異世界タイムスリップ

緋村燐

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異界を渡るマレビト

神秘学研究部③

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 これまたイケメンさんだ。
 ちょっとタレ目で甘い雰囲気ふんいきの顔。
 驚きながら見上げていると、愛嬌あいきょうのある茶色の目と視線があった。

「あ、こんにちは」

 突然入って来てビックリしたけど、多分この人が冬見先輩が言ってた変わった先輩だよね。
 ぱっと見変わってるようには見えないけど……。

「なっ……お、女の子!?」

 数秒固まってた先輩は、今度は大きな声を上げて顔を真っ赤にさせた。
 そのまま早足で私を通りこして冬見先輩のところに行っちゃう。

「おい、アキ! なんで部室に女の子がいるんだよ!? ナンパして連れ込んだのか?」

 一応ヒソヒソ声で話しているけど、そんなに離れてないからまる聞こえだった。

「ナンパって、お前じゃないんだから……。入部希望者だよ、ちゃんとあいさつしろって」
「入部希望者!? 来年までに一人でも入ってくれればいいとか言ってただろ!? なんで説明会直後に来るんだよ!?」
「いや、説明聞いて興味持ってくれたから来たんだろ? 普通だよ」
「で、でも俺にだって心の準備がっ!」

 色々と文句を言ってる先輩。
 相手をしてる冬見先輩はハァーって深く息を吐いてからミルクティー色の頭を片手でガシッと掴んだ。

「いいから、あ・い・さ・つ!」
「っ! わ、わかったよ」

 冬見先輩に強く言われて、もう一人の先輩は何度か深呼吸してから私に向き直る。

「やあ! 初めまして、俺は二年B組の夏木スバル。神秘学研究部の副部長をしてるんだ」

 さっき私を見て顔を赤くしていた人と同一人物とは思えない様子に驚いて何度もまばたきしちゃう。
 しかもバチッてウインクまでしてきて……なんか、軽い感じ?

「あ、私は秋野ラナです。よろしくお願いします」

 ビックリしたけど、自己紹介もしてくれたから私も名乗った。

「へぇ、秋野ラナちゃんね。あきの――アキとかぶっちゃうから、ラナちゃんって名前で呼んでもいいよな?」「え? あ、そうですね。良いですよ」
「俺たちのこともぜひ名前で呼んでくれ。何百何千の星の中、運命の出会いに感謝しよう」
「はあ……」

 星でも飛ばしそうな明るさにさっきと全然違うなって思った。
 さっきはちょっと照れやすいけど元気な人って感じだったのに、今はなんだか軽くてムダに明るい。
 しかもクッサイセリフ。
 イケメンだからかろうじて様になってるけれど、人によっては鳥肌立つかも。
 カンナだったらイケメン関係なく「キモッ!」とか叫びそうだなぁ。

 スバル先輩の後ろでは冬見――アキラ先輩が片手でひたいをおおってる。
 目が合うと、困り笑顔をされた。

「まあ、見ての通りこういうやつなんだけど……ごめん、引いたよな? でも入部するの止めないで欲しいな」
「入部を止める? そんなことしませんよ?」

 軽く驚きつつすぐに否定する。
 確かにスバル先輩って変わってるしちょっとビックリしたけど、引いちゃうって程でもなかったもん。

「確かにアキラ先輩の言った通りですけど……面白い人ですね、スバル先輩って」

 本当に気にしてないって意味を込めて笑顔で伝える。
 つまりスバル先輩は本当は女の子が苦手で、話をしようとするとキザでクサイセリフを言っちゃうってことだよね?
 変わってるけど、引くほど変なことでもないかな?
 少なくとも私は。

「へぇ……なんていうか、順応性高いんだな」
「へへ、よく言われます」
「そっか……キミならもしかして他の世界でも……」
「はい?」

 何か言いかけて止まったアキラ先輩に首をかしげて見せると、「なんでもない」って返ってきた。

「よし! これからは三人での部活動ってことで。素晴らしき出会いにカンパイ!」

 飲み物なんてないのにカンパイするしぐさをするスバル先輩。
 うん、やっぱり面白い先輩だね。

「まったく……でも本当に、ラナさんが入ってくれて良かったよ。三人以上いないと部として認められないから」

 そうして浮かべた笑顔からは、眼鏡がないときのイケメンさがにじみ出ててちょっとドキッとする。

「ありがとう。これからよろしく、ラナさん」
「は、はい!」

 胸をドキドキさせながら、私はこれからの中学生活は楽しくなりそうだなって思った。
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