地味男はイケメン元総長

緋村燐

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四章 校外学習そして

校外学習準備

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 何だかんだで中間テストが終わると、すぐに校外学習の準備が始まる。
 ホームルームの時間を使って、主に二日目の自由行動について決めていく。
 先生からはいくつか指定されたお寺や神社など観光名所のうちどこか一つに必ず行くように、とだけ伝えられ、他は時間までに集合時間に来れるようスケジュールを好きに決めて良いらしかった。
 ただ、そのスケジュールを先生たちが確認するので変な場所やただ遊びに行くためだけの場所は控えるように、とだけ伝えられる。
 行くな、ではなく控えるように、と言っている辺り多少羽目を外してしまうのは仕方ないと思われている気がする。

「ま、あくまで学習だからなー。取りあえず指定された場所決めて、その付近で他の場所決めるのが一番じゃね?」
 という工藤くんの言葉に皆同意し、まずは指定の場所を見ていく。
 指定の場所についてはあとでレポートを書かなきゃならないらしいので、少しでも興味のある所に行くといいかも、と意見が出る。
 確かに興味のある方が熱心に話とかも聞けそうだし、良いかもしれない。
「武家屋敷とかカッコ良くね?」
 工藤くんがそう言ったけれど、花田くんに「カッコ良さだけで決めて、どうレポート書く気?」と聞かれて即座に却下した。

「私だったら断然ここ」
 そう言って若者に人気の店が立ち並ぶストリートを指したのは美智留ちゃんだ。
 そこから取りあえず自分の行ってみたいところを出してみる。
「私は……服飾の歴史博物館とか……」
 少しでも美容に関係ある方が関心持てるかなと思って言ってはみたけれど、男性陣、主に工藤くんに不評ですぐに候補から無くなった。

 そうしてあーだこうだと相談した結果、無難な形で動物園になった。

 動物が嫌いな人はいなかったし、何種類もいるから興味のある動物に絞ればレポートも書きやすいだろうということで。
 そして午前中いっぱいは動物園と決めて、午後からのスケジュールを決めていく。
 といっても行けるのは二つか三つくらい。
 集合場所のことも考えてあまり離れた場所は行けない。
 そんな中でもここに行きたい!って場所が工藤くんにはあったらしくて、そこに行くことに決まった。


 そんな感じで日々準備が進んでいく中、日高くんの様子が少しおかしいと気付いたのは校外学習の前日だった。
 校外学習の話をするときは口数が少ない気がするとは思っていたけれど、前日の今日は何だか考え込んでいる様子も見て取れたから。
「なぁ、一緒に帰らねぇ?」
 ショートホームルームが終わると、私の机のところまで来た日高くんに誘われた。
 彼が何か考え込んでいることに気付いていた私も、今日は一緒に帰ろうかと思っていたのですぐに「いいよ」と答える。
 そうしてしばらく一緒に歩いていたけれど、日高くんは何も話さない。
 だから私から聞いた。

「今日は特に何か考え込んでいたけれど、どうしたの?」
 私の質問に日高くんは「あー」と少し言葉をにごす。
「まず話せる場所に移動するか」
 そう言った彼と、私はいつぞやの公園へ足を運んだ。
 前にここに来た時のことを思い出すと恥ずかしくなるけれど、今日はその手の話をしに来たわけじゃない。
 気を取り直して、私は日高くんの話を聞く体勢になった。
「……お前にはさ、俺の実家は隣の県だって言ったよな?」
「うん、確か聞いた」
 何で今の学校に入ったのか聞いた時に教えて貰ったはず。

「で、今回の校外学習も隣の県ってわけだ」
「そう、だね」
 相槌を打ちながらまさかと思う。
「……校外学習の自由行動の街、俺の地元なんだよ」
 まさかが事実になった。
「え? でも校外学習の話してるとき今まで一度もそんな事言わなかったよね?」
 街を良く知っているなら、自由行動のスケジュールを決めるときに教えてくれても良かったはずだ。
 そう思って疑問を口にしたけれど、すぐにそれが無理だったことを理解する。
「俺が総長やってた時に歩き回ってた街だぞ? ボロが出ても困るから黙ってたんだよ」
「あ」
 そうだった。
 日高くんの地元という事はそういう事で、元不良仲間がいてもおかしくない場所なんだ。

「それで口数も少なかったし、考え込んでいたんだ?」
 確認のためそう聞くと、日高くんは「ああ」と返事をしつつ浮かない顔をしている。
「何か心配ごとでもあるの?」
 続けて問うと、眉間にしわを寄せながら答えてくれた。
「まあ、平日だし同中の奴らとかはいねぇだろうけどよ。火燕のメンバーの大人組とか、敵対してたやつらとかは出歩いてないとは言い切れねぇ。いくら地味な格好してるとは言え、気付く奴は気付くしな……」
 と不安を吐露する。

「……気にし過ぎじゃない?」
 普通に校外学習していて、不良に絡まれるなんて想像もつかない。
 私がそう言うと、日高くんも「そうは思うんだけどな」と返しつつ私を見た。
「万が一、お前にまで危害が及ばねぇかと気が気じゃねぇんだよ」
 本気で心配している様子に、私は何度か瞬きをして少し目を逸らす。
 どんな顔をすれば良いのか分からない。

 そんな事あり得ないと笑い飛ばせば良いのか。
 心配してくれてありがとうと言うべきなのか。
 迷って、結局は無難に「大丈夫だよ」と二ヘラッと笑った。
「気にし過ぎだって、不良の溜まり場に突っ込むわけじゃないんだし。それに何より楽しみにして行った方がいいでしょう?」
 座っていたベンチから立ち上がり、私は日高くんの前に来る。
「私は楽しみだよ? みんなと行ける校外学習」
 少し屈みつつ、見下ろす。
 そんな私を見た日高くんは少し不満顔。
「みんな、ね……」
 見下ろされるのが嫌なのかと一瞬思ったが、何だが違うみたいだ。

「そこは俺と一緒に行けるのが楽しみって言ってくれると、俺も嬉しいんだけどな?」
「……またそういう事言って……」
 からかって来る様子に今度は私が不満顔になる。
 何だか誤魔化された様な感じになったけれど、日高くんの心配事は考えても仕方のない事だからそれで良かったのかもしれない。
 とにかく、これでみんなで楽しみにしながら明日の校外学習に備えられるだろう。


 この時の私はそう安心していた。
 まさかその心配事が的中するなんて思いもせず……。
 こういうのをフラグが立ったというんだろうなって、後になってから気付いた。
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