7 / 29
7.結婚式を壊したいのです
しおりを挟むアルフレッドがいなくなると、部屋の中はしんと静まり返る。
(なぜこの世界に来てしまったのだろう。私が女王シアラになったって、誰も喜ばないのに。)
ぼんやりと窓から遠くを眺めていると、突然聞き覚えのない男の声がする。
「久し振りだな!シアラ!!」
(ん?)
振り返るとそこには見知らぬ男が右手を上げていた。
「元気だったか?」
男はにっこりと笑う。
金色の髪に青い瞳のガッシリとした男。歳は、恐らく20代前半だろう。
きらびやかな服をきて、後ろには二人の騎士を連れている。身につけている装飾品は、キラキラと光っていた。
「どちら様ですか?」
私は慎重に男に尋ねた。
「嘘だろ、、、。
俺のことを忘れてしまったのか?」
男は目を大きく見開いて、手に持っていた小包を地面に落とした。
パリン!と小さな音がなる。
「違うんです。実は私、、、事故にあって、過去の記憶を無くしてしまったんですよ。」
小包を拾って、男に手渡す。転生し、シアラとは別の人格があることはまだ伝えるべきではない気がした。
「あんなに愛し合ったのに、俺のことを忘れてしまったのか?」
と、男が言う。
「はい!?」
私は驚きで手に持った小包をそのまま地面に落としてしまう。
パキ!と何かが割れる音がした。
「冗談だよ。」
男は小包を拾い上げて、ホコリを軽く払った。
(私、なんてことを!!)
背筋に冷たい汗が伝う。二度目の落下に小包の中身が耐えられるはずがない。
「驚いた。記憶喪失は本当みたいだな。
俺はクーズマ・デミオン。
デミオン国の皇太子だ。」
(皇太子様?!)
私は一歩後ずさった。
私はクーズマとデミオン国について何も分からない。だが、クーズマや後ろに控える騎士の身なりから考えるに、ルカドル国より裕福な国であることは間違いない。
(アルフレッドにもっと色々聞いておけばよかった!!)
失礼がないようにしなければと体が強ばる。
(もう小包を落としてしちゃったけどね!)
「王子様がなぜこちらにいらっしゃったのですか?」
ルカドル国は南の島国だ。隣国の王子が簡単に行来できる場所ではないはず。
クーズマは楽しそうに答える。
「シアラの結婚を止めるためだよ。」
「えっと?!」
大きな声が出た。
驚いて後ずさりをする私を見て、クーズマが楽しそうに笑った。
「冗談さ。シアラの結婚式に参加するために、今朝ルカドル国に到着したんだよ。」
クーズマの言葉に私はほっと胸をなでおろした。冗談好きな人だ。
「なるほど。」
(そうか、、、。女王の結婚式なんだから、他国の王族だって祝いにくるよね。)
「あ、ありがとうございます。」
ぎこちなく頭を下げる私を、クーズマが不思議そうに見つめる。
「本当に記憶が全く無いんだな。
そんなに距離を置かないでくれよ。
俺達、友達だろう?」
そう言うクーズマは優しい目をしている。
「友達、ですか?」
「ああ。」
にわかには信じがたい。
本当に皇太子と友達ならば、シアラはこんなにも苦しむ必要があったんだろうか。
他国から財政的な援助があれば、ルカドル国が滅亡の危機に瀕するとは思えない。
「本当に?」
私はゆっくりと尋ねた。
(騙されてるんじゃない?)
前世で男に騙されてばかりだった私は、疑り深くなっていた。これ以上、男で失敗したくない。
「まあ、とにかく少し話そう。」
クーズマは小包をゆらゆらと振って笑った。
「もう中はぐちゃくちゃだろうけど、お土産のパイがあるしな。」
◇◇◇
12
お気に入りに追加
666
あなたにおすすめの小説

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
婚約破棄の慰謝料を払ってもらいましょうか。その身体で!
石河 翠
恋愛
ある日突然、前世の記憶を思い出した公爵令嬢ミリア。自分はラストでざまぁされる悪役令嬢ではないかと推測する彼女。なぜなら彼女には、黒豚令嬢というとんでもないあだ名がつけられていたからだ。
実際、婚約者の王太子は周囲の令嬢たちと仲睦まじい。
どうせ断罪されるなら、美しく散りたい。そのためにはダイエットと断捨離が必要だ! 息巻いた彼女は仲良しの侍女と結託して自分磨きにいそしむが婚約者の塩対応は変わらない。
王太子の誕生日を祝う夜会で、彼女は婚約破棄を求めるが……。
思い切りが良すぎて明後日の方向に突っ走るヒロインと、そんな彼女の暴走に振り回される苦労性のヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:29284163)をお借りしています。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります
奏音 美都
恋愛
ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。
そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。
それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……


(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?
青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。
エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・
エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・
※異世界、ゆるふわ設定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる