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7.それぞれの決意

閑話 守るために

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「年明けのパーティねぇ……」

 出席するとあのセンコーに伝えたときの聖良を思い出しながら、俺は自室に向かうエレベーターの中で考えていた。


 吸血鬼の各家の当主が出席するというパーティー。

 あの月原家の当主も参加するのだから何も起こらないわけがない。
 それが分かっていても、あいつは行くと決めてしまった。

 いいのか? と聞いた俺に。

『守ってくれるっていうみんなの言葉を信じたいと思ったんだ……それに、永人もそばにいてくれるでしょう?』

 なんて、信頼しきった笑顔で言われたら、反対することも出来やしねぇ。

 まあいいさ。
 今度こそ守りきると誓った。

 もう油断なんてしない。
 どんな手を使ってでも守りきる。


 聖良を狙う家はおそらく一つじゃあすまない。
 だが、やっぱり月原家は筆頭だろう。

 何度も“花嫁”を狙っている月原家は当然ながらマークされている。
 そのパーティーを逃したら次は無いと考えていてもおかしくはないだろう。


 ……ってことは、話に聞いた例の薬を使うかもしれねぇな。

 意識が朦朧として動けなくなる薬だと聞いた。

 副作用や依存性はないと言っていたが……でもだからこそ使い勝手が良いんだろう。
 “花嫁”に使うことを躊躇いもしなかった。


「……確か、ハーブ系を使ってると言っていたか?」

 何とか中和剤のようなものを作れないかと、聞いた薬草名を思い出す。

 全ての材料を聞いたわけじゃあないし、分量にいたっては全く聞いていない。
 だから完全に中和できるとは思えないが……。


 チン、と音が鳴り自室がある階についた。

 エレベーターを降りながらも考え続けるが、一つ問題があることに気付く。


「……薬草名思い出しても、それらを中和するのがどういった成分なのか分かんねぇじゃねぇか」

 俺にはハーブ系の知識なんてねぇからな。


 これはお手上げか?
 別の方法で守ることを考えた方がいいか?

 いや、でも身動き取れなくなるのが一番困るしなぁ……。


 何とかできないものかと考え続け、部屋の鍵を開けたところだった。

「お? 岸、今帰りか?」

「げっ」

 元々面倒だと思っていた相手だったが、ここ最近絡まれたせいで確実に苦手な相手になった鬼塚に声を掛けられてしまう。


「『げっ』はないだろう? 勉強とか手伝ってやってんのに」

「……別に、手伝ってくれとは言ってない」

 このまま絡まれるのは面倒だった俺は、さっさと部屋に入ろうとドアを開ける。

 だが、中に入る前に肩を組まれてしまった。


「とか言っておいて都合のいい時だけは俺を使うよな?」
「……」

 それはあえてスルーした。

 まあ確かに、勉強で分からないところは仕方ねぇから聞くし?
 この間聖良に教えた露天風呂の詳しい場所もこいつに聞いたし?

 利用できるものを使って何が悪い。

 鬼塚を利用するのと、俺が鬼塚を苦手に思っていることは別問題だ。


「無言とか。ま、利用しといてそれを否定までしてたらホントにクズだけどな」

 と、何が面白いのか笑う鬼塚。

 うんざりしてきた俺は大きくため息を吐いて肩に回された鬼塚の腕を外す。


「お前だって好意で勉強教えたりしてるわけじゃねぇだろうが。……詫びのつもりか?」
「……」

 今度は鬼塚が黙る番だった。

 後から聞いたが、一部のH生が聖良のことを襲った事件があったらしい。

 聞けば聞くほど腸が煮えくり返る。
 当事者であるH生達をすぐにでもひねり殺したくて仕方ない。

 同時に、そんなときに聖良の側にいられなかった自分自身にも嫌気がさす。

 当時の状況じゃあ無理なことは分かりきっているが、だからと言って悔しさや怒りが収まるはずもない。


 鬼塚は聖良を助けてくれた側だが、暴挙に出たH生と同じ古いハンターの家系の生徒だ。
 何かしら申し訳なく思っての行動かもしれない。

「……ま、否定はしないよ」

 微妙な笑みを浮かべた鬼塚は、「だが」と続ける。

「お前への詫びって言うよりは聖良への詫びかな? お前を助ければ、巡り巡って聖良の助けになるだろうから」

 そう言った鬼塚の表情は少し悲し気で、聖良を直接助けられないことをもどかしく思っている様子だった。


 ……気にくわねぇ。

 鬼塚のその様子に聖良への好意が見え隠れしていることに気付いてイライラする。

 本当に、聖良を想う男は俺だけで良いってのに。

 あいつの視界に、俺以外の男が入るんじゃねぇよ。


 何とも言えない焦燥が胸を焼く。

 聖良が見ている男は俺だけだって分かっているのに、聖良を好きな男が他にいるというだけで強い独占欲が沸き上がる。


 ……だが、鬼塚はまだマシなんだろう。

 聖良のそばから離れて、代わりに俺を詫びの対象にしているんだから。


 だから、俺もこいつを都合よく使えるとも言える。

 そこまで考えて少し冷静になった俺は今回も利用してみることを思いついた。

 まあ、役に立つかは分からねぇが。


「……じゃあ遠慮なく助けてもらおうか?」

「……なんだよ?」

 警戒する鬼塚に俺はわざと小ばかにするような笑みを向けた。


「お前さ、ハープとか薬草に詳しいか?」

「へ? あ、ああ……俺の家は昔からそういうの使って吸血鬼に対抗してたからな。ある程度の知識はあるぞ?」

「……マジで詳しいのかよ」

 分かるわけねぇよな、と思っていただけにビックリだ。


「なんだよ、薬草が必要なのか? 保健室の高峰先生もそういうの好きみたいだぜ? 聞いてみたら貰えるかもしれないぞ?」

 しかも大人の助っ人も得られそうだ。


 これは、それこそ利用しない手はないだろう。

 なりふり構ってなんかいられねぇんだ。

 手段は選ばないと決めた。
 気に食わなかろうが何だろうが、気にしている場合じゃねぇ。


「それは、助かる。……協力してくれ、鬼塚」

 俺の頼みに、鬼塚は戸惑いながらも「お、おう」と返していた。
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