【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう

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6.女王にお願いがあります

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「ううぅ。」

だが、目が覚めても私はシアラのままだった。高い天井に豪華なベット。散らばった書類たち。昨日の夜のままだ。

「どうしよ、、、。」

顔を洗ったり、着替えをしたりしている間も、心の中は悩みだからけだ。

滅亡の危機を迎えるルカドル王家。
一週間後に迫る結婚式。

(手におえないよ。)

大きくため息をついたとき、部屋のドアがノックされた。

コンコン

「はい。」

入ってきたのは、腰が曲がったおばあさん。彼女はシアラに仕えるもう一人の使用人らしい。彼女はカーシャと名乗った。

「おはようございます。シアラ様。」

カーシャは5日間ほど、風邪をこじらせて仕事を休んでいたのだという。彼女はアルフレッドから、私が記憶を失ったことは聞いていた。

「シアラ様、、、。私がいない間に、大変なことがあったのですね。なんということでしょう、、、。」

カーシャは目に涙をいっぱいにためて、私の手をぎゅっと握った。どう反応したら良いか分からず、私は立ち尽くす。

「シアラ様、体調は回復されましたか?」

と、カーシャが私に尋ねる。どういうことだろうか。

「体調を崩したのは、カーシャさんではないんですか?」

カーシャは私をじっと見つめた。

「私は単なる風邪です。シアラ様に移してはいけないと思い、休んでいたのですよ。ですが、シアラ様は、ここ一年ずっと体調不良でいらっしゃいました。

最近は特に咳がとまらないようだったので、心配だったんです。」

「そうですか。」

(大変だったんだな。)

私はそっと、カーシャから手を引いた。

「シアラ様、だいじょうぶですか?」

カーシャが心配そうに見つめてくる。私は彼女から目をそらした。カーシャが心配しているのは、私ではなく本当のシアラだ。黙っているのは、狡いことに思えた。

「ごめんなさい。私、シアラじゃ無いからわからないんです。私は違う世界から転生して、シアラの体を借りてしまってるだけです。」

カーシャは皺だらけの手で顔を覆った。

「きっと、シアラ様はお疲れなのです。」

(まあ、信じるわけないか。)

「こんなことになるならば、無理矢理にでもシアラ様をベットに押し込めておくべきでした。」

シアラは誰になんと言われても体に鞭打って働き続けたと、カーシャは教えてくれた。

どうも雲行きが怪しい。


  ◇◇◇

「ごちそうさまです。」

カーシャが作った朝食を食べて、私は女王の執務室に向かう。

(美味しかったな。)

カーシャの料理はあったかい味がした。前世では母親に手料理を振る舞ってもらったことは数えるほどしか無い。心がぽっと温まっていた。

「おはようございます。」

すでに執務室にいたアルフレッドに軽く挨拶をする。

女王の執務室は、私が転生して目覚めた場所。机には書類が山積みだ。

(もしかしてこれ、私が片付けるの?)

頭がくらりとした。

「おはようございます。その様子では、まだ記憶は戻ってないようですね。」

アルフレッドは寂しげな笑みを浮かべる。

「ごめんなさい。」

私は小さく頭を下げ、椅子に座った。

「あの、シアラ様。
 1つお願いがあるのですが、
 敬語をやめてほしいのです。」

これまで一度もシアラに敬語を使われたことがないため、むずがゆく感じるらしい。

(けどアルフレッドは歳上だしな。)

歳上には敬意を払えと厳しくしつけられてきた。今更その習慣を変えることは難しい。

「どうも調子がでないのです。シアラ様と接しているのに、まるで別の人と接している気がして、どうしたらいいか分からなくなると言いますか、、、。」

その感覚は正しい。

「だから、私はシアラじゃないんですよ。」

だがアルフレッドは全く私の言葉を信じようとしない。

「いいえ。貴方はシアラ様です。」

アルフレッドは言葉に力を込めた。

(こんな押し問答をしたって、何も変わらないのに。)

私は小さくため息をついた。

(しかたないから今だけ、女王気分を味わおう。)

「分かった。その代わり、私をシアラと呼ぶのはやめてね。」

「わかり、ました。」

アルフレッドが戸惑うのも当然のことだろう。彼と話していると、心が痛くなる。

シアラがどこに行ってしまったのか。
私は一つ、思い当たることがあった。

(もしかしたらシアラは、、、。)

私は窓から青い空を見つめた。アルフレッドは、本当にシアラを大切に思っていたのだとよく分かる。だからこそ、私はアルフレッドを余計に心配させることを言いたくなかった。

(帰ってくるかもしれないもの。)

「記憶が戻ったら、また名前を呼ばせてくださいね。」

ぽつりと呟くと、アルフレッドは部屋を出ていった。


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