上 下
14 / 29

14.騎士は女王が何より大切です

しおりを挟む

黙り込んだ私を、アルフレッドが心配そうに覗き込んできた。

「シアラ様?」

アルフレッドが私の顔を見つめる。

シアラと呼ばないでほしい、とはもう言えなかった。

「なんでもないよ。」

アルフレッドがそっと私の頭を撫でた。

(優しくて、甘い。)

きっと昔から、アルフレッドはシアラにこうやって接して来たんだろう。

アルフレッドはにっこりと微笑む。

「焦らなくてもきっとそのうち記憶は戻りますよ。きっと働きすぎて、シアラ様はお疲れなのです。今はゆっくり休んでください。」

私はアルフレッドから目をそらし、机の上に突っ伏した。

(これが私自身に向けられた言葉だったら、どんなに嬉しいだろうな。)

私はアルフレッドを助けた本物のシアラじゃない。もしも私だったら、捨てられていたアルフレッドを拾っていなかったかもしれない。

(私はそんなにいい人間じゃない。)

アルフレッドは心配そうな顔で私を伺う。

「なにか、甘いお菓子を持ってきましょうか?」

「ありがとう。お願いできるかな。」

本当はクーズマと一緒に食べたパイでお腹がいっぱいだ。だけど、一度、一人になって心を落ち着けたかった。

アルフレッドが部屋から出ていったことを確認して、私は大きくため息をついた。

(優しくされたく、ないな。)

前世では全くモテなかった私には、耐性が無い。勘違いしてしまいそうになるのだ。


   ◇◇◇


机に突っ伏してアルフレッドを待っていると、聞き覚えのある女の声がした。

「いやらしい女ね。お姉様。」

顔を上げると、私を睨みつけるボニーがいた。ボニーは女王シアラから婚約者を奪った継妹である。

(貴方に言われたくないんだけど。)
 
「なんの用?」

私はボニーをにらみかえす。ボニーは私の質問には答えず、言葉を続けた。

「お姉様って不細工なくせに、男を騙す才能だけはあるわよね。」

ボニーの言葉の端々から、姉を憎んでいるのだと伝わる。

「何が言いたいの?」

「デミオン国の皇太子をたぶらかしたんでしょう?求婚されて、自惚れてるんじゃないでしょうね?」

ボニーの顔は真っ赤に染まっている。

「なぜそのことを知っているの?」

「今朝、お姉様に会いに来るときに偶然聞こえたの。あぁ、本当にはしたない!クーズマ様をたぶらかして、国を崩壊させかけてるのに、まだ懲りないの?」

ボニーは歯を噛み締めて、私を睨みつけた。

「たぶらかしてないよ。クーズマ様が勝手にああ言っているだけ。」

(早く帰ってくれないかな。)

この女と話していても、良いことが起こるとは思えない。気分が悪くなるだけだ。

ボニーは大きな足音を立てて、私に近づいた。

「お姉様は惨めでいなくちゃならないのよ!一人ぼっちで可哀想な女王様が、お姉様にふさわしいんだわ!」

そう叫ぶと、ボニーは手を振り上げた。

(殴られる。)

私は身を縮めて目をつぶった。

「おやめください。ボニー様。」

アルフレッドの声。

恐る恐る目を開けると、そこにはボニーの腕を掴むアルフレッドの姿があった。

「離して!ねぇ、アルフレッド。」

アルフレッドは鋭い目でボニーを睨みつけている。

「女王に危害を加えることは、大罪ですよ。ボニー様。」

ボニーは両腕を振り回して喚いた。

「何が女王!国民の嫌われ者じゃない!」

アルフレッドは黙って、ボニーをドアに引きずっていく。

「私、デミオン国王にもクーズマ様にも、お姉様がどれだけ恐ろしい女か伝えてやるから!」

とボニーがヒステリックに叫ぶ。

「さっさと出ていってよ。」

私は頬杖をついて、俯いた。

(関わりたくない。)

ボニーは執務室のドア掴んで、まだ何か喚いている。

「それから、さっさと、オークリィに婚約破棄されたことを発表しなさいよ!お姉様が不幸になるって知ったら皆、大喜びだから!」

「黙れ!」

アルフレッドは、ボニーに怒鳴った。

「アルフレッド、、、。」

アルフレッドに怒鳴られたボニーは、唇を噛んだ。それからそっと左手でアルフレッドの頬に触れる。

「ちょっとボニー!」

(いやらしい女はあんたでしょ!)

ボニーはアルフレッドに顔を近づけると、耳元で何か囁いた。

アルフレッドは無表情で立っている。

「考えておいてね。アルフレッド。」

ボニーは怪しく笑って、部屋を出ていった。アルフレッドは返事をせず、部屋のドアを乱暴に閉じた。

「アルフレッド。ボニーに何を言われたの?」

アルフレッドは無表情で言った。

「くだらない、誘い文句ですよ。」

アルフレッドの言葉に、心がざわついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】後妻は承認したけど、5歳も新しく迎えるなんて聞いてない

BBやっこ
恋愛
ある侯爵家に後妻に入った。私は結婚しろと言われなくなり仕事もできる。侯爵様様にもたくさん後妻をと話が来ていたらしい。 新しいお母様と慕われうことはないだろうけど。 成人した跡取り息子と、寮生活している次男とは交流は少ない。 女主人としての仕事を承認したけど、突然紹介された5歳の女の子。新しく娘うぃ迎えるなんて聞いてない!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ

奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心…… いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

【完結】「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」

まほりろ
恋愛
学園の食堂で第一王子に冤罪をかけられ、婚約破棄と国外追放を命じられた。 食堂にはクラスメイトも生徒会の仲間も先生もいた。 だが面倒なことに関わりたくないのか、皆見てみぬふりをしている。 誰か……誰か一人でもいい、私の味方になってくれたら……。 そんなとき颯爽?と私の前に現れたのは、ボサボサ頭に瓶底眼鏡のひょろひょろの男爵だった。 彼が私を守ってくれるの? ※ヒーローは最初弱くてかっこ悪いですが、回を重ねるごとに強くかっこよくなっていきます。 ※ざまぁ有り、死ネタ有り ※他サイトにも投稿予定。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」

処理中です...