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私が婚約いたしましょうか?

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「嫌よ!!絶対に嫌!


 なぜ私が、

  
 ソクラ伯爵の婚約者にならないと


 いけないのですか!!」



一階で、

異母妹のルンナが

騒いでいるのが聞こえる。



私は眠い目を擦りながら、

階段を降りた。


何かあったときに、

事情が分からないと痛い目にあうからね。



私の名前はアイリィ・カイザル。



一応、カイザル家の娘という肩書だけど

扱いは使用人以下である。


まぁ、
私は父の愛人であった母の元に

産まれた子供。


最初からの歓迎などされていない。



「お父様、、!

 ソクラ伯爵の悪評を

 聞いたことがないの?!」

ルンナは

金切り声をあげる。



ソクラ伯爵ねぇ、、。


私は部屋に入らずに

階段に腰掛け成り行きを聞いていた。



どうやら異母妹は

伯爵との婚約が嫌で騒いでいるらしい。



父上も、

ずいぶん酷なことをなさるなぁ。



ソクラ伯爵は、

100回婚約破棄した男として

都に知られている。


「酷く冷酷で酒に入り浸り、

 暴力ばかり振るうんだって!



 それに男好きで


 館に愛人の男が何人もいて、



 それに体から


 酷い異臭がするそうよ!!」


酷い男だなぁ。



それは全部ソクラ伯爵の噂である。


100回も婚約破棄を繰り返したせいで、


ソクラ伯爵の悪評は

この国のどの貴族よりも高い。



まぁ、

ソクラ伯爵は辺境の地に住んでいて、

本来の姿を知るものは少ない。



そのため

どの噂が正しいのかは

全く分からなかった。



「だ、だがなぁ、、。


 ソクラ伯爵は、


 地位が高くてだな、、。」


父がなんとかルンナを

説得しようとしている。



結局、ソクラ伯爵に

結婚を申し込むものが耐えないのは、

その高い地位のおかげだ。



散々婚約破棄が続いたために、

婚約者のハードルはどこまでも低い。


地位を上げたい

多くの低位貴族は、

私の娘を婚約者にしようと

躍起になっているのだ。





「絶対に嫌だ!!」


まぁ、あんな噂を聞いて

婚約者になりたい娘はいないよね。



私は立ち上がって

扉を開ける。



「お父様。」


父は私のことを

高圧的に呼んだ。



「なんだ、アイリィ。


 今、ルンナと


 大事な話をしてるんだ!!」



もう、私にばかり高圧的になるんだから。



「私がソクラ様と


 婚約いたしましょうか?」



父とルンナは

顔を見合わせた。



ソクラ伯爵が

どんな奴だって構いやしない。


ここから抜け出せるなら、

私はどんなことだってするよ。




「ね、いい案だと思いませんか?」



------------------------------------




「はじめましてーーー!!!


 
 ソクラ伯爵様。
  

 101人目の婚約者、



 アイリィと申しますぅぅぅーーー!!!」

私は、

畑の真ん中にいるであろう

ソクラ伯爵様に向かって

叫んだ。





無事、私の要求は通り、

伯爵様の婚約者として、

辺境の地レイヤルにやってきた。


列車に乗って三日間。
 


長旅をおえ、

ソクラ伯爵の家だと案内された場所は

広大な畑だった。







「伯爵さまーーー!!」



おそらくだが、

ソクラ様は

自ら農業車を動かし、


畑を耕してらっしゃる。




私の声に気づいたのか、

ソクラ伯爵は一度農業車から降り、


大きく手を降ってくれた。



ここからは

遠くて顔はよく見えないけど、


ずいぶん大きな体だわ。




--------------------------------------



「あぁ、

 また婚約者さんが来てくれたのか。


 こんな遠いところまで


 よく来てくれたねぇ。


 はじめまして。


 ビング・ソクラといいます。」



ソクラ伯爵は

タオルで汗だくの自分の顔を拭くと


私をみてにっこりと笑った。



ソクラ伯爵は

熊のように大きい体を縮めて、

椅子に座った。



優しそうな人だわ。

まるで、

伯爵らしく無いけど。





「はじめまして。


 アイリィ・カイザルと申します。



 伯爵のことを


 なんとお呼びすれば良いですか?」





「あ、えーと。


 ビングと呼んでくれ。



 君は僕の大きな体に、


 驚かないんだね。」


ビングは嬉しそうに

体を揺らした。



「背が高いのは、


 素敵なことですよ。」



「はっは。


 僕の場合、横にも大きいからねぇ。」


ビングは豪快に笑うと

私の方に体を向けた。



「せっかく来てもらって

 申し訳無いんだけど、


 実は僕、


 今、家を持っていないんだよ。」



「ほう。


 それはどうしてでしょう。」




「今僕は、


 領民たちの


 新しい農業車の導入を


 手伝って回っているんだ。


 長く開けることになる家なんか、


 いらないなぁ、と思って


 売っちゃったんだよね。」


楽しそうに笑って、

ビングは言った。





「当然、使用人も雇ってなくてね。


 その日その日で、

 領民たちの家に泊まる毎日なのさ。」



なるほど。

これでは都のお嬢様たちが

逃げ出すのも納得だ。



「だから、

 もしも君がここにいるなら、

 それに付き合ってもらうしか


 無いんだよね。」


ビングがぽりぽりと

こめかみをかいた。




「楽しそうですね!」




「え?」


ビングが慌てた顔で

私を見た。


「無理しなくて良いんだよ??


 僕は、一日畑仕事だし、



 こんな田舎で退屈だろ??」




私はぶんぶんと首を振った。



「私は元々、農村育ちです。



 ビング様。


 その暮らし、


 とっても楽しそうです。」




ビングはポッカリと口を開けて

私を見た。


「いいのかい?」 



私は大きく頷いた。



「ええ!!

 それから、ビング様。」




「なんだい?」


ビング様は

嬉しそうに首を傾けた。



「実は私、


 ビング様に一目惚れしてしまったかも


 しれません。」



ビング様が目を見開いて、

固まった。


私はその頬に

軽くキスをした。




「お側にいさせてくださいね!


 ビング様!」


ビング様は

口をパクパクさせて

真っ赤になっている。

------------------------------------




「こんな綺麗で

 優しいお嫁さんをもらえるなんて、


 僕は本当に幸せだよ、アイリィ。」


結婚のパーティで、

ビングは私にそう囁いた。



「私もです。


 ビング様。」



楽しく語らう私達を、

ルンナが

恐ろしい顔をして

睨んでいた。


残念でした。

ビング様は誰にもあげないわよ。





100回婚約破棄されたビング・ソクラと


アイリィ・カイザルが

国一番のおしどり夫婦になるのは


そう遠くない未来なのだった。
























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