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第一部 第三章
国からの謝罪
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セックスで思ったよりも疲れていたらしく、アルの腕の中でアルの体温を感じながら眠った。俺の髪を撫でるアルの大きな手がとても気持ちよくて、目を瞑ってしまえば、眠りに落ちるのはあっという間だった。
幸せな夢のような眠りから覚めれば、アルから紋章や番、異世界人について教えてくれた。
異世界人は幸福をもたらす天使と伝承の中で言い伝えられているらしい。俺がいることでアルが幸せになるのだろうか。どちらかといえば、俺の方が幸せを貰っているのに。
それから、何よりもプロポーズを受けた後が大変だった。アルと結婚するという事がどういうことか、この時俺にはわかっていなかったからだ。
少しずつこの世界の事を知ってから両親に会って欲しいと言われ、俺もそのつもりでいた。けれど、急にギルベルトが屋敷に訪れ、俺を王宮へ連れて行くと言い出したのだ。
何をされるのかと恐怖のあまり、アルの腕の中で俺は昏倒。その後ギルベルトは怒り狂ったアルにこってり絞られたらしい。
最近怒られ続きのため、当初恐ろしかったギルベルトが悪いことをして叱られる大型犬のようにしか見えなくなってしまった。反対にアルはどんどん勇ましくなっている気がする。
意識を取り戻した後に眉毛を吊り上げたアルに謝罪をしろと言われて、ギルベルトが額を床に擦りつけて俺に謝った。そこまでしなくても…とアルを見ても、にっこりと俺に笑みを向けてくれるだけだ。
ただ、王宮に行くことは決まっていたらしい。予定ではゆっくりと俺を説得して、王宮へ案内することになっていたのだけれど、異世界人が現れたという喜びのあまり、ギルベルトや国の中枢にかかわる人達、その上、国王までもフライングしたのだという。
国から直々に謝罪状が届き、それと共に招待状が同封されていた。
「これが召喚状だったら、絶対行かなかった。父上もそこまではバカじゃなかったみたいだ」
と不機嫌になりながらも、招待されてしまったなら行くしかないと、と溜息を吐いた。
「アル…、俺は王宮で何をさせられるの?」
「ティーロ、心配いらないよ。父に会うだけだから」
「それだけ…?」
不安なのが表情に出てしまっていたのか、アルが作業の手を止めて微笑んで俺を胸に囲い、俺の髪に顔を埋めた。
「うん。結婚を認めてもらえれば、邪魔が入らなくなってこれから楽になるんだ。何か話しかけられたとしても、特に答える必要はないし、俺の横にいてくれれば、すべてはうまくいくからね」
下手に口出ししない方が良いんだろう。俺は「わかった」と返事をして、アルの胸に顔を埋めた。そうすれば、髪をいじられ、つむじにはアルのキスが降ってくる。耳元で「ティーロ」と囁かれれば、頭の中が蕩けてしまいそうだ。
こんな甘い関係を今まで経験したことがない。カッカと上気し始めた頬を見られないように、俺はアルの服をギュっと掴んで離さなかった。
「ハァ、これも訓練…」
と呟いた。俺は意味が分からず、つい出てしまった独り言だろうと、何も返さなかった。
「あぁ…本当に天使様が…」
少し歳を召してはいるけれど、威厳を纏った人物が俺の前に跪いて、俺に向かって手を延ばした。アルが横にいてくれるけれど、体がこわばり呼吸が乱れる。
王宮に連れてこられて好奇な目に晒され、緊張が限界まで達していたのかもしれない。
その手が俺に触れる前に、避ける様にしてアルが俺の事を引き寄せてくれた。
「父上。ティーロには触れないようにお願い致します」
「あ、ああ…」
その人はアルの父親だったらしい。アルから会わせたいと言われていたご両親は王宮にいたようだ。アルのお父さんは心底残念そうな表情で手持無沙汰になった手をマントの中にしまいながらヨロヨロと立ち上がった。
「ティーロに触れられるとお思いになるなど、虫が良すぎるのではありませんか?」
アルがいつになく無表情で棘のある言葉を向けた。アルはお父さんとあまり仲が良くないようだ。ギルベルトも横で大きく頷いているから、お父さんに何か非があっての事なんだろう。
「そ、そのことは、……すまなかった。まさか、天使様だとは…」
「ティーロが天使でなければ、何をなさるつもりだったのですか?」
「いや…ち、違うんだ。私は決して…その…ただお前に早く結婚をと、だな…」
アルのお父さんはタジタジだ。額には玉の汗が浮き出ている。
せっかくの親子なのだから、仲良くしてほしいと思う。俺には物心ついた時から父親がいなかったから。それに、唯一肉親である母さんまで失ってしまったから。
俺はアルの服をギュっと握った。そうすれば、アルは俺に優しく微笑み、「大丈夫」と小さく囁いた。
「では、ティーロとの結婚を認めて頂けると?」
「も、もちろんだ! これほど祝福すべきことはないからな!」
「嬉しいお言葉を賜り恐縮です。では、そのように通達を出していただけますか?」
「当然だ。私が責任を持って行おう。天使様がこの国にいて――」
「父上、ティーロの名は天使ではなくティーロです」
言葉を遮るようにアルが言えば、アルのお父さんは一度口を噤んでから、アルの目を見つめおもむろに頷いた。
「相分かった。アルベルトとティーロの結婚を正式に認め、公表しよう」
アルはその言葉にしっかりと頷き返し、俺の横で床に膝をついて、映画などで良く見る最敬礼とされる姿を取った。俺も慌てて見よう見まねでしようとしたけれど、アルのお父さんに止められた。
アルがしているのに…と困惑しながらも、心の中で頭を下げておく。こちらの世界では結婚を両親に認めてもらわなければならないのだろう。こんな俺とアルとの結婚を認めてくれたのだから、感謝しなければいけない。
すると、アルのお父さんが俺の前にまた跪いて、
「この世に落とされたのち、貴公が受けた非道な仕打ち全てに対し、国を代表してお詫び申し上げる」
と首を垂れたのだった。
この世界に来てから受けた侮辱の痕が消えるわけではないけれど、それを覆してしまうのではないかと思えるほどに、気圧されるほど重く情の籠った謝罪だった。
幸せな夢のような眠りから覚めれば、アルから紋章や番、異世界人について教えてくれた。
異世界人は幸福をもたらす天使と伝承の中で言い伝えられているらしい。俺がいることでアルが幸せになるのだろうか。どちらかといえば、俺の方が幸せを貰っているのに。
それから、何よりもプロポーズを受けた後が大変だった。アルと結婚するという事がどういうことか、この時俺にはわかっていなかったからだ。
少しずつこの世界の事を知ってから両親に会って欲しいと言われ、俺もそのつもりでいた。けれど、急にギルベルトが屋敷に訪れ、俺を王宮へ連れて行くと言い出したのだ。
何をされるのかと恐怖のあまり、アルの腕の中で俺は昏倒。その後ギルベルトは怒り狂ったアルにこってり絞られたらしい。
最近怒られ続きのため、当初恐ろしかったギルベルトが悪いことをして叱られる大型犬のようにしか見えなくなってしまった。反対にアルはどんどん勇ましくなっている気がする。
意識を取り戻した後に眉毛を吊り上げたアルに謝罪をしろと言われて、ギルベルトが額を床に擦りつけて俺に謝った。そこまでしなくても…とアルを見ても、にっこりと俺に笑みを向けてくれるだけだ。
ただ、王宮に行くことは決まっていたらしい。予定ではゆっくりと俺を説得して、王宮へ案内することになっていたのだけれど、異世界人が現れたという喜びのあまり、ギルベルトや国の中枢にかかわる人達、その上、国王までもフライングしたのだという。
国から直々に謝罪状が届き、それと共に招待状が同封されていた。
「これが召喚状だったら、絶対行かなかった。父上もそこまではバカじゃなかったみたいだ」
と不機嫌になりながらも、招待されてしまったなら行くしかないと、と溜息を吐いた。
「アル…、俺は王宮で何をさせられるの?」
「ティーロ、心配いらないよ。父に会うだけだから」
「それだけ…?」
不安なのが表情に出てしまっていたのか、アルが作業の手を止めて微笑んで俺を胸に囲い、俺の髪に顔を埋めた。
「うん。結婚を認めてもらえれば、邪魔が入らなくなってこれから楽になるんだ。何か話しかけられたとしても、特に答える必要はないし、俺の横にいてくれれば、すべてはうまくいくからね」
下手に口出ししない方が良いんだろう。俺は「わかった」と返事をして、アルの胸に顔を埋めた。そうすれば、髪をいじられ、つむじにはアルのキスが降ってくる。耳元で「ティーロ」と囁かれれば、頭の中が蕩けてしまいそうだ。
こんな甘い関係を今まで経験したことがない。カッカと上気し始めた頬を見られないように、俺はアルの服をギュっと掴んで離さなかった。
「ハァ、これも訓練…」
と呟いた。俺は意味が分からず、つい出てしまった独り言だろうと、何も返さなかった。
「あぁ…本当に天使様が…」
少し歳を召してはいるけれど、威厳を纏った人物が俺の前に跪いて、俺に向かって手を延ばした。アルが横にいてくれるけれど、体がこわばり呼吸が乱れる。
王宮に連れてこられて好奇な目に晒され、緊張が限界まで達していたのかもしれない。
その手が俺に触れる前に、避ける様にしてアルが俺の事を引き寄せてくれた。
「父上。ティーロには触れないようにお願い致します」
「あ、ああ…」
その人はアルの父親だったらしい。アルから会わせたいと言われていたご両親は王宮にいたようだ。アルのお父さんは心底残念そうな表情で手持無沙汰になった手をマントの中にしまいながらヨロヨロと立ち上がった。
「ティーロに触れられるとお思いになるなど、虫が良すぎるのではありませんか?」
アルがいつになく無表情で棘のある言葉を向けた。アルはお父さんとあまり仲が良くないようだ。ギルベルトも横で大きく頷いているから、お父さんに何か非があっての事なんだろう。
「そ、そのことは、……すまなかった。まさか、天使様だとは…」
「ティーロが天使でなければ、何をなさるつもりだったのですか?」
「いや…ち、違うんだ。私は決して…その…ただお前に早く結婚をと、だな…」
アルのお父さんはタジタジだ。額には玉の汗が浮き出ている。
せっかくの親子なのだから、仲良くしてほしいと思う。俺には物心ついた時から父親がいなかったから。それに、唯一肉親である母さんまで失ってしまったから。
俺はアルの服をギュっと握った。そうすれば、アルは俺に優しく微笑み、「大丈夫」と小さく囁いた。
「では、ティーロとの結婚を認めて頂けると?」
「も、もちろんだ! これほど祝福すべきことはないからな!」
「嬉しいお言葉を賜り恐縮です。では、そのように通達を出していただけますか?」
「当然だ。私が責任を持って行おう。天使様がこの国にいて――」
「父上、ティーロの名は天使ではなくティーロです」
言葉を遮るようにアルが言えば、アルのお父さんは一度口を噤んでから、アルの目を見つめおもむろに頷いた。
「相分かった。アルベルトとティーロの結婚を正式に認め、公表しよう」
アルはその言葉にしっかりと頷き返し、俺の横で床に膝をついて、映画などで良く見る最敬礼とされる姿を取った。俺も慌てて見よう見まねでしようとしたけれど、アルのお父さんに止められた。
アルがしているのに…と困惑しながらも、心の中で頭を下げておく。こちらの世界では結婚を両親に認めてもらわなければならないのだろう。こんな俺とアルとの結婚を認めてくれたのだから、感謝しなければいけない。
すると、アルのお父さんが俺の前にまた跪いて、
「この世に落とされたのち、貴公が受けた非道な仕打ち全てに対し、国を代表してお詫び申し上げる」
と首を垂れたのだった。
この世界に来てから受けた侮辱の痕が消えるわけではないけれど、それを覆してしまうのではないかと思えるほどに、気圧されるほど重く情の籠った謝罪だった。
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