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3.ばいばい、旦那様
しおりを挟む(ふふふ。なかなか、面白い顔だわ。)
ユナはリュークの顔を見て必死で笑いを堪えていた。いや、堪えきれず笑いがこみ上げる。
「っふふ、あのね、お父様に言われていたのよ。リューク・イタルクがハクストル家の親戚になるに相応しい男か見極めろって。ほら、あなたみたいな最低な男と親戚だと後でめんどくさいでしょう?」
まだ、リュークの家に来て1ヶ月ほどしか経っていないが、決断をくだすには遅すぎるくらい。
この男は、最低の男だ。
「ま、待ってくれ!ハクストル家を敵に回すとどうなるか・・・。違うんだ。つい出来心で・・・本当は俺は誠実な男だ!」
目に涙を浮べて、リュークが訴えてくる。
うーん。なかなか演技派ね。
「サラン。レナ。アフロディテ。リリオン。カナール。シリアン・・・まだまだ言えるわよ?」
これは皆、リュークの愛人の名前だ。
こんなこともあろうかと、暗記して来たのだが、あっているだろうか。自信がない。
「っし、知っていたのか!」
「ええ。完全に。もうすでに、お父様に貴方がしたことについて手紙を送ったわ。
ああ、ちなみに私が使い込んだお金は全てお父様が結婚支度金として、イタルク家に支援したお金で賄えるわ。そうよね?執事さん。」
せっかくお父様が持たせてくれたお金なのに、無駄になっては勿体ないと思い、使い込んでいたのだ。
「ま、待ってください。ユナ様!!今ハクストル家からの支援金が無くなってしまったら・・・この家は大変なことになります・・・!」
「だから何?」
イタルク家の人間は、リュークの浮気ぐせを止めようとしてくれなかった。
それどころか、ユナを何も知らないお嬢さんだと思って嫌がらせをしていたのだ。
「一度、痛い目をみて全部入れ替えたら?貴方からの離縁の申し出を待っていたのは、私の優しさよ。まぁ、貴方は私を利用するつもりだったみたいだけど。」
「待ってくれ、話を聞いてくれ・・・ 」
もうこれ以上、リュークと話をするつもりはなかった。ユナはひらひらと手を振り、その場をあとにした。
◇◇◇
「3日後には、当主様がユナ様を迎えに来るみたいです。本当に良かったですよ!ユナ様にあんなクソ男勿体ないですもん!」
部屋に戻るとカラは興奮気味に言った。
「ありがとう。ね、カラ。私がハクストル家の娘のままで・・・、運命の人、見つけられるかしら?」
いつだって、人は私の家柄を気にして私自身を見てくれない。実家に帰ったら、父上はすぐに新しい縁談を見つけてくるだろうけど・・・また同じことを繰り返すんじゃないだろうか?
「ユナ様・・・。」
カラが困った顔をしている。
「ごめんね。気にしないでちょうだい。」
ユナの心は決まっていた。
もう実家には帰らない。お父様が来る前にこの家から抜け出すんだ。
◇◇◇
「さぁ、行きますか!」
ユナはカバンを背負い窓を開けた。
部屋が一階で助かった。もしもここが二階だったら、ちょっぴり危険だったろうから。
「カラ。ゼトル。バイバイ。」
二人に言ったら、きっと止められてしまうだろう。私のことを思って、きっと心配して説得してくれる。
だけど、ユナは知りたいのだ。
愛ってなんだろう?
恋ってなんだろう?
まだその答えがあると信じている。
自分で、その答えを探すんだ。
「よいっしょっと。」
窓枠に手をかけ、屋敷をでる。
リュークはきっと痛い目を見るだろう。
ハクストル家は、各国に影響力を持っている。お父様は手紙で激怒していたから、きっといい感じに復讐してくれるだろう。
カバンには、お父様から預かったいざというときの資金が入っている。しばらくの間はこれで食いつないで、旅をしよう。
こっそりと裏門からイタルクの屋敷を出ると、
「ユナ様!」
「ゼトル・・・。」
そこにはゼトルが立っていた。
「なぜ、そんなところに・・・?」
カラとゼトルには荷造りをお願いしていたはずなのに・・・。
「ユナ様なら、きっと抜け出すだろうと思いまして。」
ゼトルとは、小さい頃からよく一緒に遊んでいた。考えることなんかお見通しってわけか・・・。
「お願い。見逃して・・・?私は、"ハクストル家の娘"としてじゃなく、ユナ・ハクストルとして、自由に生きたいの。」
どんなに大変なことがあったとしても、自分の足で生きてみたかった。
「わかりました。」
ゼトルはにっこりと微笑んだ。
「ありがとう!!」
「その代わり、俺もついていきますよ。ユナ様。」
「へ?」
よく見ると、ゼトルは大きなカバンを背負っている。
「運命の人、探したいんですよね?」
ゼトルはユナをまっすぐ見つめた。
「え、ええ。」
「俺も手伝います。一人で旅するより、仲間がいたほうが心強いでしょ?」
そう言って、ゼトルは本当にユナと一緒に屋敷を出たのだった。
◇◇◇
それから、ユナはゼトルと共に各地を旅して回った。お金がなくなったときは、働いて、またお金が無くなると旅をした。
そうして、いつの間にか私はーーー。
「ねえ、ゼトル。
私ずっと知りたいことがあったの。」
旅を始めてから一年が経ったある日のこと。ユナは隣を歩くゼトルを見上げた。
「何を知りたかったんですか?」
ああ、心臓がドキドキする。
ユナは答えを見つけた。
「愛とは何か。恋とは何か。
運命の人はだれなのか・・・。」
「・・・答えは見つかりましたか?」
ユナはゼトルの腕をとって、その目をじっと見つめた。
「恋がなんなのかは・・・あなたに教えてもらったわ。ゼトル。
でも・・・運命の人が誰なのかは、ゼトルに聞かないと分からないわ。」
ゼトルは優しくユナを抱き上げて言った。
「俺は、ユナ様の運命の人になりたいです。」
ユナはぎゅっとゼトルを抱きしめた。
「なってよ、運命の人に。」
「大好きです。ユナ様」
「私も。大好き。」
そうして、ユナ・ハクストルはゼトルの妻となり幸せな人生を歩んだのでした。
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