上 下
3 / 3

3.ばいばい、旦那様

しおりを挟む

(ふふふ。なかなか、面白い顔だわ。)

ユナはリュークの顔を見て必死で笑いを堪えていた。いや、堪えきれず笑いがこみ上げる。

「っふふ、あのね、お父様に言われていたのよ。リューク・イタルクがハクストル家の親戚になるに相応しい男か見極めろって。ほら、あなたみたいな最低な男と親戚だと後でめんどくさいでしょう?」

まだ、リュークの家に来て1ヶ月ほどしか経っていないが、決断をくだすには遅すぎるくらい。

この男は、最低の男だ。

「ま、待ってくれ!ハクストル家を敵に回すとどうなるか・・・。違うんだ。つい出来心で・・・本当は俺は誠実な男だ!」

目に涙を浮べて、リュークが訴えてくる。

うーん。なかなか演技派ね。

「サラン。レナ。アフロディテ。リリオン。カナール。シリアン・・・まだまだ言えるわよ?」

これは皆、リュークの愛人の名前だ。
こんなこともあろうかと、暗記して来たのだが、あっているだろうか。自信がない。

「っし、知っていたのか!」

「ええ。完全に。もうすでに、お父様に貴方がしたことについて手紙を送ったわ。

ああ、ちなみに私が使い込んだお金は全てお父様が結婚支度金として、イタルク家に支援したお金で賄えるわ。そうよね?執事さん。」

せっかくお父様が持たせてくれたお金なのに、無駄になっては勿体ないと思い、使い込んでいたのだ。

「ま、待ってください。ユナ様!!今ハクストル家からの支援金が無くなってしまったら・・・この家は大変なことになります・・・!」

「だから何?」

イタルク家の人間は、リュークの浮気ぐせを止めようとしてくれなかった。

それどころか、ユナを何も知らないお嬢さんだと思って嫌がらせをしていたのだ。

「一度、痛い目をみて全部入れ替えたら?貴方からの離縁の申し出を待っていたのは、私の優しさよ。まぁ、貴方は私を利用するつもりだったみたいだけど。」

「待ってくれ、話を聞いてくれ・・・ 」

もうこれ以上、リュークと話をするつもりはなかった。ユナはひらひらと手を振り、その場をあとにした。


   ◇◇◇


「3日後には、当主様がユナ様を迎えに来るみたいです。本当に良かったですよ!ユナ様にあんなクソ男勿体ないですもん!」

部屋に戻るとカラは興奮気味に言った。

「ありがとう。ね、カラ。私がハクストル家の娘のままで・・・、運命の人、見つけられるかしら?」

いつだって、人は私の家柄を気にして私自身を見てくれない。実家に帰ったら、父上はすぐに新しい縁談を見つけてくるだろうけど・・・また同じことを繰り返すんじゃないだろうか?

「ユナ様・・・。」

カラが困った顔をしている。

「ごめんね。気にしないでちょうだい。」

ユナの心は決まっていた。

もう実家には帰らない。お父様が来る前にこの家から抜け出すんだ。

 
   ◇◇◇


「さぁ、行きますか!」

ユナはカバンを背負い窓を開けた。

部屋が一階で助かった。もしもここが二階だったら、ちょっぴり危険だったろうから。

「カラ。ゼトル。バイバイ。」

二人に言ったら、きっと止められてしまうだろう。私のことを思って、きっと心配して説得してくれる。

だけど、ユナは知りたいのだ。

愛ってなんだろう?
恋ってなんだろう?

まだその答えがあると信じている。
自分で、その答えを探すんだ。

「よいっしょっと。」

窓枠に手をかけ、屋敷をでる。
リュークはきっと痛い目を見るだろう。

ハクストル家は、各国に影響力を持っている。お父様は手紙で激怒していたから、きっといい感じに復讐してくれるだろう。

カバンには、お父様から預かったいざというときの資金が入っている。しばらくの間はこれで食いつないで、旅をしよう。

こっそりと裏門からイタルクの屋敷を出ると、

「ユナ様!」

「ゼトル・・・。」

そこにはゼトルが立っていた。

「なぜ、そんなところに・・・?」

カラとゼトルには荷造りをお願いしていたはずなのに・・・。

「ユナ様なら、きっと抜け出すだろうと思いまして。」

ゼトルとは、小さい頃からよく一緒に遊んでいた。考えることなんかお見通しってわけか・・・。

「お願い。見逃して・・・?私は、"ハクストル家の娘"としてじゃなく、ユナ・ハクストルとして、自由に生きたいの。」

どんなに大変なことがあったとしても、自分の足で生きてみたかった。

「わかりました。」

ゼトルはにっこりと微笑んだ。 

「ありがとう!!」

「その代わり、俺もついていきますよ。ユナ様。」

「へ?」

よく見ると、ゼトルは大きなカバンを背負っている。

「運命の人、探したいんですよね?」

ゼトルはユナをまっすぐ見つめた。

「え、ええ。」

「俺も手伝います。一人で旅するより、仲間がいたほうが心強いでしょ?」

そう言って、ゼトルは本当にユナと一緒に屋敷を出たのだった。


   ◇◇◇


それから、ユナはゼトルと共に各地を旅して回った。お金がなくなったときは、働いて、またお金が無くなると旅をした。

そうして、いつの間にか私はーーー。


「ねえ、ゼトル。
 私ずっと知りたいことがあったの。」

旅を始めてから一年が経ったある日のこと。ユナは隣を歩くゼトルを見上げた。

「何を知りたかったんですか?」

ああ、心臓がドキドキする。
ユナは答えを見つけた。

「愛とは何か。恋とは何か。

 運命の人はだれなのか・・・。」

「・・・答えは見つかりましたか?」

ユナはゼトルの腕をとって、その目をじっと見つめた。

「恋がなんなのかは・・・あなたに教えてもらったわ。ゼトル。

でも・・・運命の人が誰なのかは、ゼトルに聞かないと分からないわ。」

ゼトルは優しくユナを抱き上げて言った。

「俺は、ユナ様の運命の人になりたいです。」

ユナはぎゅっとゼトルを抱きしめた。

「なってよ、運命の人に。」

「大好きです。ユナ様」

「私も。大好き。」


そうして、ユナ・ハクストルはゼトルの妻となり幸せな人生を歩んだのでした。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……

しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」 そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。 魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。 「アリス様、冗談は止してください」 震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。 「冗談ではありません、エリック様ぁ」 甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。 彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。 「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」 この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。 聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。 魔法を使えないレナンとは大違いだ。 それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが…… 「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」 そう言うレナンの顔色はかなり悪い。 この状況をまともに受け止めたくないようだ。 そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。 彼女の気持ちまでも守るかのように。 ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。 同名キャラで様々な話を書いています。 話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。 お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。 中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^) カクヨムさんでも掲載中。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

あなたの1番になりたかった

トモ
恋愛
姉の幼馴染のサムが大好きな、ルナは、小さい頃から、いつも後を着いて行った。 姉とサムは、ルナの5歳年上。 姉のメイジェーンは相手にはしてくれなかったけど、サムはいつも優しく頭を撫でてくれた。 その手がとても心地よくて、大好きだった。 15歳になったルナは、まだサムが好き。 気持ちを伝えると気合いを入れ、いざ告白しにいくとそこには…

ものすごい美少女の友人から「私の邪魔しないでよ」と言われた後、公爵からプロポーズされました。

ほったげな
恋愛
私の友人には、ものすごい美少女・ヴィオレットがいる。ヴィオレットの好きな人であるバレンティンと話していただけで、「邪魔するな」と言われた。その後、私はバレンティンにプロポーズされました。

嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜

悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜 嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。 陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。 無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。 夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。 怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……

性悪な友人に嘘を吹き込まれ、イケメン婚約者と婚約破棄することになりました。

ほったげな
恋愛
私は伯爵令息のマクシムと婚約した。しかし、性悪な友人のユリアが婚約者に私にいじめられたという嘘を言い、婚約破棄に……。

夫に惚れた友人がよく遊びに来るんだが、夫に「不倫するつもりはない」と言われて来なくなった。

ほったげな
恋愛
夫のカジミールはイケメンでモテる。友人のドーリスがカジミールに惚れてしまったようで、よくうちに遊びに来て「食事に行きませんか?」と夫を誘う。しかし、夫に「迷惑だ」「不倫するつもりはない」と言われてから来なくなった。

うるさい!お前は俺の言う事を聞いてればいいんだよ!と言われましたが

仏白目
恋愛
私達、幼馴染ってだけの関係よね? 私アマーリア.シンクレアには、ケント.モダール伯爵令息という幼馴染がいる 小さな頃から一緒に遊んだり 一緒にいた時間は長いけど あなたにそんな態度を取られるのは変だと思うの・・・ *作者ご都合主義の世界観でのフィクションです

処理中です...