15 / 85
1.妹が吸血鬼の花嫁!?
閑話 あるV生の求心
しおりを挟む
夕日も落ち闇が近付いて来ている空を俺は教室から眺めていた。
何をするにも億劫で、ただ決められた通りの授業を受ける学園生活。
楽しいことなんて一つもない。
いっそすべてがメチャクチャになってしまえばいい。
夕日に似た色の炎で燃やし尽くして、闇に染まってしまえばいい。
そんな昏い感情しか湧いてこないのに、それを実行する気力もない。
本当に、怠惰という言葉が合いそうだなと自嘲した。
「……岸、お前何してるんだ?」
俺以外誰もいなかった教室に、おせっかいな同級生が廊下の方から声を掛けてくる。
怠惰に過ごすだけの俺を気にかけるとか……わざわざご苦労な事だ。
「鬼塚か……ただ外見てただけだぜぇ?」
少し間延びしたような語尾で言葉を返す。
前は普通に話していた気もするが、いつからか口調にも怠惰が現れてしまうようになった。
ま、問題ねぇけどな。
「それとも何か?」
俺はニヤリと馬鹿にするような笑みを向けて続ける。
「俺が違反行為でもするんじゃねぇかと見張りにきたのかぁ?」
鬼塚はH生、俺はV生。
ハンターは吸血鬼を取り締まる立場だからな。
「……そう言うってことは、何か思い当たる事があるってことか?」
途端に真面目な顔になる鬼塚。
今日もただのおせっかいだと思ったが、どうやらそれだけじゃないらしい。
「さあ? どうだろうな?」
律儀に答えてやる義理もない。
俺は曖昧な返答をした。
すると鬼塚は探るような視線を俺に向けながら静かに語り出す。
「……最近、数名のH生が吸血されて気を失ってる状態で発見されてる。催眠も掛けられたみたいで、誰にされたのか、同意の上だったのかもわかってない」
「……」
「その中には俺の幼馴染もいるんだ……岸、お前心当たりはないか?」
「……さぁな……知らねぇよ」
合わせるように静かに返してから、皮肉気に笑った。
「でもよぉ、今日は何だか胸がざわつくんだよなぁ……。こんな日は直接吸血もしたくなるかも知れねぇなぁ?」
煽るように、挑発するように告げる。
これで勝手に判断して怒り出してしまえばいいと思った。
胸がざわつくのは本当で、いくら怠惰な俺でも今日は暴れたい気分だったから。
なのに、鬼塚は予想に反して納得の表情を浮かべた。
「ああ、そういえば今日は吸血鬼の“花嫁”が到着したらしいな。そのせいでV生がみんなソワソワしてるみたいだ」
お前もか、と口にした鬼塚は警戒を解きいつものおせっかい野郎に戻る。
そのことにつまらないと感じながらも、俺は“花嫁”という言葉に納得した。
そういえば少し前にそれらしき気配を感じたな、と。
それでこんなに胸がざわついてるのか……。
俺はまた外に目を向ける。
少し前に感じた特別な気配。
確かにあの気配を感じてから特にざわつき始めた気がする。
「何でも今回は特殊らしくて、“花嫁”が二人いるらしいぞ?」
ただのおせっかい野郎にもう用はないってのに、鬼塚はそのまま話を続けた。
「まあ、片方は本物にはちょっと劣ってておまけみたいなものだって聞いたけどな」
「……」
相手をする気のない俺は相槌も打たずにただ外を見る。
薄闇に覆われた景色を眺めながら確かに気配は二つ感じたことを思い出した。
二つの気配。二人の“花嫁”。
確かに片方はほんの少しだけ血の気配が弱かった。
「……」
でも、なんでだろうなぁ……?
その弱い方の気配が、特に気になる。
本物の“花嫁”じゃなくて、劣っている方の“花嫁”に気を引かれる。
……胸がざわつく。
求めることを諦めたはずの俺が、また何かを求めようとしているのか……。
バカバカしい。
そう思うのに、引かれる心だけはどうしようもなくて……。
ざわざわと、胸の奥から全身に侵食していってるかのようだった。
「……ッチ」
この求心をどうするべきか。
答えを出せない俺は、ただ睨むように闇が降りてくる外の景色を見ていた。
何をするにも億劫で、ただ決められた通りの授業を受ける学園生活。
楽しいことなんて一つもない。
いっそすべてがメチャクチャになってしまえばいい。
夕日に似た色の炎で燃やし尽くして、闇に染まってしまえばいい。
そんな昏い感情しか湧いてこないのに、それを実行する気力もない。
本当に、怠惰という言葉が合いそうだなと自嘲した。
「……岸、お前何してるんだ?」
俺以外誰もいなかった教室に、おせっかいな同級生が廊下の方から声を掛けてくる。
怠惰に過ごすだけの俺を気にかけるとか……わざわざご苦労な事だ。
「鬼塚か……ただ外見てただけだぜぇ?」
少し間延びしたような語尾で言葉を返す。
前は普通に話していた気もするが、いつからか口調にも怠惰が現れてしまうようになった。
ま、問題ねぇけどな。
「それとも何か?」
俺はニヤリと馬鹿にするような笑みを向けて続ける。
「俺が違反行為でもするんじゃねぇかと見張りにきたのかぁ?」
鬼塚はH生、俺はV生。
ハンターは吸血鬼を取り締まる立場だからな。
「……そう言うってことは、何か思い当たる事があるってことか?」
途端に真面目な顔になる鬼塚。
今日もただのおせっかいだと思ったが、どうやらそれだけじゃないらしい。
「さあ? どうだろうな?」
律儀に答えてやる義理もない。
俺は曖昧な返答をした。
すると鬼塚は探るような視線を俺に向けながら静かに語り出す。
「……最近、数名のH生が吸血されて気を失ってる状態で発見されてる。催眠も掛けられたみたいで、誰にされたのか、同意の上だったのかもわかってない」
「……」
「その中には俺の幼馴染もいるんだ……岸、お前心当たりはないか?」
「……さぁな……知らねぇよ」
合わせるように静かに返してから、皮肉気に笑った。
「でもよぉ、今日は何だか胸がざわつくんだよなぁ……。こんな日は直接吸血もしたくなるかも知れねぇなぁ?」
煽るように、挑発するように告げる。
これで勝手に判断して怒り出してしまえばいいと思った。
胸がざわつくのは本当で、いくら怠惰な俺でも今日は暴れたい気分だったから。
なのに、鬼塚は予想に反して納得の表情を浮かべた。
「ああ、そういえば今日は吸血鬼の“花嫁”が到着したらしいな。そのせいでV生がみんなソワソワしてるみたいだ」
お前もか、と口にした鬼塚は警戒を解きいつものおせっかい野郎に戻る。
そのことにつまらないと感じながらも、俺は“花嫁”という言葉に納得した。
そういえば少し前にそれらしき気配を感じたな、と。
それでこんなに胸がざわついてるのか……。
俺はまた外に目を向ける。
少し前に感じた特別な気配。
確かにあの気配を感じてから特にざわつき始めた気がする。
「何でも今回は特殊らしくて、“花嫁”が二人いるらしいぞ?」
ただのおせっかい野郎にもう用はないってのに、鬼塚はそのまま話を続けた。
「まあ、片方は本物にはちょっと劣ってておまけみたいなものだって聞いたけどな」
「……」
相手をする気のない俺は相槌も打たずにただ外を見る。
薄闇に覆われた景色を眺めながら確かに気配は二つ感じたことを思い出した。
二つの気配。二人の“花嫁”。
確かに片方はほんの少しだけ血の気配が弱かった。
「……」
でも、なんでだろうなぁ……?
その弱い方の気配が、特に気になる。
本物の“花嫁”じゃなくて、劣っている方の“花嫁”に気を引かれる。
……胸がざわつく。
求めることを諦めたはずの俺が、また何かを求めようとしているのか……。
バカバカしい。
そう思うのに、引かれる心だけはどうしようもなくて……。
ざわざわと、胸の奥から全身に侵食していってるかのようだった。
「……ッチ」
この求心をどうするべきか。
答えを出せない俺は、ただ睨むように闇が降りてくる外の景色を見ていた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる