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14.騎士は女王が何より大切です
しおりを挟む黙り込んだ私を、アルフレッドが心配そうに覗き込んできた。
「シアラ様?」
アルフレッドが私の顔を見つめる。
シアラと呼ばないでほしい、とはもう言えなかった。
「なんでもないよ。」
アルフレッドがそっと私の頭を撫でた。
(優しくて、甘い。)
きっと昔から、アルフレッドはシアラにこうやって接して来たんだろう。
アルフレッドはにっこりと微笑む。
「焦らなくてもきっとそのうち記憶は戻りますよ。きっと働きすぎて、シアラ様はお疲れなのです。今はゆっくり休んでください。」
私はアルフレッドから目をそらし、机の上に突っ伏した。
(これが私自身に向けられた言葉だったら、どんなに嬉しいだろうな。)
私はアルフレッドを助けた本物のシアラじゃない。もしも私だったら、捨てられていたアルフレッドを拾っていなかったかもしれない。
(私はそんなにいい人間じゃない。)
アルフレッドは心配そうな顔で私を伺う。
「なにか、甘いお菓子を持ってきましょうか?」
「ありがとう。お願いできるかな。」
本当はクーズマと一緒に食べたパイでお腹がいっぱいだ。だけど、一度、一人になって心を落ち着けたかった。
アルフレッドが部屋から出ていったことを確認して、私は大きくため息をついた。
(優しくされたく、ないな。)
前世では全くモテなかった私には、耐性が無い。勘違いしてしまいそうになるのだ。
◇◇◇
机に突っ伏してアルフレッドを待っていると、聞き覚えのある女の声がした。
「いやらしい女ね。お姉様。」
顔を上げると、私を睨みつけるボニーがいた。ボニーは女王シアラから婚約者を奪った継妹である。
(貴方に言われたくないんだけど。)
「なんの用?」
私はボニーをにらみかえす。ボニーは私の質問には答えず、言葉を続けた。
「お姉様って不細工なくせに、男を騙す才能だけはあるわよね。」
ボニーの言葉の端々から、姉を憎んでいるのだと伝わる。
「何が言いたいの?」
「デミオン国の皇太子をたぶらかしたんでしょう?求婚されて、自惚れてるんじゃないでしょうね?」
ボニーの顔は真っ赤に染まっている。
「なぜそのことを知っているの?」
「今朝、お姉様に会いに来るときに偶然聞こえたの。あぁ、本当にはしたない!クーズマ様をたぶらかして、国を崩壊させかけてるのに、まだ懲りないの?」
ボニーは歯を噛み締めて、私を睨みつけた。
「たぶらかしてないよ。クーズマ様が勝手にああ言っているだけ。」
(早く帰ってくれないかな。)
この女と話していても、良いことが起こるとは思えない。気分が悪くなるだけだ。
ボニーは大きな足音を立てて、私に近づいた。
「お姉様は惨めでいなくちゃならないのよ!一人ぼっちで可哀想な女王様が、お姉様にふさわしいんだわ!」
そう叫ぶと、ボニーは手を振り上げた。
(殴られる。)
私は身を縮めて目をつぶった。
「おやめください。ボニー様。」
アルフレッドの声。
恐る恐る目を開けると、そこにはボニーの腕を掴むアルフレッドの姿があった。
「離して!ねぇ、アルフレッド。」
アルフレッドは鋭い目でボニーを睨みつけている。
「女王に危害を加えることは、大罪ですよ。ボニー様。」
ボニーは両腕を振り回して喚いた。
「何が女王!国民の嫌われ者じゃない!」
アルフレッドは黙って、ボニーをドアに引きずっていく。
「私、デミオン国王にもクーズマ様にも、お姉様がどれだけ恐ろしい女か伝えてやるから!」
とボニーがヒステリックに叫ぶ。
「さっさと出ていってよ。」
私は頬杖をついて、俯いた。
(関わりたくない。)
ボニーは執務室のドア掴んで、まだ何か喚いている。
「それから、さっさと、オークリィに婚約破棄されたことを発表しなさいよ!お姉様が不幸になるって知ったら皆、大喜びだから!」
「黙れ!」
アルフレッドは、ボニーに怒鳴った。
「アルフレッド、、、。」
アルフレッドに怒鳴られたボニーは、唇を噛んだ。それからそっと左手でアルフレッドの頬に触れる。
「ちょっとボニー!」
(いやらしい女はあんたでしょ!)
ボニーはアルフレッドに顔を近づけると、耳元で何か囁いた。
アルフレッドは無表情で立っている。
「考えておいてね。アルフレッド。」
ボニーは怪しく笑って、部屋を出ていった。アルフレッドは返事をせず、部屋のドアを乱暴に閉じた。
「アルフレッド。ボニーに何を言われたの?」
アルフレッドは無表情で言った。
「くだらない、誘い文句ですよ。」
アルフレッドの言葉に、心がざわついた。
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