異世界タイムスリップ

緋村燐

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異界を渡るマレビト

花祭りの裏で①

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 翌朝の空は晴れわたっていた。

 今日はいよいよ運命の花祭り。
 さわやかな空を見ると魔物がおそって来るっていう悲劇が起こるなんて想像もできないけれど。

 でも女神であるフェリシアさまにもたのまれた。
 ラミラが禁忌きんきおかさないようにって。

 ラミラがお母さんの前世であるマーガレットさんに回復魔法を使わなくていいように、今日はしっかり見張っておかなきゃ!

 気を引きしめた私は、白い花にいろどられた街に向かうため準備を始めた。

***

 今日のラミラの行動は決まってる。
 神殿の清掃せいそうが終わったら、いつもより少し仰々ぎょうぎょうしい朝のおいのりをみんなで始める。
 その後花祭りのための儀式ぎしきがあって、神殿の前に集まった人たちに花祭りの開始のあいさつをするんだって。

 そうしたら他の聖女たちは解散。自由時間なんだとか。

 でも筆頭聖女であるラミラはお昼まで休けいは出来るけど神殿からは出られなくて、昼食後はまたおいのりをしなきゃならない。
 そのおいのりは小一時間で終わるけれど、少しでも多くの加護をもらいたいと街の人が神殿に殺到さっとうするらしくて、その対応をしなきゃならないんだって。

 本当に外に出る時間なんてあるのかな?
 わからないけれど、とにかく今日はラミラにくっついていないと。
 マーガレットさんもラミラにずっとついてるはずだしね。

 そう思って私とアキラ先輩は他の聖女たちの自由時間になっても神殿に残ってラミラを見張ってた。
 でも、やっぱり外に出る気配はなくて……。

 それぞれお昼も食べ終えて、午後のおいのりに入る。

 おいのりが終わったら外に出るのかな?
 もしかして、魔物が入ってきたって知らせを受けてから外に出た?
 うーん……でも鏡で見た感じでは直前までお祭り楽しんでたみたいだけど……。

 首をひねりながら考えていると、トントンと軽くアキラ先輩にかたをたたかれた。

「ラナさん、おいのり終わったみたいだよ」
「え? あ、本当だ」

 考えている間に午後のおいのりは終わったみたい。
 この後は加護を求めてきた街の人たちの対応だっけ。
 でも休けいはするんだよね?
 ちょっとは話出来るかな?

「アキラ先輩、ちょっとラミラと話せたりしないですかね? 街に出る予定は本当にないのかとか」

 今日みたいなちゃんとした儀式ぎしきをするときは、筆頭聖女は女神さま以外と言葉を交わしてはならないとかで朝からラミラと話すことは出来なかった。
 でもおいのり自体は終わったし、この後の街の人の対応では人と話すんだろうしたぶん問題ないよね。

「そうだね、おいのりは終わったし話しかけてもいいんじゃないかな?」

 アキラ先輩も同じ意見だったから、私たちはラミラの休けい室になっている部屋に向かった。
 でも、そのとちゅうで当の本人ラミラにバッタリ出会う。

「ラナ!? 街に出かけてなかったの!?」

 すごくおどろかれちゃった。

 まあ、そうだよね。
 花祭りを見るために今日まで滞在たいざいしてるって状態なのに、肝心かんじんの花祭りを見ないなんて。

 でも言い訳はちゃんと考えてある。

「これから街に行くよ。花祭りの聖女の儀式ぎしきも気になってたから」
「あ、そ、そうなんだ?」

 話しながらなんだか様子がおかしいラミラ。
 手のひらを口に当てて、視線をキョロキョロさせてる。
 いつもより一つ一つの仕草が大げさだし、ラミラっぽくない。

 これじゃあラミラっていうより……。

「……あのさ、近くで見て気づいたけど……もしかしてクルトじゃないか?」
『え!?』

 私とラミラの声が重なる。
 でも顔を見合わせたラミラは“しまった!”って感じの表情だ。

「……やっぱりバレるよな」

 マーガレットさんだと思っていたラミラの護り手が男の人の声を出す。
 ウィッグをつけているみたいで、髪型はマーガレットさんと同じ。
 目の色は元々同じだし、姉弟だから顔立ちもそこそこ似てる。

 でも近くで見れば顔がちがうって分かるし、身長もちょっと低い。

 護り手がマーガレットさんじゃない?
 ってことはやっぱり!

「じゃあ、あなたルミル!?」
「わぁ! バレちゃった!?」

 はわわ、ってあわてるルミルだけれど私は青ざめる。

 そんな、じゃあラミラはどこに?
 ラミラについてるはずのマーガレットさんは!?

「なんで? ラミラとマーガレットさんはどこにいるの!?」
「ラミラたちは街に出てるわ。昼食のときに入れかわったの」

 私の剣幕けんまくされながらルミルは答える。

 おいのりが終わるまで誰とも話しちゃダメって言われてるラミラは昼食もみんなとは別の部屋だった。
 たしかに入れかわるにはちょうど良いのかも。

「ごめんなさい、でも誰にも言わないで。お願い!」

 そでをつかまれてたのみこまれる。

「ラミラね、傭兵ようへい恋人こいびとがいるの。その人、花祭りが終わったら魔物をるための遠征えんせいに行かなきゃなくて……無事に帰って来れたとしても会えるのは何か月も後になるの」

 遠征えんせいって、つまり魔物をるために遠くに行くってことだよね?
 命の危険もある長期出張って感じ?

「ちゃんと会えるのは今日が最後だから……だから、今日だけは見逃みのがしてっ!」

 また会えるかどうかもわからない恋人こいびとと会いたいって気持ちはわかる。
 そんなラミラに協力したいっていうルミルの気持ちも。
 だから私はうなずいた。

「わかったよ、誰にも言わない。でもそれより前に危険なことが起こるかもしれないの」
「え?」

 やんわりとそでをつかむルミルの手を外して、アキラ先輩を見る。

「行こう」
「はい!」

 言わなくても次の行動はわかってる。
 うなずいたアキラ先輩といっしょに、私は神殿を飛び出した。
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