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28.騎士は愛しすぎています
しおりを挟む長く続いていたルカドル国が無くなることを悲しむ国民は大勢いたけれど、そんな意見は半年後にはすっかり無くなってしまったという。
デミオン国は多くの人員を金塊の採掘場に送り、わずか半年で採掘場を復活させたのだ。
それにより旧ルカドル国はかつての繁栄を取り戻し、国民の生活はずっと楽になったと聞く。
そして、私はアルフレッドと共にデミオン国に移住し、憧れの、のんびりライフを過ごしていた。
◇◇◇
私がルカドル国の女王をやめ、デミオン国に来てから一年が経った。
城下町に小さな家を借り、アルフレッドと二人で暮らしている。
デミオン国の言葉を流暢に話すことができるアルフレッドはすぐに護衛の仕事を見つけていた。そして私は前世の知識を生かして、デミオン国で小さなケーキ屋さんを営んでいる。
デミオン国の人には斬新に思えたのか、ケーキ屋さんは大繁盛。今日もケーキは全て売れ切れ。
(商売繁盛ね!)
夕方になって、アルフレッドが家に帰ってきた。
「シアラ!今日はお店を予約してるんです。デートしませんか?」
ケーキ屋の営業時間が終わり、アルフレッドは私のことをむぎゅむぎゅと抱きしめる。
呼び方はシアラに変わったけれど、相変わらずの敬語である。アルフレッド曰く、どうしてもそれは抜けないらしい。
「いいわね!行きましょう!」
最近では、前の世界のことを思い出すことはほとんどない。だがたまに、本物のシアラがどこに行ったのか考えてしまうときがある。
アルフレッドも、もう最近は記憶が戻ったか私に尋ねることは無かった。
◇◇◇
アルフレッドが連れて行ってくれたのは、デミオン国の高級なレストラン。
穏やかな音楽がお店に流れている。
食事が終わり、デザートを食べ終えたアルフレッド。
緊張した面持ちで私を見た。
「シアラ。」
アルフレッドが名前を呼ぶ。
「僕と、結婚してください。」
心臓がドクンドクンと音を立てた。
私は、アルフレッドが大好きで、アルフレッドも私のことを大好きでいてくれる。
素直にうなずけばいい。
「アルフレッド、、、私、、、貴方のことが大好きで、、、でも、、、。」
それなのに、上手く言葉が出なかった。
(ずっとアルフレッドの幸せを守るって決めたはずなのに。)
本当に自分で良いのか。そんな思いが胸に込み上げてくる。アルフレッドが好きな人は私ではなく、私が転生する前のシアラなんじゃ無いだろうか。
「迷うのは、貴方が、元々のシアラとは、違うからですか、、、?」
「え?」
アルフレッドの言葉に耳を疑う。
「1年間、貴方の側にいましたから。流石に気が付きます。記憶を失う前のシアラ様と今のシアラが、違うんだって。」
泣き笑いのような表情で、アルフレッドは続けた。
「なかなか、認められませんでしたがでも、今はちゃんとわかっています。きっと、、、かつてのシアラ様はいなくなってしまったんだって。」
「アルフレッド、、、。」
アルフレッドはそっと、私の手を握った。
「貴方は、元々のシアラ様とは違うけれど、同じ優しい心を持った人です。そして、貴方には誰にも負けない強い心がある。」
アルフレッドは真っ直ぐに私を見た。
「僕は、貴方が好きです。今の貴方が愛おしくてたまらないのです。」
どんな思いで、アルフレッドはその言葉を言ったのだろう。
「いいのよ。無理しなくて。アルフレッドは、、、ずっと、私じゃない本物のシアラが好きだったんだから。」
「無理なんかしてません!」
きっと、アルフレッドの中にシアラは残り続ける。
「結婚なんて、しなくていいの。私は、アルフレッドの側にいて平和に暮らせたらあとは何もいらないわ。」
私は、笑ってアルフレッドの頭を撫でた。
「僕だって、シアラの側にいられたら、それ以上何もいらないと思っていました。
ですが、、、もう限界なのです!」
アルフレッドが大きく首を振って私を見つめた。
「気づいていますか?シアラのケーキ屋の常連の男が、シアラに好意を抱いているんです。
それに、クーズマ様だって、未だにシアラにアプローチしてくるし。
シアラは優しすぎて、あちこちにシアラを好きな男を増やしてるんです!!」
「え、えっと、、、。」
アルフレッドのあまりの剣幕に、私は思わずお水を飲んだ。
「結婚が嫌なら、諦めます。ですが、僕のことが好きならせめて、指輪だけでもしてもらえませんか、、、?」
アルフレッドが真剣な顔で言うので、思わず笑いが込み上げてくる。
「いいよ。」
私は、考えすぎなのかな。アルフレッドを見ていると、そんな気がしてきた。
「結婚しましょうか。」
転生前のシアラと、自分。
アルフレッドがどっちのほうが好きか、なんてそんな天秤ほどくだらないものはない。
「いいんですか?!」
「その代わり、死ぬまで貴方のことを大好きでいさせてね。」
ねえ、アルフレッド。神様はちゃんと、私の願いを叶えてくれたんだね。
「最期まで、全力で貴方を愛すると誓います。」
そうして、わたしはアルフレッドの求婚を受け入れたのでした。
◇◇◇
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