35 / 41
異界を渡るマレビト
花祭りの裏で①
しおりを挟む
翌朝の空は晴れわたっていた。
今日はいよいよ運命の花祭り。
さわやかな空を見ると魔物がおそって来るっていう悲劇が起こるなんて想像もできないけれど。
でも女神であるフェリシアさまにもたのまれた。
ラミラが禁忌を犯さないようにって。
ラミラがお母さんの前世であるマーガレットさんに回復魔法を使わなくていいように、今日はしっかり見張っておかなきゃ!
気を引きしめた私は、白い花に彩られた街に向かうため準備を始めた。
***
今日のラミラの行動は決まってる。
神殿の清掃が終わったら、いつもより少し仰々しい朝のお祈りをみんなで始める。
その後花祭りのための儀式があって、神殿の前に集まった人たちに花祭りの開始のあいさつをするんだって。
そうしたら他の聖女たちは解散。自由時間なんだとか。
でも筆頭聖女であるラミラはお昼まで休けいは出来るけど神殿からは出られなくて、昼食後はまたお祈りをしなきゃならない。
そのお祈りは小一時間で終わるけれど、少しでも多くの加護をもらいたいと街の人が神殿に殺到するらしくて、その対応をしなきゃならないんだって。
本当に外に出る時間なんてあるのかな?
わからないけれど、とにかく今日はラミラにくっついていないと。
マーガレットさんもラミラにずっとついてるはずだしね。
そう思って私とアキラ先輩は他の聖女たちの自由時間になっても神殿に残ってラミラを見張ってた。
でも、やっぱり外に出る気配はなくて……。
それぞれお昼も食べ終えて、午後のお祈りに入る。
お祈りが終わったら外に出るのかな?
もしかして、魔物が入ってきたって知らせを受けてから外に出た?
うーん……でも鏡で見た感じでは直前までお祭り楽しんでたみたいだけど……。
首をひねりながら考えていると、トントンと軽くアキラ先輩に肩をたたかれた。
「ラナさん、お祈り終わったみたいだよ」
「え? あ、本当だ」
考えている間に午後のお祈りは終わったみたい。
この後は加護を求めてきた街の人たちの対応だっけ。
でも休けいはするんだよね?
ちょっとは話出来るかな?
「アキラ先輩、ちょっとラミラと話せたりしないですかね? 街に出る予定は本当にないのかとか」
今日みたいなちゃんとした儀式をするときは、筆頭聖女は女神さま以外と言葉を交わしてはならないとかで朝からラミラと話すことは出来なかった。
でもお祈り自体は終わったし、この後の街の人の対応では人と話すんだろうしたぶん問題ないよね。
「そうだね、お祈りは終わったし話しかけてもいいんじゃないかな?」
アキラ先輩も同じ意見だったから、私たちはラミラの休けい室になっている部屋に向かった。
でも、そのとちゅうで当の本人ラミラにバッタリ出会う。
「ラナ!? 街に出かけてなかったの!?」
すごくおどろかれちゃった。
まあ、そうだよね。
花祭りを見るために今日まで滞在してるって状態なのに、肝心の花祭りを見ないなんて。
でも言い訳はちゃんと考えてある。
「これから街に行くよ。花祭りの聖女の儀式も気になってたから」
「あ、そ、そうなんだ?」
話しながらなんだか様子がおかしいラミラ。
手のひらを口に当てて、視線をキョロキョロさせてる。
いつもより一つ一つの仕草が大げさだし、ラミラっぽくない。
これじゃあラミラっていうより……。
「……あのさ、近くで見て気づいたけど……もしかしてクルトじゃないか?」
『え!?』
私とラミラの声が重なる。
でも顔を見合わせたラミラは“しまった!”って感じの表情だ。
「……やっぱりバレるよな」
マーガレットさんだと思っていたラミラの護り手が男の人の声を出す。
ウィッグをつけているみたいで、髪型はマーガレットさんと同じ。
目の色は元々同じだし、姉弟だから顔立ちもそこそこ似てる。
でも近くで見れば顔がちがうって分かるし、身長もちょっと低い。
護り手がマーガレットさんじゃない?
ってことはやっぱり!
「じゃあ、あなたルミル!?」
「わぁ! バレちゃった!?」
はわわ、ってあわてるルミルだけれど私は青ざめる。
そんな、じゃあラミラはどこに?
ラミラについてるはずのマーガレットさんは!?
「なんで? ラミラとマーガレットさんはどこにいるの!?」
「ラミラたちは街に出てるわ。昼食のときに入れかわったの」
私の剣幕に押されながらルミルは答える。
お祈りが終わるまで誰とも話しちゃダメって言われてるラミラは昼食もみんなとは別の部屋だった。
たしかに入れかわるにはちょうど良いのかも。
「ごめんなさい、でも誰にも言わないで。お願い!」
袖をつかまれてたのみこまれる。
「ラミラね、傭兵の恋人がいるの。その人、花祭りが終わったら魔物を狩るための遠征に行かなきゃなくて……無事に帰って来れたとしても会えるのは何か月も後になるの」
遠征って、つまり魔物を狩るために遠くに行くってことだよね?
命の危険もある長期出張って感じ?
「ちゃんと会えるのは今日が最後だから……だから、今日だけは見逃してっ!」
また会えるかどうかもわからない恋人と会いたいって気持ちはわかる。
そんなラミラに協力したいっていうルミルの気持ちも。
だから私はうなずいた。
「わかったよ、誰にも言わない。でもそれより前に危険なことが起こるかもしれないの」
「え?」
やんわりと袖をつかむルミルの手を外して、アキラ先輩を見る。
「行こう」
「はい!」
言わなくても次の行動はわかってる。
うなずいたアキラ先輩といっしょに、私は神殿を飛び出した。
今日はいよいよ運命の花祭り。
さわやかな空を見ると魔物がおそって来るっていう悲劇が起こるなんて想像もできないけれど。
でも女神であるフェリシアさまにもたのまれた。
ラミラが禁忌を犯さないようにって。
ラミラがお母さんの前世であるマーガレットさんに回復魔法を使わなくていいように、今日はしっかり見張っておかなきゃ!
気を引きしめた私は、白い花に彩られた街に向かうため準備を始めた。
***
今日のラミラの行動は決まってる。
神殿の清掃が終わったら、いつもより少し仰々しい朝のお祈りをみんなで始める。
その後花祭りのための儀式があって、神殿の前に集まった人たちに花祭りの開始のあいさつをするんだって。
そうしたら他の聖女たちは解散。自由時間なんだとか。
でも筆頭聖女であるラミラはお昼まで休けいは出来るけど神殿からは出られなくて、昼食後はまたお祈りをしなきゃならない。
そのお祈りは小一時間で終わるけれど、少しでも多くの加護をもらいたいと街の人が神殿に殺到するらしくて、その対応をしなきゃならないんだって。
本当に外に出る時間なんてあるのかな?
わからないけれど、とにかく今日はラミラにくっついていないと。
マーガレットさんもラミラにずっとついてるはずだしね。
そう思って私とアキラ先輩は他の聖女たちの自由時間になっても神殿に残ってラミラを見張ってた。
でも、やっぱり外に出る気配はなくて……。
それぞれお昼も食べ終えて、午後のお祈りに入る。
お祈りが終わったら外に出るのかな?
もしかして、魔物が入ってきたって知らせを受けてから外に出た?
うーん……でも鏡で見た感じでは直前までお祭り楽しんでたみたいだけど……。
首をひねりながら考えていると、トントンと軽くアキラ先輩に肩をたたかれた。
「ラナさん、お祈り終わったみたいだよ」
「え? あ、本当だ」
考えている間に午後のお祈りは終わったみたい。
この後は加護を求めてきた街の人たちの対応だっけ。
でも休けいはするんだよね?
ちょっとは話出来るかな?
「アキラ先輩、ちょっとラミラと話せたりしないですかね? 街に出る予定は本当にないのかとか」
今日みたいなちゃんとした儀式をするときは、筆頭聖女は女神さま以外と言葉を交わしてはならないとかで朝からラミラと話すことは出来なかった。
でもお祈り自体は終わったし、この後の街の人の対応では人と話すんだろうしたぶん問題ないよね。
「そうだね、お祈りは終わったし話しかけてもいいんじゃないかな?」
アキラ先輩も同じ意見だったから、私たちはラミラの休けい室になっている部屋に向かった。
でも、そのとちゅうで当の本人ラミラにバッタリ出会う。
「ラナ!? 街に出かけてなかったの!?」
すごくおどろかれちゃった。
まあ、そうだよね。
花祭りを見るために今日まで滞在してるって状態なのに、肝心の花祭りを見ないなんて。
でも言い訳はちゃんと考えてある。
「これから街に行くよ。花祭りの聖女の儀式も気になってたから」
「あ、そ、そうなんだ?」
話しながらなんだか様子がおかしいラミラ。
手のひらを口に当てて、視線をキョロキョロさせてる。
いつもより一つ一つの仕草が大げさだし、ラミラっぽくない。
これじゃあラミラっていうより……。
「……あのさ、近くで見て気づいたけど……もしかしてクルトじゃないか?」
『え!?』
私とラミラの声が重なる。
でも顔を見合わせたラミラは“しまった!”って感じの表情だ。
「……やっぱりバレるよな」
マーガレットさんだと思っていたラミラの護り手が男の人の声を出す。
ウィッグをつけているみたいで、髪型はマーガレットさんと同じ。
目の色は元々同じだし、姉弟だから顔立ちもそこそこ似てる。
でも近くで見れば顔がちがうって分かるし、身長もちょっと低い。
護り手がマーガレットさんじゃない?
ってことはやっぱり!
「じゃあ、あなたルミル!?」
「わぁ! バレちゃった!?」
はわわ、ってあわてるルミルだけれど私は青ざめる。
そんな、じゃあラミラはどこに?
ラミラについてるはずのマーガレットさんは!?
「なんで? ラミラとマーガレットさんはどこにいるの!?」
「ラミラたちは街に出てるわ。昼食のときに入れかわったの」
私の剣幕に押されながらルミルは答える。
お祈りが終わるまで誰とも話しちゃダメって言われてるラミラは昼食もみんなとは別の部屋だった。
たしかに入れかわるにはちょうど良いのかも。
「ごめんなさい、でも誰にも言わないで。お願い!」
袖をつかまれてたのみこまれる。
「ラミラね、傭兵の恋人がいるの。その人、花祭りが終わったら魔物を狩るための遠征に行かなきゃなくて……無事に帰って来れたとしても会えるのは何か月も後になるの」
遠征って、つまり魔物を狩るために遠くに行くってことだよね?
命の危険もある長期出張って感じ?
「ちゃんと会えるのは今日が最後だから……だから、今日だけは見逃してっ!」
また会えるかどうかもわからない恋人と会いたいって気持ちはわかる。
そんなラミラに協力したいっていうルミルの気持ちも。
だから私はうなずいた。
「わかったよ、誰にも言わない。でもそれより前に危険なことが起こるかもしれないの」
「え?」
やんわりと袖をつかむルミルの手を外して、アキラ先輩を見る。
「行こう」
「はい!」
言わなくても次の行動はわかってる。
うなずいたアキラ先輩といっしょに、私は神殿を飛び出した。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!
克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。
桜の花びら舞う夜に(毎週火・木・土20時頃更新予定)
夕凪ゆな@コミカライズ連載中
ライト文芸
※逆ハーものではありません
※当作品の沖田総司はSっ気強めです。溺愛系沖田がお好きな方はご注意ください
▼あらすじ
――私、ずっと知らなかった。
大切な人を失う苦しみも、悲しみも。信じていた人に裏切られたときの、絶望も、孤独も。
自分のいた世界がどれほどかけがえのないもので、どんなに価値のあるものだったのか、自分の居場所がなくなって、何を信じたらいいのかわからなくて、望むものは何一つ手に入らない世界に来て初めて、ようやくその価値に気付いた。
――幕末。
それは私の知らない世界。現代にはあるものが無く、無いものがまだ存在している時代。
人の命は今よりずっと儚く脆く、簡単に消えてしまうのに、その価値は今よりずっと重い。
私は、そんな世界で貴方と二人、いったい何を得るのだろう。どんな世界を見るのだろう。
そして世界は、この先私と貴方が二人、共に歩くことを許してくれるのだろうか。
運命は、私たちがもとの世界に帰ることを、許してくれるのだろうか。
――いいえ……例え運命が許さなくても、世界の全てが敵になっても、私たちは決して諦めない。
二人一緒なら乗り越えられる。私はそう信じてる。
例え誰がなんと言おうと、私たちはもといた場所へ帰るのだ……そう、絶対に――。
◆検索ワード◆
新撰組/幕末/タイムスリップ/沖田総司/土方歳三/近藤勇/斎藤一/山南敬助/藤堂平助/原田左之助/永倉新八/山崎烝/長州/吉田稔麿/オリキャラ/純愛/推理/シリアス/ファンタジー/W主人公/恋愛
時間泥棒【完結】
虹乃ノラン
児童書・童話
平和な僕らの町で、ある日、イエローバスが衝突するという事故が起こった。ライオン公園で撮った覚えのない五人の写真を見つけた千斗たちは、意味ありげに逃げる白猫を追いかけて商店街まで行くと、不思議な空間に迷いこんでしまう。
■目次
第一章 動かない猫
第二章 ライオン公園のタイムカプセル
第三章 魚海町シーサイド商店街
第四章 黒野時計堂
第五章 短針マシュマロと消えた写真
第六章 スカーフェイスを追って
第七章 天川の行方不明事件
第八章 作戦開始!サイレンを挟み撃て!
第九章 『5…4…3…2…1…‼』
第十章 不法の器の代償
第十一章 ミチルのフラッシュ
第十二章 五人の写真
氷鬼司のあやかし退治
桜桃-サクランボ-
児童書・童話
日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。
氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。
これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。
二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。
それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。
そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。
狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。
過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。
一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!
とじこめラビリンス
トキワオレンジ
児童書・童話
【東宝×アルファポリス第10回絵本・児童書大賞 優秀賞受賞】
太郎、麻衣子、章純、希未の仲良し4人組。
いつものように公園で遊んでいたら、飼い犬のロロが逃げてしまった。
ロロが迷い込んだのは、使われなくなった古い美術館の建物。ロロを追って、半開きの搬入口から侵入したら、シャッターが締まり閉じ込められてしまった。
ここから外に出るためには、ゲームをクリアしなければならない――
両思いでしたが転生後、敵国の王子と王女になりました!?
またり鈴春
児童書・童話
ハート国とスター国は、昔からライバル関係にあり、仲が良くなかった。そのためハート国の王女・ミアと、スター国の王子・レンも、互いをライバル視するけど……
二人の中身は、なんと小学四年生の同級生だった!
実は、前世で両想いだった二人。ひょんなことから転生し、なぜか記憶もバッチリ残っていた。そのため、互いに密かに「会いたい」と願う日々……
だけど、ついに我慢の限界が来て!?
外見20歳、内面10歳による二人の、
ドキドキラブコメ×ファンタジー物語☆彡
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる