異世界タイムスリップ

緋村燐

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異界を渡るマレビト

アキラ先輩の事情⑤

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 異世界二度目の夜。

 昨日とはちがってそこまでつかれてなかったのか、寝る前に水を飲み過ぎちゃったのか。
 夜中にトイレに目が覚めちゃった。

「ううぅ……ちょっとこわいけど、ガマン出来ないし……」

 トイレは部屋になくて、暗い廊下ろうかを進んだ先に共同のトイレがいくつかあるだけ。
 幽霊ゆうれいでも出そうな雰囲気ふんいきだけど、行かないわけにはいかない。

「大丈夫、幽霊ゆうれいなんて出ない出ない。ちっちゃい子どもじゃないんだから、さっさと行って来よう」

 自分に言い聞かせるみたいにつぶやいて、急いでトイレに向かった。
 もちろん何もなくて、安心して用を済ませた私は落ち着いてもどりの廊下ろうかを進んだ。

 そうして部屋のすぐ近くまで来て、やっぱり幽霊ゆうれいなんていないよねって油断したからかな?
 十二年の人生で一度も見たことがないのに、その幽霊ゆうれいというものを見てしまった。

「っ!?」

 向かってつき当りのかべからスゥ……っと現れて、フワフワと歩いて来る女の子。
 足はあるけれど、明らかに体が半透明はんとうめいで実態がないって感じ。
 私と同じくらいかちょっと上くらいのその女の子の幽霊ゆうれいは、そのまま固まって動けない私の横を通り過ぎていく。

『……帰りたい』

 すれちがう瞬間しゅんかん、誰かに似ているさびしそうな顔が見えて、何故か聞いたことのある声が聞こえた。
 女の子と目が合った気がして、ひゅっと冷たい空気を吸う。
 そのままつめていた息は、女の子が反対側のかべに消えていってからはき出すことが出来た。

 息をはくと同時に気がぬけたのか、ドダンと音を立ててゆかに座りこんじゃった私。
 すると、近くの部屋のドアが開いた。

「誰?って、ラナさん? こんな夜中にどうしたんだ?」

 現れたのはアキラ先輩。
 今の音を聞いてすぐに出てきたってことは起きていたのかもしれない。

 やっぱりねむれてないんじゃないかなって頭の片隅かたすみで思いながら、さっき見た幽霊ゆうれいのことを話した。

「その、トイレに起きたら……ゆ、幽霊ゆうれいを見てっ」
幽霊ゆうれい?」

 アキラ先輩は私の手を引っ張って立つのを手伝いながら聞き返してくる。

「はい、半透明はんとうめいで……でもどこかで見たような顔立ちで……あっ」

 話しながら見上げて気づく。
 そうだ、アキラ先輩にちょっと似ていた。

「目元とか、顔の雰囲気ふんいきがアキラ先輩に似てました。『帰りたい』って言って……」
「っ!?」

 瞬間しゅんかん、アキラ先輩の顔色が変わる。

「その幽霊ゆうれい、どっちに行った?」
「え?」
「早く教えてくれ!」
「え? あ、あっちに」

 はじめて見る剣幕けんまくにおどろきつつ、幽霊ゆうれいが消えていったかべを指す。
 するとアキラ先輩ははじかれた様に走って行ってしまった。
 かべはぬけられないから、たぶんその裏の方に。

「あ……ま、待ってください!」

 一人取り残されてどうしようかって一瞬迷ったけれど、アキラ先輩の様子は気になる。
 あんなにあせったアキラ先輩をはじめて見た。

 かべの向こうは裏庭で、アキラ先輩は暗い中幽霊ゆうれいを探してるみたいだった。

「どこにいるんだ!? 出てきてくれよ、姉さん!」

 姉さん?
 どういうこと?

 必死に幽霊ゆうれいを探すアキラ先輩の言葉に疑問をいだく。
 ひとしきり探して、見当たらないとあきらめた様子のアキラ先輩にその疑問をぶつけた。

「アキラ先輩? 姉さんってどういうことですか?」
「あ……」

 私の声に冷静になったのか、ハッとしたアキラ先輩は覚悟かくごを決めたみたいに表情を引きしめる。

「ラナさんにはちゃんと話さなきゃなって思ってた。……聞いてくれるかな?」
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