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異界を渡るマレビト
禁忌の回復魔法①
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「ラミラ! ラミラどこ!? マーガレットさん!?」
逃げようとする人波に逆らうように広場に向かってるから、なかなか思うように進めない。
流されそうになったところで、アキラ先輩に手首をつかまれた。
「ラナさん! はぐれたら危ない。ちゃんとつないでて!」
「アキラ先輩!」
力強い腕に引かれて、こんなときだけれどその男らしさにちょっとドキッとした。
頼もしくて、いっしょにいるのがアキラ先輩で良かったって心の底から思う。
アキラ先輩はお姉さんのこともあって私を異世界に連れてきてくれたんだろうけど、私にとってはお母さんを助ける道を作ってくれた人だ。
私の望みを叶えようとしてくれる人。
だから私もアキラ先輩の力になりたいなって……。
手を引いてもらいながら、強く思った。
***
みんな逃げているからか、広場は少しだけ人が少なかった。
って言っても昨日見たときより多いのは確実だけれど。
「あっ、ラミラ!」
いつもの聖女の格好をしていなかったから一瞬見逃しそうになったけど、街娘の格好をしていてもキレイな金髪は結構目立った。
近くに赤い髪のマーガレットさんがいたのも見つけやすかった理由だけど。
「え? ラナ!?」
息を切らしながら私とアキラ先輩はラミラたちの近くに行く。
広場にはまだ魔物は来ていないみたい。
間に合ったってホッとしたけれど、安心してる場合じゃないってすぐに思い直す。
「ラナ、なに言ってるの? 私はルミルよ?」
「それはいいから!」
青い目をキョロキョロさせながら入れかわってることを誤魔化そうとするラミラにちょっとイラっとする。
今はそんなことどうでも良いんだってば!
「ルミルから話は聞いたよ。私はなにも言うつもりないからそれは気にしなくていいよ!」
一息で言い切って、私は肝心の魔呼びの香のことを話す。
「ラミラ、クレアさんからもらった香袋は? あれ、魔呼びの香が入ってるんだって」
「香袋? 今も持ってるけど……クレアさんが私に魔呼びの香なんてものわたすわけないじゃない」
腰から下げていたバック代わりの袋から香袋を取り出したラミラ。
でも、クレアさんのことをそうとう信頼してるのか不満そうに私を見た。
その信頼が裏切られてたって知ったらラミラはつらいだろうな……。
ズシッと胸の奥が重くなる。
“鉛を飲みこんだよう”ってこういうことかな。
「……そのクレアさんにたのまれたの。その香袋を売ってくれた人がまちがえたって教えに来たから、早く手放して欲しいって」
鉛をのみこんだまま私はウソをついた。
今大事なのは、ラミラが香袋を手放して魔物に襲われないようにすることだ。
クレアさんのことで言い合ってる時間はない。
ウソも方便って言うし。
……それに、信頼してる人の裏切りを伝えることができなかったってのもある。
クレアさんの額に罪科の証がある以上後で知ることになるだろうけれど、それでも私からは言えなかった。
「え!? そうだったの? やだ、じゃあこれどうしよう?」
「とりあえず私にちょうだい。ラミラが持ってると危険なの!」
香袋をどう処理するか決めてなかった私は、とりあえずラミラとマーガレットさんを助けようって思いだけでわたしてもらおうとする。
でも、ラミラがわたしてくれる前にそのときは来てしまった。
「ラミラぁ! 逃げろぉ!!」
男の人の悲痛な声がしたと思ったら、そっちの方向から角の生えたオオカミみたいな魔物がこっちに向かって来るのが見えた。
考えるよりも先にその魔物が記憶にあるものと一致する。
鏡で見た、マーガレットさんをつき刺した魔物だ。
「ラミラ!」
マーガレットさんの声がして、私はとっさに彼女の方にラミラをつき飛ばす。
マーガレットさんは来ちゃダメ!
鏡で見たのと同じになっちゃう。
マーガレットさんが刺されたら、お母さんを助けられない!
ただ、それだけの思いだった。
でもラミラのいた場所には私がいて、魔物もすぐに方向転換なんか出来るわけがなくて……。
「ラナさん!」
アキラ先輩のさけび声が聞こえる。
目の前には魔物がせまっていて――。
「っ!」
よけられない私は、痛みを覚悟して目を閉じた。
逃げようとする人波に逆らうように広場に向かってるから、なかなか思うように進めない。
流されそうになったところで、アキラ先輩に手首をつかまれた。
「ラナさん! はぐれたら危ない。ちゃんとつないでて!」
「アキラ先輩!」
力強い腕に引かれて、こんなときだけれどその男らしさにちょっとドキッとした。
頼もしくて、いっしょにいるのがアキラ先輩で良かったって心の底から思う。
アキラ先輩はお姉さんのこともあって私を異世界に連れてきてくれたんだろうけど、私にとってはお母さんを助ける道を作ってくれた人だ。
私の望みを叶えようとしてくれる人。
だから私もアキラ先輩の力になりたいなって……。
手を引いてもらいながら、強く思った。
***
みんな逃げているからか、広場は少しだけ人が少なかった。
って言っても昨日見たときより多いのは確実だけれど。
「あっ、ラミラ!」
いつもの聖女の格好をしていなかったから一瞬見逃しそうになったけど、街娘の格好をしていてもキレイな金髪は結構目立った。
近くに赤い髪のマーガレットさんがいたのも見つけやすかった理由だけど。
「え? ラナ!?」
息を切らしながら私とアキラ先輩はラミラたちの近くに行く。
広場にはまだ魔物は来ていないみたい。
間に合ったってホッとしたけれど、安心してる場合じゃないってすぐに思い直す。
「ラナ、なに言ってるの? 私はルミルよ?」
「それはいいから!」
青い目をキョロキョロさせながら入れかわってることを誤魔化そうとするラミラにちょっとイラっとする。
今はそんなことどうでも良いんだってば!
「ルミルから話は聞いたよ。私はなにも言うつもりないからそれは気にしなくていいよ!」
一息で言い切って、私は肝心の魔呼びの香のことを話す。
「ラミラ、クレアさんからもらった香袋は? あれ、魔呼びの香が入ってるんだって」
「香袋? 今も持ってるけど……クレアさんが私に魔呼びの香なんてものわたすわけないじゃない」
腰から下げていたバック代わりの袋から香袋を取り出したラミラ。
でも、クレアさんのことをそうとう信頼してるのか不満そうに私を見た。
その信頼が裏切られてたって知ったらラミラはつらいだろうな……。
ズシッと胸の奥が重くなる。
“鉛を飲みこんだよう”ってこういうことかな。
「……そのクレアさんにたのまれたの。その香袋を売ってくれた人がまちがえたって教えに来たから、早く手放して欲しいって」
鉛をのみこんだまま私はウソをついた。
今大事なのは、ラミラが香袋を手放して魔物に襲われないようにすることだ。
クレアさんのことで言い合ってる時間はない。
ウソも方便って言うし。
……それに、信頼してる人の裏切りを伝えることができなかったってのもある。
クレアさんの額に罪科の証がある以上後で知ることになるだろうけれど、それでも私からは言えなかった。
「え!? そうだったの? やだ、じゃあこれどうしよう?」
「とりあえず私にちょうだい。ラミラが持ってると危険なの!」
香袋をどう処理するか決めてなかった私は、とりあえずラミラとマーガレットさんを助けようって思いだけでわたしてもらおうとする。
でも、ラミラがわたしてくれる前にそのときは来てしまった。
「ラミラぁ! 逃げろぉ!!」
男の人の悲痛な声がしたと思ったら、そっちの方向から角の生えたオオカミみたいな魔物がこっちに向かって来るのが見えた。
考えるよりも先にその魔物が記憶にあるものと一致する。
鏡で見た、マーガレットさんをつき刺した魔物だ。
「ラミラ!」
マーガレットさんの声がして、私はとっさに彼女の方にラミラをつき飛ばす。
マーガレットさんは来ちゃダメ!
鏡で見たのと同じになっちゃう。
マーガレットさんが刺されたら、お母さんを助けられない!
ただ、それだけの思いだった。
でもラミラのいた場所には私がいて、魔物もすぐに方向転換なんか出来るわけがなくて……。
「ラナさん!」
アキラ先輩のさけび声が聞こえる。
目の前には魔物がせまっていて――。
「っ!」
よけられない私は、痛みを覚悟して目を閉じた。
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