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異界を渡るマレビト
私が聖女!?①
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広いところに出ると、確かに多くのケガ人がいた。
でもなんで私が聖女?
あ、もしかして同じ服装してるから勘違いされた!?
そこに思い当たって、何で鏡は私にこの格好をさせたの!?って悲鳴を上げたい気分になる。
聖女の格好なんてしても、この世界の人じゃないから回復魔法なんて使えるわけないのに!
「私はあっちの方に行くから、この辺りの人たちをお願いね」
「え!? ま、待って!」
勝手に引っ張って来て置いて行かないで!?
呼び止めたけれど、彼女は急いで行ってしまった。
あとに残された私は不安な表情を隠しもせずについて来てくれたアキラ先輩を見上げる。
「あ、アキラ先輩ぃ……」
「あー……まあ、とりあえずやってみればいいんじゃないかな?」
困ったように眉を寄せてはいたけれど、アキラ先輩がこの状況をなんとかしてくれるってことはないらしい。
ついさっき頼りになる先輩だって言ったばかりだけれど、早くも考えを改めなきゃいけないかもしれないって思う。
「聖女さまっ……この子を」
やっぱり私の格好を見て聖女だって思ったのかな?
五歳くらいの男の子を抱いた女の人が近づいてきた。
「いたいよぉ……いたいよぉ……」
「っ!」
泣きながら何度も痛いと言ってる子どもは、背中が血だらけだった。
服がやぶれているから、地面かどこかで盛大に擦ったのかもしれない。
命に係わるようなケガじゃないみたいだけれど、痛々しいことに変わりはない。
「治療をお願いします、聖女さま」
母親っぽい女の人にもう一度頼まれる。
自分も額から血を流しているのに、子どもを治してって頼み込んでくる彼女に泣きたくなるほど困った。
こんな痛々しいケガ、治せるなら治したいよ。
でも、私に魔法なんて使えるわけないし……。
「大丈夫だよ、ラナさん。キミならできる」
できません!って叫んで逃げ出したい気持ちになったところに、アキラ先輩が無責任なことを言って来た。
でも、肩を叩かれて見上げた顔はドキリとするくらい真剣な表情で……。
少なくとも無責任に言ってるわけじゃないってわかる。
「大丈夫、ラナさんはこんなに順応性が高いんだ。キミになら絶対大きな力が与えられてるはずだから」
「え?」
どういうこと?って詳しく話を聞きたかった。
けれど、すがるように見てくる母子を放っておくことも出来なくて。
だから私はアキラ先輩の言葉を信じることにした。
ゴクリとつばをのみ込んで、男の子のケガをよく見る。
ヒザをすりむくことはあるけれど、そのケガが背中一面にある感じ。
見ているだけで痛そう。
本当に私が治せるっていうなら、治してあげたい。
覚悟を決めて、私は祈るように手を組んだ。
さっきから何度も聞こえて来てる祈りの言葉。
きっとあれが回復魔法の呪文みたいになってるんだと思う。
私は間違えないようにって、ゆっくりその言葉を口にした。
「金色の御使いアウルよ、女神の力を運びて癒しをあたえたまえ」
本当に私に治せるのかってドキドキ鼓動が早まる。
不安と期待がないまぜになって、痛そうな男の子の背中をジッと見た。
何も起こらないんじゃないかって不安からか、時間がたつのが遅い。
でも、フワフワとした光がちゃんと現れる。
光は男の子の背中を包み込んで、消えると痛々しい様子だったケガがキレイに治っていた。
「……いたく、ない?」
「ああ、ありがとうございます!」
お礼を言われて本当に治せたんだってホッとする。
どうしてこの世界の人間じゃないのに回復魔法が使えたのかって疑問はあるけれど、いまはただただ治せて良かったって思う。
「おかあさんも、いたくない?」
男の子は自分の痛みがなくなると、お母さんのケガを心配して彼女の額をぺたぺたさわる。
「え? ええ、痛くないわ。……すごい、一度に二人のケガを治せるなんて」
自分のケガも治っていることを確認した女の人は、ちょっと驚いてから私に笑顔を向けた。
「とても力のある聖女さまなのですね。本当にありがとうございます」
「ありがとう、せいじょさま」
男の子も一緒にお礼を言ってくれて、二人は離れていく。
見送りながら、じわじわと喜びとかワクワクがわいてきた。
治した直後は良かったって安心の気持ちしかなかったけど、時間がたつにつれて私が魔法を使ったんだっていう実感がわく。
「すごい、本当に治せたんだっ」
「そうだね……思った通り、ラナさんは強い力を与えられたんだね」
「え? っ!」
アキラ先輩の声に思わず振り返って見ると、不意打ちみたいにカッコイイ顔が飛び込んできて一瞬息が止まる。
あ、あぶないあぶない。
さっきみたいにいっぱいいっぱいのときは平気でも、普段はやっぱり直視できないよ。
魔法を使えたっていうドキドキが違うドキドキに変わって、それを落ち着けるために何度か軽く深呼吸をする。
そうしているうちにまたケガをしている人たちが近づいてきた。
「聖女さま……治療をお願いします」
「あ、はい」
返事をして、私はドキドキしないように気を引きしめてアキラ先輩を見た。
どうして私が魔法を使えるのかとか疑問はあるけれど、とりあえずケガ人の治療が先だよね。
「アキラ先輩、あとでくわしい話聞かせてくださいね!」
「ああ、そうだね。わかってる」
ひとまず疑問はあとで解消することにして、私はアキラ先輩に手伝ってもらいながらケガ人の治療に専念した。
でもなんで私が聖女?
あ、もしかして同じ服装してるから勘違いされた!?
そこに思い当たって、何で鏡は私にこの格好をさせたの!?って悲鳴を上げたい気分になる。
聖女の格好なんてしても、この世界の人じゃないから回復魔法なんて使えるわけないのに!
「私はあっちの方に行くから、この辺りの人たちをお願いね」
「え!? ま、待って!」
勝手に引っ張って来て置いて行かないで!?
呼び止めたけれど、彼女は急いで行ってしまった。
あとに残された私は不安な表情を隠しもせずについて来てくれたアキラ先輩を見上げる。
「あ、アキラ先輩ぃ……」
「あー……まあ、とりあえずやってみればいいんじゃないかな?」
困ったように眉を寄せてはいたけれど、アキラ先輩がこの状況をなんとかしてくれるってことはないらしい。
ついさっき頼りになる先輩だって言ったばかりだけれど、早くも考えを改めなきゃいけないかもしれないって思う。
「聖女さまっ……この子を」
やっぱり私の格好を見て聖女だって思ったのかな?
五歳くらいの男の子を抱いた女の人が近づいてきた。
「いたいよぉ……いたいよぉ……」
「っ!」
泣きながら何度も痛いと言ってる子どもは、背中が血だらけだった。
服がやぶれているから、地面かどこかで盛大に擦ったのかもしれない。
命に係わるようなケガじゃないみたいだけれど、痛々しいことに変わりはない。
「治療をお願いします、聖女さま」
母親っぽい女の人にもう一度頼まれる。
自分も額から血を流しているのに、子どもを治してって頼み込んでくる彼女に泣きたくなるほど困った。
こんな痛々しいケガ、治せるなら治したいよ。
でも、私に魔法なんて使えるわけないし……。
「大丈夫だよ、ラナさん。キミならできる」
できません!って叫んで逃げ出したい気持ちになったところに、アキラ先輩が無責任なことを言って来た。
でも、肩を叩かれて見上げた顔はドキリとするくらい真剣な表情で……。
少なくとも無責任に言ってるわけじゃないってわかる。
「大丈夫、ラナさんはこんなに順応性が高いんだ。キミになら絶対大きな力が与えられてるはずだから」
「え?」
どういうこと?って詳しく話を聞きたかった。
けれど、すがるように見てくる母子を放っておくことも出来なくて。
だから私はアキラ先輩の言葉を信じることにした。
ゴクリとつばをのみ込んで、男の子のケガをよく見る。
ヒザをすりむくことはあるけれど、そのケガが背中一面にある感じ。
見ているだけで痛そう。
本当に私が治せるっていうなら、治してあげたい。
覚悟を決めて、私は祈るように手を組んだ。
さっきから何度も聞こえて来てる祈りの言葉。
きっとあれが回復魔法の呪文みたいになってるんだと思う。
私は間違えないようにって、ゆっくりその言葉を口にした。
「金色の御使いアウルよ、女神の力を運びて癒しをあたえたまえ」
本当に私に治せるのかってドキドキ鼓動が早まる。
不安と期待がないまぜになって、痛そうな男の子の背中をジッと見た。
何も起こらないんじゃないかって不安からか、時間がたつのが遅い。
でも、フワフワとした光がちゃんと現れる。
光は男の子の背中を包み込んで、消えると痛々しい様子だったケガがキレイに治っていた。
「……いたく、ない?」
「ああ、ありがとうございます!」
お礼を言われて本当に治せたんだってホッとする。
どうしてこの世界の人間じゃないのに回復魔法が使えたのかって疑問はあるけれど、いまはただただ治せて良かったって思う。
「おかあさんも、いたくない?」
男の子は自分の痛みがなくなると、お母さんのケガを心配して彼女の額をぺたぺたさわる。
「え? ええ、痛くないわ。……すごい、一度に二人のケガを治せるなんて」
自分のケガも治っていることを確認した女の人は、ちょっと驚いてから私に笑顔を向けた。
「とても力のある聖女さまなのですね。本当にありがとうございます」
「ありがとう、せいじょさま」
男の子も一緒にお礼を言ってくれて、二人は離れていく。
見送りながら、じわじわと喜びとかワクワクがわいてきた。
治した直後は良かったって安心の気持ちしかなかったけど、時間がたつにつれて私が魔法を使ったんだっていう実感がわく。
「すごい、本当に治せたんだっ」
「そうだね……思った通り、ラナさんは強い力を与えられたんだね」
「え? っ!」
アキラ先輩の声に思わず振り返って見ると、不意打ちみたいにカッコイイ顔が飛び込んできて一瞬息が止まる。
あ、あぶないあぶない。
さっきみたいにいっぱいいっぱいのときは平気でも、普段はやっぱり直視できないよ。
魔法を使えたっていうドキドキが違うドキドキに変わって、それを落ち着けるために何度か軽く深呼吸をする。
そうしているうちにまたケガをしている人たちが近づいてきた。
「聖女さま……治療をお願いします」
「あ、はい」
返事をして、私はドキドキしないように気を引きしめてアキラ先輩を見た。
どうして私が魔法を使えるのかとか疑問はあるけれど、とりあえずケガ人の治療が先だよね。
「アキラ先輩、あとでくわしい話聞かせてくださいね!」
「ああ、そうだね。わかってる」
ひとまず疑問はあとで解消することにして、私はアキラ先輩に手伝ってもらいながらケガ人の治療に専念した。
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