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19.女王様は強くなります(side アルフレッド)
しおりを挟むシアラ様と馬小屋に来た僕は、シアラ様の手を取った。
「参りましょう。シアラ様。」
「ほ、ほんとに馬でいくの?私、馬に乗ったことないんだけど、落ちないかな?」
ヒヒーンと、馬が鳴くとシアラ様は大きく肩を震わせた。
ルカドル城からオークリィの家まではそれほど遠くないが少し歩く必要がある。シアラ様の安全を考えると、やはり馬が一番良いだろう。
「だいじょうぶです。僕がしっかりシアラ様を支えますから。」
シアラ様は僕の手をぎゅっと握る。
「頼んだよ。」
そんな場合ではないというのに、思わず胸が高まる。
「任せてください。」
シアラ様を前に乗せ、僕は馬を走らせた。
◇◇◇
初めて見た城の外に、シアラ様は驚いている様子だった。
「なんか、綺麗だけど少し怖い街ね。」
と、シアラ様が呟く。
ルカドル国城下町に、人影はまばらだった。空はどんよりと曇っていて、肌寒い。
かつてはこのあたりは、大勢の人で賑わっていた。だが災害によって、街の様子はすっかり変わってしまった。
路上には武装した男や、浮浪者らしき老人の姿が見えた。ルカドル王家だけではなく、国全体が弱っている。
「なぜ、オークリィの家だけ豊かなの?」
シアラ様は俯いて、コートのフードを深くかぶった。街の人々の視線が気になったんだろう。
「まだ確定ではありませんが、奴らは闇取引に手を出している可能性が高いです。」
ルカドル国には、国際的に販売が禁止されている作物を取ることができる。その作物は人間に害をもたらすため、多くの国では取り扱うことを罪としている。
「闇取引、、、。」
オークリィの一族は、禁止作物を海外に販売していると言われてきた。僕自身、彼らの罪を暴くため調査したことがあるのだが、未だ決定的な証拠を得ることはできていない。
僕は馬を走らせるスピードを弱めた。
「オークリィの家に行くことを、やめますか?」
あの家に関わると、ろくなことがない。シアラ様が傷つくだけだ。
シアラ様は首を振った。
「他に方法があると思えないもの。」
記憶が無くても、シアラ様は全力でカーシャを救おうとしている。僕がもしも記憶が無かったら、こんなにも必死になって助けようとするだろうか。きっと僕なら早々に逃げ出すに違いない。
「全力でお守りします。」
シアラ様のために命を投げ出す覚悟はいつだってできている。
◇◇◇
オークリィの家の前に到着した。周りの家とは明らかに違う、大きくて豪華な屋敷。
金色の細工があちこちに施されている。
「ここね、、、。」
シアラ様は大きく息を吸い込み、そっと家のベルを鳴らした。
ドアは乱暴に開かれ、オークリィとボニーが姿を表した。ボニーとオークリィは何が楽しいのか声をあげて笑っている。
「何が面白いの、、、?」
眉をしかめるシアラ様を見下して、オークリィは顔を歪める。
「お前があまりにも惨めでなぁ、シアラ。借金取りに追われてお金をねだりに来たんだろう?」
「キャハハハハッ!!」
耳障りな声でボニーが笑う。
「なぜそのことを、、、?まさか、あの商人と繋がっているんじゃないでしょうね?!」
もしそうだとしたら、許されることではない。カーシャを誘拐した商人たちの行為は犯罪である。
「どうだろうなぁ。ところで僕にそんな態度を取っていいと思ってるのか?お金が無いと大変なんだろぉ?」
「あんたたちっ!!最低っ!」
オークリィを怒鳴りつけるシアラ様。
僕はそっと剣に手をかけた。何が起こるか、分からない。
「僕くらい優しい男はいないさ。元婚約者に、救いの手を差し伸べてあげようとしてるんだからね。」
「優しいわぁ。オークリィ様。」
オークリィの言葉に嫌な予感がした。なぜボニーはこうも楽しそうなのか。
「救いの手、、、?」
シアラ様が戸惑った声で尋ねる。
「もしも次の条件を飲むのなら、お前にお金を貸してやってもいい。」
「条件、、、?」
僕はシアラ様の手を引いた。
「シアラ様、これは罠です、、、。やめましょう?」
聞いてしまったら、きっとシアラ様は戻れない。シアラ様は僕の手を振り払って、オークリィに尋ねた。
「条件を教えて。」
オークリィは3本指を立てた。
「条件は3つだ。
1つ目はシアラが女王をやめボニーに王位を譲ること。
2つ目はシアラが国を危機に陥れた罪を認めること。
3つ目はこれまでの領土や地位を全て放棄し、最低階級になることを認めることだ。」
それは、恐ろしい条件だった。
女王をやめ、罪を認め、奴隷階級に落ちろとオークリィはシアラ様に言っているのだ。
「シアラ様っ。」
シアラ様なら、条件を飲んでしまいかねない。僕は焦ってシアラ様の名前を呼んだ。
だが、次の瞬間、シアラ様は右手を振り上げ、思い切りオークリィの頬を平手打ちしたのである。
バチンッ
「そんな条件、受けるわけあるか!!馬鹿が!!」
シアラ様の叫び声と共に、オークリィは後ろに吹っ飛んだ。
シアラ様はにっこりと笑う。
「こんな男に頼るなんて、私がどうかしてたわ。行きましょう。アルフレッド。」
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