1 / 1
「おまえのような年増とは婚約破棄だ」と言われましたが、あなたが選んだ妹って、実は私より年上なんですよね
しおりを挟む
「アイリア、おまえのような年増とは婚約破棄だ。ゴルドディ家の次期当主たる俺にふさわしいのは、若くて愛らしいレーシャだ」
「ごめんなさいお姉さま。でも、若い私の方がグリオドフ様にふさわしいでしょう?」
レーシャは甘ったるい声で言って、グリオドフ様にすがりつきました。わたくしからすれば実に慣れきった娼婦のやり口で、若々しさのかけらもないのですが。
このようなことを食堂でやり始めたので、周囲は迷惑と好奇心の視線を向けています。たった十ヶ月早く生まれたわたくしを「年増」などと言うので、女生徒の多くからは「死ねばいいのに」という目を向けられていますね。
「まあそうですの。相性のよい二人でしたのね」
婚約破棄はむしろありがたいのですが、わたくしに対する侮辱には反撃せねばなりませんね。そもそも次期当主はわたくしで、グリオドフ様が次期当主だったことは一度もありません。
「そうだ。年増のおまえと違い、レーシャは可愛い年下だ。不本意ながらおまえと婚約していた間も、まるで妹のように接していた。これほど愛らしい女はいない……」
妹のように接していて、どうして肉体関係を持つのか、わたくしにはさっぱりわかりません。周囲も、かなり汚物を見る目になりましたよ。
「ふふっ、そうよ、私とグリオドフ様は運命で結ばれているの……」
うっとりとしたレーシャに、私はすかさず聞きました。
「生まれ年も水と風だから?」
「ええ! 水の年に生まれたグリオドフ様の背中を押してあげられるのは、風の年に生まれた私。相性ぴったりですものね!」
「えっ?」
グリオドフ様が驚いた顔をしました。
水だの風だのというのは、近頃流行の占いでの言い方です。水はグリオドフ様の生まれ年を意味します。
そして風を持つのは、グリオドフ様より一つ年上の人間です。
「あっ! 違ったわ、ご、ごめんなさい、間違えちゃった!」
「はは、レーシャは本当に可愛いな。君が風のはずがないだろう」
私は更に質問しました。
「レーシャ、それじゃ、あなたの生まれ年って平民歴では何年だったかしら?」
「へ、平民歴は……貴族歴ではヘズティア43年よ!」
「ふうん。平民として12年育ったのに、すぐ忘れてしまうものなのね」
「そんなことないわ、平民歴では163……2年よ!」
「それだとグリオドフ様の2つ上になっちゃうけど?」
「お、おねえさまが意地悪言うから! 164年よ!」
「レーシャ、落ち着け。自分の生まれ年を忘れるやつがいるか」
「忘れているのではなくて、残念ながらレーシャは年齢を偽装できる頭を持っていないのですわ。貴族歴だけは教え込まれましたけれど」
「偽装だと? 何を馬鹿な……」
そう言いながらも、グリオドフ様は少し疑念のこもった目でレーシャを見ました。
レーシャの顔が青ざめていきます。そして「そんなわけ、ないじゃないですかあ……」とひきつった笑顔を浮かべました。あからさまに怪しいですよ。
ですがグリオドフ様も同類でしょう。わたくしくらいの年で、一つ二つの差なんてわからないものです。大人っぽい女性も、子供っぽい女性もいます。
それをわざわざ年増年増と言うなんて、何も見えていないとしか思えません。
「父が母と婚姻する時、三年は不貞しないという契約だったのですけれど、すぐさま不貞したのですわ。それで生まれたのがレーシャ。その一年後にわたくしが生まれましたの。契約違反を知られれば祖父の支援は得られませんから、レーシャの年齢を偽り、当家に引き取るさいも、わたくしの妹としたのですわ」
「いや……そんな……まさか……」
「わたくしとの婚約を破棄して、年上のレーシャを選ぶなんて。年増年増と言われましたけれど、実はグリオドフ様って年増がお好きだったのですね」
「はあっ!?」
「嫌よ嫌よも好きのうちと言いますものね。祝福しますわ」
「そ、な……いや、レーシャ! 騙したのか!?」
「騙したなんて……っ! 違います、おねえさまが嘘をついてるんです! おねえさまに騙されてるんです!
「そう……なのか? そうだろう! かわいいお前が年増のはずがない! アイリア、なんという卑劣な真似を……」
「レーシャが育ったのは裕福な商家ですから、調べれば情報は残っていると思いますよ? 節々の記念日には父もかなりお金をかけたようですから」
「お姉さま!!!!」
「まあ怖いわ、お姉さま。妹には優しくしてくださいませ?」
わたくしは鼻で笑って、この茶番に背を向けました。
今までわたくしがこのことを黙っていたのは、レーシャが長子と知られれば、次期当主候補となってもおかしくなかったからです。無駄な醜聞や争いは避けるべきと考えました。お父様にもさっさと引退して貰わなければなりませんし。
学園に入って、レーシャはかなり残念な成績をおさめ、姉の婚約者とイチャイチャし続けて評判を落としました。もう公表しても構わないでしょう。
「……アイリア! 待ってくれ、アイリア! この女に騙されて、君の良さが目に入らなくなっていたんだ! 姉を妹と呼ばされていたなんて、今まで大変だっただろう、君こそが我が運命……」
「待って、グリオドフ様! 愛があればっ、年なんて……っ!」
「黙れ、この真の年増め!」
「なんですってぇえええええ!?」
「ぐあぁっ!?」
背後から妹フェチと、自分が言われるのは耐えられない女の声が聞こえましたが、完全に無視しました。これだけの人の前で主張したのですから、しっかり結婚してもらいましょう。
妹は、いえ、姉は平民育ちのせいか言いたいことを我慢しませんから、実際お似合いだと思いますわ。
わたくしはちゃんとした婚約者をようやく決められます。ずっと待っていてくださった方がいるので……ふふ、これから忙しくなりますわ。
「ごめんなさいお姉さま。でも、若い私の方がグリオドフ様にふさわしいでしょう?」
レーシャは甘ったるい声で言って、グリオドフ様にすがりつきました。わたくしからすれば実に慣れきった娼婦のやり口で、若々しさのかけらもないのですが。
このようなことを食堂でやり始めたので、周囲は迷惑と好奇心の視線を向けています。たった十ヶ月早く生まれたわたくしを「年増」などと言うので、女生徒の多くからは「死ねばいいのに」という目を向けられていますね。
「まあそうですの。相性のよい二人でしたのね」
婚約破棄はむしろありがたいのですが、わたくしに対する侮辱には反撃せねばなりませんね。そもそも次期当主はわたくしで、グリオドフ様が次期当主だったことは一度もありません。
「そうだ。年増のおまえと違い、レーシャは可愛い年下だ。不本意ながらおまえと婚約していた間も、まるで妹のように接していた。これほど愛らしい女はいない……」
妹のように接していて、どうして肉体関係を持つのか、わたくしにはさっぱりわかりません。周囲も、かなり汚物を見る目になりましたよ。
「ふふっ、そうよ、私とグリオドフ様は運命で結ばれているの……」
うっとりとしたレーシャに、私はすかさず聞きました。
「生まれ年も水と風だから?」
「ええ! 水の年に生まれたグリオドフ様の背中を押してあげられるのは、風の年に生まれた私。相性ぴったりですものね!」
「えっ?」
グリオドフ様が驚いた顔をしました。
水だの風だのというのは、近頃流行の占いでの言い方です。水はグリオドフ様の生まれ年を意味します。
そして風を持つのは、グリオドフ様より一つ年上の人間です。
「あっ! 違ったわ、ご、ごめんなさい、間違えちゃった!」
「はは、レーシャは本当に可愛いな。君が風のはずがないだろう」
私は更に質問しました。
「レーシャ、それじゃ、あなたの生まれ年って平民歴では何年だったかしら?」
「へ、平民歴は……貴族歴ではヘズティア43年よ!」
「ふうん。平民として12年育ったのに、すぐ忘れてしまうものなのね」
「そんなことないわ、平民歴では163……2年よ!」
「それだとグリオドフ様の2つ上になっちゃうけど?」
「お、おねえさまが意地悪言うから! 164年よ!」
「レーシャ、落ち着け。自分の生まれ年を忘れるやつがいるか」
「忘れているのではなくて、残念ながらレーシャは年齢を偽装できる頭を持っていないのですわ。貴族歴だけは教え込まれましたけれど」
「偽装だと? 何を馬鹿な……」
そう言いながらも、グリオドフ様は少し疑念のこもった目でレーシャを見ました。
レーシャの顔が青ざめていきます。そして「そんなわけ、ないじゃないですかあ……」とひきつった笑顔を浮かべました。あからさまに怪しいですよ。
ですがグリオドフ様も同類でしょう。わたくしくらいの年で、一つ二つの差なんてわからないものです。大人っぽい女性も、子供っぽい女性もいます。
それをわざわざ年増年増と言うなんて、何も見えていないとしか思えません。
「父が母と婚姻する時、三年は不貞しないという契約だったのですけれど、すぐさま不貞したのですわ。それで生まれたのがレーシャ。その一年後にわたくしが生まれましたの。契約違反を知られれば祖父の支援は得られませんから、レーシャの年齢を偽り、当家に引き取るさいも、わたくしの妹としたのですわ」
「いや……そんな……まさか……」
「わたくしとの婚約を破棄して、年上のレーシャを選ぶなんて。年増年増と言われましたけれど、実はグリオドフ様って年増がお好きだったのですね」
「はあっ!?」
「嫌よ嫌よも好きのうちと言いますものね。祝福しますわ」
「そ、な……いや、レーシャ! 騙したのか!?」
「騙したなんて……っ! 違います、おねえさまが嘘をついてるんです! おねえさまに騙されてるんです!
「そう……なのか? そうだろう! かわいいお前が年増のはずがない! アイリア、なんという卑劣な真似を……」
「レーシャが育ったのは裕福な商家ですから、調べれば情報は残っていると思いますよ? 節々の記念日には父もかなりお金をかけたようですから」
「お姉さま!!!!」
「まあ怖いわ、お姉さま。妹には優しくしてくださいませ?」
わたくしは鼻で笑って、この茶番に背を向けました。
今までわたくしがこのことを黙っていたのは、レーシャが長子と知られれば、次期当主候補となってもおかしくなかったからです。無駄な醜聞や争いは避けるべきと考えました。お父様にもさっさと引退して貰わなければなりませんし。
学園に入って、レーシャはかなり残念な成績をおさめ、姉の婚約者とイチャイチャし続けて評判を落としました。もう公表しても構わないでしょう。
「……アイリア! 待ってくれ、アイリア! この女に騙されて、君の良さが目に入らなくなっていたんだ! 姉を妹と呼ばされていたなんて、今まで大変だっただろう、君こそが我が運命……」
「待って、グリオドフ様! 愛があればっ、年なんて……っ!」
「黙れ、この真の年増め!」
「なんですってぇえええええ!?」
「ぐあぁっ!?」
背後から妹フェチと、自分が言われるのは耐えられない女の声が聞こえましたが、完全に無視しました。これだけの人の前で主張したのですから、しっかり結婚してもらいましょう。
妹は、いえ、姉は平民育ちのせいか言いたいことを我慢しませんから、実際お似合いだと思いますわ。
わたくしはちゃんとした婚約者をようやく決められます。ずっと待っていてくださった方がいるので……ふふ、これから忙しくなりますわ。
300
お気に入りに追加
71
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
その令嬢は、実家との縁を切ってもらいたい
キョウキョウ
恋愛
シャルダン公爵家の令嬢アメリは、学園の卒業記念パーティーの最中にバルトロメ王子から一方的に婚約破棄を宣告される。
妹のアーレラをイジメたと、覚えのない罪を着せられて。
そして、婚約破棄だけでなく公爵家からも追放されてしまう。
だけどそれは、彼女の求めた展開だった。
『スキルなし』だからと婚約を破棄されましたので、あなたに差し上げたスキルは返してもらいます
七辻ゆゆ
恋愛
「アナエル! 君との婚約を破棄する。もともと我々の婚約には疑問があった。王太子でありスキル『完全結界』を持つこの私が、スキルを持たない君を妻にするなどあり得ないことだ」
「では、そのスキルはお返し頂きます」
殿下の持つスキル『完全結界』は、もともとわたくしが差し上げたものです。いつも、信じてくださいませんでしたね。
(※別の場所で公開していた話を手直ししています)
【完結】「今日から私は好きに生きます! 殿下、美しくなった私を見て婚約破棄したことを後悔しても遅いですよ!」
まほりろ
恋愛
婚約者に浮気され公衆の面前で婚約破棄されました。
やったーー!
これで誰に咎められることなく、好きな服が着れるわ!
髪を黒く染めるのも、瞳が黒く見える眼鏡をかけるのも、黒か茶色の地味なドレスを着るのも今日で終わりよーー!
今まで私は元婚約者(王太子)の母親(王妃)の命令で、地味な格好をすることを強要されてきた。
ですが王太子との婚約は今日付けで破棄されました。
これで王妃様の理不尽な命令に従う必要はありませんね。
―――翌日―――
あら殿下? 本来の姿の私に見惚れているようですね。
今さら寄りを戻そうなどと言われても、迷惑ですわ。
だって私にはもう……。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
婚約破棄するですって?最初から婚約なんてしていませんけど…頭のおかしな方ね
香木あかり
恋愛
「アイリーン、君とは婚約破棄させてもらう。僕と結婚しても君の身分では苦労するだろう?分かってくれ、これは君のためでもあるんだ。僕はドロシーと結婚する事にする!伯爵家同士だから釣り合っているだろう?」
身分も釣り合って財力もある娘を手に入れたら、私は用済みのようですね。
婚約してから半年間、ずっと浮気をなさっていたのに「私のため」だなんて白々しい。
ロバート様、なんて品がないのかしら。そんな方のために花嫁修行をさせられていたなんて……屈辱だわ。
お父様の許可も得たし、好きに復讐させてもらいます。
「婚約破棄するですって?最初から婚約なんてしていませんけど…頭のおかしな方ね」
※複数サイトにて掲載中です
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?
久遠りも
恋愛
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?
※一話完結です。
ゆるゆる設定です。
【完結】王女の婚約者をヒロインが狙ったので、ざまぁが始まりました
miniko
恋愛
ヒロイン気取りの令嬢が、王女の婚約者である他国の王太子を籠絡した。
婚約破棄の宣言に、王女は嬉々として応戦する。
お花畑馬鹿ップルに正論ぶちかます系王女のお話。
※タイトルに「ヒロイン」とありますが、ヒロインポジの令嬢が登場するだけで、転生物ではありません。
※恋愛カテゴリーですが、ざまぁ中心なので、恋愛要素は最後に少しだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる