6 / 29
6.女王にお願いがあります
しおりを挟む「ううぅ。」
だが、目が覚めても私はシアラのままだった。高い天井に豪華なベット。散らばった書類たち。昨日の夜のままだ。
「どうしよ、、、。」
顔を洗ったり、着替えをしたりしている間も、心の中は悩みだからけだ。
滅亡の危機を迎えるルカドル王家。
一週間後に迫る結婚式。
(手におえないよ。)
大きくため息をついたとき、部屋のドアがノックされた。
コンコン
「はい。」
入ってきたのは、腰が曲がったおばあさん。彼女はシアラに仕えるもう一人の使用人らしい。彼女はカーシャと名乗った。
「おはようございます。シアラ様。」
カーシャは5日間ほど、風邪をこじらせて仕事を休んでいたのだという。彼女はアルフレッドから、私が記憶を失ったことは聞いていた。
「シアラ様、、、。私がいない間に、大変なことがあったのですね。なんということでしょう、、、。」
カーシャは目に涙をいっぱいにためて、私の手をぎゅっと握った。どう反応したら良いか分からず、私は立ち尽くす。
「シアラ様、体調は回復されましたか?」
と、カーシャが私に尋ねる。どういうことだろうか。
「体調を崩したのは、カーシャさんではないんですか?」
カーシャは私をじっと見つめた。
「私は単なる風邪です。シアラ様に移してはいけないと思い、休んでいたのですよ。ですが、シアラ様は、ここ一年ずっと体調不良でいらっしゃいました。
最近は特に咳がとまらないようだったので、心配だったんです。」
「そうですか。」
(大変だったんだな。)
私はそっと、カーシャから手を引いた。
「シアラ様、だいじょうぶですか?」
カーシャが心配そうに見つめてくる。私は彼女から目をそらした。カーシャが心配しているのは、私ではなく本当のシアラだ。黙っているのは、狡いことに思えた。
「ごめんなさい。私、シアラじゃ無いからわからないんです。私は違う世界から転生して、シアラの体を借りてしまってるだけです。」
カーシャは皺だらけの手で顔を覆った。
「きっと、シアラ様はお疲れなのです。」
(まあ、信じるわけないか。)
「こんなことになるならば、無理矢理にでもシアラ様をベットに押し込めておくべきでした。」
シアラは誰になんと言われても体に鞭打って働き続けたと、カーシャは教えてくれた。
どうも雲行きが怪しい。
◇◇◇
「ごちそうさまです。」
カーシャが作った朝食を食べて、私は女王の執務室に向かう。
(美味しかったな。)
カーシャの料理はあったかい味がした。前世では母親に手料理を振る舞ってもらったことは数えるほどしか無い。心がぽっと温まっていた。
「おはようございます。」
すでに執務室にいたアルフレッドに軽く挨拶をする。
女王の執務室は、私が転生して目覚めた場所。机には書類が山積みだ。
(もしかしてこれ、私が片付けるの?)
頭がくらりとした。
「おはようございます。その様子では、まだ記憶は戻ってないようですね。」
アルフレッドは寂しげな笑みを浮かべる。
「ごめんなさい。」
私は小さく頭を下げ、椅子に座った。
「あの、シアラ様。
1つお願いがあるのですが、
敬語をやめてほしいのです。」
これまで一度もシアラに敬語を使われたことがないため、むずがゆく感じるらしい。
(けどアルフレッドは歳上だしな。)
歳上には敬意を払えと厳しくしつけられてきた。今更その習慣を変えることは難しい。
「どうも調子がでないのです。シアラ様と接しているのに、まるで別の人と接している気がして、どうしたらいいか分からなくなると言いますか、、、。」
その感覚は正しい。
「だから、私はシアラじゃないんですよ。」
だがアルフレッドは全く私の言葉を信じようとしない。
「いいえ。貴方はシアラ様です。」
アルフレッドは言葉に力を込めた。
(こんな押し問答をしたって、何も変わらないのに。)
私は小さくため息をついた。
(しかたないから今だけ、女王気分を味わおう。)
「分かった。その代わり、私をシアラと呼ぶのはやめてね。」
「わかり、ました。」
アルフレッドが戸惑うのも当然のことだろう。彼と話していると、心が痛くなる。
シアラがどこに行ってしまったのか。
私は一つ、思い当たることがあった。
(もしかしたらシアラは、、、。)
私は窓から青い空を見つめた。アルフレッドは、本当にシアラを大切に思っていたのだとよく分かる。だからこそ、私はアルフレッドを余計に心配させることを言いたくなかった。
(帰ってくるかもしれないもの。)
「記憶が戻ったら、また名前を呼ばせてくださいね。」
ぽつりと呟くと、アルフレッドは部屋を出ていった。
12
お気に入りに追加
666
あなたにおすすめの小説

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

恋愛に興味がない私は王子に愛人を充てがう。そんな彼は、私に本当の愛を知るべきだと言って婚約破棄を告げてきた
キョウキョウ
恋愛
恋愛が面倒だった。自分よりも、恋愛したいと求める女性を身代わりとして王子の相手に充てがった。
彼は、恋愛上手でモテる人間だと勘違いしたようだった。愛に溺れていた。
そんな彼から婚約破棄を告げられる。
決定事項のようなタイミングで、私に拒否権はないようだ。
仕方がないから、私は面倒の少ない別の相手を探すことにした。
いつの間にかの王太子妃候補
しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。
遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。
王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。
「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」
話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。
話せるだけで十分幸せだった。
それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。
あれ?
わたくしが王太子妃候補?
婚約者は?
こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*)
アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。
短編です、ハピエンです(強調)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。
婚約破棄の慰謝料を払ってもらいましょうか。その身体で!
石河 翠
恋愛
ある日突然、前世の記憶を思い出した公爵令嬢ミリア。自分はラストでざまぁされる悪役令嬢ではないかと推測する彼女。なぜなら彼女には、黒豚令嬢というとんでもないあだ名がつけられていたからだ。
実際、婚約者の王太子は周囲の令嬢たちと仲睦まじい。
どうせ断罪されるなら、美しく散りたい。そのためにはダイエットと断捨離が必要だ! 息巻いた彼女は仲良しの侍女と結託して自分磨きにいそしむが婚約者の塩対応は変わらない。
王太子の誕生日を祝う夜会で、彼女は婚約破棄を求めるが……。
思い切りが良すぎて明後日の方向に突っ走るヒロインと、そんな彼女の暴走に振り回される苦労性のヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:29284163)をお借りしています。

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。
水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。
その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。
そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる