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10.皇太子は抱きしめました
しおりを挟む「あれは、3年前のことだ。その頃はルカドル国とデミオン国の仲は良好でなーー。」
クーズマはゆっくりと3年前に何があったのか話し始めた。
「あれはシアラが女王になってから、2年が経った頃だった。ルカドル国への支援をお願いするため、シアラはデミオン国に来ていたんだ。」
「女王が直接、ですか。」
「それだけ、切羽詰まった状況だったんだと思う。女王になってなんとか国を守らなきゃっていう思いもあったんじゃないかな。その時から、ルカドル国はやばそうな状況だったし。
デミオン国はルカドル国の西に位置する大国だ。両国は長く付き合いがあり、両国の貿易は盛んに行われきた。
シアラは、俺の父親であるデミオン国王と連日長い会議をしてた。
話し合いから3日経つ頃には、デミオン国からのルカドル国への援助はほとんど決定していたんだ。
デミオン国からの支援があれば、ルカドル国を復興できると、シアラは喜んでたよ。」
喜ぶシアラが容易に想像がつく。シアラは自分の体を鞭打って、国のために働いていたのだから。
「でも、支援は実現しなかったんですよね?」
「ああ。そうだ。」
クーズマは俯いて話を続けた。
「ちょうど話し合いが決まりかけたその日の夜、デミオン城は大騒ぎになった。デミオン国皇太子が突然姿を消したんだ。
皆、必死で皇太子を探したが皇太子はなかなか見つからなかった。」
「皇太子が姿を消したって、皇太子は貴方ですよね?」
まるで他人事のようなクーズマの顔を伺い尋ねる。
「まあ、そうだがとにかく一度聞いてくれ。」
私はしぶしぶ頷いて、クーズマの続く言葉を待った。
「皇太子は、デミオン国で問題児として有名だった。勉強は全くせず、剣の鍛錬もいつもサボっていた。
皇太子の弟は優秀で、皇太子には弟の方がふさわしいんじゃないかと、皆が言っていたんだ。
そんな皇太子には夢があった。船で世界中を旅して回ることだ。」
楽しそうにクーズマが語る。
(よく真顔で、自分のことを皇太子、とか言えるな。)
「それで、何があったんですか?」
クーズマの前置きが長く、なかなか本題にたどり着かない。
「まあ焦るな。今伝えているのは、必要な情報だからな。」
「はぁ。」
「その日の深夜、国軍による大捜索の末皇太子は発見された。皇太子がいたのはルカドル国が所有する一隻の小船の中。
皇太子がルカドル国女王シアラと抱き合っているところをデミオン国の兵士が発見したんだ。
当時、皇太子にはデミオン国に婚約者がいた。
デミオン国王はシアラ女王に激怒し、ルカドル国への援助を一切しないと決めてしまったんだ。
女王シアラは皇太子が勝手に船に入ってきて、一方的に抱きしめてきたのだと主張した。だが、デミオン国王は聞く耳も持たず、彼女をルカドル国に追い返してしまったんだ。」
私は開いた口が塞がらなかった。
「追い返してしまったんだ、じゃないんですよ!!」
まるで遠い昔話のように語るクーズマを信じられない思いで見つめる。
「けどこれには、事情があったんだ。」
クーズマは頬杖をついた。
「だから!勿体つけないでそれを早く説明してください!」
フォークを握りしめて、私がクーズマを問い詰めたとき。
「シアラ様!!」
アルフレッドが焦った顔で、部屋に入ってきた。
「アルフレッド!俺はシアラと二人で話したいとーー。」
「そんなこと言っている場合ではないのです!!」
アルフレッドは、クーズマの言葉を遮った。
「デミオン国王が、ルカドル城にいらっしゃいました、、、!大変、お怒りです!」
アルフレッドはクーズマを睨みつけた。なぜデミオン国王が怒っているのか、その理由は明白だ。
「ちっ。父上にバレないように上手くタイミングを合わせたんだけどな・・・。」
「え?!国王に言わずにここに来たんですか?!」
(そんなの、大騒ぎになるに決まってるじゃん!)
私は頭を抱えた。
どうやらこの皇太子は相当な問題児らしい。
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