王子様は王妃の出産後すぐ離縁するつもりです~貴方が欲しいのは私の魔力を受け継ぐ世継ぎだけですよね?~

ここはロマリア国の大神殿。ロマリア歴417年。雪が降りしきる冬の夜。
「最初から……子供を奪って……離縁するつもりだったのでしょう?」

 ロマリア国王子エドワーズの妃、セラ・スチュワートは無表情で言った。セラは両手両足を拘束され、王子エドワーズの前に跪いている。

「……子供をどこに隠した?!」

 質問には答えず、エドワーズはセラを怒鳴りつけた。背が高く黒い髪を持つ美しい王子エドワードの顔が、醜く歪んでいる。

 「教えてあげない。」

 その目には何の感情も浮かんでいない。セラは魔導士達が作る魔法陣の中央に座っていた。魔法陣は少しずつセラから魔力を奪っていく。

(もう……限界ね)

 セラは生まれたときから誰よりも強い魔力を持っていた。その強い魔力は彼女から大切なものを奪い、不幸をもたらすものだった。魔力が人並み外れて強くなければ、セラはエドワーズの妃に望まれることも、大切な人と引き離されることもなかったはずだ。

 「ちくしょう!もういいっ!セラの魔力を奪え!」
 
 「良いのかしら?魔力がすべて失われたら、私は死んでしまうわよ?貴方の探し物は、きっと見つからないままになるでしょう。」
 
 「魔力を失い、死にたくなかったら、子供の居場所を教えろ!」

 「嫌よ。貴方には……絶対見つけられない場所に……隠しておいたから……。」

 セラの体は白く光っている。魔力は彼女の生命力を維持するものだ。魔力がなくなれば、セラは空っぽの動かない人形になってしまう。

 「もういいっ!母親がいなくなれば、赤子はすぐに見つかるっ。さあ、この死にぞこないから全ての魔力を奪え!」

 広い神殿にエドワーズのわめき声が響いた。耳を澄ませば、ゴゴオオオという、吹雪の音が聞こえてくる。

 (ねえ、もう一度だけ……貴方に会いたかったわ。)

 セラは目を閉じて、大切な元婚約者の顔を思い浮かべる。彼はセラが残したものを見つけて、幸せになってくれるだろうか。

 「セラの魔力をすべて奪うまで、あと少しです!」

 魔法陣は目を開けていられないほどのまばゆい光を放っている。セラに残された魔力が根こそぎ奪われていく。もはや抵抗は無意味だった。

 (ああ……ついに終わるのね……。)

 ついにセラは力を失い、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

 「ねえ、***…………。ずっと貴方を……愛していたわ……。」

 彼の傍にいる間、一度も伝えたことのなかった想いをセラは最後にそっと呟いた。

 
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