12 / 85
1.妹が吸血鬼の花嫁!?
吸血鬼の花嫁②
しおりを挟む
入り口は自動ドア。
入ってすぐ目の前にはソファーやテーブルが沢山あって、何人か飲み物片手にくつろいでいる。
そのスペースの一角には結構大きなテレビが備え付けてある。
ぐるりと見回すと、入り口横に左右それぞれカウンターがあり少し年配の人がいる。
「……」
何処のホテルだここは!
ツッコミたい。
大いにツッコミたいけれど声にならない。
何か叫びたくても声が出てこない私達を津島先輩は右側のカウンターに連れて行った。
一見ホテルのフロントにしか見えないそのカウンターには五十歳前後の女性がいた。
「上原さん。この二人が今日入寮する香月姉妹です」
津島先輩は簡単に私達を紹介すると、続けて私達に彼女を紹介してくれる。
「この人は上原 雪乃さん。女子寮の管理をしてくれてるんだ」
「香月 聖良です」
「香月 愛良です。よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をして私達は挨拶した。
「初めまして、上原です。何か困った事や疑問があったら遠慮なく言って頂戴ね」
柔和な笑顔でそう返した上原さんは、何だか近所のおばさんとかそんな感じの雰囲気の人だと思った。
女子寮の管理人って事は、寮母さんって事かな?
そんな風に考えていると、上原さんは鍵を2つ持ってカウンターから出て来る。
「さ、早速部屋に案内するわ。ついて来て」
「今三時前だから、三時半頃にここに戻って来てくれ。田神先生から色々と話があるから」
上原さんに促され、津島先輩の言葉に「分かりました」と返事をした私達は右側の女子棟へと向かった。
上原さんについて行った先には階段では無くエレベーター。
エレベーターの上部に表示されている階数は最大が8だ。
「8階まであるんですか……?」
答えを求めた訳では無いけれど、思わずそんな言葉が出てしまう。
「ええ、あなた達の部屋はその8階よ」
にこやかに言われ、沈黙。
これはエレベーター必須だよ……。
流石に毎日8階分の階段なんて上り下りしたくない。
エレベーターで8階まで上がると、廊下が目の前と左側に伸びていた。
それぞれ先には何も無さそうなので丁度L字型になっているみたい。
「こっちにランドリーとシャワー室があるわ。後で確認して頂戴ね」
と、左側にある大きめの横開きのドアを指した上原さん。
私達が頷くのを確認すると、目の前の廊下を進んで行く。
廊下の両側に沢山ドアがあって、その横に番号と名前が書かれたプレートが付いている。
名前がなく番号だけだったら、本当にホテルにしか見えなさそうだ。
「貴女達の部屋はここの一番奥。隣同士よ」
そう言って突き当たりまで案内すると、持っていた鍵を手渡してくれる。
愛良は824号室。
私は825号室。
私が一番奥で、愛良はその手前だ。
「部屋の中の物は好きに使っていいわ。足りない物があれば言ってちょうだい。用意するよう田神先生から伺っているから、遠慮せずに言ってね」
「ありがとうございます」
とお礼を言ったものの、流石に何もかも頼む訳にもいかないよね。
……お小遣いで足りるかな?
ティッシュとかの消耗品。タオルとか、洗濯するなら洗剤とか……。
軽く考えてみただけでもお小遣いじゃあ足りない気がする。
……どれだけ甘えて良いのかもちゃんと後で確認しておこう。
次々と確認する事が増えて、内心ウンザリしながら私は部屋の鍵を開けた。
「鍵は各自で管理してね。でも安全面を考えると、寮を出るときは私の方に一度預けてくれると助かるわ」
「はい、分かりました」
返事をすると、上原さんは「じゃあまたね」と言い残し去って行く。
ドアノブに手を掛けた私達はお互いに顔を見合わせた。
「じゃあ部屋の確認をしますか」
「何かちょっとドキドキするね」
少し笑いながら、ガチャリと音を立ててドアを開ける。
確かに少しドキドキする。
これから自分の部屋になる所がどんな様子なのかっていうのもあるけれど、この寮の外観と似た様な雰囲気のお城みたいな部屋だったらどうしようとか。
……でも、その心配は無用だった。
ドアを開けてすぐにあったのは小さな玄関。
右側に埋め込み型の靴棚があって、スリッパが一組ある。
床は明るめの色のフローリングで、靴を脱いで上がるとすぐ左側にドアがあった。
開けてみるとトイレだった。
家のトイレと比べると狭いけれど、洋式の水洗だしウォシュレットも付いているから問題は無い。
それどころかすぐにでも使える様に便座シートなども付けられている。
そして片隅には小さな洗面台。
未使用の歯ブラシとコップ、横にはタオル掛けとタオルもある。
「まさかこれも田神先生が用意してくれた物?」
そうでないとしたら前にこの部屋を使っていた人の物という事になる。
でも流石にそれは無いだろう。不衛生だ。
って事はやっぱり田神先生が用意してくれた物なんだ。
すぐにでも生活出来る様に整えてくれたんだろう。
玄関を上がって目の前にはもう部屋があるけれど、突っ張り棒で目隠しののれんがかかっていた。
シンプルなグリーンののれん。良く見るとつる草模様の刺繍がされている。
そののれんを潜り抜けると、そこは六畳ほどのワンルームだった。
左側にベッド。優しい色合いの布団が既に敷いてある。
右側には机があって、筆記用具なども準備されてあった。
そして目の前には窓。
こちらもカーテンがレースと厚手の物が付けられている。
中に入ってぐるりと見回すと、入り口から見て左側にクローゼットが備え付けてあった。
扉部分には姿見が付いている。
全体的にグリーンで纏められた落ち着く部屋だった。
クローゼットを開けてみると、そこにはバスタオルなどタオル一式だったり替えのシーツだったり。
生活に必要そうな物は私服以外の物が揃っていた。
そんな中、制服が一着だけハンガーに掛かっている。
「これ、城山学園の制服かな?」
良く見えるように手に取ってみる。
セーラー服なんだけれど、よくあるタイプとは少し違う。
大抵は紺に白のラインだけれど、これはラインの部分が赤だ。
それとスカーフではなくネクタイ型。
左胸には校章だろうか? 複雑な形の紋章が刺繍されている。
スカート丈は膝上くらいかな?
「セーラー服かぁ。中学以来だなぁ」
呟きながら、愛良の方はどんなだろうと思った。
同じ中学の浪岡君が赤チェックのズボンだったから、ブレザーかなぁ?
制服を戻して持って来た着替えなどを整理し始める。
と言ってもそんなに多く持って来た訳じゃ無いからすぐに終わってしまった。
他にする事も無いので、隣の愛良の部屋を見に行く事にする。
間取りは同じだろうけれど、どんな風に整えられているのか興味がある。
「愛良はグリーンってイメージじゃないしねー」
と呟きながら廊下に出た。
隣の部屋のドアをコンコンと軽くノックする。
それだけでも中にはちゃんと聞こえるようで、すぐに中から足音が聞こえてドアが開けられた。
「あ、お姉ちゃん。あたしも今そっち行こうかと思ってたんだよ」
そう言って愛良は部屋に招き入れてくれる。
パッと見た感想は、ピンクだった……。
間取りは左右反転している以外は同じで、全体的にピンクで統一されている。
でも悪趣味な感じではなく、優しい色合い。
薄めのピンクがメインで、所々にメリハリを付けるように濃い色や模様がある。
「へー、いい感じじゃない」
愛良のイメージとしては悪くない部屋だ。
そう思って口にした感想に、愛良も「お姉ちゃんの部屋はどうだった?」と聞いてきた。
「間取りは左右反転してるだけで、全体的にグリーンで纏められた落ち着く部屋だったよ」
「そっかぁ。まあ、お姉ちゃんはピンクってイメージじゃないしねー」
答えを聞いた愛良は、さっき私が彼女に対して思ったのと同じ感想を口にした。
……やっぱり姉妹って事かな?
同じ事考えてるとか。
「制服はどんなだった? 私はセーラー服だったけど」
もう一つ気になっていた事を聞いてみる。
「あー、零士先輩学ランだったもんね。やっぱりセーラー服だったかぁ」
そんな感想を漏らしながら愛良はクローゼットを開けて自分の制服を出して見せてくれた。
思った通りブレザーだった。
臙脂色のジャケットに、暗めの赤チェックのベストとスカート。
白いブラウスに、赤いネクタイ。
「可愛いじゃない」
愛良に似合いそうだと思いながら呟いて、ふと視線をクローゼットに向ける。
そこにはもう一着、夏の制服と思われるものが掛かっていた。
今はまだ衣替え前だから夏服があるのは分かる。
私のセーラー服も半袖の夏服だった。
でも冬服はなかったな。
「あれ? 夏服冬服揃ってるんだ? 私冬服無かったよ?」
衣替えまで一週間位しか無いのに。
そう思って疑問を口にすると、愛良はうーんと唸ってから答えた。
「お姉ちゃんの転校は急だったし、準備間に合わなかったんじゃない? 流石に衣替え前にはもらえるでしょ」
とまあ何とも楽観的な言葉だった。
でもまあ愛良の言う通りだし、これも田神先生に聞かなきゃ分からないことだ。
「それじゃあちょっと早いけど下に戻る?」
持って来ていたスマホで時間を確認しながら言う。
そのときついでに画面に出て来たメール着信のお知らせに有香の名前を見つけた。
バタバタしてて、今の今まで気付かなかった……。
一通だけでは無さそうな上に、他の人からも着信があるみたいだった。
……仕方ない、後で確認しよう。
あまりの多さに返信が大変そうだと判断した私は、今は止めておこうと判断した。
「そうだね。ランドリー室とかも見ておきたいし、出ようか?」
と言う愛良の答えに、私達は部屋の鍵とスマホだけ持って廊下に出た。
さっき案内されたばかりの廊下を逆に進み、エレベーターの所に来る。
ランドリー室の大きなドアを開けると、すぐ目の前には三台の自販機があった。
軽くラインナップを見ても、お茶やコーヒー。スポーツドリンクから炭酸飲料まで一通り揃っている。
これなら夜突然喉が渇いても大丈夫そうだ。
値段も普通より少し安めになっていて学生に優しい。
よしよしと頷いて右に視線を向けると、そこがランドリーになっていた。
全自動の洗濯機が両端に三台ずつ並んでいて、それぞれの洗濯機の上に乾燥機が設置されている。
その中の一台の前に、同じ階の住人であろう女子生徒が一人いた。
目の前の洗濯機が回っているから、洗濯をしに来たんだろう。
セーラー服姿の彼女は、入って来た私達に気付くと軽く瞬きし、ニッコリと微笑んでくれた。
「こんにちは、初めまして。近々転入して来るっていう姉妹かしら?」
着ている制服が違う事で気付いたんだろう。
挨拶と共にそんな質問をされた。
「あ、はい。香月 聖良です」
「妹の愛良です」
学年は分からなかったけれど、落ち着いた雰囲気と優し気な笑顔から年上の様な気がして敬語で答えた。
「私は弓月 美花。同じ階みたいだし、宜しくね」
そんな自己紹介を交わして、私達は少しお話をする。
やっぱり弓月さんは年上で、高等部三年だった。
しかも生徒会に所属しているらしい。
そしてこのランドリー室は自由に使って良いし、置いてある洗剤や柔軟剤、漂白剤なども無料で使って良いのだとか。
ただ自分好みの香りなどにしたいからと、自分で買って来てそれを使っている人もいるんだそう。
あとはランドリーの更に奥にあるシャワー室。
ドアが四つあって、それぞれが一人用のシャワー室だそうだ。
チラッと一室見たけれど、ドアを開けてすぐが脱衣スペースになっていて、更に奥のガラス戸がシャワー室みたいだった。
一つの階の部屋数を考えると四室は少ないと思ったけれど、皆地下の温泉に行きたがるから問題無いんだそう。
ま、私も温泉の方が良いもんね。
そんな話をしているうちに待ち合わせの時間になってしまった。
慌てて時間表示されているスマホ画面を見せて来た愛良に、私も慌てる。
「あ、弓月先輩ごめんなさい。一階で人と待ち合わせしてたんです」
そう言って、挨拶もそこそこにランドリー室を出ようとすると。
「あ、最後に一つだけ!」
強めの口調で呼び止められた。
愛良と揃って振り返ると、真剣な表情があった。
「あなた達は特に、なんだけど……V生には気を付けて」
「ぶいせい?」
聞き慣れない言葉をそのまま返す。
ハッキリ言って、何を言っているのかサッパリ分からない。
「そう、制服の襟やネクタイにVの字が書かれたピンブローチを付けている生徒の事よ」
そう言って弓月先輩は自分の制服の襟に手を添える。
そこにはHの字が書かれたピンブローチが付けてあった。
Vだと“ぶいせい”なら、Hだと“えいちせい”って言うのかな?
なんて思いながら見ていると、愛良がおずおずと聞き返した。
「えっと……生徒達が何かで分類分けされてるって事ですよね? でも気を付けてって、何に?」
愛良の疑問は当然だ。実際私も分からない。
そのV生とやらの何に気を付ければ良いと言うのか……。
愛良の質問に少し黙った弓月先輩は、真剣な表情を緩め微笑んで答えてくれた。
「その様子だとまだこの学園について説明を受けていないのね。……聞けば分かると思うけれど、V生の何かに気を付けて欲しいのじゃなくて、V生そのものに気を付けて欲しいのよ」
「???」
尚更分からなくなった。
でもそれ以上質問している時間も無いし、説明を聞けば分かると言うのなら早く下に降りた方が良い。
私達は未消化な疑問を抱えたまま弓月先輩に見送られてランドリー室を出た。
入ってすぐ目の前にはソファーやテーブルが沢山あって、何人か飲み物片手にくつろいでいる。
そのスペースの一角には結構大きなテレビが備え付けてある。
ぐるりと見回すと、入り口横に左右それぞれカウンターがあり少し年配の人がいる。
「……」
何処のホテルだここは!
ツッコミたい。
大いにツッコミたいけれど声にならない。
何か叫びたくても声が出てこない私達を津島先輩は右側のカウンターに連れて行った。
一見ホテルのフロントにしか見えないそのカウンターには五十歳前後の女性がいた。
「上原さん。この二人が今日入寮する香月姉妹です」
津島先輩は簡単に私達を紹介すると、続けて私達に彼女を紹介してくれる。
「この人は上原 雪乃さん。女子寮の管理をしてくれてるんだ」
「香月 聖良です」
「香月 愛良です。よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をして私達は挨拶した。
「初めまして、上原です。何か困った事や疑問があったら遠慮なく言って頂戴ね」
柔和な笑顔でそう返した上原さんは、何だか近所のおばさんとかそんな感じの雰囲気の人だと思った。
女子寮の管理人って事は、寮母さんって事かな?
そんな風に考えていると、上原さんは鍵を2つ持ってカウンターから出て来る。
「さ、早速部屋に案内するわ。ついて来て」
「今三時前だから、三時半頃にここに戻って来てくれ。田神先生から色々と話があるから」
上原さんに促され、津島先輩の言葉に「分かりました」と返事をした私達は右側の女子棟へと向かった。
上原さんについて行った先には階段では無くエレベーター。
エレベーターの上部に表示されている階数は最大が8だ。
「8階まであるんですか……?」
答えを求めた訳では無いけれど、思わずそんな言葉が出てしまう。
「ええ、あなた達の部屋はその8階よ」
にこやかに言われ、沈黙。
これはエレベーター必須だよ……。
流石に毎日8階分の階段なんて上り下りしたくない。
エレベーターで8階まで上がると、廊下が目の前と左側に伸びていた。
それぞれ先には何も無さそうなので丁度L字型になっているみたい。
「こっちにランドリーとシャワー室があるわ。後で確認して頂戴ね」
と、左側にある大きめの横開きのドアを指した上原さん。
私達が頷くのを確認すると、目の前の廊下を進んで行く。
廊下の両側に沢山ドアがあって、その横に番号と名前が書かれたプレートが付いている。
名前がなく番号だけだったら、本当にホテルにしか見えなさそうだ。
「貴女達の部屋はここの一番奥。隣同士よ」
そう言って突き当たりまで案内すると、持っていた鍵を手渡してくれる。
愛良は824号室。
私は825号室。
私が一番奥で、愛良はその手前だ。
「部屋の中の物は好きに使っていいわ。足りない物があれば言ってちょうだい。用意するよう田神先生から伺っているから、遠慮せずに言ってね」
「ありがとうございます」
とお礼を言ったものの、流石に何もかも頼む訳にもいかないよね。
……お小遣いで足りるかな?
ティッシュとかの消耗品。タオルとか、洗濯するなら洗剤とか……。
軽く考えてみただけでもお小遣いじゃあ足りない気がする。
……どれだけ甘えて良いのかもちゃんと後で確認しておこう。
次々と確認する事が増えて、内心ウンザリしながら私は部屋の鍵を開けた。
「鍵は各自で管理してね。でも安全面を考えると、寮を出るときは私の方に一度預けてくれると助かるわ」
「はい、分かりました」
返事をすると、上原さんは「じゃあまたね」と言い残し去って行く。
ドアノブに手を掛けた私達はお互いに顔を見合わせた。
「じゃあ部屋の確認をしますか」
「何かちょっとドキドキするね」
少し笑いながら、ガチャリと音を立ててドアを開ける。
確かに少しドキドキする。
これから自分の部屋になる所がどんな様子なのかっていうのもあるけれど、この寮の外観と似た様な雰囲気のお城みたいな部屋だったらどうしようとか。
……でも、その心配は無用だった。
ドアを開けてすぐにあったのは小さな玄関。
右側に埋め込み型の靴棚があって、スリッパが一組ある。
床は明るめの色のフローリングで、靴を脱いで上がるとすぐ左側にドアがあった。
開けてみるとトイレだった。
家のトイレと比べると狭いけれど、洋式の水洗だしウォシュレットも付いているから問題は無い。
それどころかすぐにでも使える様に便座シートなども付けられている。
そして片隅には小さな洗面台。
未使用の歯ブラシとコップ、横にはタオル掛けとタオルもある。
「まさかこれも田神先生が用意してくれた物?」
そうでないとしたら前にこの部屋を使っていた人の物という事になる。
でも流石にそれは無いだろう。不衛生だ。
って事はやっぱり田神先生が用意してくれた物なんだ。
すぐにでも生活出来る様に整えてくれたんだろう。
玄関を上がって目の前にはもう部屋があるけれど、突っ張り棒で目隠しののれんがかかっていた。
シンプルなグリーンののれん。良く見るとつる草模様の刺繍がされている。
そののれんを潜り抜けると、そこは六畳ほどのワンルームだった。
左側にベッド。優しい色合いの布団が既に敷いてある。
右側には机があって、筆記用具なども準備されてあった。
そして目の前には窓。
こちらもカーテンがレースと厚手の物が付けられている。
中に入ってぐるりと見回すと、入り口から見て左側にクローゼットが備え付けてあった。
扉部分には姿見が付いている。
全体的にグリーンで纏められた落ち着く部屋だった。
クローゼットを開けてみると、そこにはバスタオルなどタオル一式だったり替えのシーツだったり。
生活に必要そうな物は私服以外の物が揃っていた。
そんな中、制服が一着だけハンガーに掛かっている。
「これ、城山学園の制服かな?」
良く見えるように手に取ってみる。
セーラー服なんだけれど、よくあるタイプとは少し違う。
大抵は紺に白のラインだけれど、これはラインの部分が赤だ。
それとスカーフではなくネクタイ型。
左胸には校章だろうか? 複雑な形の紋章が刺繍されている。
スカート丈は膝上くらいかな?
「セーラー服かぁ。中学以来だなぁ」
呟きながら、愛良の方はどんなだろうと思った。
同じ中学の浪岡君が赤チェックのズボンだったから、ブレザーかなぁ?
制服を戻して持って来た着替えなどを整理し始める。
と言ってもそんなに多く持って来た訳じゃ無いからすぐに終わってしまった。
他にする事も無いので、隣の愛良の部屋を見に行く事にする。
間取りは同じだろうけれど、どんな風に整えられているのか興味がある。
「愛良はグリーンってイメージじゃないしねー」
と呟きながら廊下に出た。
隣の部屋のドアをコンコンと軽くノックする。
それだけでも中にはちゃんと聞こえるようで、すぐに中から足音が聞こえてドアが開けられた。
「あ、お姉ちゃん。あたしも今そっち行こうかと思ってたんだよ」
そう言って愛良は部屋に招き入れてくれる。
パッと見た感想は、ピンクだった……。
間取りは左右反転している以外は同じで、全体的にピンクで統一されている。
でも悪趣味な感じではなく、優しい色合い。
薄めのピンクがメインで、所々にメリハリを付けるように濃い色や模様がある。
「へー、いい感じじゃない」
愛良のイメージとしては悪くない部屋だ。
そう思って口にした感想に、愛良も「お姉ちゃんの部屋はどうだった?」と聞いてきた。
「間取りは左右反転してるだけで、全体的にグリーンで纏められた落ち着く部屋だったよ」
「そっかぁ。まあ、お姉ちゃんはピンクってイメージじゃないしねー」
答えを聞いた愛良は、さっき私が彼女に対して思ったのと同じ感想を口にした。
……やっぱり姉妹って事かな?
同じ事考えてるとか。
「制服はどんなだった? 私はセーラー服だったけど」
もう一つ気になっていた事を聞いてみる。
「あー、零士先輩学ランだったもんね。やっぱりセーラー服だったかぁ」
そんな感想を漏らしながら愛良はクローゼットを開けて自分の制服を出して見せてくれた。
思った通りブレザーだった。
臙脂色のジャケットに、暗めの赤チェックのベストとスカート。
白いブラウスに、赤いネクタイ。
「可愛いじゃない」
愛良に似合いそうだと思いながら呟いて、ふと視線をクローゼットに向ける。
そこにはもう一着、夏の制服と思われるものが掛かっていた。
今はまだ衣替え前だから夏服があるのは分かる。
私のセーラー服も半袖の夏服だった。
でも冬服はなかったな。
「あれ? 夏服冬服揃ってるんだ? 私冬服無かったよ?」
衣替えまで一週間位しか無いのに。
そう思って疑問を口にすると、愛良はうーんと唸ってから答えた。
「お姉ちゃんの転校は急だったし、準備間に合わなかったんじゃない? 流石に衣替え前にはもらえるでしょ」
とまあ何とも楽観的な言葉だった。
でもまあ愛良の言う通りだし、これも田神先生に聞かなきゃ分からないことだ。
「それじゃあちょっと早いけど下に戻る?」
持って来ていたスマホで時間を確認しながら言う。
そのときついでに画面に出て来たメール着信のお知らせに有香の名前を見つけた。
バタバタしてて、今の今まで気付かなかった……。
一通だけでは無さそうな上に、他の人からも着信があるみたいだった。
……仕方ない、後で確認しよう。
あまりの多さに返信が大変そうだと判断した私は、今は止めておこうと判断した。
「そうだね。ランドリー室とかも見ておきたいし、出ようか?」
と言う愛良の答えに、私達は部屋の鍵とスマホだけ持って廊下に出た。
さっき案内されたばかりの廊下を逆に進み、エレベーターの所に来る。
ランドリー室の大きなドアを開けると、すぐ目の前には三台の自販機があった。
軽くラインナップを見ても、お茶やコーヒー。スポーツドリンクから炭酸飲料まで一通り揃っている。
これなら夜突然喉が渇いても大丈夫そうだ。
値段も普通より少し安めになっていて学生に優しい。
よしよしと頷いて右に視線を向けると、そこがランドリーになっていた。
全自動の洗濯機が両端に三台ずつ並んでいて、それぞれの洗濯機の上に乾燥機が設置されている。
その中の一台の前に、同じ階の住人であろう女子生徒が一人いた。
目の前の洗濯機が回っているから、洗濯をしに来たんだろう。
セーラー服姿の彼女は、入って来た私達に気付くと軽く瞬きし、ニッコリと微笑んでくれた。
「こんにちは、初めまして。近々転入して来るっていう姉妹かしら?」
着ている制服が違う事で気付いたんだろう。
挨拶と共にそんな質問をされた。
「あ、はい。香月 聖良です」
「妹の愛良です」
学年は分からなかったけれど、落ち着いた雰囲気と優し気な笑顔から年上の様な気がして敬語で答えた。
「私は弓月 美花。同じ階みたいだし、宜しくね」
そんな自己紹介を交わして、私達は少しお話をする。
やっぱり弓月さんは年上で、高等部三年だった。
しかも生徒会に所属しているらしい。
そしてこのランドリー室は自由に使って良いし、置いてある洗剤や柔軟剤、漂白剤なども無料で使って良いのだとか。
ただ自分好みの香りなどにしたいからと、自分で買って来てそれを使っている人もいるんだそう。
あとはランドリーの更に奥にあるシャワー室。
ドアが四つあって、それぞれが一人用のシャワー室だそうだ。
チラッと一室見たけれど、ドアを開けてすぐが脱衣スペースになっていて、更に奥のガラス戸がシャワー室みたいだった。
一つの階の部屋数を考えると四室は少ないと思ったけれど、皆地下の温泉に行きたがるから問題無いんだそう。
ま、私も温泉の方が良いもんね。
そんな話をしているうちに待ち合わせの時間になってしまった。
慌てて時間表示されているスマホ画面を見せて来た愛良に、私も慌てる。
「あ、弓月先輩ごめんなさい。一階で人と待ち合わせしてたんです」
そう言って、挨拶もそこそこにランドリー室を出ようとすると。
「あ、最後に一つだけ!」
強めの口調で呼び止められた。
愛良と揃って振り返ると、真剣な表情があった。
「あなた達は特に、なんだけど……V生には気を付けて」
「ぶいせい?」
聞き慣れない言葉をそのまま返す。
ハッキリ言って、何を言っているのかサッパリ分からない。
「そう、制服の襟やネクタイにVの字が書かれたピンブローチを付けている生徒の事よ」
そう言って弓月先輩は自分の制服の襟に手を添える。
そこにはHの字が書かれたピンブローチが付けてあった。
Vだと“ぶいせい”なら、Hだと“えいちせい”って言うのかな?
なんて思いながら見ていると、愛良がおずおずと聞き返した。
「えっと……生徒達が何かで分類分けされてるって事ですよね? でも気を付けてって、何に?」
愛良の疑問は当然だ。実際私も分からない。
そのV生とやらの何に気を付ければ良いと言うのか……。
愛良の質問に少し黙った弓月先輩は、真剣な表情を緩め微笑んで答えてくれた。
「その様子だとまだこの学園について説明を受けていないのね。……聞けば分かると思うけれど、V生の何かに気を付けて欲しいのじゃなくて、V生そのものに気を付けて欲しいのよ」
「???」
尚更分からなくなった。
でもそれ以上質問している時間も無いし、説明を聞けば分かると言うのなら早く下に降りた方が良い。
私達は未消化な疑問を抱えたまま弓月先輩に見送られてランドリー室を出た。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
同居人の一輝くんは、ちょっぴり不器用でちょっぴり危険⁉
朝陽七彩
恋愛
突然。
同居することになった。
幼なじみの一輝くんと。
一輝くんは大人しくて子羊みたいな子。
……だったはず。
なのに。
「結菜ちゃん、一緒に寝よ」
えっ⁉
「結菜ちゃん、こっちにおいで」
そんなの恥ずかしいよっ。
「結菜ちゃんのこと、どうしようもなく、
ほしくてほしくてたまらない」
そんなにドキドキさせないでっ‼
今までの子羊のような一輝くん。
そうではなく。
オオカミになってしまっているっ⁉
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
如月結菜(きさらぎ ゆな)
高校三年生
恋愛に鈍感
椎名一輝(しいな いつき)
高校一年生
本当は恋愛に慣れていない
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
オオカミになっている。
そのときの一輝くんは。
「一緒にお風呂に入ったら教えてあげる」
一緒にっ⁉
そんなの恥ずかしいよっ。
恥ずかしくなる。
そんな言葉をサラッと言ったり。
それに。
少しイジワル。
だけど。
一輝くんは。
不器用なところもある。
そして一生懸命。
優しいところもたくさんある。
そんな一輝くんが。
「僕は結菜ちゃんのこと誰にも渡したくない」
「そんなに可愛いと理性が破壊寸前になる」
なんて言うから。
余計に恥ずかしくなるし緊張してしまう。
子羊の部分とオオカミの部分。
それらにはギャップがある。
だから戸惑ってしまう。
それだけではない。
そのギャップが。
ドキドキさせる。
虜にさせる。
それは一輝くんの魅力。
そんな一輝くんの魅力。
それに溺れてしまう。
もう一輝くんの魅力から……?
♡何が起こるかわからない⁉♡
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ヴァンパイアからの凶愛にその身を吸い尽くされて
由汰のらん
恋愛
純愛、狂愛、溺愛、貪愛、憎愛
囚われたヴァンパイアハンターの女スパイが媚薬を打たれ、監獄塔の看守たちにさまざまな愛し方で愛される物語。
短編集です。
※一部過激な描写や残酷描写が含まれるためご容赦下さいませ。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる