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第十一話:最愛の人 Side ユリウス
しおりを挟むSide ユリウス
エドワーズがセラに求婚している隣の部屋。
ロマリア国騎士団副団長ユリウスは、部屋の壁に張り付いて聞き耳を立てていた。緊張でじっとしていられない。手にじんわりと汗がにじんでいる。
(頼むセラ…‥エドワーズの求婚を断ってくれ……。)
このままでは自分が想いを伝える前に、セラが誰かのものになってしまう。まだ16歳だと油断していた。ロマリア国では16歳は結婚が許されている。美しく優しいセラのもとに男が群がるのは当然のことだ。
(うかつだった……。)
今にも隣の部屋に突撃しそうな愛弟子の肩をロージィはポンポンとたたいた。
「だいじょうぶじゃ。セラは断る。」
「で、ですが相手は王子ですよ!」
「だからなんだ。セラはそんなものに惹かれんじゃろ。落ち着くんじゃあ。」
ロージィは飄々とした口調で言った。白い髭を触りながら動揺を隠せないユリウスを楽しそうに眺めている。
「俺が傍にいた方が、セラは断りやすかったのではないでしょうか?」
(エドワーズの奴にセラは俺のものだと見せつけたかった……。)
なんとしても付いていくつもりだったのだがセラに断られてしまった。
”ユリウスには関係ないでしょ?”
そう言われてしまうと、ユリウスは何も言い返すことができなかった。セラにとってユリウスは単なる幼馴染のお兄ちゃんでしかないのかもしれない。
ロージィががっくりとうなだれるユリウスを呆れた表情で見る。
「ユリウスがいても何もできんじゃろ。」
「エドワーズの奴が怖気づくかもしれません……!」
ロージィはやれやれと首を振る。
「どうせエドワーズにはなんにもできんさ。セラを説得できるとしたら、側近のカイルじゃろうなぁ。」
のんびりした口調で、ロージィは言う。ロージィは未だにロマリア騎士団や城の事情に詳しい。エドワーズに魔力が無いことにロージィは気が付いていた。
エドワーズに魔力が無いことは秘密とされている。だが、城の人間の多くが第一王子が全く魔力が無いと気が付いている。だからこそ、エドワーズは皇太子として認められないのだ。
「国王の命令でなければいいのですが……。」
ユリウスはポツリと呟く。ロマリア国王ゴアルは大きな魔力を持つ魔法使いで、絶大な権力を持っている。もしも、求婚が国王の命令であれば逆らうことは難しいだろう。
(セラが誰かに奪われてしまう……。)
ユリウスの心の中を大きな焦りが襲う。
(セラを誰にも渡したくない。)
ユリウスは胸に手を当てる。制服の内ポケットには、いつかセラに渡すための指輪が入っている。 セラが16歳の誕生日を迎えた日にこっそり作ってもらった。勇気が出ず、3か月もの間、指輪は内ポケットにしまわれたままである。
「どんなに脅されても、私は絶対に王子と結婚しませんから。」
扉の向こうから、セラの声が聞こえてきた。
(心配することはなかったか。)
ユリウスは胸をなでおろす。
10年前からずっと、セラはユリウスにとって一番大切な存在であり続けた。死にかけていたユリウスを命がけで助けてくれたセラ。彼女を守りたくて、ユリウスは強くなった。
セラが大好きで、いつか彼女と結婚したいと望んでいる。だが、セラは自分をただの兄としてしか見ていない気がしている。だからこそ、ユリウスはセラに自分の気持ちを伝えることができなかった。
「ユリウス。」
部屋から出てきたセラがユリウスの名前を呼ぶ。7歳年下の彼女は大人びていて、清らかな雰囲気をもっていた。セラに見つめられると目が離せない。ユリウスだけではなく、多くの男がセラに惹かれてしまう。
(もう、時間はないんだ。)
ユリウスはセラが自分を男性として意識してくれる日を待つつもりだった。だがそうしている間にセラが他の誰かに心を奪われてしまうかもしれない。
「セラ。エドワーズ王子とはどうなった?」
「もちろん断ったわ。」
そう言うとセラはユリウスの顔をじっと見つめた。
(可愛い。)
今すぐセラに触れて、抱きしめたい衝動に駆られる。
(俺がセラに求婚したら、セラは受け入れてくれるだろうか。)
ユリウスにとってセラは命よりも大切な存在。だから、”自分をセラより優先して守る”なんて約束は絶対にできない。
(セラを誰にも渡すわけにはいかない。)
「ね、ユリウス。」
セラはユリウスに一歩近づくと、ゆっくりとユリウスの手に触れた。柔らかいセラの手のぬくもりに、心臓が激しく音を立てる。体中の血が手に集まる感じがする。
「ど、どうしたんだ?」
「なんとなく、ユリウスに触れたくて。」
動揺するユリウスにセラは気づかない。
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