異世界タイムスリップ

緋村燐

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異界を渡るマレビト

アキラ先輩の事情⑥

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 外は冷えるからって、アキラ先輩の部屋に入った。
 ひとつだけそなえ付けてあったイスにうながされて座ると、アキラ先輩はベッドの方にこしを下ろす。

「えっと……どこから話そうかな?」
「まず、幽霊ゆうれいがお姉さんってどういうことですか?」

 まだ少し話しづらそうにしているアキラ先輩に私は一番の疑問をぶつけた。
 たしかアキラ先輩の家族はこの異世界に来るための道を開いてくれたおばあさんと、会ってはいないけれどお父さんとお姉さんだったはず。

 そのお姉さんがどうしてこの世界に? しかも幽霊ゆうれいの状態でって。
 お母さんは亡くなったって聞いたけど、お姉さんのことは亡くなったなんて聞いてない。
 どういうこと?って思うのは当然とうぜんだと思う。

幽霊ゆうれいっていうか……たましいの欠片の状態――らしい」
たましいの欠片の状態?」
「うん。まず姉さんは今も家にいるよ……二年前から目が覚めないけれど」
「え!?」

 二年も目が覚めないってどういうこと!?

わたり鏡の前の持ち主は父さんだって話したよね? 父さんは姉さんをマレビトのともにして今の俺たちみたいに世界をわたってたんだ」

 肌身はだみはなさず持っているのか、わたり鏡をズボンのポケットから出して事情を話してくれるアキラ先輩。

「それが二年前のある日、姉さんは意識のない状態でもどって来たんだ。父さんの話ではたましいの一部が異世界に取り残されてしまったみたいだって」
「……なにがあったんですか?」
「ちゃんとしたことは分からない。父さんの話では、用も終えて帰ろうかってときにたおれてる姉さんを見つけたんだって。ねむってるようにしか見えなかったけどすぐ近くに半透明はんとうめいな姉さんの姿もあって、そっちの姉さんはすぐに消えてしまったらしいんだ」
「……」
「ばあちゃんの話だと、たましいの欠片を異世界に置いて来てしまった状態だって」

 だから今も目覚めないんだって話してくれた。

「でも、そのたましいの欠片状態のお姉さんがどうしてこの世界に? お姉さんがたおれた世界ってこの世界だったんですか?」
「いや、姉さんの場合は色々特殊とくしゅで……」

 複雑そうな表情で一つ一つ説明してくれる。

 まず、たましいの欠片状態っていうのはある意味生霊いきりょうみたいなもので、お姉さんは生霊いきりょうのままさ迷ってるんだって。
 で、ふつうならその世界から出ちゃうことはないんだけれど、お姉さんが元々いたのは別の世界の別の時代。しかも体は元いた世界にある。
 この状態だと、生霊いきりょうとなったお姉さんはいろんな世界や時代をまたいでさ迷っちゃうんだって。

わたり鏡の持ち主である父さんは一人で世界をわたっても何も出来ないから、鏡の持ち主を俺に変えて今は仕事の合間に世界中のマレビトに何か解決策がないか話を聞いて回ってるんだ」
「そう、だったんですか……」

 思っていた以上にフクザツな事情でなんて言っていいのかわからない。
 だまりこんだ私に、アキラ先輩は「ごめんね」ってあやまってくる。

「え? なんであやまるんですか?」
「それは……だって、俺はラナさんを利用したんだよ?」
「え?」
神秘学研究部しんぴがくけんきゅうぶに入部してきたラナさんは順応性じゅんのうせいが高くて、きっと異世界をわたるマレビトの供として優秀ゆうしゅうだって思った。……実際、すごい力をあたえられてるし」

 それは聖女の力のことだよね。
 そういえばルミルたちにもあの人数を治療ちりょうしてもつかれてないのはすごいっておどろかれたっけ。

「ラナさんがついてきてくれるなら、俺は異世界にわたって姉さんのたましいの欠片を探しに行けると思った。……だから、お母さんのことでなやんでるラナさんにすぐにわたり鏡をわたしたんだ」

 そうして私と一緒に異世界へわたることに成功した。

「俺の家の事情に巻きこんだんだ……だから、ごめん」
「え!? いや、でも理由がなんであれ、私のお母さんを助けたいって願いをかなえようとしてくれてるんですよね? じゃあやっぱりあやまる必要はないですよ!」

 リガイのイッチってやつです!ってハッキリ伝えた。
 でも、アキラ先輩の表情はくもったままだ。
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