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17.女王様は優しいだけです(side アルフレッド)

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城の玄関に向かう途中、シアラ様が僕に尋ねた。

「ねぇ、なんで皆、勝手にお城に入ってくるの?」

「伝統的に、城の正門は開けっ放しになっているんですよ。」

いつでも開かれたルカドル国。それこそがかつての王族が目指したものだった。国民に寄り添いいつでも相談できるよう、城の門は開かれているのだ。

だが入口を守る者がいなくなった今では無用心なだけである。

「今の人達がいなくなったら、閉じてもいい?」

「勿論です。」

僕がそう言うと、シアラ様は肩をすくめる。

「城を閉じることも、シアラにずっと提案してた?」

「少なくとも十回以上はしました。」

従者が二人しかいないのに、城の門を開けっ放しにしておくなんて正気の沙汰ではない。

だが、シアラ様は"伝統"という言葉にめっぽう弱かった。

「シアラは、めんどうな子だったのね。」

シアラ様の言葉に僕は思わず反論した。

「シアラ様は、優しすぎるだけです。」

関わるものすべてをシアラ様は必死で守ろうしていた。だけど、自分のことだけは守ろうとしない。そんな彼女だからこそ僕が守っててあげたいし、共に逃げたいのだ。
 
シアラ様は泣きそうな顔で笑った。

「ありがとう。アルフレッド。」

記憶が無くなってしまったシアラ様の言葉は僕の心にじんわりと響いた。


  ◇◇◇


玄関に行くと、外国の商人たちが大勢押しかけていた。彼らの後ろには、武装した男達が控えている。

「シアラ女王。結婚されるとのことですが、私共への借金はどうなさるおつもりですかな?」

商人のうちの一人が、シアラ様に尋ねる。

5年前に起こった大災害は、ルカドル国から全て奪っていった。復興のために多大な資金が必要だったが、その資金源となるはずの金の採掘場は崩壊してしまったのだ。

ルカドル国が持つ借金は膨大で、到底返せる額では無くなっていた。

「金塊が取れるようになったら、すぐにお返しできます。もう少し待っていただけませんか。」

僕は一歩前に出て、シアラ様を背に隠す。

「もうその言葉は聞き飽きましたなぁ。もう少しで結婚式を開くとお聞きしましたが、その費用はどこからか出ているんですかな?」

商人は髭を触りながら、目を細めて尋ねた。

「貴方には関係のない話です。」

シアラ様の結婚式の費用は、前国王がシアラ様のために残したものだ。商人達は、そのお金をかすめ取ろうとしている。それは到底許されることではない。

「関係がないはずはないでしょう?私達は、あなた達にお金を貸しているんですから。少なくとも、その分のお金は返せますよね?シアラ様。」

「できません!」

僕はシアラ様が余計なことを言い出す前に、商人に返事をした。どうせ、シアラ様と僕はルカドル国を逃げ出すのだ。この国の借金など、知ったことではない。

「借りたお金を返さないなんて、盗人と同じですよ。もちろん、シアラ様。貴方に直接危害を加えようなんて思いません。ですが、城の人間がどうですかな、、、?」

商人の男はにやりと笑った。

「何を言っているの、、、?」

商人の男は、後ろに控える男に命令した。

「おい、連れてこい!」

商人に連れてこられたのは、

「カーシャさん!!」

もう一人の使用人、カーシャだった。

「も、申し訳ありません。シアラ様。」

腰の曲がったカーシャは、男達に両腕を後ろで縛られている。

「お前達!なんてことを!!」

「おっと、それ以上近づかないでもらえるかい?おばあさんの腕が折れても知らないよ。」

商人の男は言った。

カーシャさんは城の人間で唯一、解雇を言い渡されてもシアラ様の側を離れようとしなかった使用人である。

カーシャさんは僕がルカドル城で生活し始めたときには、もうすでにこの城で働いていた。ひねくれた孤児であった僕を、本当の息子のように可愛がってくれた。

「アルフレッド。こんなババアのことは気にせず、シアラ様をお守りするんじゃ!」

と、カーシャが強い口調で叫んだ。

「このクソババア!黙らんか!」

「カーシャさん!」

シアラ様が悲鳴混じりにカーシャの名前を呼ぶ。

「どうしたら、カーシャさんを解放してくれますか?」

商人の男はシアラ様を無表情に見つめた。

「もちろん、借金を全て返済してくれたら、おばあさんは無事に返しますよ。」

「返します、、、。だから、カーシャさんを離してください!」

シアラ様も、ルカドル王家の財政状況を知っている。借金を返済する能力が無いと言うことも、わかっているはずだ。

「言葉じゃ信頼できませんねぇ。今まで散々裏切られてきましたから。

今すぐには難しいことは、私だって分かります。ですので女王に後、5日間時間をあげましょう。

その日までに借金が返せなかったら、このおばあさんがどうなるか、お分かりですよね?シアラ様。」

「待って!!それならカーシャさんじゃなくて、私を連れていってください!!」

そう叫ぶシアラ様の腕を僕は強く掴んだ。シアラ様が、一人で商人の元に行くことを防ぐためだ。

商人の男は、くっと口角をあげた。

「だめですよ。女王。貴方にはお金を集めてきて貰わなくてはいけないんですから。」

商人はそう言って、カーシャを連れたまま城を出ていってしまう。

「カーシャさん!!」

シアラ様の叫び声が、悲しく城に響く。


  ◇◇◇

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