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21.女王様を愛しています。(side アルフレッド)

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「なぜ、本当のシアラ様では無いと思うのですか?」

シアラ様を抱きかかえ、馬に乗せる。クーズマ達デミオン国の人々が滞在する建物には、心当たりがあった。

「私には、前世の記憶があるの。」

シアラ様はポツリと呟く。
僕は馬を走らせながら反論する。

「それがなぜ、本当のシアラ様ではない理由になるのですか。ただ単純に、シアラ様の前世の記憶かもしれないでしょう。」

「でも、それなら私にシアラだった25年間の記憶があるはずよ。私にはそれがないもの。」

シアラ様は頑なだった。
だが僕にはどうしてもそれを認められない。

「嫌です。だって、もしそうなら本当のシアラ様がどこかに行ってしまったってことじゃないですか。」

「そうね。」

そんなの、絶対に嫌だ。
だって、初めてであったときからずっと、僕はシアラ様のことが好きだった。

「お願いですから、いなくならないでください。」

記憶を無くしてしまうまで、僕はシアラ様を助けられなかった。本当は、もっと前にシアラ様を止められたはずなのに、僕はシアラ様が弱っていく姿をただ見ていることしかできなかった。

「そうね、、、。」

シアラ様はポツリと呟いたきり、黙り込んでしまった。


  ◇◇◇


「着きました。」

僕は手綱を引き、馬を止めた。

ここは、ルカドル国で最も大きい宿。外国から要人が来る際には、皆ここに泊まっている。

「ありがとう。そしたら、行ってくるわね。」

僕に手をひかれ、馬を降りたシアラ様はにっこりと笑った。

「僕も行きます。」

シアラ様は小さく首を振った。

「私一人で行くわ。アルフレッドはここで待っていて。」 

なぜ、貴方はそんなにも一人になろうとするのですか。僕はただ、貴方を守りたいだけなのに。

「貴方を、守ってはいけないのですか?」

自分の声が震えているのが分かる。
シアラ様がいなくなってしまう。

シアラ様は僕の顔を覗き込むと、困った顔をした。

「泣かないでアルフレッド。違うの、私一人の方が、事が上手く運ぶかと思って、、、。」

僕は恐れている。
だって、シアラ様には僕の記憶がない。

20年以上、側にいた僕をシアラ様はあっけなく忘れてしまった。

「これ以上、貴方が遠くにいくのは嫌です。わかってください、、、!」

涙が溢れてくる。情けないことは分かっている。大の大人が好きな人の前で泣くなんて恥ずかしい。

「アルフレッド。私、、、」

シアラ様が何かを言いかけた。
また、本当のシアラじゃないと言われるんだろうか。

僕はもう何も聞きたくなくて、シアラ様を強く抱きしめた。

「貴方を愛しているんです。もう、誰にも渡したくないんです。」



  ◇◇◇



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