上 下
18 / 29

18.女王様を抱きしめたいのです(side アルフレッド)

しおりを挟む


「カーシャさん・・・」

シアラ様はその場に座り込んで、城の門をぼんやりと見つめていた。

「城の物を全て売り払ったら、あの商人への借金、返せるかな?」

僕を振り返ることなく、シアラ様がぽつりと呟いた。

「、、、足りません。実はもうすでに、お金になりそうなものは、全てシアラ様が売却されたのです。」

城に残っているものは売値のつかなかった中古品だけだ。

「お金を借りれそうな人達は、いる?」

「候補は、いくつか、、、。」

ルカドル国の貴族を回れば、もしかしたらお金を貸してくれるかもしれない。だが、借金の全てを賄うとなると、おそらく厳しい。

僕の表情から何かを察したのか、シアラ様は俯いた。

「厳しいよね、、、そうよね。」

シアラ様はゆっくりと立ち上がって大きく息を吸った。

「ルカドル国で、一番お金持ちなのは誰?」

シアラ様は、僕の目をじっと見つめた。

ルカドル王家だけでなく、ルカドル国の多くの貴族は困窮している。シアラ様がこれまで行われていた貴族への給金を停止したからだ。

だが唯一、ルカドル国でお金を持つ家がある。

「わかりません。」

僕は俯いて拳をぎゅっと握った。

「ね、教えて?アルフレッド。 
 分かってるんでしょう?カーシャさんを救わなくちゃ。」

言いたくない。
だが、きっと言わなければシアラ様は納得しないだろう。

「この国で最もお金を持っているのは、オークリィの実家、ガザル家です。」

シアラ様は深く頷いた。

「やっぱり、そうよね。アルフレッド、オークリィの家に案内して。」

「嫌です。」

シアラ様は今まで散々オークリィに苦しめられてきた。きっとオークリィは最初から、婚約破棄するつもりでシアラ様と婚約したのだ。

「カーシャさんを、助けたいの。
 アルフレッドだってそうでしょう?」

「カーシャさんは、僕がなんとかして助けます。だから、シアラ様は城にいてください。オークリィにお金を借りに行くなんて、どんなに目に遭うか、、、。絶対に反対です。」

シアラ様は強い瞳で僕を見た。

「止めても無駄よ。アルフレッドが教えてくれないなら、私は一人ででもオークリィの家を探す。」

オークリィの家は、この城からそう遠くない場所に立っている。大きなオークリィの家は、国民の多くがその場所を知っていた。

「シアラ様、僕と一緒に逃げると言ったじゃないですか、、、。」

シアラ様は僕の両手をぎゅっと掴んだ。

「もちろん。

アルフレッドと一緒に逃げる。
逃げてのんびり暮らすの。

でも、その前にカーシャさんだけは助けたいじゃない?」

貴方はそうやっていつもなにかを守ろうとして、結局動けなくなるじゃないですか。そう言いたい気持ちを僕はぐっと堪えた。

「オークリィの家に行くなら、これだけは約束してください。

絶対に、自分の身を犠牲にすることだけはしないと。」

かつてシアラ様は、ルカドル国を救うためにあの男と婚約することを決めた。あの時の絶望はもう二度と味わいたくない。

「約束する。そしたら、アルフレッドも約束して。私の身を守るために、自分を傷つけることはしちゃだめよ?」

僕は大きく首を振った。

「それは約束できません。僕の命はシアラ様のためにありますから。」

「アルフレッドが約束してくれないなら、私も約束できない。」

シアラ様は狡い。そう言われたら、約束しないわけにはいかないではないか。

僕はしぶしぶ頷いた。

「約束します。」

「よろしい。」

シアラ様は満足げに頷く。

「シアラ様、、。」

もしも、一緒にどこか遠くに逃げることができたなら、貴方を抱きしめたい。約束してもらえませんか?僕はそう言いたがった。

「なあに?」

こんなことを、言っている場合では無いのは分かっている。

「いいえ。カーシャさんを絶対に助けましょう。」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】後妻は承認したけど、5歳も新しく迎えるなんて聞いてない

BBやっこ
恋愛
ある侯爵家に後妻に入った。私は結婚しろと言われなくなり仕事もできる。侯爵様様にもたくさん後妻をと話が来ていたらしい。 新しいお母様と慕われうことはないだろうけど。 成人した跡取り息子と、寮生活している次男とは交流は少ない。 女主人としての仕事を承認したけど、突然紹介された5歳の女の子。新しく娘うぃ迎えるなんて聞いてない!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ

奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心…… いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

【完結】「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」

まほりろ
恋愛
学園の食堂で第一王子に冤罪をかけられ、婚約破棄と国外追放を命じられた。 食堂にはクラスメイトも生徒会の仲間も先生もいた。 だが面倒なことに関わりたくないのか、皆見てみぬふりをしている。 誰か……誰か一人でもいい、私の味方になってくれたら……。 そんなとき颯爽?と私の前に現れたのは、ボサボサ頭に瓶底眼鏡のひょろひょろの男爵だった。 彼が私を守ってくれるの? ※ヒーローは最初弱くてかっこ悪いですが、回を重ねるごとに強くかっこよくなっていきます。 ※ざまぁ有り、死ネタ有り ※他サイトにも投稿予定。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」

処理中です...