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一章 メイクオタク地味子
お化け屋敷②
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「噂を聞かなくなったと思ったら、そんな地味な格好で身を隠してたなんてなぁ」
そう言って、お兄さんは何かを取り出した。
カチカチと音がして何かが伸びるのを見て、カッターだと分かる。
……何? どうしてカッターなんて……。
見た感じ百均でも買えるような、文具としてのカッターみたいだから危険性は少ない。
でもこの状況で刃物を出してくるとか不穏でしかない。
「アニキの敵、ここで取らせてもらうぜ!」
お兄さんはそう言ってカッターを振り上げてこっちに向かってきた。
ドンッ
と、私は日高くんに押される。
たたらを踏んで、壁際で尻もちをつく。
巻き込まれないようにと押したんだろうけれど、いきなり過ぎてビックリする。
日高くんの方を見ると、丁度カッターが顔の近くを通り過ぎるところだった。
ちゃんと避けてはいるみたいだったけれど、少しは当たってるかも知れない。
人生で初めて遭遇する暴力的なシーンに、ドクドクと血流が早くなる。
これは、どうすれば。
ううん、この場合私は何もせずに大人しくしておいた方がいいんだよね。多分。
お兄さんの目標は日高くんだけだ。
どうなるとしても、私に危害が及ぶことは無い。
とは言え、明らかに日高くんが襲われている状況。
出来ることなら助けたい。
でもどうすれば……。
「お前のせいでアニキはバイクで事故って刑務所行きになったんだ! 責任とれ!」
そう言ってお兄さんはカッターを振り回す。
何言ってるの?
日高くんのせいってどういうこと?
言葉の内容にも混乱する。
でも、日高くんはそれを鼻で笑った。
「ああ、思い出した。お前西村の舎弟か」
余裕でお兄さんの攻撃を避けながら話す日高くん。
「あれは完全に自業自得だろ。生意気だってケンカ吹っかけてきて、負けたからってバイクで逃げてった時に事故ったんだろ? しかも飲酒してたとか。被害者が軽いケガで済んで良かったよ」
「うっせぇ! 何にしたってお前のせいなんだよ!」
日高くんの話をお兄さんは否定しない。
という事は日高くんの言っていることは間違っていないんだろう。
完全なる逆恨みだ。
でもそれより、日高くんがケンカ?
そんな事とは縁がなさそうな人だと思っていたのに……。
でも今目の前で繰り広げられているものはまさにケンカで、しかも日高くんの方は余裕がある。
「ったく……人が頑張って地味ーに過ごしてたってのに。てめぇのせいで一人バレちまったじゃねぇか」
そう言って似合わないメガネを取って私の方に放り投げる。
慌てて受け止めたけど……。
持ってろってこと?
なんだか使われてる感じで微妙に不満。
睨みつけるけど、日高くんはこっちを見ていなかった。
視界を広げるためか、長めの髪をかき上げている。
初めてまともに日高くんの顔を見た私は、息を呑んだ。
凛々しい眉に、均整のとれた目。
高過ぎず低すぎない鼻は形も良い。
輪郭も整っていて、唇には妖艶さまで感じる。
その口元には少し赤いものが見える。
やっぱり最初の攻撃で少し切られていたんだ。
美形って、こんな顔の人のことを言うんだろうと思った。
イケメンって一言で言っても、人には好みがあるしそう思わないって人もいるだろう。
でも日高くんの顔は十人中十人がカッコイイって言うと確信できる。
いや、もしかしたら百人中百人でも言うかもしれない。
それくらいのイケメン。
何で地味男なんてしてるんだろう?
事情がありそうな言い方してたけど……。
「てめぇの事情なんか知るか! その嫌なくらい整った顔に傷でも残さねぇと気がすまねぇんだよ!」
八つ当たり発言をしながら、お兄さんが日高くんの顔めがけてカッターを振り下ろす。
「あ――」
危ない! と叫ぼうとしたけれど、日高くんは余裕でカッターを持っている腕を掴み捻りあげた。
「うっくっ、あぁ……」
手に力が入らなくなったのか、お兄さんはカッターを落とす。
カッターが落ちたと思ったら、日高くんはお兄さんの腹に一発拳を入れた。
「っ! ぐっはっ!」
かなり強い一発だったのか、お兄さんはそのままうずくまって倒れてしまう。
「ぐうぅ……」
と唸っていて、しばらく動けそうにないみたいだ。
取りあえずの危機は脱したみたいだけど、ドクドクと早い血流はまだ収まりそうにない。
何が起こったのか、展開が早くて頭が追いつけない。
スタッフのお兄さんが八つ当たりで刃物持ち出して来て。
地味男だと思った日高くんはイケメンで。
ケンカが強くて……。
思い返してもどうなっているのかよく分からない。
混乱しながらもずっと日高くんを見ていたら、こちらを見た彼と目が合う。
探る様な……いや違う。
獲物を逃がさないように観察している目だ。
逃げようとしたらその瞬間食らいついて来る様な、そんな肉食獣の様な目。
私は蛇に睨まれたカエル状態で動けなかった。
身構えて、ただ日高くんが近付いて来るのを待つことしか出来ない。
唇近くの傷から流れた血を指で拭う。
妖しく、艶やかささえも感じる仕草にクラクラした。
「なぁ……俺の秘密、知っちゃった?」
近付いて目の前でしゃがんだ日高くんは、口調をわずかにいつものものに戻してそう言った。
肉食獣の目はそのままで、弧を描いた口元に視線が釘付けになる。
「俺とヒミツの関係、なってよ?」
甘く誘惑するようなその言葉に、私は……。
……私は……。
「すっごくもったいない!!」
思わずそう叫んだ。
そう言って、お兄さんは何かを取り出した。
カチカチと音がして何かが伸びるのを見て、カッターだと分かる。
……何? どうしてカッターなんて……。
見た感じ百均でも買えるような、文具としてのカッターみたいだから危険性は少ない。
でもこの状況で刃物を出してくるとか不穏でしかない。
「アニキの敵、ここで取らせてもらうぜ!」
お兄さんはそう言ってカッターを振り上げてこっちに向かってきた。
ドンッ
と、私は日高くんに押される。
たたらを踏んで、壁際で尻もちをつく。
巻き込まれないようにと押したんだろうけれど、いきなり過ぎてビックリする。
日高くんの方を見ると、丁度カッターが顔の近くを通り過ぎるところだった。
ちゃんと避けてはいるみたいだったけれど、少しは当たってるかも知れない。
人生で初めて遭遇する暴力的なシーンに、ドクドクと血流が早くなる。
これは、どうすれば。
ううん、この場合私は何もせずに大人しくしておいた方がいいんだよね。多分。
お兄さんの目標は日高くんだけだ。
どうなるとしても、私に危害が及ぶことは無い。
とは言え、明らかに日高くんが襲われている状況。
出来ることなら助けたい。
でもどうすれば……。
「お前のせいでアニキはバイクで事故って刑務所行きになったんだ! 責任とれ!」
そう言ってお兄さんはカッターを振り回す。
何言ってるの?
日高くんのせいってどういうこと?
言葉の内容にも混乱する。
でも、日高くんはそれを鼻で笑った。
「ああ、思い出した。お前西村の舎弟か」
余裕でお兄さんの攻撃を避けながら話す日高くん。
「あれは完全に自業自得だろ。生意気だってケンカ吹っかけてきて、負けたからってバイクで逃げてった時に事故ったんだろ? しかも飲酒してたとか。被害者が軽いケガで済んで良かったよ」
「うっせぇ! 何にしたってお前のせいなんだよ!」
日高くんの話をお兄さんは否定しない。
という事は日高くんの言っていることは間違っていないんだろう。
完全なる逆恨みだ。
でもそれより、日高くんがケンカ?
そんな事とは縁がなさそうな人だと思っていたのに……。
でも今目の前で繰り広げられているものはまさにケンカで、しかも日高くんの方は余裕がある。
「ったく……人が頑張って地味ーに過ごしてたってのに。てめぇのせいで一人バレちまったじゃねぇか」
そう言って似合わないメガネを取って私の方に放り投げる。
慌てて受け止めたけど……。
持ってろってこと?
なんだか使われてる感じで微妙に不満。
睨みつけるけど、日高くんはこっちを見ていなかった。
視界を広げるためか、長めの髪をかき上げている。
初めてまともに日高くんの顔を見た私は、息を呑んだ。
凛々しい眉に、均整のとれた目。
高過ぎず低すぎない鼻は形も良い。
輪郭も整っていて、唇には妖艶さまで感じる。
その口元には少し赤いものが見える。
やっぱり最初の攻撃で少し切られていたんだ。
美形って、こんな顔の人のことを言うんだろうと思った。
イケメンって一言で言っても、人には好みがあるしそう思わないって人もいるだろう。
でも日高くんの顔は十人中十人がカッコイイって言うと確信できる。
いや、もしかしたら百人中百人でも言うかもしれない。
それくらいのイケメン。
何で地味男なんてしてるんだろう?
事情がありそうな言い方してたけど……。
「てめぇの事情なんか知るか! その嫌なくらい整った顔に傷でも残さねぇと気がすまねぇんだよ!」
八つ当たり発言をしながら、お兄さんが日高くんの顔めがけてカッターを振り下ろす。
「あ――」
危ない! と叫ぼうとしたけれど、日高くんは余裕でカッターを持っている腕を掴み捻りあげた。
「うっくっ、あぁ……」
手に力が入らなくなったのか、お兄さんはカッターを落とす。
カッターが落ちたと思ったら、日高くんはお兄さんの腹に一発拳を入れた。
「っ! ぐっはっ!」
かなり強い一発だったのか、お兄さんはそのままうずくまって倒れてしまう。
「ぐうぅ……」
と唸っていて、しばらく動けそうにないみたいだ。
取りあえずの危機は脱したみたいだけど、ドクドクと早い血流はまだ収まりそうにない。
何が起こったのか、展開が早くて頭が追いつけない。
スタッフのお兄さんが八つ当たりで刃物持ち出して来て。
地味男だと思った日高くんはイケメンで。
ケンカが強くて……。
思い返してもどうなっているのかよく分からない。
混乱しながらもずっと日高くんを見ていたら、こちらを見た彼と目が合う。
探る様な……いや違う。
獲物を逃がさないように観察している目だ。
逃げようとしたらその瞬間食らいついて来る様な、そんな肉食獣の様な目。
私は蛇に睨まれたカエル状態で動けなかった。
身構えて、ただ日高くんが近付いて来るのを待つことしか出来ない。
唇近くの傷から流れた血を指で拭う。
妖しく、艶やかささえも感じる仕草にクラクラした。
「なぁ……俺の秘密、知っちゃった?」
近付いて目の前でしゃがんだ日高くんは、口調をわずかにいつものものに戻してそう言った。
肉食獣の目はそのままで、弧を描いた口元に視線が釘付けになる。
「俺とヒミツの関係、なってよ?」
甘く誘惑するようなその言葉に、私は……。
……私は……。
「すっごくもったいない!!」
思わずそう叫んだ。
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