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異界を渡るマレビト
帰り道
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「本当にもう行っちゃうの? ルミルもお別れしたいと思うんだけど……」
「うん。用事は終わったし、私は禁忌を犯した聖女ってことになっちゃったからね」
私が泣き止んだあと、ある程度街の様子が落ち着くまでの間にラミラとマーガレットさんには簡単に私たちの事情を話した。
私たちはやるべきことがあって、ちがう世界からこの世界に来たんだって。
すぐには信じてもらえなかったけど、「女神さまに誓って本当だよ」とまで言ったら信じざるを得ないって思ったみたい。
本当にこの世界の人は女神さまが大事なんだね。
「ラナが後ろ指さされるようなことにならないのなら良いけれど……本当にちがう世界から来たの?」
マーガレットさんはまだ半信半疑って感じだ。
でもまあそうだよね。
いくら不思議なことが好きな私でも、実際に体験してなかったら異世界に行けるなんて思いもしなかっただろうし。
「そうですよ。用事が終わってこれ以上長居するわけにもいかないし……失礼しますね」
ことわりを入れたアキラ先輩は渡り鏡を取り出して例の難しい言葉を口にする。
「渡り鏡よ。帰還のトビラを開き給え」
言い終えると、アキラ先輩の目の前に空間を切り取ったように黒くて四角いトビラがあらわれた。
来たときと同じ、星を散りばめたような夜の空間。
ここを通って帰るんだ。
「……すごいわね」
「……そうね」
口をポカンと開けておどろく二人はそれ以上の言葉が出てこないみたい。
そんな二人に、私は少し名残惜しい気持ちでお別れをする。
「それじゃあ二人とも、さよなら。ルミルによろしくね」
ラミラはこの後クレアさんのことを知るかもしれない。
つらい思いをするだろうけれど、ラミラにはルミルもマーガレットさんもクルトもいる。
それに恋人もいるし、支えてくれる人がいるからきっと立ち直れるはずだ。
ただの希望だけど、願いでもある。
どうかみんなが今後も元気に過ごせますようにって。
「ラナ、アキラ。あなたたちがいなかったらケガをしていたのは私かマーガレットだったかもしれない。もしかしたら、禁忌を犯したのは私だったのかも……」
ラミラは神妙な顔で話すと、私を見てふわっと笑顔を見せた。
「あなたたちがいてくれて良かった、ありがとう。……女神さまのお導きに感謝を」
「うん。女神さまのご加護がありますように」
最後にこの世界でのあいさつを返して、私とアキラ先輩は星空のトビラへと入って行った。
***
トビラもしまって、夜空にポツンと浮かんでいるような感覚になる。
それと同時に、聖女の衣装がセーラー服にもどった。
「おお……」
「ラナさん、はぐれないようにね」
思わず声を出しておどろきをあらわした私に、アキラ先輩は手を差し出した。
たしかはぐれたら時空の流れに巻きこまれて帰れなくなるんだっけ?
思い出して、私ははぐれないようにってアキラ先輩の手を取った。
ぴょんぴょんはねるボサボサ髪に、似合わない大きなメガネのいつものかっこうにもどったアキラ先輩。
素顔丸出しのカッコイイ護り手姿も良かったけれど、やっぱりこっちの方が落ち着くなって私は思った。
「そうだラナさん。言っておかなきゃならないんだけど」
私の手を引いて歩き出しながら、アキラ先輩は世間話でもするみたいに軽く話し出す。
「この帰り道はね、俺たちの時間を巻きもどしてるんだ」
「はい?」
時間を巻きもどす?
帰り道で?
いまいちピンと来なくて頭にハテナマークを浮かべていると、どんどんアキラ先輩の顔色が悪くなる。
「だからつまり、俺のケガもっ……ぐぅっ!」
「アキラ先輩!?」
さっきケガをした場所をおさえて膝をついてしまったアキラ先輩に、どうしようもなく不安が募る。
実はちゃんと治ってなかったのかな?
それともやっぱり何か回復魔法の影響があったのかな?
疑問と不安が次々と浮かんでくる。
でも、アキラ先輩が苦しそうにしていたのは数秒のことですぐに顔色も元にもどっていった。
「大丈夫。ごめん、心配させて」
「へ?」
「帰り道は俺たちの時間を巻きもどしてる。つまり、今ケガがぶり返したようになったのもさっきの時間がもどってきただけってこと」
「えっと、つまり?」
すっごく心配したぶん頭が追いつかない。
いきなりの変化にさすがの私も理解するのがおそくなる。
「つまり、異世界で何がおこっても死なない限り来る前の状態にもどるってことだよ」
「来る前の状態にもどる……」
「もし異世界で何年も過ごすことになっても、この道を通ると体の時間も巻きもどって中学生にもどるって言えばわかりやすいかな?」
「……」
最後の説明がわかりやすかったからそこで理解する。
それと同時に心配と不安が安心に変わって……私はまた泣き出してしまった。
「ふっ……ふぇ……そういうことは、もっと早く言ってくださいぃー」
「え!? あ、ご、ごめん! ごめんね、ラナさん」
あわててなだめられたけれど、もっと早く言って欲しかったって不満もあってなかなか泣き止めない。
そのまま泣いて帰ったから、待っていたミチさんにおどろかれちゃった。
なにはともあれ、こうして私のはじめての異世界への旅は終わったんだ。
「うん。用事は終わったし、私は禁忌を犯した聖女ってことになっちゃったからね」
私が泣き止んだあと、ある程度街の様子が落ち着くまでの間にラミラとマーガレットさんには簡単に私たちの事情を話した。
私たちはやるべきことがあって、ちがう世界からこの世界に来たんだって。
すぐには信じてもらえなかったけど、「女神さまに誓って本当だよ」とまで言ったら信じざるを得ないって思ったみたい。
本当にこの世界の人は女神さまが大事なんだね。
「ラナが後ろ指さされるようなことにならないのなら良いけれど……本当にちがう世界から来たの?」
マーガレットさんはまだ半信半疑って感じだ。
でもまあそうだよね。
いくら不思議なことが好きな私でも、実際に体験してなかったら異世界に行けるなんて思いもしなかっただろうし。
「そうですよ。用事が終わってこれ以上長居するわけにもいかないし……失礼しますね」
ことわりを入れたアキラ先輩は渡り鏡を取り出して例の難しい言葉を口にする。
「渡り鏡よ。帰還のトビラを開き給え」
言い終えると、アキラ先輩の目の前に空間を切り取ったように黒くて四角いトビラがあらわれた。
来たときと同じ、星を散りばめたような夜の空間。
ここを通って帰るんだ。
「……すごいわね」
「……そうね」
口をポカンと開けておどろく二人はそれ以上の言葉が出てこないみたい。
そんな二人に、私は少し名残惜しい気持ちでお別れをする。
「それじゃあ二人とも、さよなら。ルミルによろしくね」
ラミラはこの後クレアさんのことを知るかもしれない。
つらい思いをするだろうけれど、ラミラにはルミルもマーガレットさんもクルトもいる。
それに恋人もいるし、支えてくれる人がいるからきっと立ち直れるはずだ。
ただの希望だけど、願いでもある。
どうかみんなが今後も元気に過ごせますようにって。
「ラナ、アキラ。あなたたちがいなかったらケガをしていたのは私かマーガレットだったかもしれない。もしかしたら、禁忌を犯したのは私だったのかも……」
ラミラは神妙な顔で話すと、私を見てふわっと笑顔を見せた。
「あなたたちがいてくれて良かった、ありがとう。……女神さまのお導きに感謝を」
「うん。女神さまのご加護がありますように」
最後にこの世界でのあいさつを返して、私とアキラ先輩は星空のトビラへと入って行った。
***
トビラもしまって、夜空にポツンと浮かんでいるような感覚になる。
それと同時に、聖女の衣装がセーラー服にもどった。
「おお……」
「ラナさん、はぐれないようにね」
思わず声を出しておどろきをあらわした私に、アキラ先輩は手を差し出した。
たしかはぐれたら時空の流れに巻きこまれて帰れなくなるんだっけ?
思い出して、私ははぐれないようにってアキラ先輩の手を取った。
ぴょんぴょんはねるボサボサ髪に、似合わない大きなメガネのいつものかっこうにもどったアキラ先輩。
素顔丸出しのカッコイイ護り手姿も良かったけれど、やっぱりこっちの方が落ち着くなって私は思った。
「そうだラナさん。言っておかなきゃならないんだけど」
私の手を引いて歩き出しながら、アキラ先輩は世間話でもするみたいに軽く話し出す。
「この帰り道はね、俺たちの時間を巻きもどしてるんだ」
「はい?」
時間を巻きもどす?
帰り道で?
いまいちピンと来なくて頭にハテナマークを浮かべていると、どんどんアキラ先輩の顔色が悪くなる。
「だからつまり、俺のケガもっ……ぐぅっ!」
「アキラ先輩!?」
さっきケガをした場所をおさえて膝をついてしまったアキラ先輩に、どうしようもなく不安が募る。
実はちゃんと治ってなかったのかな?
それともやっぱり何か回復魔法の影響があったのかな?
疑問と不安が次々と浮かんでくる。
でも、アキラ先輩が苦しそうにしていたのは数秒のことですぐに顔色も元にもどっていった。
「大丈夫。ごめん、心配させて」
「へ?」
「帰り道は俺たちの時間を巻きもどしてる。つまり、今ケガがぶり返したようになったのもさっきの時間がもどってきただけってこと」
「えっと、つまり?」
すっごく心配したぶん頭が追いつかない。
いきなりの変化にさすがの私も理解するのがおそくなる。
「つまり、異世界で何がおこっても死なない限り来る前の状態にもどるってことだよ」
「来る前の状態にもどる……」
「もし異世界で何年も過ごすことになっても、この道を通ると体の時間も巻きもどって中学生にもどるって言えばわかりやすいかな?」
「……」
最後の説明がわかりやすかったからそこで理解する。
それと同時に心配と不安が安心に変わって……私はまた泣き出してしまった。
「ふっ……ふぇ……そういうことは、もっと早く言ってくださいぃー」
「え!? あ、ご、ごめん! ごめんね、ラナさん」
あわててなだめられたけれど、もっと早く言って欲しかったって不満もあってなかなか泣き止めない。
そのまま泣いて帰ったから、待っていたミチさんにおどろかれちゃった。
なにはともあれ、こうして私のはじめての異世界への旅は終わったんだ。
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