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23.皇太子は求婚するのです

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私はアルフレッドと共に、デミオン国王とクーズマが泊まる宿に入った。デミオン国の兵士が10名以上、宿のロビーに控えている。

私は背筋を伸ばして、兵の一人に尋ねた。

「私はルカドル国女王、シアラ・ルカドルと申します。至急、デミオン国王にお会いしたいのですが部屋に通してもらえませんか?」

兵士が私達を不審な目で睨んだ。質素な赤いドレスに、護衛の騎士が一人。
女王であることを疑われているのだろうか。

「陛下は長旅で疲れていらっしゃいます。お引取りください。」 

兵士は微動だにせず、私を見下ろして言った。

「どうしても、今国王に会わなくちゃいけないんです!お願いします!」

「お引取りください。」

必死で訴えるも兵士は全く聞こうとしない。

「強行突破しましょうか?」

剣に手をかけて、アルフレッドが私に尋ねる。ここにいる10人以上の兵士をなぎ倒して、国王に会いに行こうというのか。

「いいえ。そんなことしたら、話を聞いてもらえなくなるわ。」

私がデミオン国王に相談しようとしていることは、お金のことだけでない。もっと重大な提案をするために、ここに来ているのだ。

(どうしたらいいかな。)

時間が過ぎれば、それだけカーシャさんを危険にさらすことになる。できるだけ早く彼女を助け出したかった。

「国王が無理ならば、クーズマ様にお会いできませんか?」

兵士はますます険しい顔になる。

「クーズマ様には、誰にも会わせるなと、国王様に命じられておりますので、通すことはできません。」

「そこをなんとか、お願いします!時間が無いのです!」

押し問答を繰り返すも、兵士は私の話を全く聞こうとしない。

だが、ちょうどその時後ろから声がした。

「シアラじゃないか!
 俺に会いに来てくれたのか?」

現れたのは、デミオン国皇太子クーズマ。彼はお気楽な顔で私に笑いかけた。

「ちょうど、会いに行こうと思ってたとこだ。シアラから来てくれて嬉しいよ。」

「クーズマ様!急ぎ相談したいことがあるのです!」

今はのんびりとクーズマと話している場合ではない。

「それなら俺の部屋においでよ。そこで話を聞こう。」

クーズマは私の焦りを察したのか、真面目な顔に変わった。

「クーズマ様!国王に怒られますよ!」

と、兵士が言うがクーズマは肩をすくめた。

「好きな人と話すのに、なぜ父さんに怒られなきゃならないんだ?」

クーズマの言葉に戸惑ってしまう。

「シアラ、行こう?」

差し出された手を取ることはできない。私にはアルフレッドがいる。

ロビーを抜けて、部屋に入ろうとしたとき、クーズマが振り返った。

「アルフレッドは部屋の外で待っていてくれ。」

穏やかな口調で、クーズマがアルフレッドに言った。アルフレッドの表情が変わる。

「それはできません。僕は、シアラ様の騎士です。」

アルフレッドは私を背に隠した。アルフレッドはそっと、私の手を握る。

「お前が忠実な騎士だってことは分かっているさ。だが、俺だって騎士がいない場所でシアラに伝えたいことがある。わかるだろ?」

アルフレッドはクーズマを睨みつけている。一方のクーズマは小さく微笑んでいた。

「シアラ様に、求婚するのですか?」

「それは、アルフレッドに言うことじゃないさ。」

アルフレッドはゆっくりと私を振り返った。

「シアラ様、、、。」

なぜ、こんなことになってしまったんだろう。わたしだって、アルフレッドに心配をかけたくない。

「そんな心配するな。シアラ。俺たちはまだ、ただの友達だ。」

クーズマが頭を掻きながら言う。

(本当に?)

信用ならない。だが、今はクーズマの助けが必要なのだ。

私はアルフレッドの手を握って、にっこりと笑った。

「だいじょうぶよ。行ってくるわね。」

「シアラ様!」

迷子の子供のような顔をしているアルフレッドを置いて私はクーズマの部屋に入った。


   ◇◇◇ 

パタン

部屋のドアが閉じる。

「そこ座って。」

「いいえ。ここにいます。」

何かあったときに、すぐに逃げられるよう私はドアの前から動かなかった。

「そうか。」

クーズマは無理強いすることなかった。部屋の中央に置いてある小さな椅子に腰掛ける。

「お菓子食べる?」

「いいえ。クーズマ様にどうしても助けていただきたくて、急ぎここに来たのです。」

クーズマはゆっくりと立ち上がり、私の正面に立った。手を伸ばせば、クーズマの手が私に届く距離。

「シアラのためなら、なんでもするさ。俺の願いを叶えてくれるならな。」

心臓がドクンドクンと音を立てる。

「クーズマ様の願い?」

クーズマは優しく笑った。

「俺は、3年前のあの日からずっとシアラのことが好きだった。

俺と結婚してほしい。」

なんで恋心は物事をこんなにも複雑にしてしまうんだろう。



  ◇◇◇
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