくJCエルフたちの背を見送りながら、自らの不甲斐なさに打ち沈むのだった。
◇
それから、数分後。
気を取り直した良夫は、薄暗い小屋に目を慣らしながら自らの状況を改めて考察してみた。
JCやJKエルフの言葉から推察するに、良夫はどうやらこの『牧場』と呼ばれる小屋の中で働かされることになるらしい。
そしてその理由は良夫が『男』だから……
「やっぱり、そういうことだと期待してもいいんですかね……」
良夫は、期待を込めた声でそうつぶやいた。
余りにも良夫にとって都合のいい展開ではあるが、一応それを裏付ける情報も得ている。
棒に吊るされて移動する間、良夫はエルフの集落に視線を彷徨わせてみたが、予想していた通り女性の姿しか見つけられなかったのだ。
多分ではあるが、この世界のエルフには女性しか存在しないのではないだろうか。
そして、女性である以上増えるためには男が必要なわけで、だから男である良夫は殺されずに連れてこられた……
それらの情報をつなぎ合わせると、必然的に答えは見えてくる。
「うへへ……」
幸せな妄想に、良夫は締まりのない笑みを漏らした。
すると────
「……よう、新入り。随分と楽しそうだな」
そんな良夫に、闇の中から声をかけてくる存在があった。
「うわぁっ!?」
突然話しかけられ、驚愕する良夫。
「落ち着きな、新入り。お互いこんな境遇だが、自己紹介でもしようや。
俺の名前はジャック。ジャック・ハウザーだ。よろしくな」
やたらいい声が聞こえてくる方向に視線を向けて目を凝らすと、そこには筋骨逞しい西洋風のイケメンマッチョが鎖に繋がれて座り込んでいるのが見えた。
「ど、どうも、ジャックさん。良夫といいます」
ジャックに対し、良夫はどこにでもいるようなおっさんの声で自己紹介を返す。
「オーケー、ヨシオ。それで、お前はいったい何をして、こんなところに送られてきたんだ?」
「……なにをして、ですか? いえ、その、気づいたら森にいまして、そこでエルフさん達に捕まったと言いますか……」
流石に異世界から来ましたとは言えず、良夫は話をぼかしながらジャックに伝えた。
「なんてこったっ! 気づいたら森にいたってことは、何か事件に巻き込まれて、そのうえで森に捨てられたってところか?
まったく、ついてないなヨシオ。よりによってエルフの住む領域に捨てられるとは…………いや、むしろだからこそ、か?」
「はぁ……」
勝手に一人で納得していくジャックに、良夫は曖昧な返事を返す。
この世界の常識を何も知らないので、どう答えていいものか分からないからだ。
「ところで、ジャックさん」
「ジャックでいいぜ、ヨシオ」
「はぁ、では、ジャック。質問してもいいですか?」
だから良夫は、素直に尋ねてみることにした。
「ああ、いいぜ。なんでも聞きな。俺に答えられる事なら答えてやる」
男臭い笑みを浮かべながら、ジャックがそう答える。
どうやら外見だけではなく、中身もイケメンのようだ。
良夫としては、こういった人類カースト上位の人物には劣等感しか抱けないので苦手なのだが、互いに全裸で鎖に繋がれているこの状況では距離の取りようもない。
なので、ずっと気になっていることをストレートに聞いてみることにした。
「私は、これからどうなるのでしょう?」
「なに? お前、自分がどういう状況にあるのか理解してないのか? ……ああ、そうか。だからさっきは周りからエルフがいなくなって笑ってたのか。
それに、その体つきから察するに、どこかの貴族……もしくは王族ってところか?」
貴族どころか、会社の部下にすら下に見られていた良夫だが、もちろんあえて言う必要はないので黙っておく。
「……いや、余計なことを聞いた。こうなっては身分もクソもないよな」
良夫の無言を肯定と捉えたのか、ジャックはまたひとりで納得し、頷きながら哀れみの目を良夫に向けた。
「いいか、覚悟しておけヨシオ。今日は────人生で、一番長い日になる」
そして表情を引き締めると、真剣な瞳で良夫を見つめ、そう告げたのだった。
ここがJKエルフが言っていた『牧場』なのだろう。
その外観は、酪農家の持っている家畜小屋によく似ていた。
違いがあるとすれば、屋根や壁面に蔓草がみっしりと生い茂っているところだろうか。
「とうちゃーく」
「あー、重かった」
どざぁっ!
「ドゥッ!」
小屋に入るなり手荒に地面に放り出され、良夫はドーナツ好きの黄色いおっさんのような呻きを漏らす。
「あっ、ごめん人間」
「メンゴ」
「メンゴス」
「ドゥッ! だって、ぷぷぷっ、変な鳴き声」
良夫に対する雑な扱いに、謝罪を口にするJCエルフたち。
最後のは違うが。
……いや、三番目のも違うか?
「い、いえいえ、全然大丈夫ですよ。この通り、分厚い肉で守られてますから」
ともかく、良夫は懲りずに自虐ネタを混じえつつ、自らの逞しさをアピールしてみた。
「それじゃ、またあとでね~」
「ふふふ、今宵のあたしはアレに飢えているっ」
「あ~、楽しみだな~。あっ、そうそう、足に鎖つけとくね」
「ねぇ、もっかい『ドゥッ!』って言って! 『ドゥッ!』って!」
しかし当然のごとく、JCエルフたちは良夫のアピールをガン無視した。
一応最後のJCエルフのリクエストに応えて「ドゥッ!」と呻いて笑いを取ると、良夫は去っていくJCエルフたちの背を見送りながら、自らの不甲斐なさに打ち沈むのだった。
◇
それから、数分後。
気を取り直した良夫は、薄暗い小屋に目を慣らしながら自らの状況を改めて考察してみた。
JCやJKエルフの言葉から推察するに、良夫はどうやらこの『牧場』と呼ばれる小屋の中で働かされることになるらしい。
そしてその理由は良夫が『男』だから……
「やっぱり、そういうことだと期待してもいいんですかね……」
良夫は、期待を込めた声でそうつぶやいた。
余りにも良夫にとって都合のいい展開ではあるが、一応それを裏付ける情報も得ている。
棒に吊るされて移動する間、良夫はエルフの集落に視線を彷徨わせてみたが、予想していた通り女性の姿しか見つけられなかったのだ。
多分ではあるが、この世界のエルフには女性しか存在しないのではないだろうか。
そして、女性である以上増えるためには男が必要なわけで、だから男である良夫は殺されずに連れてこられた……
それらの情報をつなぎ合わせると、必然的に答えは見えてくる。
「うへへ……」
幸せな妄想に、良夫は締まりのない笑みを漏らした。
すると────
「……よう、新入り。随分と楽しそうだな」
そんな良夫に、闇の中から声をかけてくる存在があった。
「うわぁっ!?」
突然話しかけられ、驚愕する良夫。
「落ち着きな、新入り。お互いこんな境遇だが、自己紹介でもしようや。
俺の名前はジャック。ジャック・ハウザーだ。よろしくな」
やたらいい声が聞こえてくる方向に視線を向けて目を凝らすと、そこには筋骨逞しい西洋風のイケメンマッチョが鎖に繋がれて座り込んでいるのが見えた。
「ど、どうも、ジャックさん。良夫といいます」
ジャックに対し、良夫はどこにでもいるようなおっさんの声で自己紹介を返す。
「オーケー、ヨシオ。それで、お前はいったい何をして、こんなところに送られてきたんだ?」
「……なにをして、ですか? いえ、その、気づいたら森にいまして、そこでエルフさん達に捕まったと言いますか……」
流石に異世界から来ましたとは言えず、良夫は話をぼかしながらジャックに伝えた。
「なんてこったっ! 気づいたら森にいたってことは、何か事件に巻き込まれて、そのうえで森に捨てられたってところか?
まったく、ついてないなヨシオ。よりによってエルフの住む領域に捨てられるとは…………いや、むしろだからこそ、か?」
「はぁ……」
勝手に一人で納得していくジャックに、良夫は曖昧な返事を返す。
この世界の常識を何も知らないので、どう答えていいものか分からないからだ。
「ところで、ジャックさん」
「ジャックでいいぜ、ヨシオ」
「はぁ、では、ジャック。質問してもいいですか?」
だから良夫は、素直に尋ねてみることにした。
「ああ、いいぜ。なんでも聞きな。俺に答えられる事なら答えてやる」
男臭い笑みを浮かべながら、ジャックがそう答える。
どうやら外見だけではなく、中身もイケメンのようだ。
良夫としては、こういった人類カースト上位の人物には劣等感しか抱けないので苦手なのだが、互いに全裸で鎖に繋がれているこの状況では距離の取りようもない。
なので、ずっと気になっていることをストレートに聞いてみることにした。
「私は、これからどうなるのでしょう?」
「なに? お前、自分がどういう状況にあるのか理解してないのか? ……ああ、そうか。だからさっきは周りからエルフがいなくなって笑ってたのか。
それに、その体つきから察するに、どこかの貴族……もしくは王族ってところか?」
貴族どころか、会社の部下にすら下に見られていた良夫だが、もちろんあえて言う必要はないので黙っておく。
「……いや、余計なことを聞いた。こうなっては身分もクソもないよな」
良夫の無言を肯定と捉えたのか、ジャックはまたひとりで納得し、頷きながら哀れみの目を良夫に向けた。
「いいか、覚悟しておけヨシオ。今日は────人生で、一番長い日になる」
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