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2.城山学園
呼び出し目撃 後編
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嘉輪に付いて行った先はある意味定番な校舎裏。
中等部と高等部の校舎の丁度間辺りの場所だった。
愛良を囲んでいるのは中等部の子と高等部の子が半々くらい。
どうして高等部の校舎の方で愛良を見たのかと思ったけど、もしかしたら高等部の子の方に呼び出されたのかもしれない。
「……H生の子達ばっかりね。まずいかも」
眉間にしわを寄せて呟く嘉輪の緊張感が伝わる。
「H生だとまずいの?」
嘉輪に合わせて声を抑えて話す。
H生、ハンターは守ってくれる人達じゃなかったの?
確かに愛良に詰め寄っていて明らかにまずい状態ではあると思うけれど。
「まあ、命の危険って意味では大丈夫なんだけど。……さっきした話覚えてる?」
「さっき?」
というと、多分正輝くんと三人で話していたことだろう。
でもどの話なのか……。
ピンと来ていない私に、嘉輪は丁寧に教えてくれた。
「H生側の理解度がまちまちだって話よ」
「ああ」
「まちまちだから、H生としてよりも個人の感情を優先してしまう可能性があるってことよ」
「個人の感情って……」
何となくは分かって来た。
でもハッキリした理由までは分からない。
個人の感情って言うなら、それは彼女達本人にしか分からないことだから。
でも嘉輪には予測が出来たのか、続けて説明してくれる。
「“花嫁”の結婚について赤井家が中心となって相手を決めていたでしょう?」
「うん。五人いるよ?」
それぞれの顔を思い浮かべながら答えた。
零士の顔が出た時はすぐに消し去ったけど。
「あいつらってね、揃いも揃って女子からの人気がすごいのよ」
「へ?」
まあ、確かに顔は皆良いよね。
性格も……一人を除いてそこまで悪くはないか。
「H生とV生との恋愛も普通にある学園だから、結構本気で狙ってる子もいるみたいなのよね」
「……それってつまり」
この愛良呼び出しの理由が分かった。
つまり、あの五人の誰かを選ぶなって忠告してるってことかな。
そう納得したけれど、嘉輪の次の言葉で私の考えが甘かったことを知る。
「しかもあの子達。五人全員の追っかけがいるわ……」
「全員⁉」
思わず大きな声が出て嘉輪に「しーっ!」と口を塞がれた。
全員ってことは誰も選ぶなって言われてるってことでしょう?
選べって言われたのに他の人は選ぶなって言うとか……どうすりゃいいのよ⁉って感じだ。
叫ばずにはいられない。
そんな大きな声を出してしまったけれど、彼女達には聞こえなかったみたいだ。
話し声がこっちに聞こえてくるほど大きくなっている。
「だからって、絶対にあの五人じゃなきゃいけないわけじゃないでしょう⁉」
そう怒鳴りつける先輩相手に、愛良は気丈に振る舞って何かを言っていた。
あんな風に囲まれて、怖く無いわけないのに。
姉として強くなったんだなぁと少し感動する反面、状況が悪くならないか心配な気持ちもある。
状況をちゃんと理解してから出て行った方が良いかとも思って、嘉輪が様子を伺うのを黙って見ていたけれどそろそろ限界かもしれない。
「ねえ、そろそろ――」
出て行った方が良いんじゃない? と言おうとした時だった。
バチーンと派手な音が校舎裏に響き渡る。
目を向けると、愛良がさっき叫んでいた子に頬を叩かれたところだった。
それを目にした途端、私は何も考えす足を動かす。
「あ、聖良! まって、私も――」
嘉輪の声も聞こえたけれど、私に待つという選択肢はなかった。
飛び出して、集団をすり抜けて愛良のところへ向かう。
「愛良!」
「……お姉ちゃん?」
愛良の近くに行くとすぐに叩かれた頬の状態を見る。
口の中は切れてないだろうか?
頬は……駄目だ、これはすぐに冷やさないと腫れる。
「な、なによあんた。突然出てきて」
そう誰何の声を掛けられたけど、その質問は無視して私は彼女を睨みつけた。
「……どいて」
怒りから声がいつもより低くなる。
「あ、あんた“花嫁”の姉の方……。丁度良かった、あんたにも言いたいことがあったのよ」
私が愛良の姉だと気付いたらしく、彼女は気を取り直してそんなことを言う。
大方私にも、あの五人から結婚相手を選ぶなとかいう話だろう。
そんなどうでもいい話、聞くつもりはない。
「あなたの無駄話なんて聞くつもりはない。……どけ」
どくつもりのない彼女たちに、最後には口も悪くなってしまった。
早く愛良の頬を冷やさないと。
彼女たちに謝らせたいとか、他にも思うことはあったけれどまずは愛良の治療が先だ。
このわからずや達の囲いをどう突破しようかと考え始めたとき、囲いの外から嘉輪の声がした。
「そこまで。あなた達、やりすぎよ」
冷静な声は、良く通ってその場に響く。
私も少し冷静になれた。
その場のみんなが嘉輪に注目する。
ただ言葉を発しただけなのに、目を向けずにはいられないカリスマみたいなものがあった。
嘉輪って凄い。
そう思った私の耳に、集団の誰かの呟く声が聞こえた。
「……純血の姫……」
純血の姫?
って、嘉輪のこと?
意味はよく分からなかったけれど、姫というのはピッタリだと思った。
美人で、かっこよくて。
可愛いところもあるけれど、凛とした雰囲気も良く似合う。
まさにお姫様という感じだ。
「少し様子を見ていたけれど、暴力まで振るうならやりすぎとしか言いようがないわ」
「だって、それはこの子がっ!」
嘉輪の言葉に反発するように誰かが叫ぶ。
でも、続く言葉は出てこない。
愛良が何を言ったのかは分からないけれど、そんなに酷い言葉を口にしたとは思えない。
愛良は性格悪くないし。
ただ、その言葉が彼女達の癇に障っただけだ。
それで暴力を振るうとか……どちらが悪いのかなんて明白だった。
彼女達も本当は分かっているんだろう。
だから言葉が出てこないんだ。
「大体、あなた達自分の事しか考えてないでしょう? “花嫁”の立場になって考えてみた? 彼女達は突然“花嫁”だって言われてこの学園に転入させられたのよ?」
「っ! そ、れは……」
……呆れた。
どうやら本当に自分の事しか考えていなかったらしい。
みんながみんな、言われてはじめて気が付いたといった様子だ。
これが私達を守ってくれるはずのH生、ハンター達か。
弓月先輩みたいに頼れる人もいるけれど、完全には信頼出来ないな。
それが私の率直な気持ちだった。
「……だから、もうやめなさい。ほら、解散」
軽くため息をついた嘉輪の言葉を聞いて、集団はパラパラと散っていく。
まだ何か言い足りないと言った表情も多かったけれど、嘉輪の存在を気にしている様でこの場から去っていった。
嘉輪って何者?
さっきの純血の姫っていうのと関係がある?
そんな疑問が頭を過ぎったけれど、今はもっと大事なことがある。
「愛良、ほら。保健室行こう」
私は愛良に向き直り急かした。
「あ、うん……」
愛良は状況に付いて行けないのか、少し呆然としながら返事をする。
そんな愛良の手を引いたところで嘉輪が声を掛けて来た。
「私も行くよ。保健室の場所まだちゃんと分からないでしょう?」
「うっ……お願い」
保健室にお世話になることもそうそうないので、特に場所は把握していなかった。
だから案内は素直に嬉しい。
「ここからなら高等部の保健室の方が近いから、そっちに行こう」
そうして三人で歩き出してすぐの角を曲がろうとしたとき、その角から慌てた様子の男子生徒が一人現れた。
その彼の姿を目にした瞬間、私は怒りが爆発してしまう。
「……あんた……今更何をのこのこ来てるのよ、零士っ」
色々な鬱憤も溜まってて、八つ当たりも入ってるって自分でも分かっていた。
でも、止められなかった。
「愛良の事守るって言ってたじゃない。全然、守れてないじゃない!」
「何っ⁉」
私の言葉にすぐに反発しようとした零士だったけど、愛良の方に目を向けて声が途切れる。
「殴られた、のか……?」
呆然と呟く零士を私は無視した。
「嘉輪、早く行こう。愛良の頬冷やさなきゃ」
「……そうね」
嘉輪は何も言わず案内のため先を歩いてくれる。
愛良は零士を気にしていた様だったけれど、私に手を引かれていたのもあって何も言えずにその場を後にした。
零士は後をついてこない。
正直ホッとした。
言った事は後悔して無いけれど、八つ当たりが入ってしまった事は少し申し訳なく思ってしまったから。
そうして保健室へ急いで、愛良の頬を冷やす事が出来てからやっと落ち着けた。
中等部と高等部の校舎の丁度間辺りの場所だった。
愛良を囲んでいるのは中等部の子と高等部の子が半々くらい。
どうして高等部の校舎の方で愛良を見たのかと思ったけど、もしかしたら高等部の子の方に呼び出されたのかもしれない。
「……H生の子達ばっかりね。まずいかも」
眉間にしわを寄せて呟く嘉輪の緊張感が伝わる。
「H生だとまずいの?」
嘉輪に合わせて声を抑えて話す。
H生、ハンターは守ってくれる人達じゃなかったの?
確かに愛良に詰め寄っていて明らかにまずい状態ではあると思うけれど。
「まあ、命の危険って意味では大丈夫なんだけど。……さっきした話覚えてる?」
「さっき?」
というと、多分正輝くんと三人で話していたことだろう。
でもどの話なのか……。
ピンと来ていない私に、嘉輪は丁寧に教えてくれた。
「H生側の理解度がまちまちだって話よ」
「ああ」
「まちまちだから、H生としてよりも個人の感情を優先してしまう可能性があるってことよ」
「個人の感情って……」
何となくは分かって来た。
でもハッキリした理由までは分からない。
個人の感情って言うなら、それは彼女達本人にしか分からないことだから。
でも嘉輪には予測が出来たのか、続けて説明してくれる。
「“花嫁”の結婚について赤井家が中心となって相手を決めていたでしょう?」
「うん。五人いるよ?」
それぞれの顔を思い浮かべながら答えた。
零士の顔が出た時はすぐに消し去ったけど。
「あいつらってね、揃いも揃って女子からの人気がすごいのよ」
「へ?」
まあ、確かに顔は皆良いよね。
性格も……一人を除いてそこまで悪くはないか。
「H生とV生との恋愛も普通にある学園だから、結構本気で狙ってる子もいるみたいなのよね」
「……それってつまり」
この愛良呼び出しの理由が分かった。
つまり、あの五人の誰かを選ぶなって忠告してるってことかな。
そう納得したけれど、嘉輪の次の言葉で私の考えが甘かったことを知る。
「しかもあの子達。五人全員の追っかけがいるわ……」
「全員⁉」
思わず大きな声が出て嘉輪に「しーっ!」と口を塞がれた。
全員ってことは誰も選ぶなって言われてるってことでしょう?
選べって言われたのに他の人は選ぶなって言うとか……どうすりゃいいのよ⁉って感じだ。
叫ばずにはいられない。
そんな大きな声を出してしまったけれど、彼女達には聞こえなかったみたいだ。
話し声がこっちに聞こえてくるほど大きくなっている。
「だからって、絶対にあの五人じゃなきゃいけないわけじゃないでしょう⁉」
そう怒鳴りつける先輩相手に、愛良は気丈に振る舞って何かを言っていた。
あんな風に囲まれて、怖く無いわけないのに。
姉として強くなったんだなぁと少し感動する反面、状況が悪くならないか心配な気持ちもある。
状況をちゃんと理解してから出て行った方が良いかとも思って、嘉輪が様子を伺うのを黙って見ていたけれどそろそろ限界かもしれない。
「ねえ、そろそろ――」
出て行った方が良いんじゃない? と言おうとした時だった。
バチーンと派手な音が校舎裏に響き渡る。
目を向けると、愛良がさっき叫んでいた子に頬を叩かれたところだった。
それを目にした途端、私は何も考えす足を動かす。
「あ、聖良! まって、私も――」
嘉輪の声も聞こえたけれど、私に待つという選択肢はなかった。
飛び出して、集団をすり抜けて愛良のところへ向かう。
「愛良!」
「……お姉ちゃん?」
愛良の近くに行くとすぐに叩かれた頬の状態を見る。
口の中は切れてないだろうか?
頬は……駄目だ、これはすぐに冷やさないと腫れる。
「な、なによあんた。突然出てきて」
そう誰何の声を掛けられたけど、その質問は無視して私は彼女を睨みつけた。
「……どいて」
怒りから声がいつもより低くなる。
「あ、あんた“花嫁”の姉の方……。丁度良かった、あんたにも言いたいことがあったのよ」
私が愛良の姉だと気付いたらしく、彼女は気を取り直してそんなことを言う。
大方私にも、あの五人から結婚相手を選ぶなとかいう話だろう。
そんなどうでもいい話、聞くつもりはない。
「あなたの無駄話なんて聞くつもりはない。……どけ」
どくつもりのない彼女たちに、最後には口も悪くなってしまった。
早く愛良の頬を冷やさないと。
彼女たちに謝らせたいとか、他にも思うことはあったけれどまずは愛良の治療が先だ。
このわからずや達の囲いをどう突破しようかと考え始めたとき、囲いの外から嘉輪の声がした。
「そこまで。あなた達、やりすぎよ」
冷静な声は、良く通ってその場に響く。
私も少し冷静になれた。
その場のみんなが嘉輪に注目する。
ただ言葉を発しただけなのに、目を向けずにはいられないカリスマみたいなものがあった。
嘉輪って凄い。
そう思った私の耳に、集団の誰かの呟く声が聞こえた。
「……純血の姫……」
純血の姫?
って、嘉輪のこと?
意味はよく分からなかったけれど、姫というのはピッタリだと思った。
美人で、かっこよくて。
可愛いところもあるけれど、凛とした雰囲気も良く似合う。
まさにお姫様という感じだ。
「少し様子を見ていたけれど、暴力まで振るうならやりすぎとしか言いようがないわ」
「だって、それはこの子がっ!」
嘉輪の言葉に反発するように誰かが叫ぶ。
でも、続く言葉は出てこない。
愛良が何を言ったのかは分からないけれど、そんなに酷い言葉を口にしたとは思えない。
愛良は性格悪くないし。
ただ、その言葉が彼女達の癇に障っただけだ。
それで暴力を振るうとか……どちらが悪いのかなんて明白だった。
彼女達も本当は分かっているんだろう。
だから言葉が出てこないんだ。
「大体、あなた達自分の事しか考えてないでしょう? “花嫁”の立場になって考えてみた? 彼女達は突然“花嫁”だって言われてこの学園に転入させられたのよ?」
「っ! そ、れは……」
……呆れた。
どうやら本当に自分の事しか考えていなかったらしい。
みんながみんな、言われてはじめて気が付いたといった様子だ。
これが私達を守ってくれるはずのH生、ハンター達か。
弓月先輩みたいに頼れる人もいるけれど、完全には信頼出来ないな。
それが私の率直な気持ちだった。
「……だから、もうやめなさい。ほら、解散」
軽くため息をついた嘉輪の言葉を聞いて、集団はパラパラと散っていく。
まだ何か言い足りないと言った表情も多かったけれど、嘉輪の存在を気にしている様でこの場から去っていった。
嘉輪って何者?
さっきの純血の姫っていうのと関係がある?
そんな疑問が頭を過ぎったけれど、今はもっと大事なことがある。
「愛良、ほら。保健室行こう」
私は愛良に向き直り急かした。
「あ、うん……」
愛良は状況に付いて行けないのか、少し呆然としながら返事をする。
そんな愛良の手を引いたところで嘉輪が声を掛けて来た。
「私も行くよ。保健室の場所まだちゃんと分からないでしょう?」
「うっ……お願い」
保健室にお世話になることもそうそうないので、特に場所は把握していなかった。
だから案内は素直に嬉しい。
「ここからなら高等部の保健室の方が近いから、そっちに行こう」
そうして三人で歩き出してすぐの角を曲がろうとしたとき、その角から慌てた様子の男子生徒が一人現れた。
その彼の姿を目にした瞬間、私は怒りが爆発してしまう。
「……あんた……今更何をのこのこ来てるのよ、零士っ」
色々な鬱憤も溜まってて、八つ当たりも入ってるって自分でも分かっていた。
でも、止められなかった。
「愛良の事守るって言ってたじゃない。全然、守れてないじゃない!」
「何っ⁉」
私の言葉にすぐに反発しようとした零士だったけど、愛良の方に目を向けて声が途切れる。
「殴られた、のか……?」
呆然と呟く零士を私は無視した。
「嘉輪、早く行こう。愛良の頬冷やさなきゃ」
「……そうね」
嘉輪は何も言わず案内のため先を歩いてくれる。
愛良は零士を気にしていた様だったけれど、私に手を引かれていたのもあって何も言えずにその場を後にした。
零士は後をついてこない。
正直ホッとした。
言った事は後悔して無いけれど、八つ当たりが入ってしまった事は少し申し訳なく思ってしまったから。
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