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18.女王様を抱きしめたいのです(side アルフレッド)
しおりを挟む「カーシャさん・・・」
シアラ様はその場に座り込んで、城の門をぼんやりと見つめていた。
「城の物を全て売り払ったら、あの商人への借金、返せるかな?」
僕を振り返ることなく、シアラ様がぽつりと呟いた。
「、、、足りません。実はもうすでに、お金になりそうなものは、全てシアラ様が売却されたのです。」
城に残っているものは売値のつかなかった中古品だけだ。
「お金を借りれそうな人達は、いる?」
「候補は、いくつか、、、。」
ルカドル国の貴族を回れば、もしかしたらお金を貸してくれるかもしれない。だが、借金の全てを賄うとなると、おそらく厳しい。
僕の表情から何かを察したのか、シアラ様は俯いた。
「厳しいよね、、、そうよね。」
シアラ様はゆっくりと立ち上がって大きく息を吸った。
「ルカドル国で、一番お金持ちなのは誰?」
シアラ様は、僕の目をじっと見つめた。
ルカドル王家だけでなく、ルカドル国の多くの貴族は困窮している。シアラ様がこれまで行われていた貴族への給金を停止したからだ。
だが唯一、ルカドル国でお金を持つ家がある。
「わかりません。」
僕は俯いて拳をぎゅっと握った。
「ね、教えて?アルフレッド。
分かってるんでしょう?カーシャさんを救わなくちゃ。」
言いたくない。
だが、きっと言わなければシアラ様は納得しないだろう。
「この国で最もお金を持っているのは、オークリィの実家、ガザル家です。」
シアラ様は深く頷いた。
「やっぱり、そうよね。アルフレッド、オークリィの家に案内して。」
「嫌です。」
シアラ様は今まで散々オークリィに苦しめられてきた。きっとオークリィは最初から、婚約破棄するつもりでシアラ様と婚約したのだ。
「カーシャさんを、助けたいの。
アルフレッドだってそうでしょう?」
「カーシャさんは、僕がなんとかして助けます。だから、シアラ様は城にいてください。オークリィにお金を借りに行くなんて、どんなに目に遭うか、、、。絶対に反対です。」
シアラ様は強い瞳で僕を見た。
「止めても無駄よ。アルフレッドが教えてくれないなら、私は一人ででもオークリィの家を探す。」
オークリィの家は、この城からそう遠くない場所に立っている。大きなオークリィの家は、国民の多くがその場所を知っていた。
「シアラ様、僕と一緒に逃げると言ったじゃないですか、、、。」
シアラ様は僕の両手をぎゅっと掴んだ。
「もちろん。
アルフレッドと一緒に逃げる。
逃げてのんびり暮らすの。
でも、その前にカーシャさんだけは助けたいじゃない?」
貴方はそうやっていつもなにかを守ろうとして、結局動けなくなるじゃないですか。そう言いたい気持ちを僕はぐっと堪えた。
「オークリィの家に行くなら、これだけは約束してください。
絶対に、自分の身を犠牲にすることだけはしないと。」
かつてシアラ様は、ルカドル国を救うためにあの男と婚約することを決めた。あの時の絶望はもう二度と味わいたくない。
「約束する。そしたら、アルフレッドも約束して。私の身を守るために、自分を傷つけることはしちゃだめよ?」
僕は大きく首を振った。
「それは約束できません。僕の命はシアラ様のためにありますから。」
「アルフレッドが約束してくれないなら、私も約束できない。」
シアラ様は狡い。そう言われたら、約束しないわけにはいかないではないか。
僕はしぶしぶ頷いた。
「約束します。」
「よろしい。」
シアラ様は満足げに頷く。
「シアラ様、、。」
もしも、一緒にどこか遠くに逃げることができたなら、貴方を抱きしめたい。約束してもらえませんか?僕はそう言いたがった。
「なあに?」
こんなことを、言っている場合では無いのは分かっている。
「いいえ。カーシャさんを絶対に助けましょう。」
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